第18話『最後の口づけ』(脚本)
〇図書館
遠山陽奈子(祈りが足らなくなって力が弱まってるから、私と結婚して霊力を補充する必要があるって、満弦は言ってた)
遠山陽奈子(あれってつまり、霊力の補充ができなかったら、死んじゃうってことだったの!?)
それで納得がいった。
満弦がやたらと“婚姻の儀”・・・つまり私と契りを交わそうと焦っていた理由。
全ては、生き残るためだったのだ。
遠山陽奈子「わ、私・・・私、すぐに満弦を探さないと!」
烏丸陸人「ま、待って! 探すって、遠山さんはあの人がどこにいるのか知ってるの?」
遠山陽奈子「たぶんだけど、満弦は自分の神社に戻ってると思う。だから」
烏丸陸人「月ノ森神社の場所なんて、どこにも記録はなかったんだよね? 場所が分からないんじゃ探しようがないよ」
遠山陽奈子「それは大丈夫。 私、あの神社に行ったことがあるから」
遠山陽奈子「大学の裏山の中にあるの」
烏丸陸人「ええっ? そんなところに!?」
烏丸陸人「フィールドワークで、裏山の中は何度も歩いたけど神社なんて見かけたことあったかな」
遠山陽奈子「間違いなくあるの!」
烏丸陸人「あ・・・もしかして、力が弱ってきて、無闇に悪いものが寄ってこないように、結界みたいなものを張ってた、とか?」
遠山陽奈子「え?」
烏丸陸人「いや、神様ならそういうこともできるのかなって思っただけなんだけど」
遠山陽奈子「そう・・・なのかも」
思い返してみれば、裏山で迷っていた私の前に、月ノ森神社は突然現れた。
烏丸くんの言うことが正しいなら、あれはきっと満弦が私の霊力に気づいて招き入れてくれたということだったんだろう。
遠山陽奈子(それって、満弦の目当てが最初から私の霊力だったかもってことだよね)
遠山陽奈子(でも、そんなの、どうでもいい!)
遠山陽奈子「烏丸くん、私、満弦を助けに行ってくる!」
烏丸陸人「うん。僕には何もできないけど、気をつけて・・・!」
遠山陽奈子「ありがとう、烏丸くん!」
私は図書館に烏丸くんを残し、その場を飛び出した。
〇森の中
遠山陽奈子(月ノ森神社にたどり着く前、みんなとはぐれたのは確かこの辺だったはず)
遠山陽奈子(ってことは、ここから林の中に入って行けば見つかるかも)
人気のない山道を、奥へ奥へと歩き進めていく。
あの日と同じ薄暗い森の中には、ザワザワと枝葉のこすれるような音が溢れていた。
あの日と違っていたのは、そこかしこから聞こえてくる“人ならざるモノ”の声が、優しいことだ。
妖怪の声「あっち。あっちだよ」
遠山陽奈子(妖怪の声、だよね? でも、からかうような感じじゃない。私を案内してくれてる?)
妖怪の声「神様、弱ってる。本当はずっと待ってる。早く行って」
同時に、風が駆け抜けていった。
草木が、まるで道を作るように方向を示してくれる。
その先に、ぼんやりとした光が見えてきた。
遠山陽奈子(あった。満弦の神社!)
〇古びた神社
遠山陽奈子「満弦! どこにいるの!?」
あの日と全く同じ、今にも崩れそうなほどに廃れてしまった神社の中に飛び込んだ。
するとすぐ、社殿(しゃでん)の前に、うずくまる満弦の姿を発見した。
大人の姿を保ってこそいるが、今にも光に溶けて消えてしまいそうに弱々しい有り様だった。
遠山陽奈子「み、満弦! 大丈夫 !? しっかりして!」
満弦「陽奈子・・・? 何故、此処に? 誰の目にも止まらぬよう、神社ごと隠したはず・・・」
満弦「いや、そうか。もはや社を守る力が残されておらぬほど、わしは弱っておるのだな」
遠山陽奈子「そ、そんな」
満弦「これでわかったであろう? わしにはもう、残された時間などない」
満弦「此処が神域ゆえ、元の姿でいられるものの・・・。もはや神としての神力も、妖怪としての霊力もつきかけておる」
遠山陽奈子「妖怪としてのって・・・それじゃ、やっぱり満弦は・・・」
満弦「さよう。お主の指摘したとおり、わしは元々ただの野干(やかん)。野良の妖狐だった」
遠山陽奈子「あんなに聞かれたくなさそうだったのに、どうして・・・」
満弦「間もなく消えようというのに、今さら隠し立てしたところで意味もあるまい」
遠山陽奈子「き、消えるだなんて言わないで!」
満弦「人の祈りが得られなくなった今、わしに残された道は他にはない。だからお主も、早々に此処から立ち去れ」
遠山陽奈子「何よ・・・せっかく会えたのに!」
遠山陽奈子「言ってよ! もう一度、私を嫁にするって!」
遠山陽奈子「私が満弦と結婚すれば、満弦は助かるんでしょ!?」
満弦「そうしてまた、いつかわしを畏れてお主が離れてゆくのを見ていろと言うのか?」
遠山陽奈子「え?」
満弦「わしは・・・人間との共存を望み、人間に崇められ、神と為って人間を守って生きてきた」
満弦「しかしそうして得たのは、人間たちの愛情だけではない! 恐怖と嫌悪だ!」
満弦「人間に仇名すモノたちを引き裂き、この手を血に染めるたび、お主ら人間はわしを畏れる。離れてゆく」
満弦「そうなった時、わしには・・・お主の心を留めておく方法などないではないか!」
満弦の言葉で、見たことのないはずの光景が脳裏に浮かんだ。
それは、満弦の前から着物を身につけた女性が逃げていくというものだった。
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