猫の怨返し

りをか

読切(脚本)

猫の怨返し

りをか

今すぐ読む

猫の怨返し
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

  俺には誰も味方がいない。
  いいな、”強い人”って。
  どうせ俺は、弱いからいじめられるんだ。

〇田舎の公園
仙崎優弥「はぁ、今日もぼっちだったなぁ・・・」
  仙崎優弥は、この春高校に入学したものの
  クラスに馴染めず、一人高校生活を送っていた。
「しかも、またアイツと同じクラスだし」
「クソッ、アイツなんかいなきゃいいのに・・・」
  優弥は、足元に転がっていた空き缶を思いっきり蹴った。
「あ・・・」
  転がった先に、真っ黒な猫が優弥を見つめながら座っていた。
仙崎優弥「この猫、見た事ないな。ひょっとして、お腹空いてるのかな」
  優弥は、その猫に近付く。
「お前も、俺と同じ独りぼっちか?」
仙崎優弥「そうだ、この猫俺の家に連れて帰ろう」
  優弥は猫を抱きかかえ、家に連れて帰ることにした。

〇一戸建て

〇シックな玄関
優弥の母「コラッ!!また夜遅くまでどこ行ってたの!!」
  玄関前には既に、母が仁王立ちで待っていた。
仙崎優弥「ごめん・・・ちょっと家出したくて」
優弥の母「どーせ例の人のことで悩んでたんでしょ? アンタがはっきりと言わないからナメられるのよ」
優弥の母「高校生なんだから強く言える勇気くらい出しなさい」
優弥の母「全く、大人らしくないんだから。いつまで経っても子供のままね」
仙崎優弥「分かってるよ・・・でも・・・」
優弥の母「って優弥、その猫どうしたの!?こんな所に持って来ちゃダメじゃない!!」
仙崎優弥「母さん、落ち着いて。たまたま公園にいたんだ」
仙崎優弥「俺んとこ、前まで猫飼ってたじゃん?久しぶりに育てたくなっちゃって・・・」
仙崎優弥「どうかな・・・?」
優弥の母「んー、そうねぇ。あの猫も病気で死んじゃったからねぇ・・・」
優弥の母「いいわよ。優弥にとって猫は唯一の話し相手だったじゃない」
仙崎優弥「やったぁ!母さん、ありがとう」
  母に、許諾を得た優弥は久しぶりに満面の笑みを浮かべた。

〇一人部屋
  猫を飼い始めた翌日、優弥は終始ご機嫌だった。
仙崎優弥「本当によかったなぁ。あの頃猫は俺にとってお友達だったもんなぁ」
仙崎優弥「癒しがあるって幸せだなぁ・・・」
  優弥は、猫に餌を与えながら呟いた。
「そういや、名前付けてなかった。何にしようか・・・」
「まぁ、この猫も俺と同じ隠キャの色してるし、”ヤミィ”にしとくか」
仙崎優弥「お前も今日から一人じゃないからなっ?ヤミィ」
仙崎優弥「あはっ、かわいいなぁ」

〇白

〇一戸建ての庭先
  登校日──

〇シックな玄関
仙崎優弥「はぁ・・・またアイツに合わねぇと・・・」
仙崎優弥「行ってくるからな。ヤミィ」
  優弥はいつも通り、深い溜息を吐きながらドアを開き出て行った。

〇学校の校舎

〇学校の下駄箱

〇グラウンドの水飲み場
剛毅「おい。今日、金持って来いって言っただろ?」
仙崎優弥「だから、そんな頻繁に貸す事出来ないって・・・」
剛毅「ああ!?口答えすんじゃねぇ!!週明けはぜってぇ俺に一万渡せって言っただろーが!!」

〇一戸建ての庭先

〇一人部屋
仙崎優弥「ヤミィ・・・聞いてくれるか?」
仙崎優弥「今日もアイツからパシられたよ。この傷だって。いつも毎日こんなだ。ひどいよな・・・?」
仙崎優弥「こんな日々は、もう嫌だよ、苦しいよ・・・」
「アイツがいなければいいのに。アイツがいなければ、毎日が平穏なのに。アイツがいなければ・・・」
「お前には、俺の気持ちなんて分かる訳ないよな・・・猫だし」
仙崎優弥「人間もなぁ、色々あって大変なんだよ」
  そう呟きながら餌を与えていると、猫の腕に無数の傷がある事に気付く。
「・・・ん?その傷どうしたんだろ?」
「なんだ、ヤミィも俺とおんなじだったんだな」
「お互い不幸同士っていう意味なんだな・・・」
  そう言うと、猫は家から出て行った。

〇黒

〇一戸建て

〇一人部屋
仙崎優弥「はぁ、もう寝ないと・・・」
仙崎優弥「それにしても、ヤミィ戻ってこないな」
  優弥は一度、猫を探しに外に出た。

〇田舎の公園
  家辺り周辺を隈なく探すが、猫の姿は見かけなかった。
仙崎優弥「一体、どこに行ってんだろう?なんだか心配だな・・・」
仙崎優弥「まぁ、そのうち戻って来るかもな」
  優弥は、家へ引き返した。

〇一人部屋
「まだ、五時か・・・あまり眠れなかったな」
  ふと足元に目をやると、ヤミィはいつの間にか既に寝ていた。
「あれ・・・いつの間に?もう心配してたんだよ。でも戻って来てくれて良かった」
  優弥は、スヤスヤと眠る猫の姿を見ながら微笑んだ。

〇学校の校舎

〇学校の下駄箱
仙崎優弥「今日は五千円持って来いって話だったよな」
仙崎優弥「母に嘘ついてまで、お金借りて、アイツにカツアゲされるなんて。いい加減辛すぎるよ・・・」
「はぁ、アイツに会いたくないなぁ・・・」
  優弥は、一人ぼやき教室へ向かった。

〇教室
  教室へ入ると、
仙崎優弥「早くアイツに渡さなきゃ・・・」
  いつもなら俺より前に教室に居るはずのアイツが、珍しく姿を現さなかった。
仙崎優弥「今日は休み・・・?まさか、そんなはずないよな?」
  時間が経ってもアイツはやはり姿を現さず、俺は一日平穏無事な学校生活を過ごせた。

〇シックな玄関
仙崎優弥「ただいま!お母さん」
優弥の母「あら、優弥。今日はなんだか笑顔じゃない?いつもなら学校帰りしょんぼりしているくせに」
仙崎優弥「うん。今日は珍しくアイツが学校に来なかったんだ。まぁ、たまたまだとは思うけどね」
優弥の母「優弥の顔が明るかったから、母さんびっくりしたわ」

〇一人部屋
仙崎優弥「ヤミィ。嬉しい話があるんだ」
仙崎優弥「アイツね、今日は学校に来なかったんだよ」
仙崎優弥「そのおかげか今日一日は、なんだか全てが上手くいった気がしたんだ」
仙崎優弥「今日だけかもしれないけどね」
仙崎優弥「それにしても、なんで来なかったんだろ。 まぁいいけど──」

〇白
  翌日

〇一人部屋
優弥の母「ちょっとアンタ、大変よ!!」
  母は、優弥の体を無理矢理起こす。
仙崎優弥「・・・何?母さん、どうしたの?」
優弥の母「優弥が昨日言ってた敬太よ。ニュースで変死体として発見されたそうですって!!」
仙崎優弥「・・・え?アイツが・・・?」
  俺は、愕然とした。

〇教室
  教室でも敬太の事で生徒達は騒然としていた。
仙崎優弥「驚いたな、まさかアイツが死ぬなんて・・・」
仙崎優弥「でも、これで良かった気がする。もう俺の苦しみは解放された・・・安心したな・・・」
  俺は安堵し、静かに呟いた。

〇学校の校舎
  あれから俺の学校生活は、翻したかのように全てが順調に事が進み、日常生活でも笑顔が満ち溢れる様になった。

〇シックなリビング
仙崎優弥「母さん、見て!!」
優弥の母「あらっ、あの優弥が満点!?凄いじゃない」
仙崎優弥「うん。最近すごく冴えてる気がするんだ。これからも頑張るよ」
優弥の母「一体どうしたのかは知らないけど、アンタが変わって母さん、すごく嬉しいわ」
優弥の母「じゃあ今日は、優弥の大好きなメニューでも作ろうかしらね」
仙崎優弥「母さん、いつもありがとう!!」

〇一人部屋
仙崎優弥「ヤミィ、俺なんだか幸せだ。毎日順調に上手くいってる気がするし。テストも満点取れたし、先生にも褒められたし」
仙崎優弥「それにね、他の友達からも話し掛けられたんだ。友達関係も上手くいくかなぁ」
仙崎優弥「もしかして、ヤミィのおかげかもな」
  優弥は、いつも通り餌を与える。
  その様子を何気なく見つめていると、ある異変に気付く。
仙崎優弥「あれ、猫ヒゲ・・・こんな少なかったっけ?」
仙崎優弥「もしかして生え変わりかな?あまり気にする事はないか」
仙崎優弥「明日もいい事あるかなぁ・・・おやすみなさい、ヤミィ」
  俺は今日の出来事を必ずヤミィに話すのが、一番の楽しみとなっていた。

〇学校の校舎

〇教室
仙崎優弥「ああ、あの子と話せたらもっといいのになぁ」
  優弥は、気になる女の子を眺めて言った。
仙崎優弥「でも、こんな根暗な俺なんか絶対合わないよなぁ・・・近づきたいけど自信無いもんなぁ」

〇一人部屋
仙崎優弥「ヤミィ、聞いてくれる?俺ね、気になる女の子がいるんだ」
仙崎優弥「その人はね、可愛くて勉強が出来て運動も出来て、皆んなの人気者なんだ」
仙崎優弥「はぁ、あの子と付き合えたら俺はもっと幸せなんだけどなぁ・・・」
仙崎優弥「でも、絶対俺なんかと似合わないよな・・・ごめんね、いつも俺の独り言を聞いてくれて」

〇一戸建て
  休日、気分も気分だった為、優弥は猫を連れて外出した。

〇住宅街の道
仙崎優弥「今日もいい天気だなぁ。ヤミィ」
仙崎優弥「さて、どこに行こうか」

〇住宅街
  そのまま猫に着いていくと、一軒のドアが開くのが見えた。
仙崎優弥「あっ!!」
  思わず、その正体に驚く。
心羽音「こんにちは、あれ?この猫って優弥君の?」
仙崎優弥「・・・うっ、うん」
心羽音「可愛いね!!私も猫が大好きなの」
仙崎優弥(どうしよう。このタイミングで会えるなんて)
仙崎優弥(折角の絶好のチャンスだし、とにかく何か話さなきゃダメだよな)
  突然の出会いに、心の中で動揺していた。
仙崎優弥「あっ、あの。出会ったばかりですが申し訳ありません!!」
心羽音「どうしたの?」
仙崎優弥「俺、ずっと前からあなたの事が気になっていたんです。・・・だから、あの・・・」
心羽音「・・・実はね、私もだったの。最近、優弥君のこと気になっちゃって」
仙崎優弥「えっ?そうだったの?」
心羽音「私で良ければ」

〇一人部屋
仙崎優弥「まさか・・・嬉しいよ。あの子と付き合えるなんて」
仙崎優弥「これも、ヤミィのおかげだな。ありがとう。俺の願いを聞いてくれて」
  優弥は笑顔を浮かべ猫に餌を与えるが、日に日に減っていくヒゲを気にしていた。
仙崎優弥「あれ?食べないのか?」
仙崎優弥「食欲が無いのかな。かなり歩いたし今はそっとしておこう」
  その日もまた次の日も、猫はベッドで横になったまま身動かなかった。

〇一人部屋
仙崎優弥「なんか、心配になって来たな。元気ないし猫のヒゲも気になるし、何かあるかもしれないから病院行こう」
  猫を連れ、動物病院を目指した。

〇病院の診察室
「んー、異常はありませんが、分かりませんね」
「そうですか・・・分かりました」

〇一人部屋
仙崎優弥「異常が無いってどう言うことだ? こんなに元気がないのに・・・」
仙崎優弥「ヤミィ、大丈夫か?一体どうしたんだ? 俺はこんな元気になったのに・・・」
「きっと俺のせいだ。俺だけが幸せになれて、元気を無くしたんだ。ヤミィだって俺と同じ運命だったのに」
「俺は十分幸せになったから、次はヤミィが幸せになってほしいんだよ・・・」
「だから、お願いだ・・・」


〇ペットショップの店内
  生体販売というこの場所は、正に
  生き地獄の日々だった。
  そんなある日、水と餌だけの牢獄の中を人間が救ってくれた。

  だが、あの地獄から救われたのは、人間の都合に翻弄されただけだった。
  気が付けば、この地を占領地とする人間から虐めを受け、生傷を刻み、死に物狂いで餌を得る日常を過ごしていた。
  どれ程、人間の方が生きるのが楽で豊かなのだろうか。
  どれ程、自由で立派な人間に醜く憧れたものか──。

〇一人部屋
  俺は、ずっと人間を恨んできた。
  人間なんか醜い生物だ。
  何故、人間という強者がいるのだ。
  故に俺は弱い生き物だから虐められるんだ。

〇赤(ダーク)
仙崎優弥「やっと楽になれた」
仙崎優弥「次は、人間が苦しむ番だよ」

成分キーワード

ページTOPへ