九つの鍵 Version2.0

Chirclatia

第12回『睨みを利かせた赤の目』(脚本)

九つの鍵 Version2.0

Chirclatia

今すぐ読む

九つの鍵 Version2.0
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇仮想空間
姫野晃大「えっと・・・! だ、誰ですか!」
  意を決した晃大が、相手に話しかける。
「・・・・・・・・・」
  ──第12回『睨みを利かした赤の目』
  声をかけられた『相手』はその姿を見せた。
  下半身が魚で晃大よりもはるかに大きな姿を。
  晃大の右肩に刺さっているナイフをあっさり抜き、少し下を向いている。
─────「・・・人間か」
─────「まさかオレが見えるとは想定外だな、うん・・・」
─────「オレのことは”普通の”人間なら見えないし、分からないはずなんだぜ?」
姫野晃大「お、つまり俺が特別ってこと?」
─────「特別・・・より『特殊』だな」
─────「別に見られてしまったことが嫌ということじゃ無いんだが──」

〇仮想空間
  人魚ではなくちゃんとした『人型』になったフリートウェイは晃大に近寄る。
フリートウェイ「あの姿じゃちょっと不便なんだ。 いつもの姿に戻ってみたぞ」
  晃大はフリートウェイの姿や顔を物珍しそうに見つめているが、
  発言や行動に困惑することになる。
フリートウェイ「君はチルクラシアの友人だろ?」
姫野晃大「・・・え?あぁ、そうだけど」
姫野晃大「な、何で知ってるの?」
  晃大はフリートウェイの『声』だけは聞き覚えがあったが、今まで姿を見たことは無かった。
  彼の問いは、当然のものだろう。
  だが、フリートウェイの発言は晃大の予想とは全く違う、斜め上のものだった。
フリートウェイ「──何で知らないと思っているんだ?」
???「『オレはお前たちを見ている』ぜ」
  髪と瞳の色を無意識に変えながらも、フリートウェイは晃大の質問に答えず、質問を逆に返してしまう。
姫野晃大(雰囲気も何もかもが変わっちゃった・・・怒らせたかな?)
  そんな機嫌悪そうなフリートウェイに少々怖じ気付いた晃大は、話題の中心を『チルクラシア』にして、微笑みを浮かべる。
姫野晃大「そっか。 それなら、チルクラシアちゃんに『また会おう』って言っておいてくれないかな?」
フリートウェイ「言っておこう」
  元の髪色である金に戻ったフリートウェイに、『怒り』やら『疑い』の感情は無くなっていた。
姫野晃大「・・・で、どうやってここから脱出するの?」
フリートウェイ「それはな──」
  フリートウェイは一度、指パッチンをした。

〇北極点
  フリートウェイが指パッチンをした瞬間、空間は『北極』に変わっていた。
姫野晃大「寒っ・・・!」
姫野晃大「え、急に氷河地帯になってる! 何で!?」
フリートウェイ「ここは『異空間』だからな。 ただそれだけの理由だ」
フリートウェイ「ほら、上着だ。着ろ」
  フリートウェイは寒そうにしている晃大のために(半ば仕方なく)コートを作り、投げ渡す。
  寒すぎて死んでしまいそうな晃大は躊躇いなくコートを着た。
  が、さっきまで着用していた服装も別のものに変わってしまった。
姫野晃大「ありがと・・・ 何故か服ごと変わっちゃったけど」
姫野晃大「で、オレは何をすれば良いの?」
フリートウェイ「そこに大人しく留まっていればいいんじゃないか?」
  フリートウェイは人間である晃大を守るためか、透明なバリアを張り彼を守ることにしたようだ。
姫野晃大「えぇ~・・・ オレ、ちょっとは役に立てると思うけど・・・」
  すぐ不満を言う晃大だが、
フリートウェイ「動くな。大人しくしとけ 死ぬぞ」
姫野晃大「はい・・・」
  フリートウェイの鋭い目付きに怯んでしまい、バリアの中で大人しくしていることになった。
  ──それでも。
姫野晃大「無理だけはしないでよ!」
  『優しさ』を持つ晃大は、フリートウェイを気遣う発言をする。
  もし、フリートウェイに何かあったら自分が助けに行けるようにバリアを破壊しようと両手をバリアの壁に当てた。
フリートウェイ「オレが死んだら、お前は永遠に帰れないからな。死なないぐらいに戦うよ」
  釘を刺されたフリートウェイは、異形との戦いのために『刀身』を生み出すと
  走り去ってしまうのだった。
姫野晃大「だ、大丈夫かなぁ・・・」

〇北極点
  ─晃大の不安は、ある意味的中していた。
フリートウェイ「やるじゃねぇか」
フリートウェイ「そういうのは嫌いじゃないぞ」
  フリートウェイと異形との戦いは、若干異形が有利だ。
  自分が不利な状況であることを誰にも感じられぬように、フリートウェイはいつも通りに対応していた。
フリートウェイ「・・・何故受け身のままなんだ?」
フリートウェイ「何か隠しているんだろ?」
  異形がいつまでたっても受け身なことに違和感を抱いたフリートウェイは脅してみることにした。
  微笑んだ異形は、フリートウェイにタブレットの画面を見せた。
フリートウェイ「・・・何のつもりだ」
フリートウェイ「・・・・・・・・・!!」
  画面を見つめたフリートウェイは驚いた表情を浮かべたまま画面に釘付けになってしまう。
フリートウェイ「クソが!!余計なものを見せやがって!」
  画面に釘付けになっていたが、すぐにタブレットの画面を殴って破壊した。
  ──ここまではまだ良かった。
フリートウェイ「!」
  左腕を後ろから思いっきり掴まれる。
  強い力で引きちぎろうとしているようだ。
フリートウェイ「離せ!!!」
  掴まれた左腕に向かって、刀身をリボンのように巻き付ける。
フリートウェイ(千切られるくらいなら自分で・・・!)
  巻き付けた刀身を、左腕の下半分と手首に食い込ませていく。

〇黒

〇北極点
フリートウェイ「・・・・・・」
フリートウェイ「・・・調子乗んなよ」
フリートウェイ「こうしたのもお前のせいだ、 タダじゃ済まさねぇからな・・・」
  左腕の下半分を自分で千切ってしまった。
  勢いよく腕から出た大量の血液が地面を真っ赤に染めていく。
  鉄の匂いが異空間を充満する。
  フリートウェイはふらつきながらも立ち上がった。
フリートウェイ(これは流石に堪えるなぁ・・・)
  いきなりの大量失血と左腕からの痛み。
  これには再生能力による対応もすぐには出来ない。
フリートウェイ「今日は事情があるんだ、負けられないんだよ」
フリートウェイ(お前らさえいなければ・・・そうだ、チルクラシアが楽になれる)
  チルクラシアを守ることしかほぼ頭に入っていないフリートウェイは、自分を顧みない。
  左腕の怪我を治し出血を止める。
  が、貧血か身体に上手く力が入らない。
  ・・・ただの誤魔化しになってしまった。
フリートウェイ(ちょっとヤバイか?)
  再生能力を持ち、多少の損傷なら影響がほとんどないフリートウェイも、流石の命の危険を感じていた。
  大量失血とそれによる貧血。
  極寒で身体がどんどん冷えていく。
  普通の人間ならばもう死んでいるだろう。
フリートウェイ(せめて、あのガキだけは逃がしておくべきだったな。 やらかした)
  『晃大だけは逃がしておくべき』だったと後悔したフリートウェイは完全に身体が脱力して崩れ落ちてしまう。
  フリートウェイが『後悔』の感情を認識した直後、彼の感情で構成されている刀身『そのもの』が消えてしまった。
フリートウェイ(──消え、た)
  『戦意喪失』──即ち、感情エネルギーの喪失や変質、実体化の不可能、体力の不足や飢餓状態などによる戦闘不能。
  これは、最も避けなければならない状態である。
  早く何とかしなければ、この異空間で死ぬことを待つしかなくなってしまうだろう。
フリートウェイ「疲れた・・・」
  寒気と眠気と疲労を感じたフリートウェイは『いっそのこと寝てしまおうか』と考えていた。
  気持ちが逸れて余計なことを考えているうちに、フリートウェイの首の後ろに
  ──銃が突きつけられていた。
フリートウェイ「おいおい、冗談だろ?」
  片腕のほぼ全てを失ってしまったせいで、抵抗らしい抵抗も出来ない。
  あれだけ派手に流血してしまった挙げ句、まともに戦えなくなったのだ。
  ──これは、もう・・・

〇北極点
姫野晃大「うりゃぁ!!!」
  劣勢どころか瀕死に追い込まれているフリートウェイを見ていられなくなったのか、晃大は素手でバリアを破壊していた。
姫野晃大「助けに行かなきゃ!」
  感情の昂るままに、晃大は光の槍を大量に降らせ始める。
  それがフリートウェイに当たる可能性があることや彼が『光を苦手にしている』ことを知らないまま・・・・・・

〇北極点
フリートウェイ「・・・?」
  晃大がバリアを破壊した音を聞いたフリートウェイは彼のいる方向を見つめる。
フリートウェイ「・・・あいつが何か壊したのか?」
  フリートウェイは自分が張ったバリアは余程のことがない限り壊れないだろうと甘く見ていた。
フリートウェイ「おっと!」
  自分を狙って向かってきた光の槍をあわてて弾き、異形の体に命中させる。
  その場で勢いをつけずにバク宙して、大量に降ってくる光の槍の軌道を確認と自身に当たらないように回避した。
フリートウェイ「あいつ・・・射程範囲を把握してないな」
フリートウェイ「──だが」
フリートウェイ「少しだけなら時間を稼いでくれるかも・・・」
フリートウェイ(大怪我させるかもしれないが・・・ 賭けてみるか)
フリートウェイ「・・・悪いな。助かったぜ」
  晃大が光の槍を降らせ続けている間、フリートウェイは回復に専念することにした。

〇北極点
  晃大は体力の限り光の槍を降らせようとしていた。
  故に、気づくことは出来なかった。
姫野晃大「しまった!」
  いつの間に近づいていた異形が、晃大の両腕を掴んで引き千切ろうとしている。
  腕を掴まれた瞬間、晃大は光の槍を生み出せなくなってしまった。
姫野晃大(死んじゃう死んじゃう! あの子は何してるんだろ!?)
  両腕を掴まれ、両足は宙ぶらりんになって抵抗できなくなってしまった晃大はまばたきを何度もしていた。
  異形は、晃大にタブレットの画面を見せつける。
姫野晃大「え、見ろってこと?」
  異形が持つタブレットには『対象のトラウマになっている過去』がカラーで、若干誇張されて映っている。
  フリートウェイがすごい剣幕でタブレットを破壊したのは、知らないはずの『記憶』の一部を見てしまったからである。
  異形の言われるがままに画面を見てしまったら、発狂してしまうだろう。
姫野晃大「見ちゃいけない気がするなぁ・・・」
  画面を決して見るな!!!
  発狂するぞ!
  こんなものは壊してしまえ!
姫野晃大「は、発狂? 本当に壊せば良いの?」
  晃大は、このヤバそうなタブレットを破壊してみることにした。
姫野晃大「えい!」
  両腕をがっちり掴まれているため、蹴ってタブレットを破壊した。
姫野晃大「壊したよ!これでいいかなぁ?」
  『ありがとな、後はオレに任せろ』

〇北極点
フリートウェイ「あいつの中まで暴こうとするな。 お前には知らなくて良い情報だ」
  晃大のおかげで何とか行動に支障が出なくなるまで回復ができたフリートウェイ。
  自分の血で赤い刀身を『作り直して』出現させ、異形をその場に拘束した。
  自分の『中身』を少しでも見られたかもしれないと思い、露骨に怒りを露にする。
  ただでさえ機嫌が悪いのに、更に彼を怒らせてしまえば、命などないだろう。
フリートウェイ「・・・あ? 『許して』だって?」
フリートウェイ「オレから時間を奪いやがって・・・ 許すわけないだろ」
フリートウェイ「死んで償え!!!」
  すっかり『怒り』に頭と精神を支配されたフリートウェイは、気がすむまで異形をボコボコにしている。
  ──そんなおぞましい光景を見ている晃大は
姫野晃大「うわぁぁ~・・・・・・・・・」
  おそらく一番相応しいであろう反応──
  ドン引きしながら棒立ちしていた。

〇中東の街
  異形を倒し元いた場所に戻った時には、日が暮れるどころか、夜になっていた。
姫野晃大「あー、死ぬかと思ったよぉ!」
姫野晃大「助けてくれてありがとう!」
  笑顔を浮かべてお辞儀をする晃大。
  だが、踞るフリートウェイは両目を閉じていた。
フリートウェイ「・・・・・・」
フリートウェイ「勘違いするなよ」
フリートウェイ「オレはお前のために戦っていないし、そのつもりもない」
フリートウェイ「お礼を言いたいのはオレの方だ。 君がいなければ状況は悪化していただろう」
  両目を閉じていたフリートウェイは、
  ゆっくりと目蓋を開ける。
  視界から入ってくる光が嫌になるほど眩しく感じた。
フリートウェイ「・・・だが、お前の行動のせいでオレはかなり辛かったんだからな」
姫野晃大「えぇ!?お、俺のせい?! 何かしちゃったかなぁ・・・・・・」
  心当たりがない晃大。
  異空間に無理矢理転送され、初対面のフリートウェイとの連携もほぼバッチリだったはずだ。
  ──だが、フリートウェイが終始機嫌悪そうに顔を歪ませていたことが、晃大の唯一の気がかりだった。
フリートウェイ「無知とはある意味一番恐ろしいな」
フリートウェイ「お前、光の操作が出来るだろ」
  フリートウェイは、姫野晃大の『固有能力』を一発で当てる。
フリートウェイ「その制御が出来ていない。 オートで光の奔流が漏れ出ているからか、お前が眩しく見えるんだ」
姫野晃大「眩しく見える・・・?」
姫野晃大「俺が『光源そのもの』になって見えるってこと?」
  フリートウェイは少し間を空ける。
フリートウェイ「んー・・・ まぁ、そうだな」
フリートウェイ「お前は能力を『使用する』ことよりも『制御する』ことに暫くは専念した方が良い気がするな」
  フリートウェイの警告は、晃大にはあまり届かない。
  晃大も、この『光を操る』能力はつい最近目覚めたばかりで使い方やら制御の方法があまりよくわからない。
  上手くコントロールが出来ないためか無意識で使い続けてしまっているのだ。
姫野晃大「せ、制御って・・・・・・」
姫野晃大「出来るかなぁ・・・」
  晃大の『弱音』を聞いたフリートウェイはため息をついた。
フリートウェイ「違う。 そういうことじゃない」
フリートウェイ「お前は、思い違いをしている」
  再び目を開けたフリートウェイは、閃光による苦痛を僅かに表情に浮かべていた。
  彼にとって、晃大の持つ『光の操作』という能力は、一番苦手で嫌いで避けたいものだからだ。
フリートウェイ「すぐに『やらなければならないこと』なんだよ」
フリートウェイ「お前の『その能力』はいつか、オレらを殺すぜ」
姫野晃大「う・・・」
  ここまでハッキリと言われてしまうとは思わなかった晃大は詰まってしまう。
フリートウェイ「ま、これはただの『忠告』だし、受け入れるかは君次第だ」
フリートウェイ「ただ、オレは今のお前に干渉はしたくない」
フリートウェイ「──オレは光が苦手なんだ。 光源の近くにはわざわざ行きたくないな」
  言い切ったフリートウェイは、晃大を置いてきぼりにして後ろを向いて走り出そうとした。
姫野晃大「待って! せめて、名前を教えてよ」
フリートウェイ「・・・・・・・・・・・・」
  止められたフリートウェイは振り返る。
フリートウェイ「・・・もう会うことなど無いかもしれないのに?」
姫野晃大「そんなこと言わないでよ!」
姫野晃大「数分間一緒にいるのに、自己紹介はしてなかったね? 俺は姫野晃大っていうの。よろしくね」
フリートウェイ(名前なんて・・・・・・然程、意味のないものだと思うがな・・・ まぁ、仕方ないか)
  フリートウェイは名前を聞かれたことに戸惑うが、『名乗られたからには名乗り返さなければ失礼』という常識は持ち合わせている。
フリートウェイ「オレはフリートウェイ。 ・・・ただ一人のために異形倒しをする男さ」
フリートウェイ「あまり詮索してくれるなよ? オレと君はただの『知り合い』にすぎないんだから」
  晃大に釘を刺しておくと、フリートウェイは走り去ってしまった。
姫野晃大「あー・・・行っちゃった」
姫野晃大「聞きたいことがまだあったんだけどなぁ・・・ うーん・・・・・・」
  晃大はフリートウェイの『忠告』を聞き入れることにした。
  ・・・のは良いのだがどうやって自身の能力の制御をするべきか分からない。
姫野晃大(また会えたら聞こう! 今日は貴重な経験をしたな~♪)
  気持ちを切り替えた晃大は、帰路へつく。
  その足取りはとても軽かった。

〇貴族の部屋
  帰ってきたフリートウェイは、処置室には行かず、チルクラシアにも会わず、自室に直行した。
  機嫌悪そうに勢いよく扉を閉めると、ベッドに横たわる。
  部屋の電気は付けず、光そのものを出来るだけ避けるかのように目元を右手で覆い、
フリートウェイ(あのガキ・・・!!)
フリートウェイ(あいつのせいだ、 あのガキのせいで頭が痛い・・・!)
  物凄い分かりやすく晃大へ悪態を吐くが、しばらく具合が悪くなりそうのは事実である。
  だからこそ、心の中で悪態を吐くことしか出来なかった。
フリートウェイ「ヴゥ・・・」
  あまりの苦痛か『ガチン!』と歯を鳴らす。
フリートウェイ(こんな姿はチルクラシアには見せられねぇなぁ・・・)
フリートウェイ(早く治さねぇと・・・)
  チルクラシアが元気になって動けそうになるまでに、自分の不調も治すことを誓ったフリートウェイだった。

次のエピソード:第13回『ショコラートル・ドール・スペアボディー』

コメント

  • フリートウェイの秘密がまた一つ見えたかもしれない。
    姫野くんは可愛いなぁ。
    今回の異形は何となく可愛く見えてしまったよ。
    次回も楽しみにしております。

成分キーワード

ページTOPへ