第8回『身、縛る底冷え』(脚本)
〇非常階段
──第8回『身、縛る底冷え』
チルクラシアドール「・・・・・・」
チルクラシアドール(どこだここ?)
フリートウェイより先に異空間に落とされたチルクラシアは、その場から微動だにしなかった。
チルクラシアドール「・・・・・・・・・」
チルクラシアドール(えぇ~・・・私も戦うの? ヤダなぁ、面倒くさい)
欠伸をしたチルクラシアは、無防備にも異空間を一人で探検しようと一歩踏み出そうとした。
フリートウェイ「無事か!?」
フリートウェイ「よかった、どこにも傷は無さそうだ」
異空間に落とされても、フリートウェイは何も変わらなかった。
チルクラシアを見つけ出すと、ぎゅっと抱き締める。
フリートウェイ「此処は異空間だ」
フリートウェイ「ごめんな、オレが外に誘ったばかりに 巻き込んでしまって」
チルクラシアドール「・・・・・・」
チルクラシアドール「フリートウェイ、のせいじゃ、ないよ」
チルクラシアドール「だから、落ち込まないで・・・・・・」
チルクラシアは落ち込むフリートウェイを抱き返す。
チルクラシアは『表情が変わっていく』ことを楽しむ悪い癖があるが、あまり負の表情は見たくないようだ。
フリートウェイ「・・・・・・・・・」
フリートウェイ「ありがと」
フリートウェイ「だけど、オレのせいなのは事実だからな」
チルクラシアの隣に座るフリートウェイは、彼女だけでもすぐに異空間から出したかった。
フリートウェイ「チルクラシアはどうする? 此処にいるか?」
チルクラシアドール(・・・フリートウェイと一緒にいるべきかな)
チルクラシアドール(動かないと狙われちゃうし・・・・・・・・・)
チルクラシアドール「私は、出来ればフリートウェイと一緒が良いな」
チルクラシアはただフリートウェイの隣に居続けたいようだ。
フリートウェイ「いいけど、一つだけ条件を出して良いか?」
フリートウェイ「どこかに宝石があるはずだ。 それを取りに行って欲しいんだ」
フリートウェイ「多分、そこには誰もいないから」
フリートウェイはチルクラシアに頼み事をすると、刀を出した。
今回は、最初から真っ赤な刀身が出現している。
その理由は、やはりチルクラシアの存在だろう。
フリートウェイ「君が宝石探しをしている間、オレは経路を探るから」
フリートウェイ「宝石を回収し終えたり、何かあったらしたら戻って来て欲しいんだ」
チルクラシアドール「分かった、行ってくるね」
西の方向へ向かっていくチルクラシアの背中を見たフリートウェイも、異空間の経路を確認することに。
フリートウェイ「やるかな・・・・・・」
〇牢獄
牢獄の向こう側に、大きな宝箱があるのが見える。
チルクラシアは、宝箱に向かって、数時間前に購入した白いリボンを二本飛ばす。
2本のリボンは宝箱をむりやりこじ開け、蓋を破壊してしまった。
宝箱には、白銀の光を放つ大量の宝石が入っていた。
チルクラシアドール(あった、これだよね)
チルクラシアドール「フリートウェイが言っていたのは、これだったような」
宝石を全てリボンで包み、フリートウェイに渡そうとするが、一つだけリボンの隙間から落ちてしまう。
チルクラシアドール「・・・・・・・・・」
チルクラシアドール(これ、食べてもいいかな)
落ちた宝石に手を伸ばし、口元へ持っていくと何の躊躇いもなく咀嚼する。
チルクラシアドール「・・・・・・・・・」
が、異変を感じたのかこれ以上は噛まずにペットボトルの水と一緒に飲み込んでしまう。
──その理由は。
チルクラシアドール「まずっ・・・」
あまりの不味さに、チルクラシアはえずきそうになったが何とか抑えると同時に、目が覚めたような気になっていた。
チルクラシアドール「食べ物じゃない・・・・・・」
チルクラシアドール「もうこれは、食べないようにしよ・・・・・・」
『異空間で見つけたものは食べない』ことにしたチルクラシアは、見つけた宝石をどこに置こうか悩む。
チルクラシアドール「この時、レクトロだったら、どうするかな?」
チルクラシアドール「電話しよう」
あ、チルクラシア!
今は、異空間にいるのかな?
チルクラシアドール「うん。 宝石、見つけたからどうしようと思って」
レクトロの声を聞いたチルクラシアは、安心したのかその場に座ってしまう。
宝石は僕が持っていくよ。
君は出来るだけ早く、異空間から脱出するんだよ
チルクラシアドール「はーい」
電話が切れたと同時に、宝石は一つ残らず消えていた。
レクトロが全て持っていったようだ。
チルクラシアドール「・・・フリートウェイの所へ、戻らなきゃ」
ふらつきながらも立ち上がるチルクラシアはフリートウェイの隣に戻ることにした。
時々檻や壁を身体の支えにしながら、ゆっくりと。
〇未来の店
「・・・・・・・・・・・・」
使い魔を倒しながら異空間の最奥に来た二人。
チルクラシアドール「何か無いの?」
フリートウェイ「・・・気配すら無いな。 何なんだ?」
フリートウェイ「ここって異空間なんだよな? マジで何もないんだけど・・・・・・・・・」
フリートウェイ「・・・・・・・・・帰る?」
チルクラシアドール「帰ろっか・・・」
最奥部まで来たのに、何もないことにガッカリする二人。
何もないなら用事はないので、さっさと帰ろうと背を向ける。
帰ろうとしたが、それは異空間にいる何者かが許さないようだ。
スプレー缶を使用する時に出る音が地面から聞こえ始める。
フリートウェイ「・・・・・・ん?」
二度目のスプレー缶の音が聞こえた後、突然閃光が空間を包む。
チルクラシアドール「うっ・・・・・・眩しっ・・・」
眩しいものが大嫌いなチルクラシアは、両目をリボンで隠し、その上から両手で覆った。
フリートウェイ「何者だ!!!」
機嫌を大いに損ねたフリートウェイが怒鳴る。
威嚇の意味で、一本の大きなナイフを空間全域に投げる。
それは何かに当たったようで、空間の真ん中に不自然に刺さった。
チルクラシアドール「『刺さった』、んじゃない? 変な位置にとどまっているよ、あれ」
フリートウェイ「よし、後はしばくだけだ」
フリートウェイがタコ殴りにしようとしたその時──
何者かが動いたとほぼ同時に、フリートウェイが刺したナイフも落ちてしまう。
フリートウェイ「逃がさねぇぞ!!!」
再びナイフを投げるが、壁に突き刺さってしまった。
フリートウェイ「あー、外しちまったなぁ・・・」
チルクラシアドール「・・・・・・・・・」
──チルクラシアには、フリートウェイに見えないものが視えている。
天井を見つめながら、数時間前に購入したリボンと鎖を両腕に巻き付ける。
チルクラシアドール「──!!!!」
リボンと鎖をそれぞれ3本ずつ同時に飛ばす。
何かを追尾しているようで、決して逸れることは無かった。
〇未来の店
不吉な音が聞こえる中、チルクラシアは機嫌悪そうに何かをリボンで拘束している。
フリートウェイに拘束されているものは見えないため、チルクラシアの説明が必要なのだが、彼女は沈黙を貫いていた。
フリートウェイ「・・・えーっとな・・・」
フリートウェイ「オレには、『透明な何か』をリボンで拘束しているようにしか見えないんだ」
フリートウェイ「何を捕まえたんだ? チルクラシアには、それが『視える』のか?」
見かねたフリートウェイが、チルクラシアに説明を求める。
チルクラシアドール「白い羽がついた電子レンジ・・・みたいな」
フリートウェイ「???」
フリートウェイ「・・・白い羽根つき電子レンジ?」
チルクラシアが『何やらヤバそうなモノを捕まえた』ことしか分からないフリートウェイは、初戦の記憶を呼び起こす。
──異空間には必ず、主の『異形』がいることを。
フリートウェイ「そんな奴がいるんだな・・・・・・ もしかして、コイツが主なのかもしれない」
フリートウェイ「コイツは『悪い奴』だ。 だから、ボコボコにしていいぞ」
チルクラシアドール「!」
チルクラシアドール「・・・分かった」
フリートウェイ「・・・・・・・・・・・・・・・」
フリートウェイ「酷い・・・・・・・・・」
チルクラシアの猟奇的な一面を見てしまったフリートウェイは、数分前の発言を取り消したくなった。
フリートウェイ「チルクラシア、ストップストップ!!!」
フリートウェイ「やり過ぎだ!」
〇海辺
異形を倒した二人は、元の場所へ戻っていた。
フリートウェイ「疲れたな! 今度こそ帰るか」
チルクラシアドール「んにゃ・・・・・・(はーい・・・・・・)」
疲労気味のチルクラシアは、フリートウェイの右手を握る。
フリートウェイ「へへっ、どうした?」
チルクラシアドール「んなんな(『疲れたの』)」
チルクラシアドール「んーなな(『家に帰ったらすぐ寝るの』)」
チルクラシアは早く寝るためだけに家に帰りたいようだった。
フリートウェイ「・・・今何時だ?」
異形倒し(と宝石探し)に時間が少しかかってしまったため、フリートウェイはスマートフォンを出して今の時刻を確認する。
──時刻は、午前1時30分。
フリートウェイ「すぐ帰るぞ!!! レクトロに怒られる!」
まさか日付が変わっているとは思わなかったフリートウェイは、チルクラシアを片手に抱いて走る。
チルクラシアドール「・・・・・・・・・」
チルクラシアドール「門限は無いけど?」
フリートウェイ「そういうことじゃない! とにかく帰らないと!」
〇一軒家の玄関扉
「・・・・・・・・・・・・」
フリートウェイ「ただいま・・・・・・」
レクトロ「今まで何してたのさっ!? 帰ってくるの、ちょっと遅いよ!!?」
あまりにも帰ってくるのが遅かったせいで、家の扉の前で出迎えたレクトロに尋問されたことや──
〇屋敷の一室
遊佐景綱「へぇ・・・・・・」
遊佐景綱「レクトロの言う通りだな・・・ 面白いことになっているじゃないか」
フリートウェイとチルクラシアの様子を何処かで見ている者がいることは、また別の話──
ついに殿キター(・∀・)!!