不倫の田中君!?(脚本)
〇病室のベッド
「森五郎さんの声優が変更になりましたー」
「交流サイト『みい✕1』で5万みーを集めて拡散され・・・」
知らないうちに、知っているものすら
形を変えつつある。
先の事、未来の事など何も分からないまま、時間が過ぎてゆく。
?「あんた、またバイト中に怪我したんだって?」
村田紗香「うん・・・」
?「馬ッッ鹿ね!本当にいつも鈍臭いんだから」
目覚めてすぐ、彼女の説教を聞き流しながら、それでもあの
腕時計男の話はすべきでないと感じ、黙っていた。
村田紗香「・・・・・・」
?「で、どうするの? 遊んでないで早く次見つけなさいよ?」
村田紗香「・・・・・・」
?「あんたはいつもそう、大して熱がなくても倒れて、大して怪我してなくても倒れて。大袈裟なんだから」
?「今度は、バイト先で金銭トラブルで突き飛ばされて転んだ? なんですぐそうなんだろ」
村田紗香「私も、知りたい・・・」
?「本当に情けない。 まともにバイトすら出来ないなんて、」
何も、答えられない。
いや、答えたら余計に引っ掻き回すタイプの彼女に何か言いたくはなかった。
村田紗香(悪化しか、しないからなあ)
?「早く次見つけなさい。 わかったわね? 本当は、入院費も払って貰いたいんだけど・・・・・・」
村田紗香「あ、うん。ありがとう・・・」
だけど、わかった事がある。
多分・・・・・・
条件次第では、思っていた以上に目立ててしまうんだ。
だから、最初から、
結果を出さないように仕組まれている──
村田紗香(仕組みの外・・・・・・ モデル以外を探さなきゃ潰しにかかる気なんだ)
いや・・・・・・潰しにっていうか、
殺そうとしてるよね
?「じゃ、もう行くから」
村田紗香「・・・・・・」
何をしても、殺そうとまでされるもんなのか。
村田紗香(バイトすら、ちゃんと出来ない、目立てば殺そうとされる・・・・・・)
それでも、私の自己責任。
わかっていても、やり切れない。
自分が自分自身として目立つことが死を願われる程のもので、
その場所に同じような誰かが立つことは、
同じリスクを伴わないなんて。
それはただ労働でそこそこ疲れる、程度ならマシに思えてしまう理不尽だった。
村田紗香「・・・・・・」
村田紗香「おいおい、この沼深すぎんだけど。もう財布が涙目」
村田紗香「しかしここでつぎ込まないと現場で楽しみきれないのは分かってるんだ!くそー!ポチっ!!」
〇病室のベッド
看護師「村田さん。お食事です」
推しのイベント物販をチェックしていたら急に声がかかり、ビクッと肩がふるえる。
村田紗香「うわあああ! あ、ありがとうございます!」
看護師「静かに・・・」
村田紗香「はい・・・・・・」
看護師「じゃ、また後で来るので。 何かあったらボタン押してくださいね」
村田紗香「はーい」
病院食には、ご飯の他におかずと、味噌汁があった。
村田紗香「あ、味噌汁・・・・・・」
村田家では、祝い事くらいしか味噌汁が出ない。
母が、味噌汁が嫌いなのだ。
理由を聞くと、小さいときに猫まんまを食べ過ぎたからだという。
のだが、給食で三角食べを強いられて来た身としてはご飯、味噌汁、おかずのトライフォースは重要だ。
なのにご飯とおかずしかないので、よくコンソメキューブとかを溶かして飲んでいた。
村田紗香「いや、まぁ自分で作ればいいんですけどね! 神の味噌汁を・・・」
もぐもぐ。
もぐもぐ。
あー、暇だな・・・・・・
本でも読もうかな・・・・・・
「何の目標もなく仕事もしないで実家住まいしてんのイライラする」
「独り立ちせぇや。将来の事も何も考えてないとか世の中舐めてんのか?」
「もう家にずっと引きこもってろ。 将来何もしてこなかった事に後悔しろ」
村田紗香「?」
壁の向こうで、誰かの怒りの声。
母だろうか。
村田紗香「・・・・・・」
村田紗香「独り立ち、したいな」
刺されたところが疼く。
一番熱量のある事が、できないとなると
何も考え付かない・・・・・・
よく、才能に悩む人が直面する壁だけれど、
それ以前の段階であんな態度をとられるとは思わなかった
何もしていない、みたいに言われるのも心外で──
村田紗香(何故心外なんだろう・・・・・・)
考えてみれば、毎日、体力が無いながらに走って来た。
接客業等は、よく変な人に好かれるから揉めてしまって・・・・・・
でも、最初からそれが仕事なら乗り越えられるって思って
「若いと万能感?とかに目覚めちゃうのかしらねー」
村田紗香「・・・・・・」
「ほら、最近不登校とか増えてるでしょ?」
通り過ぎていく声。
それらを耳にしながら考える。
村田紗香「本当に・・・・・・それだけなのかな」
不登校が増えていたとして、いじめ以外が増えていたとしても、それが本当に、
個人の問題だって言い切れるのだろうか?
〇雑踏
あなたも キョウ の仲間なんでしょう?
?「キョウは、 さなきゃ、いけないんだよ」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・知らない。 なんて皆同じ!大嫌い!!」
?「・・・・・・は、・・・・・・・・・・・・さ、」
納二科寧音(なにかねね)「何で、そんな事・・・・・・あたしとあんたは違うよ」
納二科寧音(なにかねね)「あたしには、将来が無いもの。 ずっとここに繋がれて、延長されたままで生きていく」
納二科寧音(なにかねね)「だから、そんな無意味なもの、存在しない」
?「確かに、そう・・・・・・」
?「延長は必要だ」
納二科寧音(なにかねね)「ね? 選ばないと──」
?「でも・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「あんたはただ、怒られたくないから総意を無視している」
納二科寧音(なにかねね)「あたしの言ってる事、わかるよね? 一時の感情で、制度を利用する皆に迷惑をかける」
納二科寧音(なにかねね)「感情に走っちゃ駄目だよ。 それは美しくもなんともない、延長をのぞむのに、偽善も望むなんて」
〇女性の部屋
納二科寧音(なにかねね)「ん・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「朝・・・・・・」
まだ怠さの残る身体を無理矢理起こしながら、あたしはベッドから出た。
今日も学校・・・・・・
なのだが、なんだか最近は早く目が覚めるので、まだ時間に余裕がある。
制服に着替えながら、あたしは昨日の事を思い出した。
昨日の部長の様子、なんだったんだろう?
納二科寧音(なにかねね)「部長の知り合い・・・・・・」
どうしても想像してしまうのは、
作家協会絡みの事。
あの危なそうな人達。
あの中に殺されたと言われている部長のお父さん――の知り合いくらい、いるんじゃないか
納二科寧音(なにかねね)「なんて、あたしの口から言えないしなぁ・・・」
どう転ぶかわからないし、もし本当にああいう繋がりがあったと知っても「だから?」という話である。
それに、村田さんの行方も気がかりだ。
あのハゲみたいなのが何度も追い回すという可能性はある。
納二科寧音(なにかねね)「うー・・・・・・考える事が多すぎる・・・・・・」
部長とは、「個人情報は最低限にする」と話していたけれど、
あたしの身内が小説家にいるかも、というだけの話じゃ、だんだんとなくなっている。
納二科寧音(なにかねね)「あのハゲも、素人を買いあさってたっぽいし、ああいうとこに出入りするのかなぁ」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・結構想像できるかも」
だって、個人情報を破棄するどころか明らかに濫用してるし
「落ちて悔しくないのか」商法であんな事を言ってたし、
あれはフツーに詐欺師のやり方だと思う。
いや、まぁ確かめたところで、単身で乗り込むなんて無理だけれど。
それでも身近で被害に合う可能性だってある以上は、気が抜けない。
納二科寧音(なにかねね)「企業が黙認しているのかどうかだけでも 確かめるか・・・」
全体の話なのか、あの人たちの話なのかでも今後の戦略が変わって来る。
納二科寧音(なにかねね)「とりあえず、西峰はクロとして・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「どんな風に確かめるかなぁ・・・・・・」
このときは、まだ、それらは自分とあまり関係ないところで始まって収束していくと、心の何処かでそう思っていた。
だから、今日も明日も代り映えのない日常だけは奪われないって、家の中だけはってそう思ってた。
〇アパートの台所
・・・
寧音母「はい。ミネストローネ」
台所に行くと母がいそいそと食事を用意していた
納二科寧音(なにかねね)「あれ? 珍しいね」
寧音母「今日は休みなの。たまには料理しないとね」
テーブルに並んでいる、大盛りのミネストローネはトマトのいい匂いがする。
確かにあたしの好物だ。
けど・・・・・・
喜ぼうとして、テーブルを見た途端、喜びが凍り付いてしまった。
ミネストローネの横には二本のスティックパンがあり、「焼いてください」と書いてある。
更には『お花見団子』と書いてあるお団子。
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・・・・」
偶然、だろうか?
納二科寧音(なにかねね)「変わった食事、だね」
寧音母「なんかすごーく、お花見団子が食べたくなって! あ、お握りも作っているの」
気のせいだろうか?
寧音母「ほら、トースターで二本焼いて!」
お花見。村田さんの失踪、西峰の話。
それらをなぞるかのようなメニュー。
特にお花見団子なんて、タイムリー過ぎて変に思ってしまう。
寧音母「どうしたの? ほら、食べましょう」
なんだろう。なんだか「怖い」。
偶然だ、偶然だ、と言い聞かせたいのに。
極めつけは『馬』だった。
テーブルに並ぶスープ皿は、いつもの白い皿じゃなくて馬の絵が描いてあった。
寧音母「あのね、この皿セールで売ってたの。 今日どうしても使ってみたくて買ってきた」
納二科寧音(なにかねね)「う、うん・・・」
気持ち悪い。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
馬田の死亡画像。村田さんが倒れたところ。嫌な記憶がフラッシュバックする。
寧音母「そういえば、夜は出掛けるから。夕飯は豚肉の生姜焼きか、親子丼にしてね」
納二科寧音(なにかねね)「わかった」
納二科寧音(なにかねね)「あ、あとで食べるね」
―――翌日。
寧音母「今日は焼き鳥が安かったの」
それから毎日。
母は、仕事前にメール、またはホワイトボードに赤いマジックで書かれたメニューを指示するようになった。
納二科寧音(なにかねね)「今日、食欲無いから、3本食べていいよ」
寧音母「絶対、二本じゃないと駄目なの!!!」
納二科寧音(なにかねね)「えぇ!?」
寧音母「私の金なんだから。言うとおりに用意しなさい!」
納二科寧音(なにかねね)「なんでそんなに拘るの?」
常に、母が指示するのはまるで何かを暗示するかのようなメニューで、
馬の絵が、あたしを嘲笑うようで。
少しアレンジを加えたりしてみたりもした。
すると母は怒鳴った。
指示と違う事をするのを嫌がるのだ。
二本なら二本、豚肉なら豚肉、と拘りを譲らなかった。
寧音母「お前は馬鹿か! 豚肉って書いただろう!!豚が読めんのか!!」
納二科寧音(なにかねね)「だって、鳥肉の方が古かったし・・・・・・」
寧音母「私の金でしょう!?」
〇学校脇の道
納二科寧音(なにかねね)「ってことがあってさー」
納二科寧音(なにかねね)「見て。ほら。写メ取って来た」
納二科寧音(なにかねね)「最近食事を摂るのが怖いんだよね」
梅ヶ丘 ゆりこ「えっと・・・・・・馬田君が亡くなってから、馬の絵の食器が加わって居て、」
梅ヶ丘 ゆりこ「二本、豚肉、という言葉を使いたがる・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「そう。馬田の死くらいは新聞でも見れるだろうけど、知って居たら嬉々として食卓に並べるのかっていうと疑問・・・・・・」
梅ヶ丘 ゆりこ「確かに、ちょっと怖いね」
梅ヶ丘 ゆりこ「『どっちだったとしても』・・・」
納二科寧音(なにかねね)「ほんと意味わかんない・・・・・・ これ以上変な事起きなきゃいいんだけど」
大人の都合で、とんとんと何かが変わっていくのだと漠然と感じる。
村田さんだって、スポンサー企業に配慮するどころかあんな殺人未遂まで
どう見てもおかしい。やり過ぎだ。
人前に出る事への恐怖を植え付け続け、最悪、殺しても良いと考えて居るとしか思えない。
納二科寧音(なにかねね)「百合子は変わった事無い?」
梅ヶ丘 ゆりこ「うーん・・・・・・」
梅ヶ丘 ゆりこ「あっ。でも、この前松田さんにあったの」
梅ヶ丘 ゆりこ「宗教の事をのぞくと、いい人そうだからお話したんだ」
梅ヶ丘 ゆりこ「なんか、この文芸誌何処で売ってたの?とか、最近友達と観てる漫画はある?とか」
梅ヶ丘 ゆりこ「私の好きな本の話とか、したかな」
納二科寧音(なにかねね)(友達と見ている漫画の話題? 他愛ない世間話・・・・・・だよね?)
梅ヶ丘 ゆりこ「あれ。どうしたの」
納二科寧音(なにかねね)「いや・・・・・・百合子はなんて言ったのかなって」
梅ヶ丘 ゆりこ「えーとね、最近観てるアニメは、「まわるペンギン寿司」とか「キャラメル道場」とか」
納二科寧音(なにかねね)「最近漫画やアニメ観ないからなぁ。全然わからない」
梅ヶ丘 ゆりこ「殆ど私の好みの話になっちゃった」
友達とどんなことをして遊ぶのか。
何を好むのか。
文芸誌は何処に売っているのか。
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
梅ヶ丘 ゆりこ「寧音ちゃん?」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・あ、ごめん、ちょっと、先行くね」
梅ヶ丘 ゆりこ「う、うん・・・・・・」
梅ヶ丘 ゆりこ「どうしたのかな」
梅ヶ丘 ゆりこ「私が悪いんだ・・・・・・」
梅ヶ丘 ゆりこ「私が悪い事を言ったんだ・・・・・・」
梅ヶ丘 ゆりこ「どうして、嫌なら嫌だと言ってくれないの!? こんなに悩んでいるのに!」
梅ヶ丘 ゆりこ「ぐすん・・・・・・」
〇広い廊下
あたしは思い出していた。
奴らが、村田さんのバイト先に張り込んでいた事。
納二科寧音(なにかねね)「黙って出て来ちゃったけど」
納二科寧音(なにかねね)「・・・百合子を巻き込むわけにもいかないしなぁ・・・・・・」
あたしからはまだ何もアクションを起こしていないとはいえ、向こうが「そうだとしたら?」
納二科寧音(なにかねね)「麻日新聞?の記者が張り込んでるって、マジなのかな」
あたしは、『昔から』この手のトラブルによく巻き込まれている。
何故か知らないけど・・・・・・
子どもの頃だって知らない人が何やら尋ねて来て、なんか探してたりしたものだ。
納二科寧音(なにかねね)「それもこれも。母さん父さんが何にも言わないからだ」
ジョジョ5部が始まってしまう・・・・・・
のかもしれなくても。
納二科寧音(なにかねね)「いや意味わかんねーよ!!! 何だよその思考」
と、心の中で叫びながら、ええと、そう。
村田さんを待ち伏せて居るくらいだ。
あたしに何か目を付けて同じようにしていてもおかしくないと思う。
だとしたら。
まず情報を得る為に周囲に接触する、というのはおおいにあり得る・・・・・・
そして、何も答えないで!!などと言うと逆にあたしが悪目立ちしてしまう。
正義感の強い友人が「なにそれ、ちょっと行って来る!」と出掛けても、大騒ぎになるし。(百合子は無いだろうけど)
となると、むしろあたしが少し距離を置くのが良さそうだ。
納二科寧音(なにかねね)「まー、趣味とかあんまり告げてないし。ろくに出てこないと思うけど・・・・・・いや、どうだろう。わかんないな」
田中「おー、おはよーさん!!」
納二科寧音(なにかねね)「げっ。田中」
田中「クラスメイトに向かって、ゲッとはなんだぁ? 今日も焼けたパンにバターぬりぬりして来たのか?」
納二科寧音(なにかねね)「うるさい。廊下のど真ん中に立たないでよ」
田中「つめてぇなー。つめてぇなー。 良いものあんだけどなー」
田中「ほら、「回るペンギン寿司」の店長ウサギさん~」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・・」
田中「すげーーだろ? ゲーセンでさぁ。取り過ぎちゃって。 女はこういうの好きだろ?」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
一般的な女子は「こういうの」が好きなのかもしれないし、アニメを見て居たら喜ぶかもしれない。
納二科寧音(なにかねね)「百合子がそういうの好きらしいよ。 渡してあげようか」
田中「えっ!」
納二科寧音(なにかねね)「何、その顔」
田中「えっと、その、小池さんには、もう渡してるというか・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「はぁ?」
田中「いやぁ、えっと・・・・・・ 君は、要らない感じ、かな? こういうの。好きだって聞いたんだけど」
納二科寧音(なにかねね)「誰から?」
田中「・・・・・・いやあ、その、先輩に。 ごにょごにょ」
納二科寧音(なにかねね)「?」
田中「んだよ!!!クソ!!!あーー!!!もう、やるから、じゃ!!!」
田中はキーホルダーを押し付けると、何処かに去っていった。
「言ってた事とちがうじゃねーか!!!」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
何度も言うが、
あたしは何も言っていない。
回るペンギン寿司を観てもいないし、
好きだとも言っていない
なのに、キャラグッズで釣ろうとされた!?
納二科寧音(なにかねね)「情報回るのはやーーーーー・・・・・・・」
「んだよっ!!!!社長の情報は本当なのかよ!!!」
納二科寧音(なにかねね)「どうすっかなぁ、これ」
せっかくもらったし、鞄にでもつけておくか・・・・・・いや、見られたら逆に百合子を「確かな情報源」に認定されかねないな。
頭の中がごちゃごちゃする。
村田さんの次にあたしを狙っている?
田中は『社長』に従って動いている。
松田さんが百合子に情報を聞き出そうとしていて・・・・・・田中が実行していて・・・
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
あたしの頭の中に、またもやある疑惑が浮かんだ。
それは母さんの様子。
納二科寧音(なにかねね)(社長、っていう奴があたしの情報を周囲に聞き回っている?)
あたしには縁のない話だが、昔『社長ってのはシノギの頭の事もあるんだ』などと言っていた話があったような・・・
・・・・・・
家の中。家族、学校は友人。
全部見張られているのだとしても。
どうにか。しないとなぁ。
納二科寧音(なにかねね)「うーむ・・・・・・ どうにかって何をだ・・・・・・誰をだ。社長ってなんだ。出版社の?シノギの?」
〇教室
HRが終わると、あたしは百合子に聞いた。
納二科寧音(なにかねね)「百合子って、田中と付き合ってるの?」
梅ヶ丘 ゆりこ「え・・・・・・?」
納二科寧音(なにかねね)「いや、あたしにを口説こうとしてきたからさ」
梅ヶ丘 ゆりこ「ええ!?」
納二科寧音(なにかねね)「貰ったけど・・・・・・」
梅ヶ丘 ゆりこ「田中君が? なんで寧音ちゃんに?」
納二科寧音(なにかねね)「知らない」
納二科寧音(なにかねね)「あたしも田中ってタイプじゃないし・・・・・・困るんだよね」
納二科寧音(なにかねね)「だから付き合ってるなら、ちゃんと叱っておいてよ」
梅ヶ丘 ゆりこ「私・・・・・・別に・・・・・・そんな」
なんなのだ。
梅ヶ丘 ゆりこ「田、田中君って、でも、かっこいいよ・・・ね?」
納二科寧音(なにかねね)「そうなんだ」
梅ヶ丘 ゆりこ「田中君・・・・・・不倫なんて、田中君には似合わない」
納二科寧音(なにかねね)「あたしは勘定に入れるなっ」
どうせ田中は何か誰かにそそのかされて情報を得るために近づいて来たスパイだ。なんて言うとそれこそ頭の心配をされてしまう。
田中に焼けたパンにバターを塗り塗りしてるか聞かれたこと、
勝手に好みを決めつけてキレて帰ったこと、
正直。全部底知れない気持ち悪さの方が勝っていた。
梅ヶ丘 ゆりこ「芸能事務所にスカウトされたりして・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
梅ヶ丘 ゆりこ「永野くんみたいに・・・・・・かっこいいから・・・・・・」
百合子の好みは、あたしと違うようだ。
〇教室
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
梅ヶ丘 ゆりこ「またぼーっとして。どうしたの?」
納二科寧音(なにかねね)「はっ」
梅ヶ丘 ゆりこ「・・・・・・なんか今日、変だよ」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・ごめん、寝不足なのかな」
梅ヶ丘 ゆりこ「・・・・・・」
梅ヶ丘 ゆりこ「何か、あったの?」
納二科寧音(なにかねね)「いや・・・・・・ 何か、っていうか。学校は忙しいし母さんたちもこそこそしてるし」
『社長』に筒抜け。
家族も、クラスメイトも言いなりだし。
全部ペラペラ話してるみたいに。
気持ち悪い。
気味が悪い。
見張られている。
納二科寧音(なにかねね)「ちょっと、嫌な気分になってるだけ」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」