#17 変化のない夢(脚本)
〇教室
早乙女はその翌週には学校に来ることになった。
ただ、やはり学校が終わった後の塾には通い続けるらしい。
約束通り勉強を教えることにしたが、早乙女ももともと成績はいいので、俺が教えられることは少ない。
百瀬涼平「早乙女は、単に苦手な分野と得意な分野がハッキリしてるだけだよな」
早乙女雄星「でも、父はすべて一番しか認めてはくれない」
ふと、以前八神が怪我をした騒ぎのことを思い出した。
あの時は早乙女のイライラした態度が騒動の原因だったが──。
百瀬涼平(家で父親に責められ、クラスの友人は父親の手下、恋愛もうまくいかない、誰にも相談できない──)
百瀬涼平(それじゃあ色々ゆがんで当り前だよな・・・)
百瀬涼平「・・・あんま無理すんなよ。 悩みとかあったら聞くし」
早乙女雄星「・・・!?」
百瀬涼平「早乙女?」
なぜか早乙女は赤くなり、ひどく狼狽した。
笹島アリス「人たらし」
いつの間にかアリスが近づいてきて、早乙女の隣に腰掛けた。
笹島アリス「友だちって関係がはじめてでうれしくて戸惑ってる」
笹島アリス「いつもは塾の先生に悩み相談してた?」
スラスラと早乙女の心を読むアリスにハラハラしていたが、早乙女は案外天然のようだ。
早乙女雄星「・・・笹島は洞察力がすごいな」
心底感心したように言う。
百瀬涼平「塾にいい先生がいるんだ?」
早乙女雄星「この学校の教師よりはな」
なんとなく、ホッとした。
父親に通わされている塾でも、頼りになる人がいるなら意味がある。
早乙女雄星「ありがとうな、百瀬」
伏し目がちに小さく、早乙女が呟いた。
〇男の子の一人部屋
事務所で夢を見て以降、日常のちょっとした些細な正夢は度々見ていたが、結衣が死ぬ夢は見られていなかった。
生方さんから、しばらく休むよう言われていたこともあり、言霊を使って入眠することもなかった。
百瀬涼平(でも、本当に回避できたかどうかやっぱり気になる)
早乙女は落ち着いているし、おそらくもう大丈夫だろう。
家で見ておいて、後から事務所で皆に報告すればいい。
そう思った俺は、言霊を使って結衣が死なない未来を確認してみることにした。
百瀬涼平「クリスマスイブの日の正夢を見たい」
俺は横たわり、目を閉じて眠りについた。
〇一人部屋
部屋の床は、やはり血で濡れていた。
中央に横たわる結衣は動かない。
百瀬涼平「結衣!!」
駆け寄り、抱き起こすがすでに息はなかった。
百瀬涼平(なんで、どうして・・・?)
だが、動揺している場合ではない。
犯人を追いかけなければ・・・早乙女じゃないとしたら、誰なんだ!?
俺は夢中で部屋を飛び出した。
〇低層ビルの屋上
屋上に着くと、返り血を浴びた男が柵の向こう側に立っていた。
立っていた男はやはり──早乙女だった。
百瀬涼平「・・・早乙女、なんでだ!?」
呼ぶと早乙女はぼんやりとした視線を向けてくる。
早乙女雄星「百瀬・・・」
早乙女は不遇な境遇にいるけれど、悪い奴じゃない・・・そう思えたところだったのに。
早乙女雄星「ちがう・・・」
百瀬涼平「何があったんだ!? どうして結衣を殺したんだよ!」
早乙女雄星「僕じゃない。ちがうんだ・・・」
首を振る早乙女は、やがて諦めたように目を伏せた。
百瀬涼平「早乙女?」
ハッとする。早乙女はこちらを向いたままゆっくりと目を閉じた。
百瀬涼平「やめろ、早乙女っ!」
そのまま体は後方に倒れ込んでいく。
百瀬涼平「早乙女っ!!」
柵の間から必死に手を伸ばしたが、届かない。
ドン、と衝撃音が耳に届く。
俺は両腕で白い柵を握り込んだ。
百瀬涼平「どうして・・・!?」
現実は大きく変わったはずなのに、正夢の結末を変えることができなかった。
遠くから聞こえるサイレンの音が、少しずつ大きくなっていく。
〇男の子の一人部屋
百瀬涼平「わあああっ!」
泣きながら、叫びながら目が覚めた。
外はもう明るくなっている。
百瀬涼平「ダメだ・・・何も変わっていない」
クリスマスまであと1ヶ月、まだやらなければならないことがある。
俺は飛び起きて、そのまま探偵事務所へと向かった。
〇住宅地の坂道
事務所に向かう途中、結衣、八神、アリスにもメッセージを送る。
早朝だったが、皆早めに起きて事務所に集まってくれた。
〇事務所
生方千尋「未来が変わってない?」
百瀬哲平「どういうことだよ」
笹島アリス「早乙女が? この間の様子じゃ、とても結衣を殺すようには思えなかったけど」
百瀬涼平「早乙女が返り血を浴びてたんだ。 ただ、本人は違うと否定してた・・・」
八神直志「まあ、普通はあっさり『自分が殺した』なんて自供しないだろうけど・・・」
あの時、違うと言っていた早乙女・・・そのまま飛び降りてしまったが、もっとちゃんと話を聞いていれば・・・。
飛び降りる直前に見た、悲し気な目を思い出す。
早乙女を犯人だと決めつけてはいけない・・・そんな気がした。
笹島アリス「次は一人で行かないでよね」
百瀬涼平「ああ、そうだな、悪かった」
百瀬涼平「アリスがいれば早乙女が犯人かどうかなんてすぐにわかったはずなのに」
思い込みで安易に行動した自分に腹が立つ。
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