プロフェティック・ドリーム

坂道月兎

#11 取り戻した夢(脚本)

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〇住宅地の坂道
一ノ瀬裕美「ごめんなさい、あの・・・」
百瀬涼平「あなたは・・・あの時の」
  正夢を見て、用水路に落ちていた子供を助けた・・・あの子の母親だった。
一ノ瀬裕美「ずっとあなたにお礼をしたくて探していたんです」
一ノ瀬裕美「学校に問い合わせたんですけど、個人情報だからって教えて頂けなくて」
百瀬涼平「え、それで?」
一ノ瀬裕美「はい。通学路ならこの道を通るだろうと思って待っていたんです」
一ノ瀬裕美「でも彼女さんと一緒に歩いてたから、なかなか声を掛けられなくて・・・。驚かせてしまったみたいですみません」
  深々と頭を下げる彼女に、俺はホッと息を吐く。ストーカーではなかった。
一ノ瀬裕美「これ、お礼にと思って・・・本当に気持ちばかりなんですけど」
百瀬涼平「いや、そんな・・・当然のことをしただけですから」
  そう言って差し出された菓子折りを固辞しようとしたら、結衣が笑って間に入ってくれた。
花ノ木結衣「わざわざ探して持ってきてくださったんだから、頂いたらいいんじゃない?」
一ノ瀬裕美「はい、是非」
百瀬涼平「あ、じゃあ・・・すみません」
一ノ瀬裕美「いえ、息子はあれからケガもなく元気です」
一ノ瀬裕美「『お兄ちゃんカッコよかったー』ってそればっかり言ってます」
百瀬涼平「そ、そうですか、良かったです」
  何度も頭を下げて立ち去る母親を見送り、結衣を見る。
花ノ木結衣「ふふ、びっくりしちゃったね」
百瀬涼平「タイミングがなあ・・・てっきり例のストーカーかと思った」
花ノ木結衣「ありがとう」
百瀬涼平「え?」
花ノ木結衣「私のこと、守ろうとしてくれたでしょう? うれしかった」
  正夢の中で『うれしかった』と言って死んでしまった結衣の姿がフラッシュバックする。
  胸がぎゅうっと押しつぶされるように苦しくなった。
花ノ木結衣「りょうくん・・・?」
  死んでしまうかもしれない未来の結衣を救いたい。同時に俺にとっては目の前にいる結衣も大切だ。
百瀬涼平「ごめんな、結衣。お前に嫌な思いさせたな」
  結衣は首を振った。
花ノ木結衣「違うの。私こそ・・・ごめんね、りょうくん」
百瀬涼平「お前に秘密にしてることがある。 でも・・・今はまだ言えない」
花ノ木結衣「・・・うん」
百瀬涼平「でも・・・ちゃんと言うから。 もう少しだけ時間をくれないか?」
花ノ木結衣「・・・うん」
百瀬涼平「何があっても、どんな形でも、俺は絶対にお前を守る」
花ノ木結衣「うん、ありがと、りょうくん」
  張りつめていたふたりの間の空気が緩み、結衣はいつもの明るい笑顔で頷いてくれた。

〇事務所
  『探偵事務所に集合』
  兄から届いた一斉メールにより、俺たちは事務所に集まっていた。結衣も一緒だ。
  事務所の応接机には、見知らぬ中年の男性が座っていた。
生方千尋「ユイちゃんを尾行していた男を確保したよ」

〇応接室

〇事務所
百瀬涼平「えっ!? じゃあこの男が?」
  お礼を言いに来た母親に気を取られていたせいか、この男の尾行にまったく気づいていなかった。
百瀬涼平「俺も気をつけていたんですが・・・」
生方千尋「なかなか慎重な尾行だったからね。ユイちゃんを守りながら捕まえるのは難しいと思ったから、俺は別行動していたんだよ」
  兄が男の前に座ると、まるで刑事のように尋問を始めた。

〇応接室
百瀬哲平「さて。そろそろ吐いてもらおうか。 一体なんで結衣をつけてたんだ?」
百瀬哲平「写真の撮影までしてたよな?」
花ノ木結衣「えっ・・・」
百瀬涼平「写真!?」
  男をもう一度まじまじと見る。
  まったく見覚えのない男だった。
  結衣を見るが、同じだったようで首を横に振る。
男「アンタたちも同業ならわかるだろ。 守秘義務がある」
生方千尋「同業者ってとこかな。 依頼人は誰なんだい?」
男「依頼人のことは何があっても話せない」
  男はそう言って腕を組んだ。
百瀬哲平「守秘義務はわかるが、俺たちにも色々事情があるんでね」
百瀬哲平「アンタには悪いけど、絶対に突き止めるぞ」
  男はひるむ様子もない。
男「それは無理だな。この件には結構な金も絡んでるし、はした金を積まれたぐらいじゃどうにもならん」
男「別に通報したっていいぜ。 そうなっても言うつもりはない」
生方千尋「・・・なるほどね」
  依頼人を調査するにも時間がかかるだろう。
  一体どうすればいいんだ。
  皆が沈黙し、次の一手を考えていたその時だった。
笹島アリス「・・・失礼」
  アリスが突然、立ち上がって男の手に触れる。
  男は驚いた様子だったが、振り払うようなことはしなかった。
百瀬涼平(アリス、まさか・・・!?)
  アリスは一度目を閉じ、ゆっくりと開く。
  挑むように男を見据えた。
笹島アリス「早乙女・・・?」
  アリスの呟きにガタン、と男は椅子から立ち上がった。
溝渕浩平「な、ななな、なんでっ!?」
笹島アリス「溝渕浩平、40歳。探偵業を始めて5年、その前は出版関連のサラリーマン」
笹島アリス「結衣の調査は早乙女星次からの依頼。 たしかにかなり報酬いいみたいね」
溝渕浩平「・・・バケモンか・・・?」
  男は真っ青な顔をしてアリスに吐き捨てる。
  アリスは顔色も変えずに返す。
笹島アリス「そうね、化け物かも。でも、誰かの役に立つのはうれしい。結衣は私の友だちだから」
溝渕浩平「オレは何もしゃべってねえからなっ! くそっ!」
  男は制止しようとした兄の手を振り払い、乱暴にドアを開けると飛び出していった。
八神直志「おい、待てっ!!」
百瀬哲平「放っておけ、直志」
百瀬哲平「ひとまずアリスちゃんが引き出してくれた情報があれば十分だ。ヤツの身元も分かったしな」
花ノ木結衣「やっぱりすごいね、アリスちゃん・・・」

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