プロフェティック・ドリーム

坂道月兎

#10 夢に疲れて(脚本)

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〇男の子の一人部屋
百瀬涼平(・・・何やっているんだ、俺は・・・)
  自宅に戻ると、自己嫌悪の気持ちが膨れ上がってくる。
百瀬涼平(結衣はきっと、ひとりでずっと悩んでいたんだ・・・)
百瀬涼平(俺は夢のことにばかり気を取られて、全然気づいてなかった)
  一生懸命作ってきたお弁当を一人で食べていた結衣。
  つき合っているのに、帰り道は生方さんがいるからと置き去りにしてしまった。
百瀬涼平(わかっていたのに、夢を優先しすぎて・・・結衣のさみしさを見ないふりしてたんだ)
  別れを告げてきた結衣の、せつない横顔が目に焼き付いて離れない。
  昔から母や兄から、『一つのことをやり始めると周りが見えなくなる』と指摘されていたことを思い出した。
  その言葉が身に染みる。
百瀬涼平(あの笑顔を守りたかったのに・・・)
  でも、今は結衣の出した結論を受け入れるしかなかった。
百瀬涼平(今は・・・結衣を救うことだけを考えよう。 生きていてくれさえすれば、それで十分だ)
  そのためには、またあの正夢を見なくては・・・。
  ドサッとベッドに横たわると、俺は呟いた。
百瀬涼平「結衣が死ぬ・・・あの夢をもう一度見せてくれ」

〇男の子の一人部屋
  気づくと、夢の中だった。
百瀬涼平「・・・もしかして、あの夢か!?」
  携帯を確認する。
  前回見た夢より、5分早い時間だ。
百瀬涼平(今なら、まだ間に合うかもしれない)
  俺は全速力で結衣の部屋へと向かった。
百瀬涼平「結衣、結衣・・・! 間に合ってくれ」

〇一人部屋
  乱暴にドアを開ける。
  だが、すでに床には大量の血が流れていた。
百瀬涼平「結衣!!」
  駆け寄って抱き寄せる。
花ノ木結衣「りょう、くん?」
百瀬涼平「結衣! すぐに救急車を呼ぶから!」
花ノ木結衣「・・・りょうくん、ありがと。 一人で怖かった、から・・・」
百瀬涼平「結衣、もうしゃべるな!」
花ノ木結衣「りょうくんが来てくれて・・・うれしい」
  俺の腕の中で、結衣はぐったりと目を閉じた。
百瀬涼平「うわあああああ」
  どうしてなんだ・・・なんで救えない!?
  絶望を両腕に抱えて、俺はどうしようもない無力感をただ噛みしめるしかなかった。

〇男の子の一人部屋
  目覚めると、両頬が涙でぬれていた。
  乱暴にそれを拭うと、立ち上がる。
百瀬涼平(このままじゃ、ダメだ)
百瀬涼平(未来を変えるために現実でも行動しなければ・・・)
  早朝だったが、いてもたってもいられなくて俺は兄の事務所へと向かった。

〇応接室
  事務所では、徹夜で仕事していた生方さんが迎えてくれた。
  兄は別件の張り込みのためすでに出かけたらしい。
  ちょうど朝ご飯にするところだったという生方さんの言葉に甘え、温かいスープを受け取った。
  飲みながら、結衣とつき合ってすぐに別れることになってしまったこと、さっき見た夢のことを一気に話した。
生方千尋「色々と抱え込みすぎなんだよ、リョウはさ」
百瀬涼平「自分ではそんなつもりないんですけど」
生方千尋「結衣ちゃんのこと、大事に守ってあげたい気持ちはわかるけど、結衣ちゃんの気持ちもちゃんと考えてあげないとね」
百瀬涼平「結衣の気持ち?」
生方千尋「そう。例えば、俺の恋人にリョウと同じような能力があったとする」
生方千尋「で、俺が死んだ夢を見て、俺を助けようとがんばってくれてたとしたら・・・」
  そう言われて、俺も考えてみる。
  もし正夢を見るのが結衣だったら。
  結衣が俺が死ぬ夢を見て苦しんでいたとしたら・・・。
百瀬涼平「話して欲しい、ですよね」
生方千尋「だよね。自分を気遣ってのことだとわかっていても、秘密にされるのは悲しい」
百瀬涼平「でも・・・」
  他の夢ならともかく、結衣が死ぬ夢だ。
  知った彼女はどれほど衝撃を受けるだろう。
生方千尋「ユイちゃんはさ、ふわふわっとして可愛い子だけど、芯はしっかりしていると俺は思う」
生方千尋「もちろん、ショックは受けるだろうけど、それを支えながら一緒に立ち向かって行くのが理想の姿なんじゃないかな・・・」
生方千尋「・・・あくまでも俺の意見だけど」
百瀬涼平「・・・・・・」
  言われてみれば、俺は自分のことばかりだった。
  俺が結衣を傷つけたくない。
  結衣がショックを受ける姿を見たくない。
  結衣には結衣の想いがあるはずなのに、俺はそれを見ようともしていなかった。
百瀬涼平「そりゃ、フラれますよね・・・」
生方千尋「そう悲観しなくても、挽回のチャンスはあるって」
生方千尋「・・・何より、正夢を現実にしないためにできる限りのことをしなきゃね」
百瀬涼平「ええ」
生方千尋「今のリョウはちょっと無理しすぎてるから、いったん何も考えずに寝ることだよ」
生方千尋「正夢のことはアリスちゃんにも協力してもらおう」
生方千尋「リョウには仲間がいるんだから、頼らなきゃダメだよ」
百瀬涼平「・・・はい」
生方千尋「テツも、ナオもアリスちゃんもユイちゃんも俺も・・・リョウの力になりたいって思ってるんだから」
百瀬涼平「・・・ありがとうございます」
  奥の仮眠室で少し休ませてもらい、落ち着いた俺はそのまま学校へ向かった。

〇学校の屋上
八神直志「何があったんだよ、いったい?」
  結衣とはまだ何も話せていなかった。
  校内での俺たちの様子を不審に思ったのか、心配そうに尋ねる八神に、俺は経緯を説明した。
  アリスは当然ながらとっくに知っているようで、特に驚く様子はなく、黙って聞いている。
八神直志「あああ、もう! お前ってほんと不器用!!」
  叫ぶ八神に、アリスは冷たい視線を浴びせる。
笹島アリス「自分ならうまくやれたって? 甘い。 正夢で恋人の死を見た経験もないくせに」
八神直志「・・・そりゃそうだな、悪い」
百瀬涼平「いや、いいんだ。俺も自分に呆れてる」

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