双つの顔のお狐様

北條桜子

第17話『狐神の宿命』(脚本)

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〇大学の広場
遠山陽奈子(昨日、満弦が言ってた「時間がない」って、どういう意味だったんだろ)
遠山陽奈子(嫁娶りに期限があったとか?)
遠山陽奈子(でも、だったらきっと最初にそれを言ったはずだし、もっと早い段階で無理にでも結婚に持ちこんだはずだよね)
遠山陽奈子(だとしたら、あと考えられるのって・・・)
  1人、昼下がりの大学の中庭で考え事をしていた私は、胃の奥が重くなるような気分になった。
  結局、満弦は公園で再び姿を消したきり、私の前には現れなくなった。
遠山陽奈子(あんなにフラフラになって、きっと力だって使い果たしてるはずなのに)
  ダメ元で家に用意しておいた、満弦の好きな和食にも手を付けた様子はなかった。
遠山陽奈子(やっぱり、あそこに行ってみるしかないよね)
遠山陽奈子(満弦が帰る場所なんて、他にはないもん)
  私が思い浮かべたのは、ボロボロの神社だ。
遠山陽奈子(でも、そこで満弦に会えたとしても、満弦の気が変わる保証なんて何もない)
遠山陽奈子(そこでもう一度、ハッキリ拒絶されたら私・・・)
  ズキリと胸に痛みが走って、私は思わず深いため息をついた。すると──
大石梨花「幸せが逃げるぞー」
遠山陽奈子「り、梨花・・・!」
大石梨花「ようやく大学に顔を出したと思ったのに、深刻そうな顔しちゃって」
大石梨花「まぁだ、男のことで悩んでるわけ?」
大石梨花「女にそんな暗い顔させる男、あたしは大反対なんだけどなー」
遠山陽奈子「う・・・言い返す言葉もないデス」
遠山陽奈子「けど、まだ、諦めたく・・・ない!」
  改めて口にしてみて思う。
  このまま満弦とさよならするなんて、私にはできそうにない。
大石梨花「どうしても?」
遠山陽奈子「どうしても!」
大石梨花「そこまで言うなら、しゃあないな」
遠山陽奈子「呆れてる、よね? ごめんね。 散々心配かけてるのに」
大石梨花「べっつにー。そりゃ、見てるこっちはハラハラさせられるし、もっと違うヤツに目を向けりゃいいのにとも思うけど」
大石梨花「人の気持ちなんて、簡単には変えられないじゃん?」
遠山陽奈子「うん。そう・・・思う」
大石梨花「だったら、突き進むしかないでしょ」
大石梨花「ま、いざとなったら骨くらい拾ってやるからさ」
遠山陽奈子「うん。ありがとう、梨花」
大石梨花「ただ、そうなるとあっちも早めにケリつけないとなんだよねぇ」
遠山陽奈子「え? あっちって?」
大石梨花「あ・い・つ」
  そう言って、梨花が指さした先には、烏丸くんが立っていた。
遠山陽奈子「なんで、烏丸くん?」
大石梨花「え、それマジで言ってんの?」
遠山陽奈子「どういう意味⁇」
大石梨花「はぁ・・・マジで何にも気づいてなかったとか・・・。あたしは応援してたんだけどなぁ。いらんお節介して悪かったかなぁ」
遠山陽奈子「え? え?」
大石梨花「気持ち固めたとこ悪いけど、話だけは聞いてやって」
大石梨花「じゃ、あとはよろしく~」
遠山陽奈子「えええ? 梨花⁇」
  困惑する私をよそに、梨花が立ちあがる。
  すると、待ってましたと言わんばかりに烏丸くんがこちらに近づいてきた。
烏丸陸人「遠山さん、ちょっといいかな?」
遠山陽奈子「う、うん」
遠山陽奈子(話を聞いてやれって、烏丸くんのってこと? 昨日のことだったら、どうしよう)

〇図書館
烏丸陸人「もう気付いてると思うんだけど」
  図書館にやってくると、周囲に人がいないことを確認してから烏丸くんが口を開いた。
  どこか気まずそうな顔をしている。
遠山陽奈子(や、やっぱり、昨日のこと・・・!? 烏丸くん、何も言わずに帰ったから、てっきり鬼のことも覚えてないと思ってたけど)
遠山陽奈子(どうやって説明しよう・・・)
烏丸陸人「遠山さん!」
遠山陽奈子「は、はいっ!?」
烏丸陸人「僕、遠山さんのことが好きです!」
遠山陽奈子(ほらー! やっぱり昨日のアレは何だったのって・・・え?)
遠山陽奈子「か、烏丸くん、今なんて?」
烏丸陸人「えっ!? も、もっかい言うの!?」
烏丸陸人「だから・・・その、遠山さんが好き、なんだけど」
  見る見る烏丸くんの顔が赤くなる。
  私は、それを見てようやく、彼が口にした言葉の意味を飲みこんだ。
遠山陽奈子「え・・・──えっ? ええっ!?」
烏丸陸人「そ、そんなに驚くんだ」
遠山陽奈子「だ、だって!」
遠山陽奈子(烏丸くんって、梨花が好きだったんじゃないの!?)
烏丸陸人「僕が遠山さんを好きだったなんて、微塵も感じなかったって、顔だね」
遠山陽奈子「え、えっと、その」
烏丸陸人「いいんだ、ダメなんだろうっていうのは知ってたから」
遠山陽奈子「し、知ってたって?」
烏丸陸人「遠山さんは、昨日の彼が好きなんだよね?」
  真っ直ぐな烏丸くんの目と、その言葉にドキリとする。
  やっぱり彼は、昨日のことを覚えているのだろうか。しかも、その口ぶりからは満弦のことすら気づいているようだった。
遠山陽奈子「な、なんのこと?」
烏丸陸人「誤魔化さなくていいよ。 僕、実は見ちゃったんだよね」
烏丸陸人「遠山さんが、狐みたいな耳をした男の人とキスしてるとこ」
遠山陽奈子「っっ・・・!!」
遠山陽奈子(あ、あああれを、見られてたの!?)
  顔から火が出るほど恥ずかしい。
烏丸陸人「ごめんね、黙ってて」
遠山陽奈子「う・・・いえ、こちらこそ、何だか変なところをお見せして」
烏丸陸人「正直、すごくショックだった」

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