九つの鍵 Version2.0

Chirclatia

第34回『現実に見える幻惑』(脚本)

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〇貴族の部屋
チルクラシアドール「・・・・・・・・・・・・」
  浅い睡眠から目を覚ましたチルクラシアは、ベッドの上で正座をしていた。
チルクラシアドール「何しようかなぁ」
  退屈だ。
  珍しく『何かをするつもり』になっている。
チルクラシアドール(レクトロはどこにいるんだろう)
チルクラシアドール「探してみよう!」

〇貴族の応接間
  ──第34回『現実に見える幻惑』
  ──23時
  王は、レクトロを待っていた。
レクトロ「──我に何を求めるか?」
  神らしく、尊大な口調をしてみるレクトロだが、
レクトロ「・・・ってね! これは僕のキャラじゃないからもうおしまい!」
  すぐにいつも通りの、緊張感と威厳の無いものになった。
レクトロ「この僕、レクトロ・ログゼに何の用事かな?」

〇貴族の応接間
ラダ・ローア「些細なことかもしれないが・・・」
ラダ・ローア「金髪の少年を見たんだ。 后神は、何か知らないか?」
  思わず、レクトロは固まってしまう。
  こちらの存在を詳しく知らない王から見れば、
  『フリートウェイが見えたこと』は些細な事だが、
  『后神』たるレクトロから見れば、『人間がフリートウェイを見れることはありえない』のだ。
レクトロ「・・・・・・」
レクトロ「・・・僕の友達だよ。 最近になって、漸く動いてくれるようになったんだ」
  『友達』ということにした。
  実際は、『疑似的な家族か兄弟』のようなものだが、それを王に言うつもりはない。
ラダ・ローア「・・・あの少年は、人間なのか?」
レクトロ「まさか! 僕の友達である時点で、人間とはいえないよ」
  レクトロは王の発言を一蹴する。
レクトロ「驚いたなぁ。 君が僕の友人の存在を視認するなんて」
ラダ・ローア「・・・本来なら、見えないのか?」
レクトロ「見えてたまるか」
レクトロ「うん。 『人間として、平凡な人生を幸せに感じている』なら、見えないはずなんだよ」
ラダ・ローア(平凡な人生・・・ 私の生き方に、幸せを感じているだろうか?)
  王は思い出してみる。
  自分が生きてきた中で、最も幸せだったころを。
ラダ・ローア「・・・」
ラダ・ローア「妻と娘の三人で、旅行に行きたい」
  王のささやかな幸せを望む願いは、レクトロの心に僅かに刺さり、『痛覚』を生む。
  かつての自分が望んだことと全く同じの願いに、レクトロの口元は一瞬歪んだ。
レクトロ「行けばいいのでは? 誰も、君たちのことは咎めないと思うよ」
レクトロ「少なくとも、僕は否定しない。 数日間、好きな所へ行っておいで」
ラダ・ローア「・・・いいのか?」
  王は、自分が仕事を放棄することが嫌だった。
レクトロ「君は働き過ぎだよ 息抜きをするべきだ」
  だが、后神が優しくなったことに安堵もしていた。
ラダ・ローア「金髪の少年の件に戻るが・・・」
ラダ・ローア「あの男は幽霊か何かなのか? 身体が半透明になっていたぞ」
  王がフリートウェイを見たときに、一番引っかかっていたこと。
  それは、身体が中途半端に透けていたことだった。
レクトロ「あぁ、それかい?」
レクトロ「・・・そういうものだよ」
  説明が面倒になったレクトロは、『常套句』を口にする。
ラダ・ローア「”そういうもの”・・・?」
ラダ・ローア「もう少し具体的に教えてくれないか?」
レクトロ「嫌だ。教えない」
ラダ・ローア「・・・どうしても、か?」
レクトロ「──絶対に、教えない」

〇貴族の応接間
  この会議は、想定外の形・途中で終わることとなる。
  突如現れた、チルクラシアの頭を、レクトロは撫でる。
レクトロ「・・・あらら、どうしたの? フリートウェイが血眼で探しちゃうよ?」
レクトロ「部屋に戻って、寝ることをお勧めするよ!」
レクトロ「起きちゃったの? 香油が足りなかったかなぁ・・・・・・」
レクトロ「夜なら好きに動けるし目も冴えてるって?」
レクトロ「困ったなぁ・・・」
レクトロ「何か思いついたことがあるの? それとも、ただ僕に会いたかったの?」
  王は確かに二つの眼球で見た。
  そして、会話の一部分だけを聞いた。
ラダ・ローア「・・・人形!?」
レクトロ「・・・この子も見えちゃうの?」
  チルクラシア・ドールも見えるようになった王に、レクトロは一瞬取り繕いを忘れる。
レクトロ「この子も、僕のお友達だよ。 名前は、チルクラシア・ドール」
レクトロ「・・・でも、紹介の時はまた今度にしよう」
  レクトロは、チルクラシアの両肩にそっと手を置く。
レクトロ「僕はもう帰るから、お部屋で待っててくれる?」
チルクラシアドール「分かった。ちゃんとお部屋で待ってる」
  珍しく、素直に言うことを聞いたチルクラシアは雑に扉を閉めて走り去った。
レクトロ(すごいや。 君は『見えちゃう人間』になっちゃったんだ・・・)
レクトロ(これ以上のことを知られないように、記憶の引き抜きでもやるか?)
レクトロ(脳から記憶を無理やり引き抜くと人格が変わってしまう。 どうしようか)
  王が人間の域から出かけていることが、本当につまらないレクトロ。
  とはいえ、今すぐ王に何かをするつもりは無かった。
  その代わり──
レクトロ「・・・最初の質問の答えを、ちゃんと言おうかな」
ラダ・ローア「気が変わったのか?」
レクトロ「これはもう、言うしかないじゃん」
レクトロ「君が『そういう存在』に片足を突っ込んでいるからだよ」
レクトロ「先に、忠告もしておこう。 ──『これ以上、知らない方が身のためだ』」

〇城の廊下
フリートウェイ「探したぜ」
  目覚めたフリートウェイが、チルクラシアを探して城の中を走り回っていた。
  咎められる理由が無くなったフリートウェイはチルクラシアをぎゅっと前から抱き締める。
フリートウェイ「どこに行ってた?」
チルクラシアドール「レクトロと同じ場所にいた」
チルクラシアドール「もう気は済んだから、部屋に戻るつもりだった」
フリートウェイ「・・・もういいのか?」
  前から抱き合ったまま、話は進む。
チルクラシアドール「眠気はいつもより無いんだ。 よく分からないけど、何か大丈夫そう」
  昼間はほとんど寝ているチルクラシアにとって、夜は『まともに動ける貴重な時間』だ。
チルクラシアドール「部屋に戻ったら、何する?」
フリートウェイ「何をする、と聞かれてもな。 とりあえず、大人しくしておこうか」
チルクラシアドール「・・・せっかく、動けるのに・・・」
フリートウェイ「睡眠妨害は、厳禁だ」

〇城の廊下
  平和な会話を、王はこっそり聞いていた。
ラダ・ローア(確か、あの男は)
  ──一人の姿に、見覚えしか無かった。

〇城の廊下
フリートウェイ「─────────♬♪」

〇城の廊下
ラダ・ローア(厨房を閉じ込めていたあの少年か)
ラダ・ローア(眼病では無かったんだな)
  病では無かったことに安心したが、別の問題が起きているような気がする。
ラダ・ローア「最近は、何か見てはいけないものを見れるようになったな・・・」
ラダ・ローア「后神からも忠告を受けてしまったし・・・」
ラダ・ローア「『見なかったこと』にして、仕事だけをするのも違うような・・・」
ラダ・ローア(どうするべきか・・・・・・)
  王は、今後について悩んでいた。
  普段は明るい『后神』・レクトロに本気の忠告をされたことと、恐らく見えてはいけないものを見てしまったこと。
  『后神』は自分のために忠告をしたのだろうが、裏がある気しかしない。
チルクラシアドール「・・・・・・・・・」
ラダ・ローア(あの人形だ)
  王は、チルクラシアのことを『動く人形』とみなしている。
チルクラシアドール「・・・・・・・・・」
  ・・・一瞬だった。
フリートウェイ「迷子になったのか? 早くおいで」
ラダ・ローア(怖っ・・・!)
  人形の顔に、『悪意』しか無かった。
  あれは、彼女なりの『忠告』なのか
  遠回しの『襲撃予告』なのか。
ラダ・ローア(これ以上は踏み込むべきでは無いか・・・)
  身と命の危険を感じた王は、これ以上の研究を止めることにした。

〇貴族の部屋
フリートウェイ「チルクラシア、一つ聞いていいか?」
  やっと落ち着けるフリートウェイは、チルクラシアの『心』に少し踏み込んだ質問をした。
フリートウェイ「・・・今更だが、オレと一緒にいて楽しいか?」
チルクラシアドール「『楽しい』、から、大丈夫」
チルクラシアドール「何も問題は無いはず」
フリートウェイ「そうか。 ありがとな、そう言ってくれて」
フリートウェイ(少し安心した)
  前は言葉『だけ』で満足していた。
  なのに、今はそれだけで満足出来なくなっている。
フリートウェイ(一種の病気か? 『そういう気質』なのか?)
  病気によるものなら、すぐに治療するが、
  性格によるものなら、さっさと諦めて受け入れることにしている。
  ・・・とはいえ、情報が少なすぎて不安になってしまう。
フリートウェイ「レクトロかナタクなら、何か教えてくれるかな?」
チルクラシアドール「・・・?」
チルクラシアドール「何かあった?」
  チルクラシアは、フリートウェイの『異変』を薄々察していた。
フリートウェイ「・・・何でもないよ」
フリートウェイ(大丈夫、大丈夫・・・ オレは正常だ、何も異常や問題は無い)
  暗示を自分にかけることで、何とか心のバランスを取ろうとすることを選んだパートナーの右目の瞳は、少し欠けていた。
  チルクラシアにとって身体の一部分が『欠ける』ことは、命が削れたことを意味している。
チルクラシアドール「あのさ・・・」
チルクラシアドール「右目が欠けてるよ やっぱり何かあった?」
  欠けた部分は、長い時間をかければ元通りになる。
  が、その時間は人間の一生以上だ。
  数字にすれば・・・
  最も早くて500年ほどだろうか。
フリートウェイ「・・・え? 欠けてた?」
フリートウェイ「やけに右の眼が痛いと思ったら、破片が刺さっていた、ということか・・・」
  ロア全体と遊佐邸に雨を降らせてから、フリートウェイは右目が痛かった。
  こうなった原因(根本ではないが)が分かったため、不安は少し和らいだ。
フリートウェイ「なぁ、チルクラシア。 ・・・・・・オレの目は治るよな?」
チルクラシアドール「うん。 いつか、綺麗に治るよ」
チルクラシアドール「ちゃんと待つから、大丈夫 問題も、異常も、間違いも無いよ」
  今は僅かな良心が、顔を出す。
  久しぶりに、チルクラシアは人のために何かをする気分になっていた。
  ・・・太陽が姿を現したら、そうでも無くなっているかもしれないが。
フリートウェイ(・・・そうだよな。 チルクラシアがオレを置いていくわけがない)
  無意識に思い込みに縋ってしまうほど、精神状態は不安定になっていた。
フリートウェイ(オレはオレに出来ることをすればいい。 チルクラシアを守ることもその1つ)
フリートウェイ「・・・?」
  何となく、窓から外を見る。
  フリートウェイの心の闇を表すように、いつの間に雨が降り出していた。
フリートウェイ「また雨か? 最近は突然降ることが多いな・・・」

〇城壁
  王との対談が終わったレクトロは、心底、機嫌が悪そうだ。
  雨にあたることで、頭を物理的に冷やしていた。
???「ついに、ネイの瞳が欠けましたね」
  ──声の主は、フリートウェイの異変を把握していた。
シャーヴ「対処しなければ、ロアが水に沈むことになりますよ」
レクトロ「・・・分かっているよ。 そんな気になれないだけ」
  『欠ける』ことは、シャーヴにとっても『命の危険を感じる』ものだ。
レクトロ「僕が治したらいけないの。 チルクラシア・ドールに迷惑と負担をかけることになる」
シャーヴ「・・・? マスターに、ですか?」
  笑顔が消失したシャーヴは、レクトロの発言の意図が分からなかった。
シャーヴ「『ネイとマスターは、どうあっても切り離すことは出来ない』」
シャーヴ「・・・こういうことですか?」
  が、それらしいことは言えた。
レクトロ「そうだよ」
レクトロ「だから、王が考えていることも、記憶から消すつもりなの」
  レクトロは、殿と似たような、恐ろしいことを企んでいた。
シャーヴ「・・・おっと、本気でやるつもりですか?」
シャーヴ「人間は脆いんですから、実感なんてありませんよ」
レクトロ「詳しく詳細が分からないうちに、事が終わっちゃうのも想定内だし、事実なんだよ」
レクトロ「・・・・・・今回はわざと、ネイを治さずに見守るの。 余すところなく『利用』させてもらうよ」
シャーヴ「おぉ、怖い怖い」
  全く怖じ気付かないシャーヴは、レクトロの本気を目の当たりにすることを楽しみにしていた。
シャーヴ「程々にしてくださいね? 派手にやると、こちらの存在が、人間に発覚してしまう」
レクトロ「了解・・・♪」
  去るレクトロの後ろ姿を、シャーヴは仮面の下で笑みながら見ていた。
シャーヴ「・・・帰りましょうか」
シャーヴ「こちらも、やることが出来たので」

次のエピソード:Another Act1『一時のしあわせ』

コメント

  • また何やら怪しい流れになってきてますねぇ。
    次回が楽しみです。

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