第94話 複数の可能性(脚本)
〇研究機関の会議室
2021年 イリノイ州 ケーン郡 エルジン市 旧避難シェルター内部 会議室
ルカ神父「本気で言ってるんですか!?ステファノ神父を『見捨てる』なんて!」
フィリポ神父「仕方ありませんよ、ステファノ神父の為にリソースを失う訳にはいけません。私は第15次潜入作戦を提案します」
シスター・アンブロジウス「私はまだ助かる芽があるならそっちに賭けたいけどね···でもフィリポ神父の案の方が『安全性』はあるわよね···」
ルカ神父「シスター・アンブロジウスまで···!シスター・カールはどうなさるおつもりで!?」
シャルル「フィリポ神父に賛同、聖人の灰(セイン・アッシュ)の人員を減らすのは避けたい」
フィリポ神父「では可決2否決2ですのでステファノ神父のGPS信号は引き続き拾い続けましょう。正直これもリスクですが···」
粛々と決まり続ける事柄に、ルカ神父は机を乱暴に叩きながら立ち上がり声を荒らげた
ルカ神父「今もステファノ神父の命が脅かされているのに、『俯瞰』する事を選択なさるのですか!?シスター・カール!」
シャルル「それが聖人会議においての掟、ボスの直命だけがこの掟を破壊できる」
シャルル「聖人会議にて『俯瞰』が選択された以上、従ってもらう。嫌なら1人で何とかして」
ルカ神父「1人でって···そんな事···!」
フィリポ神父「無理でしょうね。まぁ止めはしませんが···もし聖人の灰の人員を1人でも連れていったなら···」
シャルル「裏切り者としてルカ神父を指名手配し、ボスにも伝える」
ルカ神父は拳を作り、身を震わせながら歯噛みをする他無かった。するとモニターに『冷羅』が映し出され、皆に話し始めた
鬼月冷羅「おい、シャルル聞こえるか?」
シャルル「良好。何の用?」
鬼月冷羅「幽羅達を一時的に聖人の灰に入れろ。扱いは任せるが、あまりガチガチにルールで縛りすぎるな」
シャルル「了解」
鬼月冷羅「それと··· ··· ···調子はどうだ?錆はすっかり無くなったが、動きに支障は?」
シャルル「ないよ。前より動きやすい」
鬼月冷羅「ならいい···以上だ。通信を切る」
シャルル「··· ··· ···じゃあそういう事だから、よろしく。管轄は···ルカ神父がやって」
ルカ神父「··· ··· ···あぁ、わかったよ···」
シャルル「じゃあ聖人会議終わり。Que Jésus te bénisse(イエスの加護があらんことを)」
「Que Jésus te bénisse(イエスの加護があらんことを)」
〇地下の避難所
旧避難シェルター内部 実験室
凪園無頼「フェード足速くねー?俺全然追いつけねー!」
鸞「ハァ···ハァ···武器を一切装備しないと···こんなに···速いのか···」
エンチャント魔導法士「当然と言えば当然だな。普段大量の武器をジャラジャラ付けてワシらと並走してるんだ、武器なしならとんでもない速さに決まっとる」
エンチャント魔導法士「んで一番鈍足が斎王ってのも意外だな···キングより遅いとはな···」
凪園無頼「でも2人してひぃひぃ言いながら倒れてるし、同じようなもんじゃね?」
エンチャント魔導法士「しかし速さがフェードの長所··· ··· ···うむ···何か活かせないものか」
クロノス「クイーンは速いだけじゃない。持久力も並外れてるし、関節も柔らかいから常人じゃ怪我をするような動きもできる」
エンチャント魔導法士「うむ···となると··· ··· ···フェード、今フェードが身につけている中国拳法は『詠春拳』だな?」
フェード「あぁ。中国でミンさんと暮らしていた頃、アクション映画を沢山見てな」
フェード「そこから『独学』で覚えて、今も使っている」
エンチャント魔導法士「凄いな···映画のアクションシーンを見ただけで実用性のある技に昇華したのか···」
エンチャント魔導法士「だがフェードの長所を活かすとなれば···詠春拳より太極拳のほうがワシは合ってると思うぞ?」
クロノス「あんな年寄りの健康体操が?お前クイーンをバカにしてんのか···?」
フェード「待てクロノス、太極拳は確かにゆっくりやれば老人の健康体操にしかならんが」
フェード「速度を早くすれば『敵を倒す』武術になり得る」
エンチャント魔導法士「あまり詳しくないが···空手ひとつに流派があるように太極拳にもあるのだろう?なら自分にあった物を探さねばな」
しかしここで皆が思ってた疑問を凪園が投げかける
凪園無頼「そんな達人ここに居なくね?どーすんの?」
フェード「確かに···生憎シャルルの組織に知り合いは居ないし···うーん···」
するとクロノスがとんでもない提案をし始める
クロノス「ボクの能力でクイーンが『太極拳を極めた世界線』を見てみる?そうすればわかるかも」
エンチャント魔導法士「は···?お前『異次元の開口を開く能力』じゃないのか?」
クロノス「クイーンが悲しむと思って言わなかったけど···ボクの能力は『可能性を見る』事なんだ」
クロノス「あの異次元の開口は『あらゆる可能性の入口』、何度も通ってるクイーンなら言ってる意味わかるよね···?」
それを聞いたフェードは何か合点がいった様な顔をし、クロノスの頭を撫でながら『教えてくれてありがとう』と言い
クロノスはそんなフェードの腕を掴み『もっと触って♡』と恍惚な表情を浮かべながらフェードに求めた
エンチャント魔導法士「これ!節度を持って接しろ!」
鸞「そこじゃないだろ···早くその可能性というのを見せてやれ」
クロノス「チッ···うるせぇな···じゃあクイーン、目を閉じて?ボクは瞼の上からクイーンの目を強く押しちゃうけど」
クロノス「我慢しててね?勿論痛くしたりしないけど、もし痛いようなら···いつでも言って?ボク直ぐに手を離すから」
フェードはそれにこくりと頷き目を閉じめると、クロノスは両手を目に当てその場で静止する
皆が不思議そうに見守ると、フェードが言葉を発し始めた
フェード「何だこれ···宇宙?ゲート・ディメンションの中にいる見たいだ···」
クロノス「クイーン、後少しで色々見えてくるから待ってて」
フェード「おぉ···見える···見えるぞ!無限に広がる『映像群』が···!」
クロノス「それがクイーンのこれから歩む『可能性』の全て。数は···言わなくてもわかるよね?」
フェード「億や兆じゃきかない数だ。だがここから探すのか···?」
クロノス「目星は付いてるよ。それが···うん、それ。それがクイーンが武器を捨てて『太極拳を極めた可能性』だよ」
フェード「··· ··· ···」
そこからはフェードとクロノスの時間となった。そして長い時間の中でフェードは『何かを見た』
フェード「これは··· ··· ···そうか···私はそうなるのか···」
クロノス「あくまで可能性だから確定では無いけど、このまま行けばその『可能性』に辿り着くと思うよ」
クロノス「ボクははっきり言ってどうでもいいけど、クイーンは···『嫌だよね?』」
フェード「あぁ··· ··· ···だがひとまずは目の前の事を片付けよう」
何かの可能性を見たフェードに凪園は『何見たのー?』と問いかけるも、2人ともそれに答えることは無かった
そしてフェードは不機嫌そうにしている凪園に早速組手を申し込み、2人で訓練を始めた
そんな中クロノスはボソッと呟いた
クロノス「『Xヒーロー解体』は避けたいよね···クイーンは優しいな···」
To Be Continued··· ··· ···