丸いサイコロ

たくひあい

3.貴様を待っていた(脚本)

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〇映画館の座席
女の子「貴様を待っていたっ」
  びし、と指を指されたのは、ぼくの隣で、いかにも眠そうなまつりだった。
  一方で、指を向けて得意げなのは、小学生くらいの背丈の、可愛らしい女の子だった。
  エンドロールの途中で眠ってしまったまつりを起こしていると、ずかずかと、女の子はこちらに向かってきた。
  さっきまで、前の方に大人しく座っていた、まさにさっき注目した子である。
  まつりは、よく知らないがいろんな知り合いがいたので、またその類いかと考えながらも。
行七夏々都「お嬢ちゃんは、迷っちゃったのか?」
  一応ボケをかましてみる。
女の子「?」
  はい? みたいな目をされた後、ツンと無視されてしまった。ちょっと切ない。
行七夏々都「すみませんでした」
女の子「待っていたんだっ! おーきーろ! 貴様の分際でっ!」
佳ノ宮まつり「zzz」
女の子「むぅぅ・・・」
  とても元気が良い少女のようだった。しかし、そのセリフは、こう、いろいろと・・・・・・どうなのだろうか?
  あと、
  狭い席の、真ん前を塞がれてしまうと、足元に鞄があるし、隣はまつりが寝ているしで、とても動けないので、戸惑う。
佳ノ宮まつり「んんー・・・・・・まだまだ食べたーい・・・・・・んあ」
  食い意地の張った寝言とともに、まつりが目を覚ました。
  しかし良かった、と思ったのもつかの間で、すぐに瞳が雲ってゆく。
  これは相当眠いらしい。
  昨日、夜中遅くまでゲームなんかしてるからだ。
  夜中眠るまでぼーっとソファーで起きていたぼくが人のことは言えないけれど。
佳ノ宮まつり「・・・・・・誰だ? ナナトの、かのじょ・・・・・・ワカイネ・・・・・・」
  うっすらある意識の中、寝ぼけたまつりが、こちらに、聞いてくる。
行七夏々都「目を覚ませ」
  いないわ、なんて自分で叫ぶのは、それはそれで切ないのでやめておいた。
  その間にまつりは再び目を閉ざす。
女の子「おきろ! おい、そこのナナトとかいうのも、起こせよこいつをっ!」
  ばたばたと忙しい少女は、まつりを起こそうと懸命である。
  お上品な見た目とのギャップに、なぜだか脳内で、副音声でお楽しみいただけます、のテロップが浮かぶ。
行七夏々都「起こせと言われましても、ひとまずあなたは、どちら様? まつりとどういう知り合い?」
女の子「こ、こいつのことは、よう知らん。だが、おねーちゃんが、知り合いだっ! 聞きたいことがある!」
  意外にも、あっさり答えてもらえた。語尾に勢いを付けるのは、何かの流行りなのだろうか。
  まさか『元気よく挨拶しよう』が、小学校の今月の目標なのか? いや、よく考えたらとくに挨拶はしなかったぞ。
佳ノ宮まつり「むにゃ・・・・・・」
行七夏々都「・・・・・・」
  寝ぼけているまつりを、体に触れる方法(ゆすったり)で起こすのは非常に(こちらが生命的に)
  危険だというのは、もう身に染みている事実のため、ぼくは、退室していく人達を横目に、数秒間悩んだ。
  安全そうな方法は3つ。
  まずは気軽なやつから。
行七夏々都「アイスクリーム買ってやるぞー。チーズケーキのやつ、食いたいって言ってたじゃん」

〇映画館の座席
佳ノ宮まつり「!!」
  ――まつりの反応は速かった。
  勢いよく起きてくれたはいいが、寝癖がすごい。
佳ノ宮まつり「おはよー!」
行七夏々都「おはよう、そして、さっさと出ようぜ」
佳ノ宮まつり「アイスクリームは? アイスクリーム」
  アイスクリームにやけに食い付いてきた。
女の子「貴様ら、無視すんなっ!」
  女の子が怒っているが、まつりの視界には入っていない様子。
  身長差があって、というのもあるが、何よりも、今のまつりには、アイスクリームしか頭に無いのだろうか。
行七夏々都「なあ、この子、お前を訪ねてきたらしいぞ」
佳ノ宮まつり「ああ」
  そっけない返事が返ってきた。反応するのが面倒なだけなのかな。
佳ノ宮まつり「知ってる・・・・・・そんなの、ここにいる時点で」
  ぼーっと呟いたかと思えば、ふい、と顔を背けて、トッピングは何がいいかな、などと考えそのまま歩き始めてしまった。
  後を追う。
  植物、小動物に至るまで、愛想が良いまつりにしては、なんだか嫌そうな対応だ。

〇映画館のロビー
女の子「おねーちゃんは、どこにいるっ」
  懸命にまつりにしがみつく少女。未だ詳細不明。
佳ノ宮まつり「・・・・・・・・・・・・」
  一方でぼやっとしているまつりは、ドアに衝突しかねないので、出るときに、代わりにドアを支えた。
佳ノ宮まつり「チョコチップ」
女の子「なんだそれは!」
佳ノ宮まつり「・・・・・・ろっきー・・・・・・」
女の子「どこかの名前か!」
  とても和むやりとりではあったが、こいつはアイスクリームについて考えてるだけではないのだろうか・・・・・・
行七夏々都「とりあえずなんか奢るから、話くらいは聞いてみたらどうだ?」
  後ろから肩を掴むのは(こちらが)危険なので、視界に嫌でも入る位置に立って聞いてみる。
  まつりは答えなかった。

〇ケーキ屋
  薄暗い部屋を、あわてて出ると、ちょっとした階段になっている部分を降り、二階のアイスクリーム店に一直線。
  (2と壁にあるのを見て、ようやくあそこは三階だったんだ、なんて思った)
  風船を配るどこかの保険会社のキャラクターにも、
  割引券だか福引券だかを張り付けた笑顔で配る男の人にも目もくれず、走らない程度に急いでいく。
  置いていかれたぼくと少女は、あわてて追いかける。
  店の前には、おやつを食べたくなる時間なので、それなりにだが、列が出来ていた。
  最後尾にたどり着くと、まつりの足が止まった。なんとか追い付いた腕を、掴まれた。嬉しそうだ。
佳ノ宮まつり「コーン! 一番大きいやつ」
行七夏々都「はーい・・・・・・」
  本日二度目、近くにいた女子高生も、思わずみとれるくらいの、満面の笑みだった。

〇草原
  ――そういえば、こいつがよく、こんな目をするようになったのは、いつからだっけ
  いや、いつも、笑ってはいた。
  だけど、ただ、笑っているだけだった。
  泣くわけにはいかないから、代わりに笑っている、そんな感じ。
  接触が悪くなった、しゃべる人形みたいに、ときどき。
  だから、笑顔を見るたびにぼくが願うのはいつも、ひとつだけなのだ。

〇ケーキ屋
佳ノ宮まつり「・・・・・・どうしたの、まつりの顔が、赤い方と青い方のふたつになってる?」
  並んでいる最中だというのに、ついぼんやりしていたら、心配されていた。
  ・・・・・・というかそんなんになっていたら、女子高生の反応も違ったものだっただろう。
行七夏々都「いや」
  うまい返しが浮かばなくて、とりあえず誤魔化した。列は、だんだんとカウンターが見えてきたくらいになっていた。もうすぐだ。
女の子「・・・・・・」
  少女は、列に並ぶのが苦手なのか、大きい大人に紛れるのが不安なのか、ぼくの後ろに、いつの間にかくっついていた。
佳ノ宮まつり「第二形態で、赤と青が、分裂・・・・・・あ、この、赤いのと青いのも美味しそうかもしれない」
行七夏々都「腹を壊さない程度にしろよ」
行七夏々都「あ、きみは、何か」
  出来る限りの優しい声で少女に話しかけてみると、完全に不機嫌そうだった。
  そりゃあ、そうか。
  こういう状況にはなれていないので、どうしようかな、と思っていたら、まつりが、ちらりと少女を見た。
  そして、意外にも、少女に優しい声で言った。
佳ノ宮まつり「・・・・・・おまえも、一応、まつりのお客さんではあるから、まつりが聞こうかな。食べたいのある?」
  それより質問に答えろよ!
  と言いたそうな目をした少女だったが
  誘惑に負けたのか、素直にうなずいた。

〇ショッピングモールのフードコート
  近くの休憩用のベンチに座って、並んで食べていると、休日の家族か何かみたいだった。
  事情を知らない他の方々には、仲の良いきょうだいに見えたり・・・・・・しないか。
  悪くは見えないのだろう。
  (´~`)モグモグ・・・
  自分用にはバニラアイスを買った。
女の子「・・・・・・ごちそう、さまでした」
佳ノ宮まつり「うん、美味しかったね」
  みんな食べ終えるのは意外と早かった。

次のエピソード:4.依頼

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