僕と半分ゾンビな妹は対話でゾンビを理解する。

薊未ヨクト(あざみよくと)

ゾンビ御一行様、旅館押しかけ事件(脚本)

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〇温泉旅館
樺島 ここね(かばしま ここね)「わー、立派な旅館だね」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ここね、足元気をつけてな」
???「樺島様、ようこそお越しくださいました」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「若女将の湯川 若葉と申します」
樺島 一心(かばしま いっしん)「お電話くださった湯川さんですね。お話を聞かせてください」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「まずはお疲れでしょうから、お部屋でゆっくりなさってくださいな」
樺島 一心(かばしま いっしん)「お心遣いありがたいですが、仕事中ですので」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「遠慮なさらずに。そうです、当宿自慢の温泉に──」
???「わかばさんッッ!!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「う、うわー!!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「お兄ちゃん、大丈夫!?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ゾ、ゾンビが!」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「女将の湯川 麻子と申します」
樺島 一心(かばしま いっしん)「失礼いたしました!警視庁ゾンビ課の──」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「ゾンビに怯える子連れのゾンビ課ねぇ、大丈夫なのかしら」
樺島 ここね(かばしま ここね)「そんなっ・・・」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「わかばさん。温泉なんて悠長なこと言ってないで、早く事務所へご案内する!」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「はい。樺島様、こちらへどうぞ」
樺島 ここね(かばしま ここね)「あの女将さん、恐いよぉ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「全く動じてない若女将さんもすごいな」

〇旅館の受付
樺島 一心(かばしま いっしん)「では3日前から、不審な電話が続いているという訳ですね」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「はい。うなり声だけで、何をおっしゃっているのかわからなくて」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「もしかして、ゾンビ様からご予約のお電話ではと思いまして」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「だから、ゾンビが宿の予約なんてするわけないでしょうが!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「確かにゾンビの思考力を鑑みると、自ら電話をかけてくる可能性は低いですね」
樺島 一心(かばしま いっしん)「このような電話は、以前にもありましたか?」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「いえ、今回が初めてです」
樺島 一心(かばしま いっしん)「よし、ここね。電話が鳴ったら出てくれるか」
樺島 一心(かばしま いっしん)「まずゾンビなのかを確かめて、そうだったら電話の理由を聞いてみよう」
樺島 ここね(かばしま ここね)「わかったよ、お兄ちゃん」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「もう!御託並べてないで、ちゃっちゃと電話主を捕まえてくださいな」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「朝から夜まで一日中鳴りっぱなしで、営業妨害もいいところよ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「お気持ちわかりますが、まずは電話を──」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ん?一日中鳴りっぱなし?」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「あら?着信拒否は今しがた外したはずなんだけれど」
樺島 一心(かばしま いっしん)「着信拒否!?いつからですか!?」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「いつって、昨日の夜9時くらいかしらね?あんまりうるさいものだから」
樺島 ここね(かばしま ここね)「もう半日以上経っちゃってるよ・・・!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「女将さん。ゾンビの特異行動を阻害するのは、とても危険なことで──」

〇古いアパートの廊下
仲居さん「ヒィ・・・!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「どうしましたか!?」
ゾンビ「ぐああああぁぁ!!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ウッ」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「お客様、いかがなさいましたか」
ゾンビ「ぐああああぁ!!」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「わかばさん、危ない!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「確保するッ!!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「待って!!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「うー、あー?」
ゾンビ「ぐああ、あー、うー」
樺島 ここね(かばしま ここね)「あー、うー、あ?」
ゾンビ「うー、あー」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「ゾンビが、落ち着いた・・・?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ここね、どうだった?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「電話をかけてたのは、この人で間違いないよ」
樺島 ここね(かばしま ここね)「宿の予約をしたかったんだって」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「あら、やはりそうでしたか!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「でも電話が繋がらなくなっちゃったから、困ってここまで来ちゃったって」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「それは大変失礼いたしました。早速ご予約を──」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「ダメです、ゾンビなんて臭くて汚い! 他のお客様のご迷惑になります!」
ゾンビ「ぐおおおぉ・・・!」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「キャアッ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ゾンビは思いを成し遂げるまで行動を止めません」
樺島 一心(かばしま いっしん)「この問題を解決するためには、許していただくしか」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「だったら他の宿を当たってもらいます!」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「女将さんッ!!」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「ど、どうしたの急に」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「女将さん。私が嫁いできたばかりの頃、言ってくださいましたよね」

〇温泉旅館
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「お客様は、数ある宿からうちを選んで来てくださるの」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「選んでくださった感謝を込めて、心を尽くしてお迎えする」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「それがおもてなしです」

〇古いアパートの廊下
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「女将さんのお言葉、いつも胸に留めているんです」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「フン・・・」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「わかりましたよ。ゾンビ1人くらい」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「ありがとうございます!それではお客様、受付へどうぞ」
ゾンビ「あーうー」
樺島 ここね(かばしま ここね)「え?これを見てほしい?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「集合写真・・・?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「この旅館の前で撮られたものだな」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「○×高校 80期生・・・あっ!」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「もしかして、幹事の松島様!?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「覚えてらっしゃいますか!?」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「えぇ。40年近く前から、定期的に同窓会でご利用いただいておりました」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「最近お見えになっていなかったけれど、ゾンビに・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「写真を何かの拍子に見つけて、幹事としての役目を思い出したのかもしれませんね」
松島様「うあー、あー」
樺島 ここね(かばしま ここね)「また、みんなで集まりたいって」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「みんな・・・30名くらい、写ってらっしゃるかしら」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「そんな空室、あるもんですか!30名様なんて、何ヶ月先になるか」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「お客様、ご希望の日程は──」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ゾンビには正確な日付の感覚はないんです」
樺島 一心(かばしま いっしん)「事件解決のためには、できるだけ早く同窓会を実現させていただくしか」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「そうは言ってもねぇ──」
松島様「うぅ、うぉ、うおぉ・・・」
樺島 ここね(かばしま ここね)「またここで集まろうって、約束したんだって・・・」
「・・・・・・」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「・・・30名様分のお部屋、ご用意できます」
「えっ」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「今日でしたら、一番大きな宴会場が夕方から空いています」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「そちらでご宴会の後、お布団をしいて泊まっていただきましょう」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「そんな、学生の合宿所じゃあるまいし!」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「今回限りです。お客様のご要望に全力でお応えしたいんです!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「わ、わたしからも!お願いします・・・」
松島様「あー」
樺島 ここね(かばしま ここね)「この人のお願い、叶えてあげて」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ここね・・・」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「ハァ・・・」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「お代はしっかりいただくように!!」

〇警察署の入口
「えっ、今日中に30人を!?」

〇オフィスのフロア
樺島 一心(かばしま いっしん)「先ほどメールで、旅館に残っていた連絡先リストと集合写真のデータを送りました」
平 光和(たいら みつかず)「写真の日付は5年前、パンデミックが起こる少し前だね。ということは・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「はい。ゾンビ化している者がいる可能性は高いです」
樺島 一心(かばしま いっしん)「電話の繋がる人間の参加者には、旅館の方々が連絡してくださっています」
樺島 一心(かばしま いっしん)「僕たちはゾンビになった参加者をできる限り見つけ出して、旅館へ連れていきます!」
平 光和(たいら みつかず)「それを今日中に・・・なかなか骨の折れる仕事だね」
平 光和(たいら みつかず)「よし、リストを手分けしてあたろう!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ご協力ありがとうございます!」
レックス 「レックス、ゾンビノコエマネ、デキル!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「レックスも協力してくれるんでしゅか!うれちいでちゅ──」
平 光和(たいら みつかず)「でちゅ?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「それではのちほど!」

〇昔ながらの一軒家
娘「お父さーん!」
ゾンビ「あーう?」
松島様「うおお!(久しぶり!)」
樺島 ここね(かばしま ここね)「うー、あー!(同窓会のお誘いです!)」
ゾンビ「あーうー!(行く行くー!)」

〇荒廃した街
平 光和(たいら みつかず)「レックス、ここねちゃんに聞いたゾンビ語。頼んだよ」
レックス 「あー、うー、あー! (〇×高校80期、同窓会やります!)」

〇旅館の受付
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「疲れた声でお電話するなんて、お客様に失礼ですよ」

〇木の上

〇温泉旅館
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
ゾンビ「うー、あー」
樺島 一心(かばしま いっしん)「そろそろ、タイムリミットですかね・・・」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「お電話が繋がった方は、ほぼ全員いらっしゃってくださいました」
平 光和(たいら みつかず)「ゾンビの方も、一心くんたちと合わせて8割方集められたんじゃないかな」
レックス 「レックス、マイゴホウソウシタ!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「平さん!レックスも!」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「皆さんお疲れでしょう。今度こそ、ぜひ当宿自慢の温泉へ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「いえ、しかし・・・」
平 光和(たいら みつかず)「いいじゃないか、汗を流しておいで。私もあとから行くから」
平 光和(たいら みつかず)「これは上司命令だよっ」
レックス 「メイレイ、ダヨッ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ではお言葉に甘えて!」

〇露天風呂
樺島 一心(かばしま いっしん)「露天風呂も広いなー」
樺島 一心(かばしま いっしん)「おっ、先客がいる」
樺島 一心(かばしま いっしん)「お邪魔しま──」

〇温泉旅館

〇旅館の和室
樺島 一心(かばしま いっしん)「うわぁっ」
樺島 ここね(かばしま ここね)「お兄ちゃん、大丈夫!?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「温泉で倒れてたから、平さんが介抱してくれたんだよ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ごめん、ゾンビに驚いてしまって」
樺島 一心(かばしま いっしん)「そうだ、同窓会は!?」
円谷 理子(つぶらや りこ)「ここねちゅわん、発見〜!!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「えっ、円谷さんまで!?」
円谷 理子(つぶらや りこ)「温泉旅館だって言うからぁ、ここねちゃんと温泉入れるかなって〜」
円谷 理子(つぶらや りこ)「でもぉ、ずっと温泉で待ってたのにぃ、ここねちゃん全然来ないしぃ〜」
樺島 ここね(かばしま ここね)「のぼせちゃったのかな」
樺島 ここね(かばしま ここね)「寝てる・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「宴会場へ向かおう・・・」

〇広い和室
樺島 一心(かばしま いっしん)「おぉ、盛り上がってるね!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「乾杯のあいさつ、ここねが通訳したんだよ!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ここね、大活躍だな」
同窓生「最近もの忘れがひどくてさぁー」
同窓生「うーあー」
同窓生「わかってくれる〜!?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「みんな、楽しそう」
樺島 一心(かばしま いっしん)「人間とゾンビは一緒に生きていける。そう信じられる光景だな」
「ぐおぉ〜!!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ゾンビが暴れてる!? ここね、通訳を──」
平 光和(たいら みつかず)「いや、私には彼らの欲しているものがわかる」
樺島 一心(かばしま いっしん)「平さん!?」
平 光和(たいら みつかず)「豪華な食事に美味しいお酒、古くからの仲間との懐かしい談話!」
平 光和(たいら みつかず)「全てが揃った後にしたいことと言ったら、ひとつしかない」
樺島 一心(かばしま いっしん)「えっ、なんですか!?」
平 光和(たいら みつかず)「カラオケだよ!!」
「うおおおお!!!!」
平 光和(たいら みつかず)「あ、私から歌っていいんですか?」
平 光和(たいら みつかず)「それでは、こう見えて元公安エース!平光和が心を込めて歌います」
レックス 「レックス、コーラスー!」
「フゥー!!!!」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「ふふ、よかった」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「わかばさん、ちょっと」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「女将さん!寝具の用意は先ほど終わらせて──」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「あなたのこと、見直しました」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「えっ」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「全てのお客様に対して、常におもてなしを忘れない心意気。正直、感心しました」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「そんな、ありがとうございます」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「あなたになら、この旅館を任せられそうね」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「えっ?今なんと・・・」
湯川 麻子(ゆかわ あさこ)「何も。これからもよろしく頼みますよ」
湯川 若葉(ゆかわ わかば)「はい、精一杯務めさせていただきます!」

〇温泉旅館
樺島 ここね(かばしま ここね)「お兄ちゃん。ここねも頑張る・・・!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「そうだな、一緒に頑張ろう!」
  人間とゾンビが共生できる日常を目指して──

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