九つの鍵 Version2.0

Chirclatia

第28回『無自覚』(脚本)

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〇宮殿の部屋
チルクラシアドール「~♪(^^♪」
  緑色の半透明な太めのリボンを両の手首から三本ずつ出し、機嫌よさそうに手足をバタバタさせている。
フリートウェイ「機嫌がいいな」
フリートウェイ「何してた?」
チルクラシアドール「んー?」
  手足のバタ足を止め、勢いをつけて頭を上げたチルクラシアは、隣に来たフリートウェイの赤い目を見つめる。
チルクラシアドール「遊んでいるだけ」
  今日はかなり機嫌がいいらしく、笑顔を見せる。手首のリボンは前より色が濃かった。
フリートウェイ「緑色のリボンなんて、初めて出しただろ?」
フリートウェイ「鮮やかで綺麗だな」
  孔雀緑のリボンはラメ入りなのか、リボンそのものにチルクラシアの機嫌が反映されているのか太陽光を吸収してキラキラしていた。
  ──第28回『無自覚』
チルクラシアドール「えっと、えーっと・・・」
  話したいことがいっぱいあるせいで、チルクラシアはなかなか言葉にすることが出来ないようだ。
フリートウェイ「ゆっくりでいいさ 待ってるから」
  しばらく口元をもごもご動かしていたが
チルクラシアドール「・・・・・・・・・」
  諦めて紙と緑の鉛筆を持ってきた。
フリートウェイ(何を書いてるんだ?)
チルクラシアドール「できた!!!」
  チルクラシアは紙に緑色の文字で『声が気になる』と書いていた。
フリートウェイ「・・・声?」
フリートウェイ「オレの声に何か異常でも?」
  フリートウェイの声帯にはチルクラシアの制御装置がひとつ埋め込まれている。
  故に、不具合によるノイズがかかることもたまにあるはずなのだが、
  フリートウェイが気を付けているため不具合らしい不具合は今のところ無い。
チルクラシアドール「話さなきゃいけないことが、あったはずなのに」
チルクラシアドール「声が出せなきゃ意味がない、と思って」
フリートウェイ「君の気持ちはオレに伝わっているから、無理に話さなくていいぞ」
フリートウェイ「シリンとレクトロもちゃんと分かっているから、大丈夫だ」
  チルクラシアは会話にテレパシーを使っているが、そろそろ発声しようと思っていた。
  フリートウェイはそれに気づいていたが、チルクラシアがどうして『声』にこだわるのかは分からなかった。
フリートウェイ「声だけでなく、意思を伝える方法はそれなりにあるんだが・・・」
フリートウェイ「さっきみたいに紙に書くとか」
フリートウェイ「誰かに手紙として渡すとか」
フリートウェイ「色々試してみて、一番自分に合うものをやればいいと思うぜ」

〇宮殿の部屋
  チルクラシアはフリートウェイの提案を受け入れた。
フリートウェイ「・・・そこの文字、間違えているぞ!」
チルクラシアドール「あれ?違ってた?」
フリートウェイ「この字はこう書いて・・・」
  物凄く平和に文字を教えるフリートウェイはチルクラシアに些細なことでも教えることが嬉しいのか、目を細めていた。
チルクラシアドール「ねぇ、フリートウェイ」
フリートウェイ「何だ?」
チルクラシアドール「嬉しい、の?」
  ニコニコしているフリートウェイが珍しいのか、チルクラシアの手が止まる。
フリートウェイ「嬉しいさ」
フリートウェイ(・・・・・色んな意味で)
  不純な意味もきっと孕んでいるであろう幸福は、チルクラシアにはまだ早い。
  フリートウェイは口の端を不自然レベルに持ち上げていた。
チルクラシアドール「・・・・・・不思議な顔してるね・・・」
フリートウェイ「気のせいだ、多分」

〇宮殿の部屋
レクトロの声「チルクラシアちゃん? そろそろ時間だよ 処置室までおいで」
  レクトロの呼ぶ声で、空気は変わった。
フリートウェイ「・・・時間? オレの知らない間に何かやったのか?」
チルクラシアドール「やってない」
チルクラシアドール「行ってきまーす」
フリートウェイ「・・・?」
  一人部屋に残されたフリートウェイは首を傾げた。

〇集中治療室
  大人しく処置室のベッドに寝転ぶチルクラシアだが、
チルクラシアドール「(○`ε´○) ぶーっ」
  納得いっていないようで、不服そうに頬を膨らませていた。
レクトロ「納得いってないねぇ・・・ 気持ちは分かるけどさ・・・」
レクトロ「今日は採血とエネルギーの補充、記憶の抽出だけだから、30分くらいで終わるよ」
  シリンは淡々と採血の準備をしていた。
  チルクラシアはまだ不服そうにしているが、特にレクトロ達に攻撃することなく、大人しく話を聞いている。
チルクラシアドール「( ̄д ̄) エー」
シリン・スィ「採血の準備が出来ました、レクトロ様」
  シリンの一言を聞いたチルクラシアは袖を捲って左腕を見せる。
  チルクラシアのためにも、採血はすぐに終わらせようと彼女の腕に駆血帯を巻いて血管を探すが、
レクトロ「見えないんだけど・・・」
レクトロ「シリンは見える?」
シリン・スィ「残念!血管は細いし肌は白すぎるので見えません!」
シリン・スィ「・・・申し訳ないけれど、数分経たないと見えませんね」
レクトロ「他のことを先にやろうかなぁ・・・!?」
  レクトロとシリンは別にやるべきことの支度にとりかかった。
チルクラシアドール「(っ´n`c)ムウ〜・・・」
  駆血帯を睨みながらも暴れることはないチルクラシアは、ただまばたきをする。
チルクラシアドール「・・・・・・ねぇ、まだ?」

〇集中治療室
  ──1時間後。
  ねぇ、ねぇ起きてよ!
  レクトロの声が遠くで聞こえたチルクラシアは目を開ける。
レクトロ「大丈夫かい!?」
レクトロ「採血の後、君は一時的に制御を外れたんだからね! マジでビックリしたよ!」
  チルクラシア・ドールが意識を失っていたのは、どうやら何者からの『制御』から外れたのが理由らしい。
  レクトロはそれを重く見ているが、
  本人は「ただ寝ていただけ」でしか思っていないのか、眠そうにしている。
レクトロ「それに、2日前のメモリーだけが綺麗に消去されていたし! 絶対何かやったでしょ!」
チルクラシアドール「・・・・・・(( ̄▽ ̄;;)」

〇集中治療室
  チルクラシア・ドールへの『処置』が、完了した。
  今回は抵抗もなかったため、楽に作業が出来たために、レクトロはいつもより早く残りの作業が終わることを期待していた。
レクトロ「手伝ってくれてありがとう! 後は僕の役目だ、任せてね!」
シリン・スィ「役に立てたなら嬉しいです。 それでは、またお呼びくださいね」
  シリンは一礼して扉を閉めた。
レクトロ「さて、特筆項目は・・・っと」
  シリンが出て行ったのを確認すると、PCの電源を入れ、文書作成ソフトウェアを開く。
レクトロ「感情のコントロールはまだ不可能か・・・ 前より数値が良くなっているだけ、ましかな?」
レクトロ(フリートウェイのおかげかな? あ、この項目も正常内に戻ってる!)
  検査の数値が少しずつ良くなっていることに喜びながら解析を進めていく。
  問題は、チルクラシアの『記憶』そのものについてだった。
レクトロ「・・・ん?」
  文字を打つ手が止まり、画面を睨むように見つめる。
  チルクラシア・ドールに、二日前の記憶だけが無い。
  どうか見間違いであってほしい、と思いながらレクトロはPCの画面を二度見する。
レクトロ「・・・・・・・・・・・・」
レクトロ「・・・・・・」
レクトロ「・・・」
  やはりそこだけ綺麗になくなっている。
  2日前の記憶だけ、空欄だ。
  見間違い、という幻想があっさり崩れたことで事実を受け入れたレクトロは目を真ん丸にすると同時に──
レクトロ「はあぁぁ!!!???」

〇集中治療室
レクトロ「・・・というわけで、君の制御とメモリーの件は報告するからね!」
  他人のメモリーが突然消去されるなどありえない。
  前例のない事例に、レクトロはパニックになりかけていた。
チルクラシアドール「?」
  混乱の原因(?)のチルクラシアはレクトロの慌てぶりに首を傾げ、椅子から降りた。
レクトロ「え、『皇女に会う』?」
レクトロ「そ、それはどうぞ・・・」
  椅子から降りた後はやけに早かった。
レクトロ「不味いぞこれは・・・! 放置しちゃいけない!」
レクトロ「と、とりあえず景綱君とナタ君に報告を・・・!」

〇城の廊下
  皇女は、レクトロに「チルクラシアに会いたい」と頼み込んでいた。
フラム・ローア「~♪」
  人目を憚らず鼻歌を歌えるほど気持ちが浮き上がっているが、
???「なぁ、皇女様ぁ? ちぃっとオレに時間をくれよ」
フラム・ローア「!」
  目の前にフリートウェイが現れたことで鼻歌は止んだ。
フラム・ローア「あらら、フリートウェイさん どうしたのですか?」
フリートウェイ「伝えたいことがあってな」
  皇女の目の前で、フリートウェイは刀身を生み出した。
フラム・ローア「な、何ですか急に!!?」
  皇女の反応は、至極正しいものだ。
  フリートウェイも、それは分かっている。
フリートウェイ「・・・・・・悪りぃな、だがオレにはどうあっても譲れないものがあってね」
  フリートウェイは刀身を皇女に突きつけることは無かったが、警戒心は一切緩めない。
フリートウェイ「チルクラシアに余計なことをするなよ? 何かを教えることも当然禁止だ」
フリートウェイ「それが守れないなら、オレはお前を『敵』とみなし────」
フリートウェイ「ただ葬り去るだけだ」
フラム・ローア(これってもしかして)
フラム・ローア(嫉妬かしら?まぁ可愛い)
  皇女は脅迫じみた忠告を受け入れるつもりではいるが、フリートウェイが思っていることも何となく気づいていた。
フラム・ローア「大丈夫ですよ! 貴方たちの時間を邪魔するつもりは無いので」
フラム・ローア「レクトロ様の許可は取っておりますし、チルクラシアさんも楽しみにしているでしょうし」
フリートウェイ「・・・オレには何も言っていないんだがなぁ」
フリートウェイ「まぁ、好きにしな。 ただし、オレとチルクラシアの間に割って入ってこないでくれ」
  気が済んだのか、フリートウェイの姿はなくなっていた。
フラム・ローア「不思議な人ね・・・」
フラム・ローア「チルクラシアさんのことになると、おかしくなるのは何故かしら・・・」
  皇女も不思議なようだが、釘を刺された以上、余計な詮索はしないようだ。
フラム・ローア「チルクラシアさんが待っているわ! 早く行きましょう!」
  皇女は笑顔を浮かべながら、チルクラシアに会いに行く。
  両足に、緑色のリボンが絡まりそうになっていることはまだ知らない。

〇貴族の部屋
シリン・スィ「パートナーとの大事な時間を、皇女に奪われるなんてね」
シリン・スィ「本当はすこぶる嫌なんじゃない?」
  自室に戻ったフリートウェイを、急に慌てだしたレクトロの手伝いを放棄してまで、シリンはからかいに来たようだ。
フリートウェイ「・・・別にそれはいい」
フリートウェイ「それくらいで妬くことは無いし、念のため釘を刺しておいたから安心しろ」
  だが、シリンの予想していたものとは180°違う答えが返ってきた。
フリートウェイ「あの子にも、オレ以外の奴と時間を使うことは必要だ」
フリートウェイ「そうオレが勝手に思っているうちは、誰もオレのせいで傷つかないからな」
シリン・スィ「・・・・・・・・・」
シリン・スィ「何も変わっていなくてよかったわ 逆に助かった」
  シリン・スィ、ドン引きである。
フリートウェイ「・・・?」
フリートウェイ「・・・オレはシリンには何もしないぞ」
  シリンのちょっと引いた表情を不思議がるフリートウェイだが、
フリートウェイ「もしお前が男だったら、オレは何をしていたか分かんねぇけどな・・・」
シリン・スィ「!!?!?」
  不意に不穏なことを言って、シリンを驚かせた。
シリン・スィ「・・・熱でも出てるんじゃないの?」
シリン・スィ「あんたは熱に弱いんだから、早く寝なさいよ」
フリートウェイ「お前こそ、レクトロの手伝いをしなくていいのか?」
シリン・スィ「いいのよ、私には私の仕事があるし」
  そう言っているが、実際は
  『レクトロの仕事が多岐にわたり過ぎて処理が面倒』が本音である。
シリン・スィ「・・・というわけで、仕事のためにもう出てくわよ」
シリン・スィ「休憩時間には戻ってくるからね」
  従者らしからぬシリンは新たな『楽しみ』が見つかったためか嬉しそうに部屋を出ていく。
フリートウェイ「おう、仕事の合間に来んな。 せめて、全部終わってから来い」

〇御殿の廊下
ナタク「無くなっていただと!!?」
  レクトロからチルクラシアの最新情報を知ったナタクは、遊佐邸と一番隅の部屋を繋ぐ廊下の真ん中で驚愕の困惑の大声を上げた。
遊佐景綱「・・・・・・『消した』、みたいだな」
  流石に少し気まずそうにしながら、主君が後ろから声をかけてくる。
ナタク「何でチルクラシアがそんなことをいきなりしたんですか!?」
  『何か知っているだろう』、と言わんばかりに詰め寄るナタク。
  だが、怖じ気付かない主君の瞳は一切動くことも濁ることもなかった。
遊佐景綱「・・・不要な情報の廃棄は早いだけだと思うぞ」
遊佐景綱「欠落箇所は『二日前』か・・・ お前に緑色のドレスを渡した日だな」
  二日前の出来事に心当たりがあった主君は、一応弁明でもしておこうと思った。
遊佐景綱「私は『色』に関する知識などほとんど知らないし、毒性の存在も最近知った」
遊佐景綱「いくら人間を恨んでいるとはいえ、レクトロがこんな物騒な情報を与えることは無いだろうし」
遊佐景綱「ネイは今のところ、『一般常識』しか教えていないからな」
  レクトロとフリートウェイは、チルクラシアに『健全な情報』しか与えていないことを、遊佐景綱は知っていた。
遊佐景綱「チルクラシアはおそらく、ただ『確認』したかったのだろう。 その深い意味や危険性などを考えず、知らずにな」
  物事を覚えるだけでは物足りなかったのか、わざとやったのか。
  確かに、チルクラシアには『知識を披露』する癖があるが・・・
遊佐景綱「まぁ、時が戻ることは無いんだ。 気楽にやっていこうではないか」
ナタク「・・・・・・・・・」
  主君は何もすることなく、ただ遠くから静観するつもりである。
  ネイがチルクラシアに『他人に危害を加えることは許さない』とどこかのタイミングで絶対に言っているだろうが、
  チルクラシアには甘めなことも、ナタクは察している。
ナタク(ネイとレクトロに聞きに行くくらいしか出来ん・・・)
  主人の仕事の補佐で忙しいナタクには、近しい立場の者から情報収集することと悪態を吐くことしか出来ない。
  命を軽んじること全てに嫌悪感を抱くナタクは、チルクラシアのメモリー消去の件を独自に調べる決意を固めた。
ナタク「遊佐殿め・・・」

〇貴族の部屋
  フリートウェイは、チルクラシアが部屋に来ることを待っていた。
ナタク「ご機嫌いかがかな?フリートウェイ」
フリートウェイ「ナタクか」
フリートウェイ「まぁ、いつも通りだぜ」
フリートウェイ「何か一か所だけが良いわけでも悪いわけでもない」
  初対面のような殺伐とした雰囲気は感じられない。
  ナタクが思っている以上に、今日のフリートウェイは安定していた。
ナタク(感情エネルギーの暴発は今のところ一切無い。 余計な要素を入れずに接するのが良いらしい)
ナタク(この点はチルクラシアと一緒だな)
  チルクラシアと同じ対応をすることで友好的で健全な関係になることにした。
ナタク「君に聞きたいことがあるんだ、いいかな?」
フリートウェイ「いいぜ。 答えられそうなものは答えよう」

次のエピソード:Another Act1『一時のしあわせ』

コメント

  • みんなワチャワチャした回でしたね。
    顔文字が可愛かったです。
    次回も楽しみにしてます。

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