エピソード9(脚本)
〇渓谷
ギラノスが突然姿を消してから、しばらく警戒していたニル。しかし、未だ戻ってくる気配はなかった。
ニル「・・・なんだったんだろう」
ニル(逃げたのかな・・・。 いやでも・・・うーん)
ニルは長い息をついたあと、アイリのそばへと駆(か)け寄る。
ニル「アイリ、大丈夫?」
アイリ「え、ええ」
アイリ「衝撃で頭が揺れて動けなかっただけよ」
そう言って立ち上がろうとするアイリ。
しかし、足元がおぼつかなく、再び地面に崩れ落ちた。
そばにしゃがんだニルが声をかける。
ニル「まだ起きない方がいいよ、アイリ」
アイリ「ア、アイツは・・・?」
ニル「突然あっちの方にいっちゃって・・・」
森の方向を指したニルを見て、アイリの顔色が変わった。
ポーチからコンパスを取り出し、方位を確認する。
アイリ「・・・まずいわね」
ニル「なんで?」
アイリ「昨日のファーレン商会の人たちはハイドン帝国に向かうって言ってたわ」
アイリ「だとしたら十中八九、積荷には闘機場(とうきじょう)で飼われているギアーズのための餌があるはずよ」
アイリ「昨日のキャンプから計算すると、そろそろ彼らがこの渓谷の向こうにある道を通るはず」
アイリ「おそらく、アイツはその餌を食べにいったわ」
ニル「でも、あんなに怒り狂ってたのに・・・」
ニル「たかが餌のために、俺たちを放っておくものなのかな」
アイリ「ただの餌じゃないの、ギアーズよ」
アイリ「それも闘機場(とうきじょう)のギアーズが強くなるための特別な個体のはず」
素早い動作でコンパスをしまい、アイリが立ち上がる。
アイリ「私はもう大丈夫。 早く行かなきゃ手遅れになるわ」
ニル「分かった、じゃあ追いかけよう」
〇けもの道
なぎ倒された木や、地面に残された足跡を手がかりにギアーズの後を追う。
ギラノスはアイリの読み通りの目的地に向かって移動しているようだった。
ニル「アイリ、あれ!」
木々の隙間に、ひしゃげてズタズタになった檻が散乱している。
周りにはギアーズのパーツと思わしきものが散らばっていた。
アイリ「ッ・・・急ぐわよ!」
斜面を滑り降り、現場へと駆(か)け寄る。
商会の人間と、ギラノスに応戦する護衛のコレクターの姿が確認できた。
中には軽くはない怪我(けが)をしている者も見受けられ、戦況は悪そうだ。
ニルはふとギラノスに目をやると、違和感を覚える。
ニル「あんなツノ、あったっけ・・・?」
アイリ「・・・餌を食べて強化されたみたいね」
ギラノスの額には先ほどまでなかったツノが生えており、身体(からだ)も一回りほど大きくなっていた。
ニルが突き刺した目の傷も治っている。
ジョルジュ「アイリさん、ニルさん!」
走ってくるニルとアイリに気づいたジュルジュ=ファーレンが声を上げた。
ジョルジュ「護衛のコレクターたちでは歯が立たないみたいで・・・」
ジョルジュ「助けていただけないでしょうか!? お礼はいくらでもいたします!」
切羽詰(せっぱつ)まった声色で懇願(こんがん)するファーレンに、アイリが頷(うなず)く。
アイリ「もちろんよ。 ニル、いくわよ!」
ニル「うん!」
〇けもの道
護衛のコレクター「クッ・・・」
アイリ「アンタたち、ファーレンさんを連れて逃げなさい!」
突然現れた少女に動揺する、護衛のコレクターたち。
戸惑う彼らを放置し、アイリは双剣を抜いてギラノスへと突進した。
護衛のコレクター「おいお嬢ちゃん、やめ・・・」
慌てて制止しようとする声は途中で消え、その場の者たちはアイリの動きに目を奪われてしまう。
目にも止まらぬスピードでギアーズに剣撃を入れるその姿に、どこからか感嘆の声が漏れた。
護衛のコレクター「アイツ・・・、上級のアイリ=バラーシュだ」
護衛のコレクター「助かったぞ!」
逃げていく護衛と商人たちを横目で確認し、アイリはさらに追撃を仕掛ける。
〇けもの道
一方。アイリに気をとられている隙をついて、ニルは斜め上からギラノスに切りかかった。
狙いはというと——。
ニル「——よし」
ごり、と鈍い音が響き、ギラノスのツノが折れた。
ツノを失ったギラノスは、痛みのうちにのたうちまわっている。
そして獣のように吠えると、すぐに標的をニルへと移した。凶悪なキバがニルに迫る。
ニル「ッ・・・!」
アイリ「ニル!!」
ニル「大・・・丈夫・・・っ!」
とっさにギラノスの口に鉄剣をはめ、丸飲みは回避した。
鉄剣はギチギチと音を立てて、その刀身をしならせている。
そして、ついには圧力に耐えられなくなり、刀身が折れた。
ニル(やば・・・っ)
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