生きた魔モノの開き方

8ツーらO太!

1品目:ラグド・トロールの香草焼き(脚本)

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〇地下室
「んふふっふ~、んふふ♪ んふふっふ~、んふふ♪」
  ここはヴェルミリオン帝国、第七監獄《グラットリエ》。
  地下調理場からは今日も、彼女の鼻歌が聞こえてくる。

〇血しぶき
  30分クッキングのお時間です。

〇地下室
  1品目:ラグド・トロールの香草焼き
調理助手「皆さま、こんにちは。『30分クッキング』です」
調理助手「本日の調理人は、エルドリス・カンザラ先生です」
調理助手「そして本日の食材は、ラグド・トロール。人型のC級魔物です」
  調理助手が背後を指すと、壁に磔《はりつけ》にされた魔物が暴れ出した。
  ラグド・トロール――全長二メートルほどの人型の魔物。
  人間と似た腕と脚を持ち、顔は獣じみた特徴をしているが、瞳には理性の名残が宿っていた。
  自由を奪われたそれは、低く呻き声を上げながらこちらを睨んでいる。
調理助手「作るのは、ラグド・トロールの香草焼きです。では先生、お願いします」
エルドリス・カンザラ「ラグド・トロールの特徴は脂身の芳醇な香りだが、適切に下処理しないと臭みが残り、脂の香りを妨げてしまう」
エルドリス・カンザラ「ゆえに、まずは内臓を手早く抜く」
  魔導カメラが寄り、エルドリスが長ナイフを手に取る。
  怯えたように吠えた魔物に彼女はすっと手を触れた。
エルドリス・カンザラ「では、開いていく」
  刃《やいば》が魔物の硬い皮膚に沈んだ。

〇地下室(血の跡あり)
  そこから皮膚がズッズッ、と徐々に割かれる。
「グ、・・・・・・ア・・・・・・ギィィィィィ・・・・・・ッ!」
  傷口から血が溢れ、ラグド・トロールの全身が仰け反る。
  口は限界まで開かれ、牙を剥き出しにしながら喉を震わせる。
  口の端で血泡が弾け、凄まじい痙攣とともに四肢が震え、鎖がガシャガシャと鳴る。
  眼球は飛び出さんばかりに見開かれ、助けを求めるように中空を見つめる。
  裂けた腹部からは臓器が半ば飛び出し、生臭い血が周囲を濡らしている。
  だが――エルドリスは何の躊躇《ためら》いもない手つきで、素早く臓器を摘出していく。
エルドリス・カンザラ「この時点で死んでしまうと肉が固まってしまうため、適度に魔力を流して生かす」
調理助手「エルドリス先生の延命魔法です」
調理助手「続いて、使用部位――わき腹肉の切り出しですね」
  エルドリスは、魔物のわき腹に長ナイフを突き立てた。
  刃が皮膚を裂き、筋肉を切り開く。
  ラグド・トロールの全身が弓なりに跳ね上がった。
「グ、・・・・・・ギィ・・・・・・ア・・・・・・ッ!」
  苦悶に満ちた絶叫が喉の奥で詰まり、しゃくり上げるような息遣いが漏れる。
  刃が肉を引き裂くたびに、魔物の身体は細かく震え、引き攣るような痙攣を繰り返した。
  瞳はまるで自身の運命を理解したかのように潤み、恐怖と苦痛に揺れている。
エルドリス・カンザラ「・・・・・・」
  エルドリスはその表情を一瞥しながら、寸分の迷いもなくナイフを進めた。
  皮膚を剥ぎ、慎重に筋を断ち、滑らかに300グラムほどの肉を切り出していく。
「ハァ、・・・・・・ハァ・・・・・・グ、ア・・・・・・」
  血の臭いが充満する調理場の中で、ただ無力な肉塊と化していく自身の姿を知覚しながら、トロールは生かされ続ける。
エルドリス・カンザラ「わき腹肉は余分な筋が少なく、調理には使いやすい」
  エルドリスは切り出した肉から皮を丁寧に剥《は》いだ。
  刃先が滑りやすい脂肪の層を的確に削ぎ落とし、ブロック肉全体を均一な厚みに整えていく。
  そしてブロック肉の表面に塩をまぶす。
  手足を磔にされ、内臓を取り除かれたトロールは、目を見開いたまま震えていた。
  呼吸は荒く、喉の奥から雑音のような呻き声が漏れている。
  生きている。
エルドリス・カンザラ「この個体、脳に損傷は?」
調理助手「いえ。薬も与えておらず、脳は至極正常です」
エルドリス・カンザラ「それはいい。目の前で焼き上げてやろう」

〇地下室(血の跡あり)
  エルドリスはブロック肉を、脂肪の層を下にして鉄板へと乗せた。
  熱せられた鉄板に触れた瞬間、ジュワッという音とともに透明な脂が滲み出す。
エルドリス・カンザラ「まずは強火で表面に焼き目をつける」
  細身のトングを手に取り、エルドリスは肉を慎重に押しつける。
  鉄板の上では脂の滴が跳ね、きらめくように光る。
  焼き面をチェックしたエルドリスは、トングを使って肉をひっくり返す。
  これを繰り返していき、ブロック肉の六面すべてに焼き目がつくと、
  彼女は用意していた刻んだラドリーフ、ミスナシュ、ファリウムの葉を指先で軽く揉み、鉄板の上に撒いた。
  香草の葉が弾けるような音を立てる。
  それと同時に、スパイシーな香りが立ち上り、焼かれた脂の香りと混ざって調理場に満ちる。
エルドリス・カンザラ「肉の内部に火を通しすぎると硬くなるため、ここからの過熱は中火で約一分だ」
  トングで軽く肉を押す。
  肉の端の方では、脂が滲み出しながら細かく泡立ち、徐々に黄金色へと変わっていく。
  エルドリスは仕上げの一手として、鉄板の端で温めていたルガーナの果実を取り上げ、軽く絞った。
  ルガーナの甘酸っぱい匂いが一気に広がり、香草と肉の香りに、さわやかな清涼感を加える。
  肉の表面は、混ざり合った肉汁と果汁できらきらと輝いている。
  調理の匂いが、まだ意識のあるトロールの鼻腔にも届いているらしい。

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