僕と半分ゾンビな妹は対話でゾンビを理解する。

薊未ヨクト(あざみよくと)

ライブハウス襲撃事件(脚本)

僕と半分ゾンビな妹は対話でゾンビを理解する。

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〇L字キッチン
樺島 一心(かばしま いっしん)「ここねー、皿出してくれるか」
樺島 一心(かばしま いっしん)「・・・」
樺島 ここね(かばしま ここね)「はいお皿!!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「どうしたの?お兄ちゃん」
樺島 一心(かばしま いっしん)「いや・・・この曲」
「アイ・ウォント・トゥー・・・♪」
樺島 一心(かばしま いっしん)「小さい頃、父さんがたまに歌ってたなって」
アナウンサー「本日リリースされたこの曲は、20年前の大ヒットソングをカバーしたもので──」
レックス「ゴハン!!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「わかったわかった」

〇警察署の入口

〇オフィスのフロア
樺島 一心(かばしま いっしん)「はいゾンビ課──」
樺島 一心(かばしま いっしん)「施設内にゾンビ1名が侵入・・・ 女性と揉み合いに!?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「急行します!!」
平 光和(たいら みつかず)「応援が必要な場合はすぐ連絡してくれ」
樺島 ここね(かばしま ここね)「わたしも行く!!」

〇ライブハウスの入口
樺島 一心(かばしま いっしん)「ライブハウス・・・!?」
ライブハウスのスタッフ「刑事さん、ゾンビは地下です!!」

〇ライブハウスのステージ
前原愛理「ううっ・・・」
前原正一郎「ウオアァーーー!!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「待て!!その女性から離れ・・・」
前原愛理「お父さん、もう帰ろう!! 急にどうしちゃったの!?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「お父さん!?」
前原正一郎「アァーーー!!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「ううーあうー!!」
前原正一郎「・・・」
前原正一郎「アァーーー!!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「『うるさい』って全然聞いてくれない・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「すまないが、落ち着くまで拘束させてもらう!!」
前原正一郎「うぉ・・・ううう!!」

〇劇場の楽屋
樺島 一心(かばしま いっしん)「お父様とは、一緒に暮らしているんですね?」
前原愛理「あ、いえ・・・その・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「大丈夫ですよ、違法なことではないんですから」
樺島 一心(かばしま いっしん)「家族なら一緒にいたいと思うのは自然なことです」
前原愛理「・・・今朝までは普通だったんです」
前原愛理「それが、テレビを観ていたら急に家を飛び出していって・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「このライブハウスに向かったと? なぜここだったんでしょう?」
前原愛理「わかりません・・・父は昔から仕事一辺倒な人でした」
前原愛理「ライブを観に行くようなタイプではないと思うんですが」
樺島 一心(かばしま いっしん)「そうですか・・・」
前原愛理「あの!!」
前原愛理「なんとか内密にしていただけませんか!!」
前原愛理「近所でも、ゾンビ・・・父が暮らしていることを不安がる方が多いんです」
前原愛理「警察のお世話になったなんて知られたら、何を言われるか」
樺島 一心(かばしま いっしん)「大丈夫ですよ、今日はお父様が落ち着いたらそのまま帰っていただけます」
樺島 一心(かばしま いっしん)「もしお悩みなら、相談窓口もご紹介しますよ」
前原愛理「相談したって、どうにかなるものじゃないです!」
前原愛理「あっ・・・すみません」
樺島 一心(かばしま いっしん)「いえ」
前原愛理「・・・父と私なら、やっていけると思ってたんです」
前原愛理「でも・・・もう無理なのかも」
樺島 一心(かばしま いっしん)「あまり思い詰めないでください」
樺島 一心(かばしま いっしん)「僕も──」
ここねの声「お兄ちゃん!!早く来てー!!!!」

〇ライブハウスのステージ
「うう・・・ああ!!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「増えてる・・・」
樺島 ここね(かばしま ここね)「止めたんだけど、みんなステージに上がっちゃったの」
前原正一郎「うう!!ああ!!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「何かポケットから落ちたよ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「バンドのライブ写真?」
前原愛理「これ・・・お父さん!?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「えっ!?」
前原愛理「バンドなんてやってたの!?しかもボーカル!?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「他の写ってる人たちも、 もしかして」
「うお・・・ううう・・・」
樺島 ここね(かばしま ここね)「『まだ始まらないのか』 『俺たちの出番はいつだ』」
樺島 ここね(かばしま ここね)「・・・だって」
樺島 一心(かばしま いっしん)「バ、バンド仲間!?」

〇店の事務室
ライブハウスのスタッフ「これがうちのハコの予約リストですけど」
樺島 一心(かばしま いっしん)「確認させていただきます」
ライブハウスのスタッフ「早くアレ、追い出してくださいよ」
ライブハウスのスタッフ「うちも客商売なんで、変な噂になると困るんですよね」
樺島 一心(かばしま いっしん)「・・・あった!! 『前原正一郎』!!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「彼らはここを予約していたバンドメンバーたちです」
ライブハウスのスタッフ「はあ?ゾンビが?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「正確には・・・彼らがゾンビになる前、 5年前の予約です」
樺島 一心(かばしま いっしん)「なぜ今なのかという疑問は残りますが、」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ここでライブをするという意思をもって集まっているのではないかと推察されます」
前原愛理「父が・・・」
ライブハウスのスタッフ「ゾンビがライブ〜!?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「お願いします。今夜、30分だけ彼らにステージを使わせてください」
ライブハウスのスタッフ「無理っすよ」
ライブハウスのスタッフ「ゾンビなんかにうちのステージ汚されたくないんで」
樺島 一心(かばしま いっしん)「お気持ちはよくわかりますが、どうかお願いします!!どうか!!」
前原愛理「刑事さん・・・」
ライブハウスのスタッフ「こ、今夜の枠は予約埋まってるんで!!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「予約リストは空欄のようですが?」
ライブハウスのスタッフ「うっ・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「どうしても無理というなら仕方ないですね」
樺島 一心(かばしま いっしん)「でも心配です。明日も明後日も彼らはやってくるかもしれませんから・・・」
ライブハウスのスタッフ「ぅえ!?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「いつでもゾンビ課までご相談ください!! それでは──」
ライブハウスのスタッフ「ま、待って!!」
ライブハウスのスタッフ「・・・15分だけなら・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ありがとうございます!!」
レックス「ヨシ!!イクゾ!!」
ライブハウスのスタッフ「うわあ!?」
レックス「ゼンハ、イソゲ!!」

〇地下倉庫
ゾンビ「うあ・・・うあ〜」
ライブハウスのスタッフ「コラ、勝手に動かすな!!」
ライブハウスのスタッフ「貸すだけだからな!!大事に扱えよ!!」
ゾンビ「ああ!!ああ!!」
ライブハウスのスタッフ「・・・なに、それが気に入ったわけ?」
ゾンビ「ああ!!」
ライブハウスのスタッフ「ゾンビのくせにわかってんじゃん」
前原正一郎「うう、うう〜」
前原愛理「父にとって、音楽──バンドの活動はとても大切なものだったんですね」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ゾンビになっても、強い『想い』は残っていることが多いですから」
前原愛理「私のことは、ほとんどわからなくなっているようなのに」
樺島 一心(かばしま いっしん)「そんなことはないと思いますよ」
前原愛理「いいんです」
前原愛理「すこし虚しいですけど。父がやりたいことなら、させてあげたい」
前原愛理「それが、私の役目なんですよね」

〇ライブハウスのステージ
樺島 一心(かばしま いっしん)「すみません平さん 観客役なんてお願いして」
平 光和(たいら みつかず)「面白いじゃない、ゾンビのライブなんて」
樺島 一心(かばしま いっしん)「僕は自分が15分もつか不安ですけどね・・・」
平 光和(たいら みつかず)「バンド名で検索してみたらブログも残ってたよ」
平 光和(たいら みつかず)「洋楽のコピーバンドだったみたいだね」
樺島 ここね(かばしま ここね)「始まるよ!!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ああ・・・」

〇黒背景
樺島 ここね(かばしま ここね)「ねえ、お兄ちゃん」
樺島 ここね(かばしま ここね)「愛理さんとお父さん・・・気持ちが通じるといいよね」
樺島 一心(かばしま いっしん)「そうだな」
樺島 一心(かばしま いっしん)「一緒にいても・・・いるからこそ辛いってこともあるんだよな」
樺島 一心(かばしま いっしん)(僕もいつか、同じように悩むときが来るんだろうか・・・)

〇ライブハウスのステージ
前原愛理「お父さん・・・」
前原正一郎「うう・・・あお」
ゾンビ「ああ・・・」
「うう・・・うおおお」
前原愛理「・・・」
ライブハウスのスタッフ「・・・だよな。 ゾンビにライブなんかできるわけないって」
樺島 ここね(かばしま ここね)「でも・・・ちゃんと歌ってるんだよ!!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「えっと・・・あ、あい」
樺島 ここね(かばしま ここね)「・・・!?わかんない・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「わからない?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「英語みたいなの・・・これじゃ愛理さんに伝えられないよ」
平 光和(たいら みつかず)「英語・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「待ってください、どこへ──」
前原愛理「やっぱり無理です」
前原愛理「あんな姿でスポットライトを浴びて・・・うめき声をあげるばっかりで・・・」
前原愛理「見ていられません」
樺島 一心(かばしま いっしん)「前原さん・・・」
前原正一郎「うあ・・・うあ〜!!」
平 光和(たいら みつかず)「〜〜♪」
平 光和(たいら みつかず)「アイ・ウォント・トゥー・・・♪」
樺島 一心(かばしま いっしん)「えっ!?」
前原正一郎「うぉ、うぉおお〜!!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「そう・・・そう歌ってる!!どうしてわかるの!?」
平 光和(たいら みつかず)「やっぱりこの歌か」
樺島 ここね(かばしま ここね)「今朝、テレビで流れてた歌だ!!」
平 光和(たいら みつかず)「急にゾンビたちが集まったのには理由があるはずだろう?」
平 光和(たいら みつかず)「トリガーになるとしたら、ライブに関連する楽器や歌なんじゃないかと思って」
平 光和(たいら みつかず)「〜〜〜♪」
平 光和(たいら みつかず)「ゾンビたちもどこかでこの歌を聴いたんじゃないかな」
樺島 ここね(かばしま ここね)「お父さんも好きだったんだよね」
樺島 ここね(かばしま ここね)「どういう意味の歌詞なの?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「あ・・・」

〇L字キッチン
「どういう意味のうたなの?」
「ん〜?なんだっけな〜」
「もう、照れちゃって。 この歌の意味はね・・・」

〇ライブハウスのステージ
前原正一郎「うあ・・・うう・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「『あなたを守りたい』」
樺島 一心(かばしま いっしん)「『あなたの明るい未来を願っている』」
樺島 一心(かばしま いっしん)「・・・親が子どもに向けて歌いかける、そういう歌だって言ってたよ」
前原正一郎「うう・・・うう」
前原愛理「!!」
前原愛理「私に・・・歌ってるの?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「うう〜あう?」
前原正一郎「うう」
前原愛理「お父さん・・・」
前原正一郎「うう、うう〜」
樺島 一心(かばしま いっしん)「〜〜♪♪♪」
「アイ・ウォント・トゥー・・・♪」
「プロテクト・ユー・・・♪」
「うう・・・ああ〜!!」

〇ライブハウスのステージ

〇ライブハウスの入口
前原愛理「父に、伝えてほしい言葉があるの」
前原愛理「お願いできる?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「うん!!」
前原正一郎「うあ・・・?」
前原愛理「お父さん。ライブなんてびっくりしたけど」
前原愛理「私のことを想って、歌ってくれたんだって・・・伝わったよ」
前原愛理「嬉しかった」
樺島 ここね(かばしま ここね)「ううーあう・・・」
前原愛理「・・・っごめんね!!」
前原愛理「私・・・お父さんに心があるってことを、忘れてた」
前原愛理「ゾンビだから、どうせ会話もできないからって・・・話しかけることもなくなってた」
樺島 ここね(かばしま ここね)「愛理さん・・・」
前原愛理「こんな私と、周りを気にしながら暮らしていくより・・・」

〇ライブハウスのステージ

〇ライブハウスの入口
前原愛理「他のゾンビと同じように、自由に暮らしたいって・・・思ってるんじゃない?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「前原さん・・・」
樺島 ここね(かばしま ここね)「うう〜あう?」
前原正一郎「・・・」
樺島 ここね(かばしま ここね)「あっ待って!!」

〇街中の道路
前原正一郎「・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「まさか、このまま立ち去ろうと・・・?」
前原正一郎「・・・うあ・・・」
樺島 ここね(かばしま ここね)「・・・『うちに帰る』」
樺島 ここね(かばしま ここね)「そう言ってるよ!!」
前原愛理「お父さん・・・」
前原愛理「そうだね」
前原愛理「帰ろう。一緒に」

〇綺麗な一戸建て

〇L字キッチン
樺島 一心(かばしま いっしん)「今日は疲れただろ、ここね」
樺島 ここね(かばしま ここね)「大丈夫!!ライブハウスって初めて入ったから面白かったし・・・」
樺島 ここね(かばしま ここね)「・・・お父さんとお母さんも」
樺島 ここね(かばしま ここね)「この歌をどこかで聴いてるのかな」
樺島 一心(かばしま いっしん)「聴いて、僕たちのことを想ってくれてるよ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「きっと」
樺島 ここね(かばしま ここね)「そうだね」

〇屋根の上

次のエピソード:ゾンビ御一行様、旅館押しかけ事件

コメント

  • 子供への想いを込めた曲は、時間の経過など関係無いのかもしれませんね。
    お父さんと娘さんが分かり合えて良かった。☺️

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