情報戦(脚本)
〇武術の訓練場
ヘイサール王国から帰国してからは、あの4人全員が忙しかった
シャイローゼ様は花嫁修行と他の貴族達とのお茶会、そしてその忙しさで休んだ授業分の勉強に
胡桃はシャイローゼ様同様、花嫁修行と家の家督を継ぐ上での領事的な勉強
ノンヴィティエス様はヘイサール王国の行政に加えて結婚の準備、国王や他の貴族との怪談や謁見など
俺は蝶ヶ夜家に婿入りするための準備、前よりも増えた遠征の任務やシャイローゼ様の護衛などに追われていた
アレグラット「ふぅ・・・」
アレグラット(久々に参加出来た活動会はいつも以上に疲れている俺を苦しませている)
琉翔「ハアァァァァッ!」
アレグラット「っ・・・!」
琉翔「おいアレグラット」
琉翔「いつもより顔色が悪い。隈も前より酷くなってる。ここ最近ちゃんと休んでないな」
アレグラット「胡桃以外には気づかれなかったのに・・・まさか貴方にバレるとは」
琉翔「ふん。それだけ敵の様子をちゃんと見ているということだ」
琉翔「シャイローゼ様たちも気づかなかったということか」
アレグラット「いえ、シャイローゼ様は昨日から会っていませんね・・・かなり忙しいようで」
琉翔「それ以外にもあるだろう。何かあるなら、聞いてやらなくもない」
アレグラット「とても嬉しいのですが・・・ここでは、少々話しづらいです」
琉翔「わかった。会長、アレグラットの体調が悪そうなので救護室に連れていきます」
〇古い図書室
琉翔「ここなら、人が来ることは滅多にない」
琉翔「それで、何があった」
アレグラット「・・・まず、琉翔様が俺の話に耳を傾けようとしてくれている事に驚いています」
琉翔「おまえの悩み事の種はほぼシャイローゼ様のことだろう。それなら、俺が聞く理由にもなる」
琉翔「・・・お前以外のやつは、戦っていても面白くないしな」
アレグラット(そういえばこの方は、シャイローゼ様への行動の印象が強くて忘れていたが、根はいい人だった)
アレグラット「無礼な言動をお許しください。琉翔様」
琉翔「いい。それより話を聞かせろ」
アレグラット「実は・・・」
ミルェーツの事、前に見た夢のこと、国家レベルにならない程の話を伝えた
アレグラット「・・・ミルェーツは、確実にシャイローゼ様の結婚前になにかしてくるでしょう。ただ、今の俺では・・・」
琉翔「なぜ1人で片付けようとする?」
アレグラット「?」
琉翔「だから、何故他の者を頼らない?」
アレグラット「それ、は」
琉翔「お前はなんでも1人で抱え込みすぎだ。誰かお前にいうものはいなかったのか」
琉翔「お前を助ける、支える、協力すると。1人も居なかったのか?」
リヴェス様やシャイローゼ様、胡桃、ノンヴィティエス様、姉たちの顔が脳裏に浮かんだ
彼らが言ってくれた言葉を、俺は忘れていたのか。それとも社交辞令だと受け取っていたのか
琉翔「俺もまあ、助けてやらなくもない。ただ勘違いするなよ。シャイローゼ様のためだからな」
アレグラット「・・・素直じゃ、ないですね」
琉翔「お前は胡桃様との結婚の準備や他のことで手一杯だろう。俺もミルェーツの事について調べるからお前は他のことに励め」
アレグラット「ありがとうございます琉翔様。あなたの言葉に私は救われました。いずれちゃんとした礼をします」
琉翔「それなら、お前がミルェーツとの決着をしっかりつけるんだ。礼はそれでいい」
琉翔「とりあいず今日は休め。会長には俺から言うから早く帰るんだ」
琉翔「俺がお前に敵わないのはわかりきっている」
〇英国風の部屋
帰ってから、俺は腕も人も信用できる人達にミルェーツに関することの協力を要請した
リヴェス様は快諾してくださった。それどころか俺に教えてくれた日から更に多くの情報を手に入れたそうで、全て教えてくれた
姉達にはいざミルェーツと戦うとなった時、どちらかが参戦してくれるように頼んだ
かなり無理を言ったが、承諾してくれた
あの3人は前に話してからずっと情報を集めてくれてるので、これ以上を求める必要は無い
ダルメリヤス様とせゼルには城内に怪しい者がいたら逐一報告をしてくれるように
国王と王妃様には、シャイローゼ様とノンヴィティエス様の結婚式での警備の増員を進言した
俺はというと、ひたすら稽古をして魔道具の開発を試みていた
アレグラット「この魔石に魔力を込め続けていれば・・・」
アレグラット「はい」
使用人「国王陛下がアレグラット様をお呼びです」
胸騒ぎがした。今までの穏やかなものは嵐の前の静けさにすぎなかった
〇上官の部屋
ゼルベイク「急に呼び立ててすまないね、アレグラット。君も忙しいというのに」
アレグラット「お気になさらず、陛下。そして、用件とはなんでしょうか」
アレグラット(ノンヴィティエス様は、何故ここにおられるのだろうか)
ノンヴィティエス「実はね、ヘイサール王国の政治を主に担っていた老院が先日数人亡くなったんだ」
ノンヴィティエス「よって、僕がすぐ王になり、国の政治をまとめる必要が出てきたんだ。ここまでは大丈夫だよね」
アレグラット「はい」
ゼルベイク「僕とヴィッツ君の見解では、ヴィッツ君が王座についてから5年は事が落ち着かないと思っている」
ゼルベイク「5年も経てばローゼとヴィッツ君は22だ。王族の結婚にしてはかなり遅い」
ノンヴィティエス「だから、僕が王座につくと同時にローゼさんとの結婚も執り行う」
心臓が強く鳴った
ノンヴィティエス「2年の終業式の後だ。3年に上がる前に僕たちは結婚する」
ゼルベイク「そこでアル、君に最後の大仕事だ」
アレグラット「・・・仰せのままに」
ゼルベイク「元よりその予定ではあったが、君にはヘイサール王国で行われる結婚式に胡桃さんと行ってもらう」
ゼルベイク「そこで参列した来客のフリをして、結婚式が無事終わるよう警護を命令する」
アレグラット「恐れながら申し上げます、陛下」
アレグラット「今はまだミルェーツの動きがわかりません。その中で結婚式を早めて行うと、何が起こるか分かりません」
ノンヴィティエス「そうだね。それも考えていたのだけれど、結婚式を早めて行うことはミルェーツにとっても予想外の行動になると思っているんだ」
ゼルベイク「あぁ。この国の姫が結婚する年齢は例外を除いて18歳以上だ。だから17で結婚するのはミルェーツも予想できないだろう」
ゼルベイク「元々、結婚の準備はほとんど終わっているんだ。まだ不足の事態があるかな」
アレグラット「・・・いえ、ありません」
アレグラット(無駄なあがきをした。情けない)
ゼルベイク「あぁそれと、結婚式にはダルメリヤスも連れて行って欲しい」
アレグラット「ダルメリヤス様、ですか?」
ゼルベイク「あぁ。あの子は頭がいい。それに人をよく見ている。将来的には宰相の座につかせるつもりだ。今からそういう場所に慣れさせたい」
ゼルベイク「無論まだ不足している部分も多いが、そこは結婚式までに補わせよう。それに、戦力としては君としても申し分ないとわかるはずだ」
アレグラット「はい、異論ありません」
アレグラット(ダルメリヤス様は剣の腕が瞬く間に上達した上、補助魔法、回復魔法がお上手になられた。技量は既に他の魔道士を上回っている)
アレグラット(いざとなった時に俺がダルメリヤス様を守ることは不要だろう)
ゼルベイク「ということで、よろしく頼んだよ」
アレグラット「御意」
反論なんて、できなかった
〇城の廊下
廊下を歩いて部屋に戻っていると、後ろから足音がした
ダルメリアス「アレグラット様!」
ダルメリアス「兄上から聞きました。僕もアレグラット様たちに同行して良いと」
ダルメリアス「当日は足を引っ張らないよう心掛けますので、どうぞよろしくお願いいたします!」
アレグラット「こちらこそ、よろしくお願いします」
ダルメリアス「あ、あとそうでした」
ダルメリアス「これを」
アレグラット「・・・これは、セイルージですね。ただ少しだけ枯れているような?」
ダルメリアス「はい。先日ノンヴィティエス様とお話した際に落とされていたのですけれど、それ以来中々会えなくて」
アレグラット「先程国宝陛下と共におられませんでしたか?」
ダルメリアス「?いえ、兄上しかおられなかったです””」
アレグラット「そう、ですか。わかりました。では今度お会いした際に返しておきます」
ダルメリアス「ありがとうございます。では、僕はこれで」
アレグラット「これは一体どういうことだ・・・」
〇英国風の部屋
アレグラット「・・・ミシェルガ、出てきてくれ」
ミシェルガ「お主から呼ぶとは珍しい・・・って、あぁ。そういうことか」
アレグラット「あぁ。このセイルージからはかつてないほどにあいつの気配を感じる」
ミシェルガ「儂もあいつは好まんからな。正直あやつの気配が濃いものは感じとうなかったんだが」
アレグラット「仕方がないだろう、許せ」
ミシェルガ「全く・・・して、アルよ」
ミシェルガ「お主、ようやくあやつとの実力差を理解したようだな?」
アレグラット「・・・」
ミシェルガ「あれは全くもって嘘の実力差ではないぞ。お主はあやつに敵わん。例え仲間をいくら集めようとな」
アレグラット「正直、戦力差については同感だ」
ミシェルガ「もう1度問うぞ。お主、儂と契約をする気はないか?代償は内容次第で考えよう」
アレグラット「──なら」