#20 正夢の真実(脚本)
〇事務所
電話が鳴ったのは、全員が探偵事務所に揃ったところだった。
花ノ木結衣「お父さんだ・・・」
俺はスピーカーにして電話に出るよう勧めた。
結衣は緊張した面持ちで頷き、通話ボタンを押した。
轟洋治「結衣」
花ノ木結衣「お父さん・・・」
轟洋治「なぜ邪魔をするんだ。 早乙女を逃がしたのはお前か?」
百瀬涼平「俺だ、轟さん。早乙女は俺の友だちだ。 閉じ込められてれば助けるのは当然だろ」
轟洋治「涼平・・・お前は昔から目障りだった」
百瀬涼平「結衣のお母さんが実業家として成功したのを知って、今更よりを戻そうと思ったのか?」
轟洋治「・・・昔の幸せを取り戻そうとして、何が悪いんだ!」
百瀬涼平「何もかもぶち壊したのはアンタだろ」
轟洋治「ウルサイ!! 結衣は優しい良い子だ。結衣も早乙女も、お前が誑(たぶら)かしたんだろう・・・絶対に許さない」
花ノ木結衣「お父さん、違う、りょうくんは・・・」
轟洋治「黙れ! 絶対に元通りにしてみせるからな!」
通話は突然、ぷつりと切れた。
生方千尋「要するに黒幕はユイちゃんのお父さんってこと?」
百瀬哲平「結衣のお母さんが大成功したもんだから、よりを戻していい生活をしたいとでも思ったのか?」
百瀬涼平「よりを戻せば、何もかも元通りになると思ってる」
百瀬涼平「これは推測だけど、俺が正夢で見た轟は、お母さんとよりを戻すつもりで家に行って、結衣に止められたんじゃないか」
花ノ木結衣「確かに、今突然お父さんが家に押しかけて来たら・・・お母さんには絶対に合わせないようにする、かも」
笹島アリス「よりを戻せばすべてうまくいくって思い込んでるみたいだから・・・そこを否定されたら、確かに危ういね」
生方千尋「ともかく刺激しないよう、慎重に動かないとね」
百瀬涼平「・・・轟を止めに行こう」
花ノ木結衣「うん」
〇二階建てアパート
大勢で行って刺激するのはマズイ、ということで俺と結衣がふたりで行くことにした。
他のメンバーには何かあればすぐに飛び込めるよう、ドアのそばで待機してもらう。
生方千尋「気をつけて。何かあったらすぐに合図して」
心配そうな哲平、八神、アリスをその場に残し、俺たちはアパートの扉を叩いた。
〇CDの散乱した部屋
轟の部屋の中は、酒の匂いで充満していた。ただ、轟自身はさほど酔った様子はない。
花ノ木結衣「お父さん・・・」
轟洋治「結衣か」
轟洋治「反抗的な態度を改めに来たのか? 今なら許してやる」
花ノ木結衣「違う。もうこんなことはやめて欲しいの」
花ノ木結衣「早乙女くんにお金を返して、きちんと罪を償って」
轟洋治「何が罪だ? 誰にも相手にされないかわいそうなアイツの話を聞いて、力になってやったんだ」
轟洋治「あの金は相談料だよ」
百瀬涼平「早乙女に結衣をストーカーするよう促したはあんただろ?」
轟洋治「あいつに迷惑して困れば、男親の俺を頼ると思ったんだ」
轟洋治「なのに・・・! まさかお前がしゃしゃり出てくるとはな」
花ノ木結衣「あの時そばにいて寄り添ってくれたのはりょうくんだった」
花ノ木結衣「困った時、助けて欲しい時・・・私の頭に浮かぶのは、いつだってりょうくんなんだ」
轟洋治「・・・・・・」
轟は結衣に向けていた視線を、ゆっくりと俺に移した。
轟洋治「そうか・・・やっぱりずっと俺の邪魔をしていたのはお前だったんだな」
早乙女は低くつぶやくと、ポケットからナイフを取り出した。
その目は俺に対する憎悪に満ちている。
花ノ木結衣「やめて、お父さん!!」
鈍く光るナイフが俺に向けられている。そんな状況にも関わらず、やけに冷静だった。
百瀬涼平(今までの正夢でもそうだった・・・)
百瀬涼平(誰かを助けるためには、別の誰かが犠牲になる必要があったんだ)
不思議と恐怖心はなかった。
結衣が救えるのなら、俺の命など少しも惜しくはない。
花ノ木結衣「りょうくん!!」
俺を庇おうと、結衣が手を伸ばして来る。
結衣が巻き込まれたら意味がない。
俺はとっさに結衣を抱きしめた。
百瀬涼平「ぐっ・・・」
背中が熱い。刺されたのか、俺は・・・。
花ノ木結衣「りょうくん!!」
結衣を抱えたまま、蹲(うずくま)る。
目の前に結衣の大きな瞳が揺れていた。
百瀬涼平「結衣・・・お前が無事で、よかった」
轟はもう一度ナイフを構えた。
花ノ木結衣「もうやめて、お父さん!」
花ノ木結衣「りょうくんは関係ない! 刺すなら私にすればいいじゃない!」
百瀬涼平「ダメだ、結衣・・・それじゃ、夢の通りに・・・」
花ノ木結衣「りょうくんのためなら、死んだっていいの!」
轟洋治「結衣、お前、そこまで・・・」
轟は呆然と立ち尽くした。
百瀬涼平「轟さん・・・もう、やめてください。 これ以上結衣を・・・悲しませないで」
轟洋治「・・・!」
花ノ木結衣「お父さん・・・!」
轟洋治「もう、遅いんだ。 何もかも・・・取り戻せない」
百瀬涼平「そんなことはない。生きてさえいれば・・・必ずやり直せる・・・何度だって」
轟洋治「・・・・・・」
〇黒
失血のため、だんだんと体に力が入らなくなってきた。
花ノ木結衣「りょうくん、りょうくん!! みんな、助けてっ!」
ガシャン、とガラスの割れる音がしたかと思うと、複数の足音が聞こえてきた。
涼平!!
涼平っ!
ああ、皆・・・来て、くれたんだな。
しっかりして、りょうくん!
結衣の腕の中で、俺は意識を手放していた。
〇病室
目を開けると、見慣れぬ白い天井が見えた。
花ノ木結衣「りょうくん!!」
百瀬哲平「よかった・・・気がついたんだな」
百瀬涼平「え?」
起き上がろうとした瞬間、背中に激痛が走った。
花ノ木結衣「だめだよ、まだ動いたら・・・」
そうだ、俺は轟に刺されたんだった。
八神直志「無茶しやがって、まったく」
笹島アリス「・・・でも致命傷じゃなくてよかった」
早乙女雄星「・・・ああ、本当に」
狭い病室の中に、結衣、哲平、生方さん、八神、アリス、早乙女まで集まってくれていた。
百瀬涼平「心配かけたな」
百瀬涼平「でもよかった。結衣が無事で。 今回は誰も犠牲にならずに済んだんだな」
俺の言葉に、全員が顔を見合わせた。
百瀬涼平「・・・どうしたんだ?」
八神直志「轟は・・・死んだよ」
百瀬涼平「なっ!? どうして?」
生方千尋「あらかじめ用意していた薬をあおって・・・。俺たちには止められなかった。すまない」
百瀬涼平「そんな・・・」
結衣の目から涙がこぼれ落ちる。
結局、誰かが犠牲になるしかなかったのか。
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