〇立派な洋館
メイド「ようこそいらっしゃいました」
執事「蛍さまならこちらでお休みになられています」
「・・・・・・」
執事「茉優さんと、智樹さんですね」
執事「いつも蛍さまと仲良くしていただいて ありがとうございます」
絹田茉優「いえ・・・」

〇けばけばしい部屋
絹田茉優「すごい部屋・・・」
吉岡智樹「目が・・・っ」
有栖川蛍「でしょ？」
有栖川蛍「ハッピーになれる最高の部屋じゃない？」
吉岡智樹「君にとってはね・・・」
有栖川蛍「・・・黙っててごめん」
有栖川蛍「僕、 進行性の筋肉の病気でさ」
有栖川蛍「子供の頃からずっと身体が弱くて 服薬して進行を遅らせてたんだけど」
有栖川蛍「効かなくなってきたみたい」
絹田茉優「・・・」
有栖川蛍「実は」
有栖川蛍「うちの壺が、もう作れない高額作品っていうのも嘘なんだ」
有栖川蛍「騙してて申し訳ない」
絹田茉優「・・・」

〇白
　　もしかして
　　着ぐるみとか着てたのは
　　細い腕を隠すため？
　　いつもお茶ばかり飲んでいたのは
　　飲まないんじゃなくて
　　飲めなかったから？
　　性的なことに興味がなかったのは
　　身体がそれどころじゃなかった・・・？

〇けばけばしい部屋
有栖川蛍「智樹くんが羨ましいなぁ」
有栖川蛍「僕も健康に生まれたかったなぁ」
有栖川蛍「そしたら、四国遍路どころじゃなくて」
有栖川蛍「日本中を旅してまわれるのに」
有栖川蛍「夏休みとかたっぷり使ってさ」
有栖川蛍「キャンピングカーとか借りて・・・」
有栖川蛍「良くない？」
有栖川蛍「三人で行きたかったなぁ・・・」
絹田茉優「行けるよ!!」
絹田茉優「今から予定立てよ!!」
絹田茉優「私が予定組むよ!!」
有栖川蛍「無理だよ」
有栖川蛍「僕、とうとう死ぬもん」
有栖川蛍「余命一年なんだ」
「・・・・・・!!」

〇炎
有栖川蛍「大好きな君たちの」
有栖川蛍「可愛い子供の顔が早く見たいんだよ」

〇けばけばしい部屋
絹田茉優「だからあんなこと・・・？」
有栖川蛍「ごめんね」
有栖川蛍「子供が見たいなんて無茶なこと言って」
有栖川蛍「僕、親も兄弟いもないから」
有栖川蛍「大好きな君たちの子供に、 この家や財産を継がせたかったんだ」
絹田茉優「────」

〇マンション前の大通り
吉岡智樹「信じられないな 蛍くんがいなくなるなんて」
吉岡智樹「病気だったなんて 全然気づかなかった・・・」
絹田茉優「・・・」
吉岡智樹「絹田さん？」
絹田茉優「智樹くん」
絹田茉優「やっぱり私たち急いだ方がいいよ」
吉岡智樹「え？」

〇マンション前の大通り

〇白いアパート
絹田茉優「結婚しよう」
吉岡智樹「──っ」
絹田茉優「智樹くんはこのままでいいの!?」
絹田茉優「私たち、あんなに一緒にいたのに」
絹田茉優「一番お世話になったのに」
絹田茉優「何にも返せてないんだよ！」
吉岡智樹「それは・・・」
絹田茉優「”変わってるね”ってよく言われてた」
絹田茉優「智樹くんも知ってると思うけど」
絹田茉優「私は」

〇学校の廊下
「イケメンには興味が無いし」
「流行りの歌も良さが分からない」
「古着しか着ないし・・・」
「夜は七時に寝る」

〇白いアパート
絹田茉優「なんで普通にできないんだろうって・・・」
絹田茉優「ずっと”普通”に憧れてたの」
絹田茉優「でも蛍ちゃんは違った」

〇リンドウ
「私よりもずっと変わってるのに」
「全然気にしてない」
「誰に何言われたって、 自分のスタイルを貫いている」

〇白いアパート
絹田茉優「私、蛍ちゃんのそういうとこ、 本当に憧れてて──」
吉岡智樹「うん」
絹田茉優「本当に楽しかったんだよ」
絹田茉優「自由な蛍ちゃんと、 温かい智樹くんのおかげで」
絹田茉優「私が私のままでいられる 大好きな居場所だったんだよ」
吉岡智樹「・・・」

〇高級料亭
有栖川蛍「プレゼントだぞ!!」
絹田茉優「何ー？」
「・・・・・・」
有栖川蛍「何だよ その反応」
有栖川蛍「静岡から取り寄せた高級茶葉だぞ？」
有栖川蛍「飲まないなら僕ひとりで飲む」
絹田茉優「飲むって」
絹田茉優「売店で和菓子を買ってくる」
吉岡智樹「待って 危ないから俺も行くよ」
有栖川蛍「困ったな」
有栖川蛍「ぼっちにさせるのが好きなんだから」

〇白いアパート
絹田茉優「私にできるのはこれくらいしか」
絹田茉優「智樹くん」
絹田茉優「私のこと好きなんでしょ？」
絹田茉優「ねぇ、 好きにしていいよ？」
吉岡智樹「なっ・・・」
絹田茉優「蛍ちゃんに、子供の顔見せてあげようよ」
吉岡智樹「待っ・・・」
絹田茉優「私たちじゃなきゃダメなんだよ？」
吉岡智樹「・・・・・・」
絹田茉優「ねぇ」
絹田茉優「智樹くん」