双つの顔のお狐様

北條桜子

第19話『鵺の正体』(脚本)

双つの顔のお狐様

北條桜子

今すぐ読む

双つの顔のお狐様
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇古びた神社
遠山陽奈子「どうして烏丸くんがここにいるの? 私のこと、追ってきたの?」
烏丸陸人「ずっとこの神社を探してたんだけど、僕1人じゃ見つけられそうになかったからね」
烏丸陸人「遠山さんのこと、つけさせてもらったんだ」
遠山陽奈子「な、何のために?」
  烏丸くんの、いつも通りの爽やかな笑顔が怖い。
烏丸陸人「どうしても、そこの狐に会いたくてさ」
遠山陽奈子(烏丸くんが満弦に? どうして? なんか、おかしい)
遠山陽奈子「あ、あなた・・・本当に烏丸くん?」
烏丸陸人「あはは、変なこと聞くなぁ。もちろん正真正銘、烏丸陸人だよ。この体はね」
遠山陽奈子「か、体はって、どういう・・・」
満弦「そうか。だからわしにも、こやつの気配が辿れなかったのか」
遠山陽奈子「満弦? 何? どういうこと?」
満弦「姿こそ、人間以外の何者でもないが、こやつの正体は・・・こやつこそが、陽奈子をつけ狙っていた鵺だ」
遠山陽奈子「烏丸くんが鵺!?」
満弦「大方、烏丸という男の肉体を乗っ取り、その力と本性を隠していたといったところであろう。違うか?」
遠山陽奈子「嘘でしょう? 嘘だよね?」
  言葉とは裏腹に、烏丸くんが作る、張り付いたような笑顔に背中がざわついた。
  私の知ってる烏丸くんとは違う“何か”が、目の前にいるのだと全身で感じていた。
烏丸陸人「人間の体は本当に便利だったよ。 僕の力をすっかり隠すのに最適の器だ」
烏丸陸人「おかげで、水神も狩ることができた。 この辺りの主要な妖怪たちもね」
遠山陽奈子「あなたが水神を?」
満弦「大喰らいの悪食め」
烏丸陸人「仕方ないじゃないか。 それが僕の生き方なんだから」
烏丸陸人「神も妖怪も人間も、全て喰らいつくして力を取り込む。そうやって生まれた僕らは、他に存在し続ける方法を知らない」
遠山陽奈子(だからって、水神を食べてしまうなんて!)
  昔、何かの伝承で読んだことがある。
  猿の頭に、狸の胴体。
  虎の手足を持ち、蛇の尾を持つ異形の妖怪。それが鵺なのだと。
遠山陽奈子「つまり、鵺の体が異形なのは、たくさんの妖怪を食べてきたから・・・?」
烏丸陸人「そうだよ! ほら、この通りね!」
遠山陽奈子「!!」
  嬉しそうに答えたと思った途端、烏丸くんの体が変化した。
  狸や虎や蛇どころではない。竜を思わせる鉤爪に、朱雀のような羽根をつけたその姿は、まさに異形そのものだった。
満弦「本性を現したか。貴様、水神だけでは飽き足らず、あちこちで神喰いをしておるようだな」
満弦「なるほど、真の狙いは陽奈子ではなく、このわしか?」
遠山陽奈子「えっ・・・? それじゃあ、私を狙ったのは満弦をおびき出すため?」
遠山陽奈子「そのために、私を利用したの!?」
鵺「いやだなぁ。もちろん遠山さんの霊力も頂くつもりだよ? その狐の言う通り、僕は大喰らいだからね」
鵺「2人ともたっぷり味わって、僕の中でひとつに混ぜてあげるよ」
  言うや否や、竜のような手を満弦と私に向けてかざす鵺。
  その途端、凄まじい風が吹き荒れ、私はたちまち飛ばされそうになってしまう。
遠山陽奈子「きゃあああ!」
満弦「くっ・・・陽奈子!」
  すぐさま、風を遮断するように私の前に満弦が立った。
遠山陽奈子(でも、これじゃ満弦が動けない!)
鵺「彼女を守りながら、僕と戦えると思ってるんだ? 僕を甘く見過ぎじゃないかな」
  案の定、鵺は動けない満弦を狙い撃ちするように、突っ込んできた。
満弦「うぐっ!?」
遠山陽奈子「満弦!!」
鵺「あははは。 まさかこの程度では死にはしないよね?」
満弦「この ──下衆がッ!」
鵺「おっと」
  満弦の反撃をひらりとかわして、離れる鵺。その竜の鉤爪が、満弦の血でべったりと赤く染まっていた。
遠山陽奈子(あんなに血が!)
  気づくと同時に、私に背を向けたままの満弦が片膝をついた。
遠山陽奈子「満弦!」
満弦「動くな陽奈子! 不用意に動けば、守りきれぬ!!」
遠山陽奈子「でもっ」
満弦「死にたくなければ、言う通りにしろ!」
鵺「エラそうな言い方しちゃって。 そんなだから人間に逃げられるんだよ」
満弦「だ、黙れ・・・!」
鵺「君の噂は知ってるよ?」
鵺「その昔、大好きだった人間と永遠を約束したのに、妖怪を殺し過ぎたせいで怖がられて逃げられたんだってね?」
満弦「五月蠅い」
鵺「だから遠山さんのことも、捨てるつもりだったんだよね? また逃げられるなんて、耐えられないもんね?」
満弦「黙れと言っているのが、聞こえないのか!!」
鵺「──ぐがっ!?」
  満弦の咆哮と共に、鵺に向かって鋭い風が吹き荒れた。
  激しく上下する満弦の背中から、彼の怒りと、だからこその消耗が見て取れる。
  しかし、その攻撃も鵺にはまともには効いていないようだった。
鵺「ああ、いいね。まだこんなに力を残してたとは思わなかったけど・・・」
鵺「これでこそ、神を名乗る者の力! 僕が手に入れたい、力!」
鵺「その力、僕に寄越せッッ!!」
  ──ドンッ!
  鵺が羽根を広げたと同時に球形に衝撃が広がり、私と満弦は否応なく弾き飛ばされた。
遠山陽奈子「あうっ!」
満弦「うっ・・・くぅ・・・! 陽奈子・・・!」
  ボロボロの社殿(しゃでん)に体を叩きつけられて、私の体は地面に投げ出されてしまった。
遠山陽奈子「み、満弦・・・!」
  ガクガクと震える腕で、何とか上半身を起こそうとするが力が入らない。
  それでも何とか顔を上げる。
  同時に、私の目に飛び込んできたのは残酷な光景だ。仰向けに倒れる満弦の胸元を、鵺が踏みつけにしていたのだ。
満弦「うあああああ!」
鵺「無様だなぁ。まるで芋虫だね」
  か弱い生き物を愛おしむような声とは裏腹に、足に力を込めていく鵺。
  その度に、満弦の口から痛々しい悲鳴が漏れた。
遠山陽奈子「やめて・・・やめて! 満弦を離して!」

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

次のエピソード:第20話『お狐様の花嫁』

成分キーワード

ページTOPへ