赤ちゃんは毘沙門天

山本律磨

降誕なるか?(脚本)

赤ちゃんは毘沙門天

山本律磨

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〇祈祷場
  天正六年三月十三日
  一人の男の葬儀が荘厳に行われていた
  孤高の戦国武将上杉謙信
  伝説の男は死してなお奇跡を起こす
  高揚する読経に答えるが如く立ち上る炎
  連なる家臣団の天上より声が響く
  兜跋毘沙門天が化身たる主の声が
  我、人心乱れ世が享楽の闇に落ちる刻、
  其れを清めるべく再び甦らん。
  我は軍神毘沙門天なり!
  家臣達は
  再び乱世に転生せんとする軍神を望み
  鯨波を以て男の亡骸を見送った

〇白
  だが彼らの主が転生する狂乱の世は
  それより四七七年後のことであった

〇SHIBUYA109
  令和〇年〇月〇日
  人々は泰平と享楽を謳歌していた
  仁義礼知忠信孝悌
  その全てが欠落したような彼女もまた
  現世の狂騒に身を委ねる民の一人
  漠然とした夢と確とした遊びに溺れる
  二十二歳の浮かれ人
  名を永尾千草

〇舞台袖
千草「夢に向かってるキミが好きだよ!」
千草「君の夢を応援したいの!」
  『夢』という絶対的健全性を免罪符に
  中途半端な小劇場俳優と
  明日の見えないただれた同棲生活の果て
  妊娠し子を宿す

〇白
  誰あろうその子供こそ上杉謙信であった

〇舞台袖
  果たして斯様な母親の元で無事生を受けることができるのかと思う謙信の懸念通り
  千草と男は破局
  ほどなく男はなけなしの金を突きつけ逐電

〇田んぼ
  当然自分一人で身に降りかかる問題を
  対処する覚悟もなかった千草は
  己が捨てた故郷の田舎町へと逃げ戻る
  その身に毘沙門天の化身を宿して

〇おしゃれなリビングダイニング
千尋「・・・」
千尋「・・・」
  ほう、伯母上。朝から読書とは感服しますぞ。
  それに比べて・・・
  『絶対戦姫バルキュリア好評配信中!』
  『今ならオーディン、貰える♪』
千草「あーもう!広告ウザい!」
  母上、冒頭からその台詞はちと問題が・・・
  電信電脳社会は広告主(すぽんさあ)様の御協力で成り立っております
千尋「うるさいのはそっち。勉強の邪魔」
千草「すぐガッコ行くんでしょ。 勉強ならそこで嫌って程やりゃいいじゃん」
千尋「それじゃ受験に追いつかないの」
千尋「私、誰かさんみたいに 東京で失敗したくないから」
千草「ア゛ア゛ン?」
千尋「威嚇する相手間違ってんじゃない?」
千尋「まだパパには言ってないんでしょ? そのお腹のこと」
千草「・・・」
千草「おかーさーん!」
「ダメ!これだけは自分の口から言うの!」
景子「大人として自分で話して自分で決めないと」
千尋「で、自分で責任とるの」
千草「・・・」
  責任をとる・・・?

〇荒野
上杉不識庵謙信「ならぬ!これはうぬの失敗である!」
上杉不識庵謙信「これで全ての責を負うがよい!」

〇おしゃれなリビングダイニング
  いかん。
  完全に危うい責任の取り方に話が進んでいる。
  親元に逃げ帰った時は
  無事誕生まで漕ぎつけられるものと安堵していたが
  いや、まだ諦めるのは早い。

〇昔ながらの一軒家
政一郎「お早う、てるとら」
  御爺殿は高名な教師であるとの話。
  娘が暴挙に至らんとすれば、
  必ずや人の道を以て戒めるであろう。

〇おしゃれなリビングダイニング
兎耳(ウサミ)「おはようございまーす♪」
兎耳(ウサミ)「いや~朝風呂、最高っすね~♪」
  居候の分際で朝風呂とは・・・
  親類縁者一族郎党の形も、
  変われば変わるものだ。
  我は斯様な世で生きていけるのだろうか?
  戦乱の時代の方が余程理解できる。
兎耳(ウサミ)「あら?どうしたの?朝から暗いね~」
兎耳(ウサミ)「もしかして妙なこと考えちゃってる?」
千草「余計なお世話よ。そっちも今年こそ どこでもいいから大学受かって、 どこになりと出て行ってよね」
兎耳(ウサミ)「うん頑張るよ!」
兎耳(ウサミ)「これから最低二十年、 仕事と子育てに追われる日々の 千草ちゃんに比べれば 僕の苦労なんて屁でもないさ」
  こ、こら貴様!余計な進言をするでない!
千草「・・・」
兎耳(ウサミ)「いや~大変だと思う! 頭が下がる! 応援している!」
兎耳(ウサミ)「じゃ、僕はもうひと眠りするね」
「いやいや~母になるのは大変だな~」
千草「・・・はあ」
  あやつ・・・
  無事生まれたら、物心つき次第○す!
  中編に続く

次のエピソード:家族評議

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