九つの鍵 Version2.0

Chirclatia

第20回『◆◆する程に』(脚本)

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〇貴族の部屋
  自室でのんびり配色デザインの事典を読んでいたら。
  全身をリボンで拘束されている女が、地面からドロッと現れた。
フリートウェイ「女!!?」
フリートウェイ「何でいきなり転送されてきたんだ!!?」
姫野果世「・・・」
  驚愕するフリートウェイとは裏腹に、果世は非常に落ち着いている。
姫野果世「あの~・・・」
姫野果世「家に帰してくれませんか・・・?」
フリートウェイ「あー・・・ すまん」
  果世の落ち着いた声色を聞いたフリートウェイの頭は冷めたようで、驚くことは止めた。
フリートウェイ「オレが慌ててもどうにもならないな、うん・・・」
  第20回『◆◆する度に』
フリートウェイ(これは・・・ チルクラシアの仕業か?)
  冷静になった頭で、リボンを見つめる。
  数分前に自分に巻かれていたものと全く同じである。
  解こうと手を伸ばした瞬間、リボンから小さな雷が出てきた。
フリートウェイ「痛っ!」
  感電して指先を火傷してしまった。
フリートウェイ(これはチルクラシアにしか解けないな)
姫野果世「何とかする方法、見つけました?」
フリートウェイ「まぁ、解決する方法は見つけたが・・・」
  人間にこの現象を説明するのは無理がある。
  感情が実体化することとその原理から、しっかり深く説明するのは本当に難しく面倒なのだ。
  だから、『そういうもの』だと強引に通している。
フリートウェイ「・・・少し待っててくれ」
  一人になった果世は全身を拘束されているからか特に何もせずに大人しく―
姫野果世「あれは何かしら?」
姫野果世「ちょっとだけなら見てもいいよね!」
  ──してはいなかった。

〇宮殿の部屋
  果世の体に絡んでいるリボンを解くために、フリートウェイはチルクラシアの話を聞くことにした。
フリートウェイ「あの人間を拐かした本当の理由を言ってくれないか?」
フリートウェイ「生きた人間を捕まえて何をするつもりだった?」
  いつの間に人間からドールの姿に戻っていたチルクラシアは思案する。
  ──が。
チルクラシアドール「うーん・・・何する気だったかな? 忘れちゃった」
フリートウェイ「・・・忘れた? 思い出してくれるといいんだが・・・」
  ──それを忘れられると本当にどうにもならなくなる。
  チルクラシアも同じことを思っていたようで、記憶を少しずつ辿っているようだ。
チルクラシアドール「何だったかなぁ・・・」
チルクラシアドール「色に関することだったような」
フリートウェイ「・・・色?」
フリートウェイ(知識の披露でもしたかったのか?)
  配色デザインの事典に食いついていたため、フリートウェイはそっち関連の理由だろうと勝手に思っていた。
チルクラシアドール(あの人間の『色』が見たかった・・・と思う)
  チルクラシアは本棚から配色デザインの事典を出す。
  だが、フリートウェイが読んでいたものよりも分厚いものだ。
チルクラシアドール「赤色を探しているの」
  あまりにも抽象的すぎる探しものだ。
  赤色のものなんて星のようにたくさんあるのに、彼女はそれを求めてはいない。
フリートウェイ「赤色? オレの瞳は赤だぞ」
  ──前に、『瞳の赤が欲しい』と言われたような気がする。
  『自分の瞳が欲しいのか?』と不思議にも思いながらも話を聞き続ける。
チルクラシアドール「それは一番最後」
  彼女が求めているのは『瞳』では無かった。
  ・・・とは言っても最後には手に入れるようだが。
チルクラシアドール「もっと『色』が見たい」
チルクラシアドール「黒じゃない色が見たい」

〇宮殿の部屋
フリートウェイ「・・・?」
フリートウェイ「色なら辞典で見れるぞ?」
  フリートウェイの言う通り、色はデザインの事典にたくさん掲載されている。
チルクラシアドール「色を「食べたい」の!」
フリートウェイ「色を?」
  チルクラシアの能力は『リボン』だけではないだろうとは思ってはいたが。
フリートウェイ「いきなり何を言うかと思ったら・・・」
  数日歩けなくなるが殺人レベルの雷を躊躇いなく落とせる彼女だ、きっとヤバいことを言うのだろうと身構えていたのに。
  『色』という視覚的な感覚を食べたい、と言い出すとは。
フリートウェイ「それって、ただ腹が空いているだけか?」
  ただの空腹が理由・・・
  というわけでも無いのかもしれない。
  無自覚な空腹、生きた人間を捕まえる──
  それすなわち。
フリートウェイ(人を喰うつもりだったのか・・・?!)
  あまり当たってほしくはないが、
  念のために忠告をすることにした。
フリートウェイ「先にはっきりと言っておこうか・・・」
フリートウェイ「──人を喰うことはオレが許さない」
  急に目つきが鋭くなり、真剣な表情と声色になるフリートウェイに、チルクラシアは僅かに空気がビリッとしたのを感じた。
チルクラシアドール「? 人を『喰らう』?」
フリートウェイ「そうだ。 絶対に他人を傷つけてはいけない」
チルクラシアドール「・・・」
  不思議そうな顔をするチルクラシア。
  だが、
  フリートウェイの言うことは聞こうと思ってはいた。
チルクラシアドール「分かった。 変なことはしない」
フリートウェイ「あまりにも危なっかしいから、オレは君の隣にいることにする!」
  ・・・信用は出来なかった。
  倫理観が欠落しているチルクラシアが何をするか分からない。
  不思議で危険な能力を持つこと、それの制御が出来ない可能性があること・・・
  レクトロとシリンがいるが、数時間帰ってこないあの二人だけでは心もとない。
  フリートウェイはチルクラシアの前に正座して、話を聞いた目的を漸く言う。
フリートウェイ「・・・話が逸れてしまったな」
フリートウェイ「あのリボンを『消して』くれないか?」

〇貴族の部屋
フリートウェイ「おまたせ」
  ──パチン!
  フィンガースナップを一度すると、果世を拘束していたリボンはゆっくりと消滅していった。
フリートウェイ「チルクラシアが悪かったな」
フリートウェイ「君に用事があったみたいだったが・・・ 本人は忘れてしまったらしい」
  本当の理由は決して言えない。
  絶対に言ってはいけない。
フリートウェイ「オレがちゃんと見ていなかったからこうなったんだ。 驚かせた挙句、家に帰るのが遅くなって申し訳ない!」
  正座をして頭を下げる。
  土下座では無い。
  だが、チルクラシアとは違い、彼は他人に対して『自分たちが悪かった』と非を認めることが出来た。
姫野果世「私は別に気にしては無いんです どこも怪我してませんし」
姫野果世(・・・びっくりはしましたが)
  寛大な心を持つ果世に、フリートウェイは安堵した。
フリートウェイ「転送で君を家に帰すことにする。 最早君がここにいる必要はなくなった」
フリートウェイ「・・・で、そのために名前を聞きたいのだが」
姫野果世「私は、姫野果世。 晃大っていう人の妹よ」
フリートウェイ(あいつか)
  ──人間のくせに、
  制御のできない『オレ達を殺せる』能力を使える変なやつだっけ。
  本当にそんな変なやつの妹なら、こいつにも警戒の目を向けなければならないな・・・・・・
  ──と内心では思うフリートウェイ。
フリートウェイ「君の兄を知っている」
姫野果世「兄さんを? でもどうして?」
姫野果世「関連はどこにも無さそうだけど」
フリートウェイ「それがあるんだよなぁ・・・」
フリートウェイ「君もいつか知ってみるかい?」
  とは言うものの。
  この少女に、フリートウェイは全てを教えるつもりは無さそうだ。
  果世の額に指先を当て、ファイルに実体化した記憶を抜き取っているからだ。
  抜き取った記憶は、日常生活に影響が出ないようにするためか、
  『チルクラシアのリボンに関すること』だけだ。
  だが、脳から記憶を無理やり引き抜くことは体に多大な影響を与えてしまう。
姫野果世「何か眠いような・・・」
フリートウェイ「寝てていいぞ」
  記憶の引き抜きによる副作用の眠気に身を委ねることにした果世。
  寝息が聞こえてきたタイミングで、フリートウェイはスマートフォンを左腕から出した。

〇郊外の道路
姫野晃大「見つからない! 困ったなぁ・・・」
  果世の兄、晃大は帰ってこない妹を探し回っていた。
姫野晃大「あと1時間で夜になるぞ・・・ これは本当に不味い!」
姫野晃大「え? こんな時に電話?」
  電話の相手は不明である。
  しかし、妹の行方を知っている人物かもしれない希望をもって電話に出る。
姫野晃大「もしもし」
  晃大か。
  フリートウェイだ
姫野晃大「フリートウェイ!?」
  電話をかけてきた相手が、数日前に会ったフリートウェイであることに驚く晃大だが、そんな彼を置いて話は続く。
  単刀直入に言う。
  お前の妹はオレの隣にいる
姫野晃大「何で君の隣にいるのさ・・・」
  それはオレも知りたい。
  チルクラシアが勝手にお前の妹を捕まえた挙句転送したのさ
姫野晃大「ええぇ・・・」
  『転送』のことは意味が分からないのと、チルクラシアが突然理解不能な行動をしたことに、頭の中は『???』になってしまった。
  今回はオレがちゃんとチルクラシアを見ていないせいだ。
  迷惑をかけて申し訳ない・・・
姫野晃大「無事なんだよね・・・?」
  どこかぼんやりしてしまった脳をフル回転させて、晃大は心配そうに妹の安否を聞く。
  ああ。
  ひとつの掠り傷もないぞ
  ・・・で、お前の隣に妹を飛ばすから、ちょっと左にズレてくれ
姫野晃大「飛ばす???」
  『転送』だ。
  左にズレろと言ったのは、お前の妹が近くの店の壁に転送されて圧死するからだ
  フリートウェイの言う通り、晃大の右側にはシャッターの閉まった建物がある。
  晃大は『電話越しのはずなのに、どうしてフリートウェイは自分の位置を把握しているんだろう』と不思議に思った。
  そして『転送に失敗して壁の中で死ぬ妹』を想像してしまい、少しの吐き気が襲う。
姫野晃大「ひぇ・・・ すごく怖いことするね・・・」
姫野晃大「左に3歩ズレるよ!」
  分かった。
  お前の妹を飛ばすぞ
  晃大が左に三歩ズレた瞬間。
  妹・果世は兄の隣に転送されていた。
姫野晃大「大丈夫かい?」
姫野果世「大丈夫よ! 転送って本当にあったんだなって思っただけ」
姫野晃大「転送・・・? さっきのアレ?」
姫野果世「うん! 兄さんにも私に何があったのか教えてあげる!」
姫野晃大「待って待って・・・ まだ理解が追い付いていないよ・・・」
  とても大事な妹に振り回されそうな予感がした晃大は何とかフリートウェイの電話の内容と妹の話を理解しようとする。
姫野晃大「・・・??????」
姫野晃大(一回、別のこと考えよう・・・)
姫野晃大(今夜はコロッケだったかなぁ~・・・)
  が、全く理解できなかったため、今日の夕ご飯について考えることで強引に気を紛らわした。

次のエピソード:Another Act1『一時のしあわせ』

コメント

  • 引き込まれたあの子がどうなってしまうのかドキドキしながら読み進めました。
    チルの不穏さが増してきたなぁ…

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