エピソード1(脚本)
〇渋谷駅前
渋谷駅前
僕の前を怪獣が歩いている。
頭から尻尾にかけて柔らかそうなトゲが付いていた。
僕はついその中の一つを掴んでしまった。
「ふぃひえっ!?」
怪獣「ちょっと急に掴まないでよ!?びっくりするでしょ!?」
僕「すみません、つい。柔らかそうだったから」
怪獣「君は柔らかそうだったらなんでも触っちゃう変態さんなのね」
僕「じゃあ怪獣さんは街中をそんな目立つ格好で歩いている変人さんでいいですか?」
怪獣「よくない!それに君、年上の綺麗なお姉さんに対してその態度はなんなの?」
僕「どこに年上の綺麗なお姉さんがいるんですか?」
怪獣「ここにいるじゃない!」
僕「すみません、気がつきませんでした」
怪獣「それに怪獣さんはやめない?」
僕「はあ、じゃあ怪獣先輩で」
怪獣「あんまり変わってないけど、まあいいや」
これが僕と怪獣先輩との出会いだった。
〇渋谷の雑踏
この街は色んな人がいるから怪獣の着ぐるみぐらいじゃそこまで驚かない。
自分らしくいれる街、渋谷。
でも僕には眩しすぎる。
自分らしさなんてわからない。
僕だけがこの街から浮いているような、そんな感覚に襲われる。
早くここからいなくなりたい。
〇SHIBUYA SKY
怪獣先輩と会うときはいつも夕陽が僕たちを照らしていた。
僕「今日も怪獣なんですね」
怪獣先輩「これならすぐ君に気づいてもらえるでしょ?」
僕「そう、ですね」
怪獣先輩はオレンジ色の街を眺めていた。
怪獣先輩「綺麗だね」
僕「はい」
怪獣先輩「そこは「あなたも」って言ってよ?」
僕「もっと年上の綺麗なお姉さん的な服ならよかったんですけど」
怪獣先輩「あはは、そろそろ日が暮れちゃうね」
こうやって夕陽が沈む短い間、僕たちは言葉を交わす。
〇カウンター席
僕たちは会う約束をしてるわけではないが、週に二、三度予備校の帰りに会うことが多い。
今日もそうだ。
怪獣先輩は窓の外をじっと見つめたままサンドイッチを頬張っている。
その視線の先にはハチ公像がいた。
〇ハチ公前
〇カウンター席
怪獣先輩「君には待ちたい人がいる?」
今度はパンケーキをもぐもぐしながらそう言った。
僕「いない、と思います」
怪獣先輩「微妙な表現だね」
僕「そういうのよくわからないんです」
怪獣先輩「そっか」
僕「怪獣先輩にはいるんですか?」
怪獣先輩「私待つのは好きじゃないんだ。自分から行っちゃう」
僕「怪獣先輩っぽいです」
怪獣先輩「今笑ってるくれてる?嬉しいなぁ」
僕「それより食べ過ぎじゃないですか?」
彼女は話している間サンドイッチとパンケーキとドーナツまで食べていた。
〇電車の座席
さっき自分が笑っていたことに気がつかなかった。
窓に映る自分の顔に表情はない。
〇おしゃれなリビングダイニング
家に帰ると既に両親が夕食の準備をして僕を待っていた。
父「最近遅いじゃないか。まさか遊んでいるんじゃないだろうな」
僕「予備校に行ってたんだ」
母「もう二年生なんだから気を緩めちゃダメよ」
僕「ああ」
僕の両親は、良い大学に入って良い会社に就職して・・・それしか言わない。
だから友だちもつくらず、勉強ばかりしていた。
つまらない人生だと思った。
それに比べて怪獣先輩はいつもキラキラしていて楽しそうに笑っている。
僕とは違う世界の人だ。
〇モヤイ像
怪獣先輩「モヤイ像のモヤイは力を合わせるっていう意味なんだって」
僕「・・・」
怪獣先輩「聞いてる?ていうかあんまり元気ない?」
僕「すみません。モヤイ像の話しですよね?」
怪獣先輩「何かあったの?」
僕「いえ、なんでもないです」
怪獣先輩「あるでしょ?」
僕「ないって言ってるじゃないですか!」
怪獣先輩「でも、もし困ってるなら話してほし──」
僕「何も知らないくせに、勝手なこと言わないでください」
怪獣先輩「そっか、ごめん」
あなたのように毎日が楽しそうな人になんて僕の気持ちはわからない。
怪獣先輩「今日は帰ろっか」
〇雑踏
あの日から怪獣先輩は僕の前に現れなくなった。
何も知らなかったのは僕の方だ。
怪獣先輩の名前や連絡先、それだけじゃない。
あなただけが僕をみてくれた。
あなたと過ごす時間だけが僕の全てだった。
僕はそのことに気がついていなかった。
怪獣先輩。
〇渋谷の雑踏
僕は走った。
怪獣の着ぐるみを着て。
「怪獣先輩!!」
朝も昼も晩も。
「怪獣先輩!!」
ものすごく注目を浴びたけど、そんなことは気にならなかった。
〇モヤイ像
モヤイの意味なんてどうでもいい。
〇カウンター席
待ちたい人なんて決まってる。
〇SHIBUYA SKY
怪獣先輩が綺麗なことなんて最初から知っていた。
〇ハチ公前
僕「怪獣先輩・・・」
ひょっとすると怪獣先輩もこうやって誰かを探していたのかも知れない。
怪獣先輩「どーしたの?」
そこに立っていたスーツの女性は間違いなく怪獣先輩だった。
僕「か、かいじゅ、う先輩・・・なんで?」
怪獣先輩「ごめん、就活で忙しくて」
僕「・・・」
怪獣先輩「でもどれだけ忙しくても君のところへもう一度来るべきだった。本当にごめんなさい」
僕「僕が、悪いんです。だから怪獣先輩は謝らないで」
怪獣先輩「君も待つのは嫌いなんだね。私と同じだ」
僕「違う」
怪獣先輩「違わない」
怪獣先輩「君は今自分がどうあるべきかわからないくて、迷子なんだ」
怪獣先輩「でも大丈夫。みんなわからなくて、探してる途中なんだよ」
怪獣先輩「君だけじゃない。私だってそう」
怪獣先輩「だから、これから一緒に探そうよ」
僕「──!」
〇カウンター席
僕「誰かを探すために着ぐるみ着てたんじゃないんですか!?」
怪獣先輩「君に笑ってもらおうと思ったんだよ。前から気になってたんだー。ぼーっと歩いてるし、心配で」
僕「一日中ずっと探し回ってたから、お腹すいてあんなに食べてたんじゃないんですか?」
怪獣先輩「それは、あの、私食べるの大好きで。えへへ?」
僕「そうなんですか・・・」
僕「怪獣先輩っぽいです!」
〇渋谷の雑踏
もう少しここにいたい。
目が眩むほど輝くこの街に。
怪獣先輩、あなたがいるから。
主人公である僕の視点が変化していく展開がとても興味深かったです。始めは容姿を見るのに精いっぱいな視点。徐々に怪獣先輩の内面を知る視点。そして最後には怪獣を脱いだ本当の姿に向ける視点。人を知る過程がわかりやすく描いてある作品だと思いました。
外見や見た目がキラキラしている人を見ていると、自分がつまらない人間であるように思えてくる瞬間ってきっと誰しもにありますね。それに、どんなに幸せそうに見える人も、見えないところで悩んだり考えたりしながら進んでいるということを、読みながら再確認でき自分もがんばろうと思えました。
出会いの形はなんにせよ、出会いというのは宝ですよね。
まぁ全員が全員そういうわけではないかもしれませんが、失う前に大切だということに気づきたいですね…。
それに確かに有名な大学に進学して、良い企業に入れれば大人になってよかったと気づけるかもしれませんが、青春もまた一度きりですからね…!