便乗せよ!選ばれる為の枕営業(脚本)
〇女性の部屋
とりあえず、流れを纏めてみよう。
・中井と呼ばれる人物が居たという事。
・手癖が悪い事。
・「あいつには見せないようにしていた」、という事
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・ざっと見た感じだと、新人が来る度に付け回す人が居て」
納二科寧音(なにかねね)「その人が、ナッツ姫にも来たことがあって・・・・・・またそれ絡みかと言われているのか」
気になるのが、誰か少なくとも一人は「あいつには見せないようにしていた」と言っている事
つまり
・情報は一部の人には知られている。
(知らない人は「いい人」で通っているから教えてしまいかねない)
・「またか」という盛り上がりの様子が手慣れて居るし、複数人で共感しあっているようだった。
納二科寧音(なにかねね)「うーん、あのハゲといい、個人情報の取り扱いとか、基本的な運営方針からの逸脱、 乖離は気になる・・・・・・」
そこに、村田さんが居たのかまで断定できないけど、今少なくともナッツ姫の名前は上がっている。
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・誰かが、村田さんの話を勝手に、予定の無い人にまで教えて居る。同級生だと名乗った・・・・・・?」
公式発表が出ない以上、暇つぶしの推測にしかならないけれど、あのハゲの件もあるし・・・・・・
変な人がうろついているというのは
放って置けないように思う・・・
規約自体の改竄は詐欺に問われる際に指摘されやすい。
『守る気があった』というスタンスで行くなら、額面通りに見れば、
企業の理念から逸脱して個人的に動いている?
彼らが関係者だとして、中井と呼ばれる人物に恨みがある・・・・・・ともとれなくもないが、
「一応、方針は違うんですよ。止めようとしてるんですけどね」と話し合う姿勢だけでも
せめて残しておきたいという無念の表れにも見える。
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・ん?」
スクロールしていくと、
いくつかのリプライ欄に『次のお花見はいつですか?』と聞いているものがあった。
「欠員一名、ナッツのとこはお花見会に誘えませんでしたからね
「せっかくのお花を見る会なんだから、綺麗なお花が無いと。前のセレクトも良かった」
村田さんとは無関係、と言いたいが・・・・・・
定期的に出て来る「お花を見る会」
「ナッツ姫のとこが駄目になった」が気になって仕方がない
納二科寧音(なにかねね)「文字通り、お花を見る会、 って思いたいけど、なんか不穏なんだよなぁ」
でも、何をする会なんだろう。
会という事は複数人が集まる予定があるってことで・・・・・・
敬語が入り混じっている辺り、友達同士というよりは先輩が上司が居そうな雰囲気なのだが
村田さんに電話したくなったけれど、
病院に行っている身で、どんな状態かもわからない今
下手に刺激を与えて、負担になってはいけないし・・・
「剣の鞘から妖怪が〜」
納二科寧音(なにかねね)「うーん・・・」
考える間にも、タイムラインは加速し、流れていく広告。
「夏目優子は、アヤカシを殺して友人帳を手にし、結界師になれるのか・・・?」
「サヤが見つけたエンドウは、妖怪になるためのアイテムだった・・・」
納二科寧音(なにかねね)「・・・お花見、かぁ」
妖怪多いなぁ・・・
「百目鬼の日明日の判断が迫られる! 次回、百年目の紗綾、死す」
情報量多いなぁ・・・
・・・・・・何故漫画広告までこうなって居るんだろう。それとも同じような名前が目に付くようになってしまったんだろうか?
執拗な迄に、『✝自分の大事な立場を奪って人生を狂わせた怪物を倒すように✝』、というネタばかりに統一してあるのも怖い。
コメント欄を覗くと、どれも昔、『謎の理由で打ち切られた』もので、
それらのフェア特集雑誌のCMだったらしく、編集や監督の酷さが語られている。──
『CANTARE(カンターレ)来月発売!』
納二科寧音(なにかねね)(・・・・・・情報操作?)
もし、彼女があたしと同じなら――――
というのは考え過ぎだろうか。
もし、そうだとしたら――担当や監督がどこまで悪いのかも、作家がどこまで悪いのかも、この場所から判断がつかない。
納二科寧音(なにかねね)「ん?」
何気なく、ブラウザを閉じたとき、画面に新着のお知らせがあるのに気が付いた。
納二科寧音(なにかねね)「受信していないメールが1件あります・・・」
〇雑踏
ごめんね。
心配はしないでください。
だけどわからない。
どうして、あの人が此処に来ていたの?
守秘義務があった筈なのに・・・
そう書いてあるのに。
あの男性が来てから。ううん、あのコンテストのすぐ後から、特定が始まろうとしていた。
誰も企業は、守秘義務を守っていない。普通に家の前に立っているし、記者が張り込んでた。
守秘義務があるのは、私の方だって、おかしいよね?
でも誰も、私や、貴方や、皆を守ってはくれないんだよ。
そんなの、守秘する必要がある?
お金が欲しいのか!?って叫ばれた。
安心した生活が、できないんだよ?
一度でも、放送されてしまえば、
狙われて追い回されて・・・
お金で買えると言うの?
それに、松本さんを見かけた。自転車だった。どうして・・・
無関係な記者、無関係な隣人、そう言ってお金で買ってる人が、張り付いてる可能性があります。
昨日家の前で、興信所に電話しているおじさんが居ました。依頼者は伏せると思います
私がその日見かけたのは、多分、麻日新報・・・・・・の新聞記者。
多分、お金貰ってた。
村田紗香「P.S.あ、そうだ。前に、わたそうと思ってた 筋肉アシカのスタンプ、添付します ちくわ君はおまけですvV」
〇生徒会室
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・ってことがあって」
翌日。
朝早くから学校に行ったあたしは部長に昨日見た書き込みの話をした。
部長「西峰が、触れていることが気になる・・・」
部長の第一声がそれだった。
納二科寧音(なにかねね)「え、西峰?」
あたしがぽかんとするうちに、
彼女はそっと『美少女探偵団』を差し出してきた。
部長「読んでみろ」
納二科寧音(なにかねね)「え、な、何。西峰維織の著書?」
部長「そう。美少女探偵団、ホストクラブ部でお花見・・・・・・」
部長「昨日何気無く本屋で見かけたんだ。 西峰の近況に関して手掛かりになるかと購入してみた」
それは500円程度の薄い文庫本で、
西峰が最近出版した1冊。新シリーズとなっていた。
納二科寧音(なにかねね)「軍事機密を知ってしまう主人公・・・・・・ 自転車に乗って助けに来たイケメンちゃん・・・」
監視衛星ステアリング...
軍事機密を操る畑山。
偶然衛星を目撃した主人公の運命やいかに!?
普通の生活をして
あの木の下でのんびりお花見が、したい!
納二科寧音(なにかねね)「お花見・・・・・・」
部長「偶然ならいいのだが・・・・・・」
部長「そうは見えないのだよな」
部長が淡々と、もう1冊をスクバから取り出す。
新米編集の主人公、大介マーマレードは大ファンである
茸竹 平兵衛 先生のイベントに参加することに・・・・・・
先生は息絶えており、幻の原稿を探すことになる・・・・・・
部長「コレがいつ出版されたか知っているか?」
部長「・・・・・・協会が、ゴタゴタし始めた頃。 マーマレードが脱税し始めた頃」
部長「・・・・・・父の、生前。 立て続けに作家の自殺があった」
部長「まるで、協会内部が西峰の為に作り替えられて行くかのように・・・・・・」
それだけでは、それが何を意味するのかまでは あたしにはわからなくて・・・・・・
ただ、西峰から底しれない不気味さを感じていた。
部長「この作品も、『茸竹 平兵衛』、に似た名前の作家の事じゃないかと、怪しむむきもあるんだ」
納二科寧音(なにかねね)「ええっ・・・・・・」
部長「こんな一節がある」
彼女への口封じがなければ
出版社戦争は無かったのか・・・・・・これは語り継いでいかねばならない
部長「作中の、半畳(ハンジョウ)のセリフだ」
クリエイターの直面してきた
第一次大戦も第二次大戦も何もかもなかったのかもしれない。
誰が女性の口を封じたんだよ
部長「・・・・・・出版社が某国に資本を渡すようになってからというもの、 作家には実は、多くの言論統制が敷かれていた」
部長「亡くなった、幾らかの人・・・・・・父は ある意味、こういったゴタゴタに向き合おうとしていたように思う」
納二科寧音(なにかねね)「言論、統制?」
部長「あぁ。例えば某国の批判を通さないように、とか。 ラインに触れた人物にさり気なく指導していたらしい」
部長「脚本もその道の素人・・・・・・有名業界人が独自に書いて、彼らの基準のストーリーに拘った結果、」
部長「作者に許可を貰うのが後回しになるのが横行していた」
納二科寧音(なにかねね)「えー、思ったように作れない、って話ですか。それを苦に・・・・・・?」
部長「分からないが。あり得る。 ちょっと前にも、テレビ局側と脚本の折り合いがつかなかった作家が飛び降りている」
党を作ることはできる
支持されるかは、分からない・・・
事件や死体を現地まで撮影しにいくかのように西峰が常に『トレンド』に居る。
もし、そうだとしたら──
納二科寧音(なにかねね)(あたしの文体を使って、何を・・・・・・)
部長「納ニ科?」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・・・・あ、はい」
部長「大丈夫か」
納二科寧音(なにかねね)「ちょっと、昨日眠れなかっただけなので」
部長「そうか・・・・・・」
部長の手には端末が握られている。
あたしが言ったことを調べてくれていたみたいだ。
部長「ちいさな、えんじぇるたちが、 お花見を盛り上げてくれるでしょう」
納二科寧音(なにかねね)「え?」
部長「『Pet.』で、お待ちしています」
ほら、と画面を見せられる。
ガールズバー?「pet.」を運営するSNSのアカウントのようだ。
店長のトーゴ室長が呟いている。
納二科寧音(なにかねね)「此処って、隣町に出来たお店ですよね」
部長「うむ・・・・・・ 例の相談をしているアカウントを辿っていると、会話に出て来たのだが」
部長「トーゴ室長・・・・・・呟いている写真や様子を見るに、あまり治安が良く無さそうだな」
見せてもらったメディア欄には、
料理の写真、刺青の入った腕、若い女性とピースで映る写真、等が並んでいる。
こういうのを反社会的勢力とか暴力団とか呼ぶんだろうか?
あたしには直接関わりが無いからわからないけど・・・・・・なんだか派手そうな人達だ
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・えんじぇるってそもそも何ですかね?」
部長「あっ」
納二科寧音(なにかねね)「部長?」
部長「・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「部長?」
部長が端末を見たまま固まってしまった。
部長「そんなはずは・・・・・・」
部長が見ている写真・・・・・・
刺青の人と一緒に、40~50代くらいの男性が映っている。
といっても顔などは隠されており、服装や腕が解る程度だ。
知り合いだろうか?
部長「悪い。少し確認する事が出来た」
部長は動揺を隠せない様子で慌てて席を立つと行ってしまった。
納二科寧音(なにかねね)「どうしたんだろ・・・」
手元に残ったままの文庫本を手に取る。
納二科寧音(なにかねね)「部長、忘れてってるし・・・・・・」
パラ、パラ、とめくったページには、底知れない感覚が残っている気がした。
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
〇教室
きりーつ。
「れーい」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「終わったー」
「次の授業なんだっけ」
納二科寧音(なにかねね)「確か、国語」
「そっかぁ。ありがとう」
納二科寧音(なにかねね)「さてと・・・・・・」
午前の授業が終わって、お昼を何処で食べようかなとあたしは周囲を見渡した。
別に教室で食べても良いのだが、人がいっぱい居るし、他のクラスからも人が来るのでなんか五月蠅くて嫌だった。
それに・・・・・・
〇教室
「リカが成績で負けるなんてあり得ないんだけど」
「そういえばこの子、余所から来たんでしょ?」
「他の学校ってぇ、授業進度?が 違うらしいよ」
「なるほどね。絶対そうだと思った! だからケイちゃんもかなわなかったんだ」
「内容先に知ってるんでしょ。ずるじゃん」
「進めるとこが違うってだけで・・・ みんな騙されてる」
「むかつく。途中から来て、全部奪ってくとか何様。 来なくてもいいのに」
納仁科寧音「あたし・・・・・・何も・・・・・・」
〇教室
お昼休み特有の『フリートーク』が苦手だ。
授業中は、授業の話以外出来ないけど、それ以外で自分が何を言われているのか。
思いがけない事で妬みを買っているかもしれない。
そんな事で、あたしは周囲から浮いている自分が苦手になって
自分のせいではないところで、必要以上にこき下ろそうとされたり、そういう攻撃性が嫌になって
誰かとお昼に食べようとすら思わなくなっていた。
納二科寧音(なにかねね)(進度とか、別にそれでついてってるんだから良くない?)
梅ヶ丘 ゆりこ「あ、寧音ちゃん」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・ん?」
梅ヶ丘 ゆりこ「・・・・・・なんかボーっとしてたから。 お昼、まだ?」
納二科寧音(なにかねね)「これから食べようと思ったとこ」
梅ヶ丘 ゆりこ「ちょっと、話。いい?」
なんだか焦っているような、不安がっているような百合子。
納二科寧音(なにかねね)「どうしたの?いつもなら食堂とかで食べて来るのに・・・」
梅ヶ丘 ゆりこ「うん。実は、話があって」
〇広い廊下
納二科寧音(なにかねね)「話? なんだろ」
百合子に言われるまま教室を出る。
梅ヶ丘 ゆりこ「部長から、鍵、預かってるんだ。 お昼は部室で食べよう」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・いいけど」
部長。
朝、様子が変だったけど、大丈夫だろうか
納二科寧音(なにかねね)「なんかまた、緊急招集?」
梅ヶ丘 ゆりこ「うーん、わかんない」
そんな話をしながら、部室に辿り着く。
〇生徒会室
部長「おぉ、来たか」
部室の中では、いつもと変わらぬ部長が待っていた。
やはり、そんなに大したことは起きて無いんだ、部長はいつも通りだ、とあたしは少し安堵した。
部長「ちょっと、二人に見て貰いたいものがあったんだ」
納二科寧音(なにかねね)「はぁ。わかりました」
納二科寧音(なにかねね)「お昼食べながらでいいですか」
部長「はなからそのつもりだ」
梅ヶ丘 ゆりこ「私も、失礼しまーす」
学生の休み時間は短い。
もぐもぐ・・・
梅ヶ丘 ゆりこ「寧音ちゃんの家って、先生なんだよね?」
納二科寧音(なにかねね)「あー、まぁ、家ではただの五月蠅い人達だけどね」
納二科寧音(なにかねね)「勉強とか全然教えてくれないし」
部長「そういうものなのか・・・・・・ なんだか意外だな」
納二科寧音(なにかねね)「あ、過去の栄光とかは語ってましたね」
納二科寧音(なにかねね)「なんか、あたしと違って凄い計算が速い人で・・・」
納二科寧音(なにかねね)「新しい解法を試して居たら、『教科書に無いから』って言われて×にされて、 答え合ってるのにって キレたらしいんですよ」
梅ヶ丘 ゆりこ「へぇー! なんか茄子哉君みたい」
納二科寧音(なにかねね)「誰?何の本?」
梅ヶ丘 ゆりこ「あ、これは、先月発売されたラノベでね」
数分後。
だいぶ、皆が食べ終えた頃・・・・・・
部長「さて」
部長「馬田が殺されたのは君達のクラスだったな」
納二科寧音(なにかねね)「!」
唐突な導入に、あたしと百合子は目を丸くする。
納二科寧音(なにかねね)「何かわかったんですか」
梅ヶ丘 ゆりこ「そうですけど、何かあったんですか」
部長「今朝、納ニ科と話していたSNSで見つけたんだ」
部長は長机に何処からか印刷したらしい写真を広げた。
部長「まず、この写真は生前の馬田の服装だ」
続いて新聞が放られる。
どちらも同じ服装の人物が映り込んでいる。
梅ヶ丘 ゆりこ「本当だ。馬田君・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「馬田が『pet.』に出入りしてたっていうことですか」
梅ヶ丘 ゆりこ「え? pet.? なんでガールズバーが?」
一人だけで遅れている百合子に構わず、部長は続けた。
部長「それだけではない」
部長「・・・・・・安田が映っている」
納二科寧音(なにかねね)「安田?」
梅ヶ丘 ゆりこ「???」
部長「何をしてるかは具体的に知らないが、父とも交流があったんだ」
納二科寧音(なにかねね)「出版関係の人?」
部長「かもしれないな」
部長「前に父の同僚だという山本という人物と家に来たのを見た事がある」
部長「そこで、それとなく・・・・・・トーゴ室長のアカウントの動向、開店時間帯などを確認してみたんだが」
部長「安田か山本、或いは両方が訪れている可能性は確かに有りそうだった」
部長「生前の馬田も居る、というのが気がかりだが・・・・・・」
馬田がガールズバーで遊んでた?
今一つ、話が見えない。
正直、クラスでは馬田の扱いはほとんど
馬面なだけの、陰キャでしかなかった。
だから、ガールズバー?
なんだか意外な感じ・・・・・・
部長「・・・・・・この写真の刺青」
――――と。
彼女は印刷された写真を指さした。
部長「前にネットで見た事がある」
トーゴ室長の肩? に彫られて居るそれは、うねうねしたトライバル?模様と、
それと、天高く登っていく竜
・・・・・・
部長「何処かの組の者かもしれないな」
あたしはあたしで、頭の中で考えた。
つまり、これは暴力団とかそういう話ではないか。
納二科寧音(なにかねね)「時々噂になる、出版社と暴力団の関係ってやっぱりあるんですかね」
部長「さぁ。でも、山本や安田がこの辺に関与しているらしいことは分かっている・・・・・・気が重い話だが」
部長も部長で、父が殺されていながら気丈に振舞っている。
確かにあたしの想像が付かない程気が重いのだろう。
部長「どちらにしても、情報が必要だ」
部長「此処最近の馬田に関して、または不審者に関して何か知らないか?」
梅ヶ丘 ゆりこ「情報・・・・・・」
百合子が物憂げな表情を浮かべる。
梅ヶ丘 ゆりこ「そういえば馬田君、統合失調症がどうとか叫んでたような・・・・・・」
そういえば、あの日の朝・・・・・・
そんな事を話していたっけ。
納二科寧音(なにかねね)「畑に穴が開けられた、とかゴミが移動してたとかいうやつ?」
部長「統合失調・・・・・・トーゴ室長・・・・・・」
梅ヶ丘 ゆりこ「あれ、今考えたら 何か脅威に怯えてるようだったよね」
納二科寧音(なにかねね)「確かに。 もともと暴力団と関わりがあって、やらかしたとか何かバレたとか、 そういうので追われてたのかな」
梅ヶ丘 ゆりこ「病気じゃないって言ってたけど、 他人が日頃自宅に定期的に侵入しているって・・・・・・ちょっと異常だよ」
部長「確かにまぁ、・・・・・・死ぬ前の怯えた様子は組織に消される前の人間特有な事があるな」
納二科寧音(なにかねね)「お父さんは、そうでしたか」
部長「そうだな」
花のJKがしてるとは思えない、淡々と、殺伐とした会話。
だけど確かに、何かが日常を侵食し始めていて、あたしたちは軌跡を遺したがったと思う。
梅ヶ丘 ゆりこ「でも馬田君、どうして暴力団なんかに・・・・・・」
残酷な、無意味な同情だ。
と、あたしは冷めた気持ちで内心を皮肉った。
──────馬面で悩んでいた。
クラスでの孤立。
大方、そういう部分をつけ込まれて、闇バイトにでも利用されたんだろう。
でも、そんなの、急に仲良くなれると思う?
彼の悩みを知ったところで、
あたしに何かが出来たと思えない。
したいとも、思わなかった。
納二科寧音(なにかねね)「何でだろ・・・・・・」
〇学校脇の道
村田さんと出会うことのない帰り道。
馬田が二度と通うことの無い通学路。
あまりエモくない事実を陳列しながら、あたしは一人でその道を歩いた。
納二科寧音(なにかねね)「部活・・・・・・は、いいや」
ふとした瞬間にフラッシュバックするのは
漠然とした焦燥感。虚しさ。悲しみ。
最近はそれにばかり苛まれてしまって、どうも良くない
納二科寧音(なにかねね)(そもそも意味わかんないわ!!)
納二科寧音(なにかねね)(勝敗が決まったのに、無理矢理退場させてスポンサーに配慮したなんて・・・・・・)
本当に生き残るには
努力や才能ではない、絶対的な力を掴むしか無いなんて、今まで誰も教えてくれなかった
納二科寧音(なにかねね)「あたしにも、それやって来るよなぁ」
納二科寧音(なにかねね)「部長は直接は言わなかったけれど、 実質は、権力者や暴力団に捕まれないようにが作品づくりの前提じゃん・・・・・・」
やり場の無い苛立ちが、
目の前に壁となって立ち塞がる。
権力者が、大人が道を塞いでいるのなら、
そいつらが消えたときは何が残るのだろうか?