2品目:スクリームバードの甘辛煮込み(脚本)
〇地下室
イオルク・ネイファ「み、皆さま、こんにちは。『30分クッキング』です」
イオルク・ネイファ「本日のちょ、調理人はエリド、失礼しましたっ、エルドリス・カンザラ先生です」
イオルク・ネイファ「そして本日の食材は、こちら。スクリームバード」
僕は背後を指し示す。
そこには鳥型の魔物が、鉄製の台に拘束されていた。
スクリームバード。B級の飛行魔物。
背丈は約五十センチだが、羽を広げれば三メートルに達する。
鋭い嘴と爪を持ち、羽根はしなやかで大きく、空を滑るように飛ぶのに適している。
特筆すべきは、その名のとおり「絶叫《スクリーム》」だ。
敵を威嚇し、鼓膜を破壊するほどの大音量で鳴く。
しかし今、魔物の嘴には分厚い皮の口枷《くちかせ》が嵌《は》められ、絶叫は封じられている。
大きな羽は拘束具でぐるぐる巻きにされ、鋭い爪を持つ足は、鉄製の台の上から一歩も動けないよう足輪で縫い付けられている。
イオルク・ネイファ「本日は、スクリームバードの甘辛煮込みを作ります。 では先生、よろしくお願いします」
エルドリス・カンザラ「まずは、下処理」
エルドリスは、鳥の胸部に手を当てた。
エルドリス・カンザラ「スクリームバードの肉質は繊維が密で詰まっている」
エルドリス・カンザラ「生や焼きでは少し硬いが、じっくり煮込めば歯のない老婆でも食べられるくらいほろほろになる」
彼女が撫でるように指を動かすと、スクリームバードの翼が、拘束を断ち切ろうと必死にもがく。
だが、その程度の抵抗で、帝国内に点在する監獄の中で最も重罪人が多く収監されるこの第七監獄《グラットリエ》の拘束具が
外れるわけがない。
エルドリス・カンザラ「では、開いていく」
〇地下室(血の跡あり)
「ッ・・・・・・ンウウウッ・・・・・・! ギィ・・・・・・ウウ、ィィウウウ!!」
口枷の中で籠った絶叫が響く。
だがそれは単に不快音というだけで、人体に影響を及ぼすレベルじゃない。
スクリームバードの羽根が一斉に逆立ち、逃げ出そうとする動きに、金属の足輪が激しく音を立てる。
長ナイフの刃がゆっくりと胸部を切り開いていく。
ズズズ、ズズズ。
「ンギウ・・・・・・エェ・・・・・・!! グゥウウウ・・・・・・!!」
なおも続く絶叫に、僕は思わず耳を塞いで顔を背けた。
イオルク・ネイファ「やっぱり駄目だ。こんなの耐えられない。 やっていることは拷問じゃないか」
「・・・・・・い。おい、助手君。何をしている」
呼びかけられていたことに気づいてエルドリスを振り向くと、彼女は血塗れの内臓を手にしていた。
長い腸がその手に余り、だらりと垂れ下がっている。
エルドリス・カンザラ「職務をサボるな。そこのバケツを取ってくれ」
イオルク・ネイファ「は、はいっ、すみません」
僕は急いで金属のバケツを拾い、彼女に駆け寄る。
僕が抱えたバケツの中に赤黒い内臓が入れられた。
胃液が一気にせり上がる。
「うっ・・・ぐ、げぇぇっ・・・! ぶっ、オロロ、ウロヴぉええ!!」
エルドリス・カンザラ「ふむ。なかなか繊細な助手だな」
冷静な声が降ってくる。
力を振り絞り、なんとか顔を上げると──
内臓を抜かれたスクリームバードのうつろな瞳と目が合った。
死んだような目。なのに生きている。
昨日のトロールと同じ、延命魔法をかけられているのだ。
鳥の爪が、流れ出る血で真っ赤になった鉄台を引っ掻く。
エルドリス・カンザラ「時間があればこのまま血が抜けるのを待ってもいいが、今日は30分しかないため時間短縮だ」
「ンンングゥゥウウウッ!!!」
エルドリス・カンザラ「さらに、湯をかけて促進する」
エルドリスは鍋からぐつぐつ煮える熱湯を汲み、スクリームバードの開かれた腹にバシャッと掛けた。
音を立てながら肉が痙攣し、表面に赤黒い血が滲み出す。
それをまた熱湯をかけて洗い流していく。
エルドリス・カンザラ「煮込みには骨付き肉が最適だ。今日はもも肉を使う」
エルドリス・カンザラ「まずは邪魔な羽毛を取り除く」
ブチッ! ブチブチッ!
ミチィ! ブチチィッ!!
エルドリス・カンザラ「仕上げに火で焼き切る」
エルドリスはバーナーに火をつけると、羽毛の残った部分を炙った。
ジュッと焦げる音とともに、細かい毛が黒く縮れ、スクリームバードは熱さから逃れようと激しくもがく。
僕は気がおかしくなりそうだった。
エルドリス・カンザラ「次は切断だ」
エルドリスはそう言いながら、解体鉈《なた》を手に取った。
鳥の脚の関節部分に刃を当て、ゆっくりと力を込める。
スクリームバードの身体がびくんと跳ねるが、拘束具がそれ以上の抵抗を許さない。
エルドリスはさらに鉈の柄尻を拳で叩き込み、完全に関節をへし折る。
肉だけで繋がった足が不自然な角度に曲がった。
その肉をも、鉈から持ち替えた長ナイフで苦もなく切断していく。
スクリームバードの瞳が絶望に染まり、揺らいでいた。
残された片足でも立ち続けられるのは、魔物の生命力ゆえか、エルドリスの延命魔法の力ゆえか、僕にはわからない。
〇地下室(血の跡あり)
エルドリス・カンザラ「では、煮込んでいく」
エルドリスは骨付きもも肉を、煮えたぎる鍋の中へと落とした。
エルドリス・カンザラ「スクリームバードの骨から出る旨味が、煮込むことで染み出し、他の食材と混ざって濃厚な風味を生み出す」
エルドリス・カンザラ「・・・・・・」
イオルク・ネイファ「あっ、そ、そうだった、台詞!」
イオルク・ネイファ「き、今日は時間短縮のため、鍋の中では事前に、刻んだナトラルート、フィルベリーの果実、ローゼ草を煮込んでいます」
イオルク・ネイファ「先生、ここで味つけですね。 赤蜜酢 大さじ2 シャグリッドの辛香粉 小さじ1 ダークモルトソース 大さじ3 塩 少々」
エルドリスはレードルを手に取り、鍋の中をゆっくりと混ぜた。
エルドリス・カンザラ「赤蜜酢の甘みとフィルベリーの果実が調和し、シャグリッドの辛香粉が後味に刺激を加える」
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アイデアがめちゃめちゃ面白くて!!
ブラックジョークとしても最高です!
色々なモンスターの解体ショーがユニークですねw
絶品料理って、食べられる側からしたら悪魔の拷問でしょうね。
否定的な彼も、きっと一口食べたらその美味さに舌鼓を打つでしょうw
最高の料理=最高の拷問。読者の常識を書き換えられるのが優れた創作の証ですね!