九つの鍵 Version2.0

Chirclatia

第17回『Lectro of Earthquake』(脚本)

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〇黒

〇上官の部屋
  レクトロは資料に囲まれた部屋にいた。
レクトロ「そろそろ、エネルギーの抽出に丁度良い異形が孵化してくるかな・・・」
  レクトロは、身体から感情エネルギーを抽出することを得意としていると同時に、それを仕事にしている。
  最近の異形倒しはフリートウェイに任せているが、それは理由があった。
レクトロ「あの人の感情エネルギーは美味しいからなぁ・・・」
  異形倒しの後のフリートウェイの感情エネルギーを少しばかり吸収しているからだ。
  勿論、身体に影響が出ない程度に吸収しているが
レクトロ「味が変わっちゃったかもしれないんだよねぇ・・・」
レクトロ「何か余計な要素でも加えたかな?」
  瘴透水(ショウトウスイ)の服用によって、フリートウェイの中が変わってしまったらしい。
  『中』が変わると、感情エネルギーの量や質、味も大きく変わってしまうのだ。
  それは、『感情エネルギー』を主食にして生きているレクトロから見たらすぐに何とかしたい問題だった。
レクトロ(本来なら僕の仕事じゃないんだけど・・・)
レクトロ(行くかな・・・)
  あまり乗り気でないレクトロだが、暇なのとフリートウェイの身に何が起きたのか知るために、自ら異形倒しに行くことにした。
  ──第17回『Lectro of Earthquake (Part1)』

〇宮殿の部屋
  異形倒しに行く前に、レクトロはチルクラシアの部屋に寄った。
  フリートウェイとチルクラシアは、ざるそばを食べていた。
レクトロ「二人とも、元気そうで何よりだよ」
レクトロ(チルクラシアちゃんも 一応ご飯が食べられるようになったんだ・・・)
  レクトロは、チルクラシアが心配だった。
  僅か数分会うだけでも、何か食べている場面を見るだけでも、レクトロの心配は少し消える。
  ただ、安心したかったのだ。
フリートウェイ「レクトロか」
フリートウェイ「珍しいな、今日は部屋から出ている」
レクトロ「別に引きこもってなんかないよ!」
  レクトロは自らの能力のセーブと仕事のため、一日のほとんどは自室にいる。
  本当は外に出たいのだが、実際に出てしまうと何が起こるか分からないし危険がいっぱいなので諦めていた。
レクトロ「まぁ、元気なら良いんだよ」
  とは言ったものの。
  チルクラシアの体調の件はどうにもならないことだけは認めたくなかった。
  彼女(とフリートウェイ)だけでも健康体でいて欲しいのだ。
レクトロ「ねぇ、チルクラシアちゃん。 今、どんな『気分』?」
チルクラシアドール「・・・・・・・・・・・・」
チルクラシアドール「『幸福』と『眠気』」
レクトロ(やっぱり眠い・・・ 腹痛が無いだけいいよね・・・・・・)
  『幸福』、『眠気』。
  この二つの単語だけで、レクトロはチルクラシアの精神状態を察する。
レクトロ「フリートウェイ」
フリートウェイ「何だ」
レクトロ「食事の後、これを飲ませて」
  レクトロは、フリートウェイに水色の錠剤を瓶ごと渡す。
フリートウェイ「・・・? 何の薬だ?」
レクトロ「『気力を蘇らせる魔法』が込められた錠剤だよ。 あまりにも苦いから糖衣で覆っている」
フリートウェイ(魔法で気力を・・・?)
レクトロ「食後に、二錠だよ! これだけは忘れないでね」
フリートウェイ「分かった」
  フリートウェイの返答を聞いたレクトロは、チルクラシアの頭を撫でる。
レクトロ「よし、今日も生存しているね!」
レクトロ「僕は用事があるから、もう出ていくよ。 チルクラシアちゃんはフリートウェイから離れないように」
レクトロ「分かった?」
チルクラシアドール「うん」
  チルクラシアは頷いた。
レクトロ「それじゃ、行ってきます!」
  満足したレクトロは、チルクラシアをフリートウェイに終日任せて、仕事をすることにした。
フリートウェイ「レクトロは忙しそうだったな」
フリートウェイ「今日は何をする?」
チルクラシアドール「何って・・・・・・」
チルクラシアドール「んにゃにゃにゃ(『まずは薬を飲まなきゃ』)」
  錠剤を何のためらいもなく飲んでいくチルクラシア。
  4つ、しかもそこそこ大きい錠剤をあっさり飲んだチルクラシアは、フリートウェイの膝を枕にした。
チルクラシアドール「ねる」
フリートウェイ「すぐに寝ると病気になるぞ 寝るのはもう少し後な!」
チルクラシアドール(・・・・・・)

〇城の廊下
  チルクラシアとフリートウェイの様子を見て安心したレクトロは、城の廊下を歩いていた。
  ・・・といっても。
  王や何らかの特殊能力を持つ者以外の、レクトロの視認は出来ない。
  気配だけは察することは出来るだろうが・・・・・・
レクトロ「久々の異形倒しだなぁ」
レクトロ「最近は遠隔だったり、フリートウェイに任せてるからなぁ・・・ 腕が鈍っているかもしれないね」
レクトロ「身体を治すことは出来るけど、痛いのは嫌だな。 いつもより慎重に動かなきゃ」
  レクトロも、フリートウェイ同様『再生能力』を持っている。
  だが、これを使うと一発で自分が人外の存在であることがバレてしまうため、
  使うタイミングをしっかり考えなければならない。
  人外であることがバレると説明するのがとても面倒くさい。
  詰問される程度ならまだマシだが、拷問されかけたことがあるので、自分を守るために素性は隠すことになっている。
レクトロ(気配を探して・・・ 僕の意識を巡らせて)
  異形の気配は、空気の僅かな振動だけで分かる。
  地震を故意に起こすことの出来るレクトロにとって、異形の気配探知は得意分野だ。
レクトロ「・・・・・・・・・・・・・・・」

〇城の廊下
レクトロ「・・・・・・・・・・・・」
  異形の気配を察したレクトロは、天井に向かって一撃を放つ。
フリートウェイ「何事だ!?」
  数日前の雷と同じかそれ以上の威力と轟音。
  びっくりしたフリートウェイは、チルクラシアの手を繋ぎながら走ってきた。
レクトロ「『異空間』だよ。 異形のお出ましさ」
  レクトロの言う通り、天井には『異空間』へ通じる扉がくっきりと見える。
レクトロ「今回は僕に任せて欲しいな! 君はチルクラシアちゃんを頼んだよ」
  レクトロは、異空間に引き込まれるような形で行ってしまう。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
  異空間の扉が消えた天井を、呆然と見つめる二人。
フリートウェイ「・・・オレの出る幕では無いな」
フリートウェイ「さっさと部屋に戻るか」

〇結婚式場の廊下
  レクトロはただ一人異空間に閉じ込められた。
レクトロ「閉じ込められちゃった・・・」
レクトロ「別にいいよね・・・ どうってことないし」
  王やその親族が閉じ込められなくて良かった、と思いながら、異空間を歩くレクトロ。
  困惑や恐怖を感じているわけではなく、『自分だけが異空間に閉じ込められた』事実を淡々と平然と受け入れているようだ。
  穏やかな声色とは裏腹に、メガホンのトリガースイッチに右手の人差し指を軽く置き、たまにそれを強く押す。
  いつもの微笑みを浮かべたまま、異空間の壁や物を振動と衝撃波で破壊していく。
  僅かに感じた使い魔の気配さえも、レクトロは逃がさない。
  何故かって?
レクトロ「これが僕の仕事なんだよ。 悪く思わないでくれよね」

〇教会の中
レクトロ「教会かな・・・?」
  結婚式場を彷彿とさせる廊下を左に曲がると、教会の形相になっていた。
レクトロ「いいねぇ、僕はこういうのは好きだよ」
レクトロ「異空間にしては、やけにリアルだなぁ。 相当の心残りがあるんだね」
レクトロ「隠れていないで出ておいで! 僕が君をすくい出してあげるから!」
  メガホンを隠し、穏やかな笑みを見せる。
  異形に対して敵意はなさそうな笑みだが、
  口角を無理やり上げ、目は笑っていない恐ろしい笑顔だった。
レクトロ(君からの贈り物を、本心から楽しみにしているよ)
レクトロ(・・・見て見ぬ振りをして、殺めてしまったかもしれないけど)

〇教会の中
  ・・・・・・・・・
  レクトロの存在に気づいた者は、彼の目の前に立つ。
レクトロ「・・・」
レクトロ「人型の異形は初めてだよ」
異形「失礼ね! 私は人間よ、化け物呼ばわりしちゃって!」
レクトロ「そう。 君の外面は人間さ。 中身はどうだろうね?」
  レクトロは人型の異形と戦うのは初めてだ。
  そもそも、異形が人間そっくりの外見を保つことは奇異で極稀なのだ。
  だが、レクトロは『人間に擬態出来るレベルだな』としか思っていなかった。
  そこまで興味は無いようだ。
異形「中身・・・?」
レクトロ「うん。 皮を被ってるのはお互い様だよ」
レクトロ「誰にだって、言えない面も闇もあるってことだよ」
レクトロ「君はここで苦しみ続けた。 僕は苦痛から解放する役目なのさ」
  レクトロはメガホンのメガホンのトリガースイッチを押すふりをする。
  それだけでヒトの女性にそっくりの異形は怯んだ。
  レクトロの殺気に近いオーラに気づいたようだ。
レクトロ「こ、怖いのかい!? ごめんね、まだ撃つつもりはないから」
  『まだ』。
  数分後に、レクトロは必ず彼女を撃つ。
  彼女は『異形』だ。
  人を殺めた可能性はある。
  ──レクトロは彼女を『世界の敵』とだけ見なしている。
レクトロ「僕は貴女の話を聞きに来たんだよ。 正直に、全てを話してよ」
レクトロ「君の感情だけを、僕は求める。 それさえあればいいの」
レクトロ「──『全てを言って』くれないかい?」
  異形は、自らに寄り添う姿勢を見せるレクトロに、心を開いたようだ。
  最初の威嚇と警戒心はどこへやら。
  薄っぺらい笑顔を浮かべたレクトロは、
  背中にメガホン──『レクトロフォン』を隠し持つ。
  『レクトロフォン』のトリガースイッチに指を乗せ、いつでも異形の心臓を狙って撃てるように、準備をしていた。

次のエピソード:第18回『黒く侵食』

コメント

  • レクトロ回、楽しく読ませてもらいました。
    今まで見られなかった彼(?)の側面が見られて面白かったです。
    続きが楽しみです!

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