双つの顔のお狐様

北條桜子

第16話『満弦の秘密』(脚本)

双つの顔のお狐様

北條桜子

今すぐ読む

双つの顔のお狐様
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇桜並木
遠山陽奈子「満弦じゃ・・・ない」
遠山陽奈子(じゃあ、この人は・・・?)
  恐る恐る顔を上げると、今の今まで私の前にいたはずの満弦の姿はすっかり消えていた。
  代わりにいたのは、湖面に映し出される・・・角を生やした男だった。
遠山陽奈子「あなた、誰?」
???「ああ? なんだ、気づいちまったのかよ」
???「鬼の酒の匂いで酔わせた人間が正気を取り戻すことなんて、そうそうねえのになぁ。酒が足りなかったのかぁ?」
  満弦とは似ても似つかない、ひび割れた声に、背中がゾワリとした。
  とっさに、男の背中に回していた腕を離して後ずさる。しかし、すぐに両腕を掴まれて再び体を引き寄せられた。
???「おおっと、逃がさねえぞ」
遠山陽奈子「痛い! 離して!」
???「暴れても無駄だぜ。俺様の力に人間なんかが敵うわけねえんだからな」
  そう言って笑った男の口元には、異様に長く鋭く尖った牙がのぞいていた。
遠山陽奈子(額の角に、牙って・・・)
遠山陽奈子「あなた、鬼?」
鬼「その通り。俺様は鬼だ。 人間の割には、よく知ってんじゃねえか」
遠山陽奈子「わ、私をどうするつもりなの!?」
鬼「お前、俺様が怖くねえのか?」
遠山陽奈子「こ、怖くなんか・・・ない!」
  まったく怖くないと言ったら嘘になる。
  けれど、水虎の時とは違ってまともに会話が出来る分、マシだった。
  しかしそれはとんだ間違いだった。
鬼「ふーん、あっそ。つまんねえな」
  まるで興味を失ったように、鬼が私の腕を離した。
  そして次の瞬間、鬼は片手で私の首を絞めあげ、体を軽々持ちあげたのだ。
遠山陽奈子「く、苦し・・・!」
鬼「はははは。そりゃそうだろうな」
鬼「どうだ? 俺様のことが、怖くなったか?」
遠山陽奈子「あなた・・・こんなことして、いいのっ!? 若様に、私を生かして・・・連れて来いって・・・言われてるんじゃ・・・」
鬼「鵺(ぬえ)の野郎に言われたのは、お前の体を持ってこいってことだけだ。魂を抜いて、空っぽにしてでもな」
遠山陽奈子「ぬ・・・え・・・?」
鬼「あ? なんだよ、お前を狙ってんのが鵺だって知ってたんじゃねえのか。余計なこと言っちまったなぁ」
遠山陽奈子「あなた、何? 鵺の手下!?」
鬼「はっはー! まんまと水神を喰われちまった水虎なんかと一緒にすんなよぉ! 俺様は鬼だぞ? 鵺なんかの手下なわけあるか」
遠山陽奈子「じゃあ・・・どうして・・・っ」
鬼「俺様が欲しいのはお前の魂だ。人間の魂は、美味い酒になるからなぁ! とくに恐怖に染まった魂は絶品なんだぜ?」
鬼「だからもっと怖がれよ。抜いた魂は、すぐに鬼の酒瓶にぶち込んでやるよ」
遠山陽奈子「ぐっ・・・う・・・!」
遠山陽奈子(こいつ、このまま私を殺すつもり!?)
  私の首を絞める鬼の手に、ますます力がこもる。今にも意識が飛びそうだ。
遠山陽奈子「み、満弦・・・!」
鬼「ああ? 何だって?」
遠山陽奈子「助け、て・・・満弦・・・!」
鬼「はは、ははははは!」
鬼「あの狐野郎はお前を捨てて逃げたって聞いてるぜ。そんなヤツが助けになんてくるわけねえだろ!」
鬼「どれ、そろそろ死んどくか?」
遠山陽奈子(本当に・・・もう、助けにも来てくれないの?)
遠山陽奈子(満弦・・・!!)
  いよいよ息が出来なくなって、意識が遠のいていった。
  その時だ。
???「遠山さんを離せ!!」
鬼「うおっ!? なんだてめぇ!?」
  何かがぶつかったような振動と鬼の怒号が聞こえてきて、直後、私の体が宙に放り出された。
遠山陽奈子「げほっ! ごほっ! げほっ・・・!」
遠山陽奈子(い、いったい何があったの・・・? さっきの声は・・・⁇)
  激しくせき込みながら、顔を上げる。
  するとそこには思いもよらない人物の姿があった。
烏丸陸人「遠山さん、逃げて!」
遠山陽奈子「烏丸くん!? どうしてここに!?」
  烏丸くんは、鬼の胴体にしがみつきながら私に言った。
烏丸陸人「大石さんから遠山さんの元気がないって聞いて、会いに来たんだ! そしたら君がこいつに襲われてるのが見えて・・・!」
遠山陽奈子(えっ、じゃあ梨花が言ってた会わせたい人って烏丸くん!?)
遠山陽奈子(ううん、それより・・・まさか烏丸くんに鬼が見えるなんて・・・!)
烏丸陸人「遠山さん! 早く逃げて!!」
鬼「人間風情が、図に乗るんじゃねえ!!」
遠山陽奈子「烏丸くん、危ない!」
烏丸陸人「うわああ!」
  アッと気づいた時には、鬼が烏丸くんの首根っこを掴み上げていた。
  そしてそのまま、烏丸くんは数メートル離れたベンチにむかって、投げ飛ばされてしまった。
遠山陽奈子「烏丸くん!!」
  すぐさま駆け寄るも、烏丸くんは完全に気を失ってしまっている。
遠山陽奈子(どうしよう。烏丸くんを置いて逃げるなんて・・・でも・・・)
鬼「手間取らせやがって。そっちの野郎と合わせて、魂を抜きとってやる・・・!」
  じりじりと鬼が迫りくる。
  私はその場から動くこともできなかった。
遠山陽奈子(このままじゃ、本当に殺される! どうしよう・・・どうしたら・・・!)
???「・・・を、かけろ」
遠山陽奈子(えっ!? 今の・・・満弦の声!?)
満弦「水だ! あやつに向かって、水をかけるのだ! 早く!!」
  風に運ばれるように、満弦の声が聞こえてくる。
  迷っている暇はない。
  私は、ベンチに置きっぱなしにしていたミネラルウォーターの蓋をあけ、ペットボトルごと鬼に向かって投げつけた。
鬼「ああっ!? 小娘、てめぇ何のつもりだ!?」
遠山陽奈子「な、なんともないの!?」
鬼「あたり前だ! こんな水で何が──」
  バチバチバチーーッ!
鬼「うぎゃああああ!」
  鬼の口を封じるかのように、突如、彼の体を電雷のようなものが包んだ。
鬼「て、てめぇ・・・何、しやがった・・・!?」
  鬼がうずくまる。
  その背後に、逆光に照らされて、よく知る人物のシルエットが見えた。
  ピンと立った耳に、たっぷりとした髪。
  そしてフサフサの尻尾。
  私が会いたくて仕方がなかった・・・満弦の姿がそこにあった。
満弦「鵺などの口車に乗せられて人間を襲うとは、関心せんな」
鬼「げえっ!? てめぇは、狐野郎! この女を捨ててとっとと逃げ出したんじゃなかったのか!?」
満弦「婚約を解消したからとて、貴様なぞにくれてやるほどわしはお人よしではないわ」
鬼「くっそがぁあああ!」
満弦「やめておけ。あの娘が貴様に投げつけた水にわしの神力を込めた。動けば動くほど、身の消滅が早まるぞ」
鬼「ぐうぅ・・・っ! 女の霊力を分けてもらわないと生きていけない弱小妖怪のくせしやがって・・・!」

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

次のエピソード:第17話『狐神の宿命』

成分キーワード

ページTOPへ