別に待ってたわけじゃない猫

草川斜辺

エピソード1(脚本)

別に待ってたわけじゃない猫

草川斜辺

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〇渋谷駅前
のら「犬が歩いている」
のら「楽しそうだ」
のら「首輪を付けられ、その首輪には紐がつながれ、さらにその紐は人間に掴まれている」
のら「人間に自由を奪われているというのに、犬というのはのんきなものだ」
のら「犬といえば、近くに犬の形をした塊が置かれているところがある。 人間が作ったものなのだろう」
のら「塊が置かれた広場には時々行くが、いつも人間が集まっている」
のら「人間も犬が好きなようだ。犬は人間に忠実だからな」
のら「この犬の形をした塊は、実際にいた犬を模したものという話を聞いたことがある」
のら「このあたりを縄張りにしている猫が代々伝えていると聞いたが、いかにも犬という感じの話で、われわれには理解できないものだ」
のら「「忠誠心」という言葉で美談のように語られるが、人間に対する奴隷的従属としか思えない」
のら「そんな話がなぜ語り継がれるのだろう」
のら「私は人間には良い印象がない」
のら「確かに、良い人間がいることは確かだ。 私に食事をくれる人間もいる」
のら「もちろん私から食事を乞うたことはない。人間が私に食べてもらいがるのだ」
のら「今日は道路わきの植え込みにいた時に人間から食事をもらった」
のら「明日も来るかもしれないので、行ってやることにするか」
のら「この街には人間がたくさんいて建物も多い」
のら「良いにおいのする建物のあたりに早朝に行けば、食べものにありつけることも多い」
のら「黒い鳥も食べ物を狙っているので油断はできないが」
のら「普段の食事も人間の建物の近くで得ているのになぜ人間に良い印象がないのかというと、」
のら「私の右の前足がちょっと動かしにくいことと関係がある」
のら「歩いたり走ったりはできるが、他の猫に比べると動きが遅い」
のら「小さな頃に食事をくれる人間に出会ったことから、人間は良い動物かと思って人間が見えるたびに近づいたのだが、」
のら「ある日、一人の人間に強く蹴飛ばされたのだ。それ以降、右の前足はうまく動かせない」
のら「そんなわけで、私は人間に良い印象がないのだ」
のら「さて、今日は天気も良いし、ちょっと出かけるか」
のら「どこに行こうか。 通りを見ると人間が増えてきた。 人間は昼を過ぎると増えてくる」
のら「そして人がものすごく多い日は7日毎にあって、その日は二日続く。 今日はその一日目だったか」
のら「そういうことなら、あの建物に行ってみるか」
のら「他の建物の中に入ると人間に追い出されるが、あの建物は入りやすいのだ」
のら「入るというか登るという感じで、通りから段差を登っていける」
のら「この段差をいくつか登ると、建物の一番上に出る。 人間は多いが、人間が多くいるところの方が安全だ」

〇中庭
のら「そこには草が生えている広場がある。 今日のような天気の良い日はこの広場で寝そべるのは心地よい」
のら「この広場が気に入ったというのはもちろんだが、ここに来たのにはもう一つ理由がある」
のら「ここに来るのは3回目で、この前来たのは7日前、最初に来たのもその7日前だ」
のら「最初に来た時と、この前に来た時に同じ人間を見かけた」
のら「寝そべっている私の近くに来て首のあたりを撫でてくれたのだ」
のら「撫でてくれたお礼に、手に持った細い棒のようなものを振って遊んでいるので付き合ってやったりした」
のら「楽しそうにしていたので、私もうれしかった」
のら「今日も来ているだろうか」
  草の生えている広場を見渡す
のら「見当たらない」
のら「これまでと同じように昼頃に来たのだが、まだ来ていないのかな」
のら「前回ここで会ったのは7日前、その前もその7日前だった」
のら「今日来ないのなら明日も来てみようか」
のら「ん? これではまるであの犬のようではないか。 人間に会うために来るなんて」
のら「いや、犬は人間に自由を奪われていて隷属的な立場で主人を待っているだけだが、私は違う」
のら「それにあの犬は毎日来ていたそうだが、私は7日おきだから全然違う」
のら「仮に明日も来たとしても、2日続けただけだから毎日とはいえない」
のら「・・・」
のら「あ、どうやら来たようだ」
のら「これまでよりも遅いじゃないか」
のら「ちょっと抗議の意味を込めて気づかないふりをしよう」
のら「人間が何かしゃべりながら近づいてくる」
のら「たぶん遅れたことを謝っているのだろう」
のら「まあ、許してやってもいい」
のら「人間に連れられて道を歩く犬は楽しそうにしているが、良い人間と一緒にいると楽しいことは確かだ」
のら「犬もそんなところを気に入っているのだろう」
のら「あんがい犬もそれほど哀れな連中ではないのかもしれないな」

コメント

  • 猫の視点がおもしろかったです。
    人間は猫に「遊んであげてる」つもりだったですが、猫から見たら「遊んでやるか」なんだなぁと。

  • ねこ好きにはたまらないお話でした。読んでて共感したのが、私たち人間側は、ねこをかまってあげなきゃとおもって遊んであげてるつもりが、ねこ側からしたら人間がかまってほしそうだから遊んであげているって、ほんとそうかもしれませんね(笑)ねこに聞いてみたくなりました!

  • 「のら」猫をイメージすると本当にそう思っているような気がします。犬の「忠誠心」猫の「愛嬌」人の「思考」が織り交ざったのほほんとしたストーリーで面白かったです。

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