プロフェティック・ドリーム

坂道月兎

#19 戻ってきた夢(脚本)

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〇二階建てアパート
百瀬涼平(ここは・・・どこだ?)
  いつもの感覚でこれは夢の中だと分かるが、見たことのない景色だ。
  寝る前の状況を思い出してみる。
  たしか・・・結衣とベッドに入ったんだった。
  このところずっと眠れなかったが、結衣がそばにいてくれたおかげで、肩の力が抜けたようだ。
百瀬涼平(この夢にはきっと、意味があるにちがいない)
  携帯を確認する。日付は明日だ。
  場所は、探偵事務所から15分ほど歩いたあたりだ。俺はあたりを見渡してみた。
  すると、バン、と音がして目の前のアパートの2階から誰かが出てくるのが見えた。
早乙女雄星「も、百瀬!?」
百瀬涼平「早乙女! お前、こんなところにいたのか!?」
早乙女雄星「僕を探しに来てくれたのか?」
百瀬涼平(そうか、明日の俺はおそらく、早乙女を探しにここまで来たんだろう)
  俺は頷いた。
百瀬涼平「ああ・・・なんでこんなところに? そこは誰の家なんだ?」
早乙女雄星「・・・ひとまず、入ってくれ」

〇CDの散乱した部屋
  その部屋は狭く散らかっていて、豪邸住まいの早乙女には似つかわしくなかった。
百瀬涼平「一体どうしたんだよ。皆も心配してた。 須藤さんだってお前の帰りを待ってたぞ」
早乙女雄星「・・・悪かった。 どうしてもここを動けなかったんだ」
百瀬涼平「何があった?」
早乙女雄星「ずっと悩みを相談していた塾講師がいたんだ。ここはその先生の家だ」
早乙女雄星「僕はずっと先生に騙されていた」
  早乙女はポツリ、ポツリと経緯を話し始めた。
  早乙女が慕っていた先生は、気さくで優しく、早乙女は「こんな人がお父さんだったら」という気持ちになったそうだ。
早乙女雄星「誰にも話せなかったことにも耳を傾けてくれて・・・全面的に信頼してしまったんだ」
  早乙女から結衣の話を聞いた塾講師は、探偵を使って結衣をストーキングするようアドバイスしたらしい。
百瀬涼平「なんでそんなことを・・・?」
早乙女雄星「やたら花ノ木さんのことを聞いてきて・・・花ノ木さんを知っているようだった」
百瀬涼平「そいつの名前は!?」
  早乙女が口を開きかけた瞬間、早乙女の携帯が鳴った。
  まるでその音に引き寄せられるように、意識が遠のいていく。
百瀬涼平(くそ、今、目覚めるわけには・・・!)
  必死の抵抗もむなしく、早乙女も部屋も目の前から消え、俺は真っ暗闇の中に放り出された。

〇男の子の一人部屋
百瀬涼平「ん・・・」
  柔らかな感触と甘い匂いが心地よくて、その幸せの塊を抱きしめた。
花ノ木結衣「りょう、くん?」
  その声に、ハッと我に返った。
百瀬涼平「結衣っ! ごごご、ごめん!」
  俺はあろうことか、結衣の胸に顔をうずめていたのだ。慌てて距離をとる。
  結衣はわずかに頬を染めながらも、笑ってくれた。
花ノ木結衣「よく眠れたみたいで、よかった」
百瀬涼平「あ、ああ。おかげさまで」
  思わず頭を下げた後、早乙女のことを思い出した。
百瀬涼平「そうだ、夢!」
花ノ木結衣「ひょっとして、正夢が見られたの?」
百瀬涼平「ああ、早乙女の居場所がわかった。 今から行ってくる」
花ノ木結衣「私も行く」
  夢で見た場所を頼りに、俺たちは早乙女のいた場所へと急いだ。

〇二階建てアパート
百瀬涼平「ここだ!」
  早乙女がいた部屋の前に立つ。
  表札の名を見て、結衣が声を上げた。
花ノ木結衣「りょうくん、見て、これ・・・」
百瀬涼平「!?」
  表札には『轟』と書かれてある。
花ノ木結衣「轟って・・・」
百瀬涼平「まさか」
  結衣の父親の苗字は確か轟だったはずだ。
百瀬涼平「でも、轟ってよくあるって程じゃないけどそう珍しくもない──」
  そこで、バンっと勢いよく扉が開いた。
早乙女雄星「百瀬・・・花ノ木さん!?」
花ノ木結衣「よかった、早乙女くん」
百瀬涼平「心配してたんだぞ」
  驚いて言葉も出ない様子の早乙女だったが、やがて諦めたように部屋のドアを大きく開いた。
早乙女雄星「・・・とりあえず、入って」

〇CDの散乱した部屋
  部屋に足を踏み入れるなり、結衣が呟いた。
花ノ木結衣「やっぱり・・・お父さん」
早乙女雄星「え?」
  結衣は下駄箱の上に積まれてあった郵便物を指して言った。
花ノ木結衣「轟洋治は私の父です。 早乙女くんがどうしてお父さんの家に?」
早乙女雄星「そうか、花ノ木さんのお父さんだったんだな」
百瀬涼平「一体何があったのか、話してくれるか?」
  早乙女はいきなり、結衣に向かって土下座をした。
花ノ木結衣「早乙女くん!?」
早乙女雄星「まずは謝罪させてくれ、花ノ木さん」
早乙女雄星「僕は君のことを・・・殺そうと思ったことがある」
花ノ木結衣「えっ!?」
早乙女雄星「父は僕を思い通りにコントロールすることしか考えていない人だ」
早乙女雄星「花ノ木さんのことも勝手に調べて諦めろと言われ・・・当の花ノ木さんにもきっぱりフラれた」
早乙女雄星「あの頃僕は、こんな生活に絶望していたんだ。だから、君を道づれに死のうと思った」
花ノ木結衣「・・・・・・」
  あの頃の早乙女は、やはりそこまで追いつめられていたのか・・・。
  そして、その流れがおそらく、俺が最初に見た正夢だろう。
早乙女雄星「だけど、君は僕と友だちになろうと言ってくれた」
早乙女雄星「百瀬も八神も笹島も・・・何の見返りもないのに僕の力になろうとしてくれた」
早乙女雄星「君たちが、無気力な僕に希望を与えてくれたんだ」
  ところが、ずっと色々なことを相談していた轟にそれを告げると、態度が表念したのだという。
  今までの優しい態度が一変し、早乙女を脅す態度に変わったのだ。
早乙女雄星「結局、先生も僕をうまく操って金を出させるのが目的だったんだ」
早乙女雄星「今まで親身になってやった相談料を寄越せと言ってきた」
百瀬涼平「相談料って・・・まさか渡したのか!?」
早乙女雄星「渡したっていっても300万程度だが」
百瀬涼平「さ、さんびゃくまん・・・ていど?」
  金持ちの金銭感覚はどうなってるんだ。

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