第21回『彼が君の原動力、かい?』(脚本)
〇上官の部屋
レクトロ「待って・・・」
レクトロ「ちょっと待ってよぉ・・・!」
レクトロ「チルクラシアちゃんが人間を捕まえたってマジ!!?」
遊佐景綱の元から帰ってきたレクトロは、フリートウェイに数時間前の出来事の報告を受けていた。
あれからチルクラシアは電池が切れたように寝ているが、
レクトロにとって、チルクラシアが人間に手を出そうとした事実は完全に想定外だったのだ。
第21回『これが君の原動力?』
レクトロ「嘘だぁ・・・ 今までこんなことしてなかったのに・・・」
フリートウェイ「残念だな、これは真実だ」
フリートウェイ「だが、最悪の事態は避けたから一安心はしてほしい」
レクトロ「さ、最悪の事態!!? そこまでしそうになっちゃったの!?」
レクトロ「もしかして、人間を喰おうとしてたとか!!?」
レクトロは机を一度叩き、フリートウェイに顔を近づける。
パニックに陥っているようだ。
フリートウェイ「その『もしかして』だ。 後、顔が近い」
レクトロ「マジでこれはヤバいぞ! すぐにカルテの更新をしなきゃ!」
フリートウェイ「・・・カルテの更新?」
フリートウェイ(レクトロって医者なのか?)
フリートウェイ(医者と言うより科学者・・・? それとも魔術師・・・?)
レクトロは、フリートウェイには『名前』と『身分』しか言っていないはずだ。
素性は一切知らないし、機会が来ない限りは聞かないだろう。
レクトロ「ちょーっと君にも協力してもらおうかな!」
レクトロは初邂逅の時のように、フリートウェイの右手首を握る。
フリートウェイ「・・・は?」
フリートウェイから、驚愕と困惑が混じった声が出る。
フリートウェイ「オレは『協力する』とは一度も言ってないぞ!」
・・・ただ数分前の出来事を報告しただけである。
そして、かつてレクトロにフルパワーで右手首を一度破壊されたことを思い出す。
フリートウェイ「しかも力が強いんだよ! 手首を握るな、また折れるだろうが!!」
〇英国風の図書館
フリートウェイ「・・・なるほど」
フリートウェイ「資料が欲しかったんだな」
レクトロの手伝いをすることになったフリートウェイは、近くの本屋に転送されていた。
医学書と
栄養やカロリーに関する本を手に取っては表紙をぼんやりと眺めていると
レクトロ「おまたせー!」
レクトロの声が聞こえてきた。
少しうるさいくらいに大きく元気な声だ。
だが、本屋という静かにしなければならない場所のために、テレパシーを使っている。
レクトロ「これだけあれば多分大丈夫だよ!」
声の方向を見てみると、本に四方を囲まれてい一歩も動けないレクトロがこちらへ手を振っていた。
フリートウェイ「・・・多すぎやしないか?」
フリートウェイ「こんな量をどうやって運ぶんだよ・・・」
何度も部屋と此処を往復するつもりだろうか、と思っていた。
だが、レクトロはフリートウェイの予想とは斜め上のことを言うことになる。
レクトロ「サイコキネシスって知ってるかい? 念力とも言う能力だけどさ」
絶対に人間が出来ない手段で、強引に一度に全てを運ぶつもりのようだ。
レクトロは大量の本を一度に宙に浮かす。
浮いた本は、不気味な黄緑色のオーラを纏っていた。
レクトロ「これと転送を組み合わせるの」
フリートウェイ「なるほど。 それはオレ達にしか出来ないな」
とりあえず納得したが、『人がいる中で使う能力ではないだろう』と言いたくなった。
レクトロ「買ってくるから、ちょっと待っててね!」
レクトロは大量の本を浮かせて、レジに直行した。
フリートウェイ「そこは普通なんだな・・・」
会計をするレクトロを遠目で見つめながら呟く。
フリートウェイ「何万円分買うことになるんだろうか・・・」
〇上官の部屋
転送ギミックを使い、レクトロの部屋に帰ってきた。
買った本は、全てテーブルに山積みになっている。
フリートウェイ「・・・チルクラシアのカルテの更新だったか?」
フリートウェイ「オレも手伝いたい」
チルクラシアのことを知れる千載一遇のチャンスを、フリートウェイは見逃さない。
PCの電源を入れ、机に本を広げたレクトロは、協力的な姿勢のフリートウェイに微笑みを向ける。
レクトロ「いいの? 助かるよ、ありがとう!」
レクトロ「一度の更新に三時間はかかるんだよねぇ・・・」
フリートウェイ「待て待て待て・・・・・・・・・」
フリートウェイは間髪を容れずにツッコミを入れる。
フリートウェイ「ちょっと待て、レクトロ」
フリートウェイ「今、何時か分かっているか? 午後10時30分だぞ」
22時30分。
早ければもう寝ている人間もいるであろうこの時間に、レクトロはまだ仕事をするつもりのようだ。
レクトロの『更新に三時間はかかる』という発言から考えても、確定で日が変わってしまうだろう。
フリートウェイ「さては寝ることを想定していないな?」
フリートウェイ「急務じゃないんだろ? 日付が変わるまで仕事などしなくても・・・」
レクトロ「殿がデータを寄越せって言うから、さっさと更新しないといけないの!」
フリートウェイ(殿・・・? 誰のことを言っている?)
レクトロ「あの人に逆らったら何されるか分かんない!」
レクトロは『殿』──遊佐景綱の怒りに触れることを大いに恐れているようだ。
レクトロ「それに、僕はあまり寝なくても大丈夫なんだ!」
レクトロ「もし僕が倒れても、シリンが何とかしてくれるから問題無し!」
フリートウェイ「問題しかないだろ 倒れるまで仕事すんな、バカ」
──チルクラシアの倫理観が欠落している理由が何となく分かったような気がする。
彼女は、ちゃんとレクトロやシリンの日頃の行いを見ているのだろう。
フリートウェイは片手で頭を抱えて、大きなため息をついた。
〇上官の部屋
無言でレクトロの手伝いをして、40分が経過した。
ついに、フリートウェイが沈黙を破る。
フリートウェイ「シリンはどこに行った?」
フリートウェイ「あいつ、今はどこで何をしてるんだ?」
レクトロ「あの子はもう少ししたら帰ってくるんじゃないかな」
レクトロ「今は何をしているかって?」
レクトロ「九つある器が一つ、形は懐中時計の『ミットシュルディガー』の捜索だ」
フリートウェイ「!」
異形倒しのついでに、器の捜索も頼まれていたことを思い出す。
だが、今日に至るまで手がかりは何一つ見つかることはなかった。
フリートウェイ「・・・それは、『自我』があるのか?」
レクトロ「・・・へっ? 自我?」
想定外の質問を投げかけられ、少し上擦った変な声が出た。
フリートウェイ「一応、オレは異形倒しの後に短時間だが探していたんだぜ。 なのに一つも見つからなかったんだ」
フリートウェイ「『何かあるかもしれない』とは感じたが」
レクトロ「そうだね、二つだけは自我があるのは確認済みさ。 他の7つに自我は無いとしているよ」
レクトロ「僕と君の共通の目的の一つは、器の回収さ! こんな説明のできない、魔法じみた力は必要ないからね」
他人に『説明のできない』もの。
今自分たちがやっていること・やろうとしていることも、説明の出来ないものなのだろう。
フリートウェイ「説明の出来ない力か・・・」
フリートウェイ「まぁ、人間には不必要なものだな」
フリートウェイ「そして、オレ達にとっても不要なものか」
レクトロ「うん。出来れば手放したほうがいいんだよ」
レクトロはフリートウェイの発言を笑顔で肯定した。
レクトロ「でも、それにはたくさんの問題があるの。 一つずつ解決しなきゃ」
レクトロ「さて、ここでシリンの様子を見てみようか? 面白いのが見れるかもね!」
フリートウェイは何も言わなかったが、
PCの画面を覗き込む。
〇時計台の中
シリン・スィ「後は器を回収するだけ・・・!」
城の最深部にある部屋の鍵を開けたシリンは、懐中時計──器の一つに手を伸ばす。
シリン・スィ「・・・?」
シリン・スィ「私に、用事なの? 誰からかかっているのかしら・・・」
数日前に、レクトロが『殿』と呼ぶ人物と通話したことはあるが、ナタクがいたからこそ実現していたものだった。
鏡の近くまで伸ばした手を引っ込み、音の鳴った方向へ向かう。
シリン・スィ(そもそも、この部屋に電話機なんてあったかしら?)
こんなところに電話など無かったはずだが・・・と不思議に思いながら、シリンは受話器を探す。
シリン・スィ「!」
人の気配を察して振り返った瞬間、地面から大爆発が起きた。
循環器系の内臓に非常に悪影響の及ぼしそうな煙が辺りに充満する。
シリン・スィ「誰がいるの!?」
「『私』がいますよ」
真上から、声がする。
「そこのお嬢さん」
声の主は重力に逆らってゆっくりと地面に降り、
決して埋められない身長差を何とかしようと屈み、シリンと目を合わせる。
シャーヴ「此処で何をする予定でしたか?」
シャーヴ「もしかして、その懐中時計がお目当てでしょうか?」
シャーヴ「それなら──」
〇時計台の中
睨むシリン・スィと
不気味で張り付けられたような笑みを浮かべる男。
そして、先ほどから鳴り響く電話の音。
シャーヴ「くははっ・・・」
男はシリンが睨んでいることなど一切気にせずに、ウインクし薄笑いを浮かべた。
シャーヴ「・・・あぁ、少しお待ちくださいな」
どこからかトランシーバーを出し、それを耳に当てる。
シャーヴ「もう少し時間が経過すれば、あなたも話せますよ」
次々と声を変えながらそう男が言った途端、電話の音はピタリと止まった。
シャーヴ「お待たせいたしました。 貴女のお相手をいたしましょう」
静かになった空間に最も似合わない、カラフルな紙吹雪が大量に飛ぶ。
シリン・スィ「・・・紙吹雪?」
警戒しながら、シリンは紙吹雪に触れようとした瞬間──
地面を隠すほどに大量に降った紙吹雪が一度に盛大に大爆発した。
シリンの着ている赤いドレスも焦げて裾が僅かに破れてしまう。
シリン・スィ「爆発・・・!?」
シャーヴ「ええ。 それなりの殺傷能力はありますよ」
シャーヴ「──退かないのなら消すのみです」
新しいアイテムとキャラの登場で話が広がり始めた感じの回でしたね。
どうなるのか、次回が楽しみです。