第83話 焦る気持ち(脚本)
〇広い屋上
2021年 イリノイ州 ピオリア市 ピオリア郡 シビック・センター 屋上
斎王幽羅「やっと···やっと追いついた!もうこんな事は辞めてくれレッドスモーク!」
そんな斎王の姿にヨンスは不機嫌そうにしながら振り返り話した
チョ・ヨンス「お前おちょくってんのか?バレてないとでも思ってるのか?鸞」
すると今まで斎王姿をしていたそれは、色や形を変容させ鸞の姿に戻っていた
鸞「なんだ意地が悪いな、じゃあこんな演技する必要はなかったわけだな」
鸞「だがさっきの言葉に嘘は無いぞレッドスモーク、斎王の所に···『Xヒーローに戻ってこい』」
するとヨンスは右手を鸞にかざし『また皮膚を削がれたいのか?』と鸞に返した
しかし鸞はそれには答えず、ヨンスにゆっくち近づく
鸞「俺が入ったすぐくらいにお前はXヒーローを抜けていた。俺はキングや斎王程お前を知らないが」
鸞「『お前も俺と同じくらい、俺を知らないだろう?』」
チョ・ヨンス「あぁ知らないね、だってこれから苦しんで死ぬんだもん」
チョ・ヨンス「『引き裂かれる想い!』」
ヨンスが能力を発動するも、鸞は何も無かったかのようにゆっくり近づいていた
チョ・ヨンス「な···なんで効かない!?能力は発動しているし、標的も定めているのに···!」
鸞は自身の上着をたくし上げると、なぜ能力が効かないのかヨンスは瞬時に理解した
チョ・ヨンス「ほ···包帯で服が肌に触れる部分を覆っているのか!だから···!」
鸞「素肌を見せれなくて悪かったな、お前が興奮しちゃ申し訳ないと思って包帯を巻いてきた」
鸞「お前の引き裂かれる想いは素肌と衣服によって発生する摩擦力を高めることによって、肌をヤスリのように剃って」
鸞「ダメージを与える技だ、なら素肌が触れなければいいと思ってな?こうして対策した訳だ」
鸞「言っとくが摩擦力を高めて『発火』させようとしても無駄だぞ?事前に濡らしているから服と包帯の摩擦じゃ発火はできない」
鸞「一度見た技を時間を空けてもう一度同じ相手に発動するのは『悪手』だ、俺みたいに対策されるんだからな」
チョ・ヨンス「だが直接触れれば関係は無い!あくまで衣服が触れる場所だけに包帯を巻いてるが、お前の顔には巻かれていない!」
チョ・ヨンス「お前はもう一度引き裂かれる想いを味わうんだよ!」
鸞に直接触れようと一気に距離を詰めたヨンスはあと僅かで触れられると言う瞬間
鸞が一瞬でその場にしゃがみ、地面に両手をつき下から蹴り上げた後
両足でヨンスの頭部をロックし、その場で海老反りしながらヨンスの顔面を地面に叩きつけた
鸞「鳥獣忍術『鳰(カイツブリ)』」
ヨンスを見下ろす鸞に対してヨンスは手自身の手で鼻血を拭きながら、立ち上がった
チョ・ヨンス「ちっ···!負けられない···俺は負けられない!お前みたいな『失恋を知らない』奴に負けられない!」
鸞「余程その代表とか言うのに心酔してるんだな?そいつは斎王より信用できるのか?」
するとヨンスの表情は和らぎ、鸞に代表について話し始めた
チョ・ヨンス「代表はお前らXヒーローと違って『中身のない励まし』をしなかった」
チョ・ヨンス「俺は飛び降りをして地面に顔面をブチ当てる瞬間、意識が病室に切り替わってな」
チョ・ヨンス「その時隣に代表が居てくれたんだ」
鸞(あまり詳しくは知らないが···遺体は検死した後『火葬』したと聞いてた···どうやって蘇生したんだ?)
チョ・ヨンス「代表は最初お前らと同じ上っ面で中身のない励ましをしていたよ、でも途中から代表がこう言ってくれたんだ」
チョ・ヨンス「『俺もお前と同じ、失恋している』って···相手は雪のように優しく太陽のように暖かな素敵な女性だったって」
鸞(代表とかいうのは雪月雪羅に失恋している···?聞いたこともないが···斎王なら知ってるだろうか)
チョ・ヨンス「だからこそ俺の焦燥感も疑念感も空虚感も全て理解できるって···俺はそれを聞いて『救われた気がしたんだ』」
チョ・ヨンス「そして代表は俺にこう言ってくれた」
チョ・ヨンス「『俺が恋した人を奪った斎王を殺す手伝いをして欲しい』って···そこで俺は代表に忠誠を誓ったんだ」
チョ・ヨンス「俺にはわかるぞ鸞、お前は··· ··· ···」
チョ・ヨンス「『斎王幽羅に恋をしているな?』」
鸞はその言葉を真っ直ぐ受け止め、そして何事もないように振る舞いながら返した
鸞「ふっ···動揺を誘ったつもりだろうがそれじゃ俺の心は動かないぞ?」
チョ・ヨンス「俺が嘘ついてるって?そう思うのは勝手だが···お前自身の心に嘘をつけるのか?」
チョ・ヨンス「お前の想いは届けず、一生想いを胸に秘めて生きていくのか···?無理だね」
チョ・ヨンス「お前は『愛』に飢えている、俺達恋愛敗者(ルーザーズ)と一緒だ」
最初はデタラメを言っていると耳を貸さなかった鸞も、自身の心を言い当てられ確実に動揺していた
チョ・ヨンス「辛いよな?父親はお前を見なかったし、母親はお前に愛しているようでその実」
チョ・ヨンス「お前に向けた愛は『親子』ではなく『愛玩動物』としての愛。忍者組織に預けられ、鳳凰という父の変わりに認められようと鍛え」
チョ・ヨンス「しかし鳳凰はお前を『複数いるうちの1人』としか見てなかった。そんなお前が初めて知った『本気の恋』」
チョ・ヨンス「実らせたいよな?だって欲しいんもんな」
チョ・ヨンス「『鸞という存在を人として愛してくれる存在』を」
鸞「お···俺は···俺はそんな···」
目に見えて動揺する鸞にヨンスは近づき、鸞の両手を握る。
チョ・ヨンス「なぁ···鸞『Xヒーロー裏切れよ』」
チョ・ヨンス「斎王に恋してもお前が辛い想いするだけだぜ?旅のメンバーにお前だけ女が居るならともかく」
チョ・ヨンス「フェードもいるんだろ?ならあいつとくっつくって···お前より可愛いし、スタイルもいい」
チョ・ヨンス「あ、声も高めで可愛いよな?ふとした瞬間の仕草も女の子らしくて斎王はあっちが好みだぜ?」
チョ・ヨンス「お前みたいに妊娠できない女、斎王にとってリスクでしかない。それにお前は男っぽい仕草が多いし」
チョ・ヨンス「声も低めで斎王はお前を『仲のいい友達』としか想ってない、斎王はお前の事『女』として見ることは無い」
チョ・ヨンス「なぁ頼むよ···このまま行けばお前が辛い想いするだけだって···今Xヒーロー裏切れば『楽になる』」
ヨンスの言葉は確実に鸞の内に秘めた想いを言い当て、遂に鸞は涙を流し始めた
ヨンスは鸞の様子を見て『一言言えばいい、楽になろうぜ?』と言葉を投げかける。
父に言われた『真実』は内に秘めた不安を増長させ、敵はその不安を『現実』と突きつけた
そして鸞は涙を流しながらヨンスに言葉を放った
鸞「お前の言う通りだ···俺は斎王からしたらリスクでしかない、フェードとくっつかなかったとしても」
鸞「斎王は俺よりもっと魅力的で好い人と結ばれるだろう。そうなればお前達恋愛敗者と同じ道を辿るのかもしれない···」
鸞「だが···それでも!」
鸞「この想いが結ばれなくても!俺は斎王幽羅に『尽くすと決めているッ!』」
鸞「斎王を守る盾がキングなら俺は斎王の望みのために奮う『矛』になる!」
鸞「神奈川で終わりの試練を終えたあの瞬間に、俺の中で『答えは出ている!』」
鸞は己の決意と共にヨンスに強く言葉をぶつけた。そして父が鳳凰に放った言葉と同じ言葉をヨンスに放った
鸞「烏滸(おこ:愚か者)の群れから雅たる鳥が一つ。群れはまた烏滸の一団に逆戻りかな」
するとヨンスは鸞の首に手を伸ばし、力いっぱい首を締め始める
チョ・ヨンス「クソが···!いい気になるなッ!ここまで距離を詰められてよく煽る気になったな!?」
チョ・ヨンス「お前がここで俺に勝ったとしてもお前の想いは届かない!届いたとしてもある日突然捨てられるんだよ!」
チョ・ヨンス「人なんて自分勝手だ!自分の都合で突然ハシゴを外され一生モノの傷を負わされる!」
チョ・ヨンス「『お前の恋は実らないッ!』」
自身の摩擦力を高め絶対に首から手を離せないようにしたヨンスは、どこか『過去』を思い出しながら
徐々に絞める力を強めていった。そして鸞は薄れる意識の中
『起死回生』の一打を放った
To Be Continued··· ··· ···