ヤンキードゥードゥル

貴志砂印

読切です(脚本)

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〇宇宙空間
「ア~ルプ~ス 一万尺ぅ♪」
藤沢「小槍の上でアルペン踊りを――― さぁ踊りましょ♪」
藤沢「ラーンラランランラララ〜♪」
  かつて、神奈川には「夢の国」と呼ばれた「横浜ドリームランド」というテーマパークがあった。
  ・・・・・・今は閉園し、殆どが住宅団地やバスターミナル、大学や公園となっており、残されているのは、シンボルタワーだけだ。
  俺は・・・。
  歌を口ずさみながら、夜の公園を歩いていた。
藤沢「アーループースー♪」
  テーマパーク跡地の、この公園には、少年や少女の幽霊や心霊現象が起こると噂がある。
  しかし、俺は、こんな事を考えている。
  そんなのは、あくまでも噂であり、全ては気の持ちようなのだ。
  解放的な公園で、緑も豊かである。
  夜は怖いという声もあるが、冷静になれば夜の公園なんか、たいていが怖いんだ。
  何かが動いたと感じても、それは月明りで照らされた木の影だったり、葉が落ちたりしただけ、
  多少強い風もあるが、別にどうという事はない。
  稀に大きめの蛾が飛ぶ場合があり、それは、それで怖いが、怖いの要素は少し違う。
  鳥が羽ばたいても、そんなものだ。
  気持ちは全然余裕である。
  俺が怖いのは、あくまでも幽霊・・・
藤沢「そう「オバケ」だ!」
  妖怪って言われたら、まだ怖くない。
  だって、「じじい」と「ばばあ」が多いから、何か逃げられそうなイメージがある。
  だって、「泣くじじい」とか、
  「砂をかけるばばあ」だぞ。
  どうにかなる。
  壁も河童も傘も。
  とくに、「もめん(木綿)」なんか、
  へっちゃらだ。
  だけど、少年とか少女の幽霊ってのは、ちょっと怖いんだよ。
  ついつい、気になって話しかけたら。
  「わーーー」って大きな音とかで驚かせるイメージがある。
  心霊現象も同じだ「ばーーん!」みたいに、大きな音で驚かせようとしてやがる。
藤沢「だから・・・・・・怖い」
  そんな俺は仕事の帰り道、何を思ったか、いや、ある種の気の迷いなのか、ショートカットとして、この公園の道を選んでしまった。
  AirPodsは会社に忘れてきた。
  無音の世界・・・・・・自分の呼吸や鼻息がハッキリと聞こえる世界。
  こんなタイミングで、大きな音を出されたら、絶対に驚くに決まっている。
  覚悟をしていても無理だろう。
  だから・・・歌を口ずさんだ。
藤沢「ア~ルプ~ス一万尺、小槍の上で―――♪」
  そういや、これって、海外のアルプスの事じゃなく、日本アルプスの槍ヶ岳の歌なんだよな。
  槍ヶ岳の標高は3180mで、一万尺ってのは、3000mなんだ。
  元は『ヤンキードゥードゥル(Yankee Doodle)』ってアメリカ合衆国の民謡で、独立戦争時の愛国歌なんだ。
  それを日本語の歌詞を付けたのが『アルプス一万尺』
  『一万弱』でも『コヤギの上』でもねぇ。
  しかも、この歌・・・。
  29番まであるんだ。イカれてるよな。
藤沢(ほらな・・・。 ウンチクを考えてたら、少しだけ・・・。 少しだけ怖くなくなった)
藤沢(・・・でも、いくら怖いからと言って、この歌を選曲する自分のセンスが怖くなった気がした)
  そんな事を思いながら、目の前を見てみると・・・。
  街灯の下にいる子供が視界に入った。
  無視するか、話しかけるか・・・。
  それはまた、別の話だ。
  おわり

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