第9回『仕事に情感は必要無し』(脚本)
〇時計
──どこかの『空間』
レクトロ「どうも!僕はレクトロ!」
レクトロ「これから、新しい『展開』になるから、 今までの軽い振り返りと、」
レクトロ「新しい情報を少しだけ公開しようと思って!」
レクトロ「あ、でも少しだけだよ! 本当に少しだけ!!」
──あなたの目の前でレクトロはわたわたする。
レクトロ「・・・だけど、把握してくれたら嬉しいなぁ」
レクトロ「これからのことなんて、特に決めてすら無いけどね・・・あはは」
──レクトロは、あなたに伝えたいことが1つだけあった。
レクトロ「僕ね、君達が『覗き見』しているの知っているんだよ」
レクトロ「君たちから見た僕は、どのように見えているのかなぁ? いつか、教えてよ!」
レクトロ「別に咎めることも怒ることも、落ち込むこともないよ」
レクトロ「けれど、『お話の最後まで』見て欲しいなぁって!」
──話し足りなそうなレクトロだが、ここで気づく。
レクトロ「・・・おっと、話がずれちゃった。 失礼、失礼」
レクトロ「それじゃ、『お話の振り返り』と『新しい情報』を公開するね!」
〇地球
『この世界は、ひとつを除いて『君たちが生きる地球』とは特に変わらない』
『・・・まぁ、それは”何も知らない人”たちの認識なんだけどね』
『全ての生命体にある『感情』の力が異常なほど大きく働いていて・・・・・・
それを力に変えて、生命は存続しているの』
『そして、世界は9つの国に無理やり分けられて・・・
国の頂点には『王』という存在が作られた』
『僕は、その『王』とは仲良しなんだよ!
対等な関係だと思ってるの!』
『そしてね、新しい『お話』で行く場所は『世界』の左端に位置する小さな国だ』
〇ヨーロッパの街並み
『その国の名前は『ロア』。
パンが異様に美味しくて、地震がすごくすごーく多い国だよ』
『あまりにも地震が多いものだから、僕もたまに訪れては、地盤を確認したり、地質調査をしているの』
『そして、国王のラダ・ローアは非常に優秀な君主さ!』
『僕の大事な友達だし、君もすぐに会えるよ!』
『まぁ、彼に会いに行くのが僕の目的の1つなんだけどさ・・・』
〇時計
レクトロ「・・・まぁ、こんなものか」
レクトロ「全部言う必要なんかないし」
レクトロ「ただ、楽しんでくれたらそれでいいもん」
レクトロ「・・・え?いっぱい話しすぎ?」
レクトロ「僕、説明するの苦手だからさー・・・ こ、これでも短くしたつもりなんだけど・・・」
レクトロ「チルクラシアの具合も安定してきたし、目覚めたフリートウェイも異形倒しに集中しているし・・・」
レクトロ「『これなら話が少しだけ進んでもいいかな』って、思ったの!」
レクトロ「・・・気を取り直して」
『第9回 仕事に情感は必要なし』
『ロア編スタートだよ、行ってらっしゃい!』
〇可愛い部屋
目を覚ましても布団から出ないチルクラシアは、レクトロの従者であるシリン・スィから渡されたボードを見つめていた。
チルクラシアドール「ロ、ア・・・」
ボードには『レクトロがロアに行くみたいだから、支度をしておいて』と書かれている。
チルクラシアドール「・・・・・・・・・」
レクトロ「おはよう! 具合はどうだい?」
チルクラシアドール「きゅ・・・(『まあまあ・・・』)」
眠たげなチルクラシアだが、レクトロの前では上体だけ起こす。
レクトロ「まだ眠そうにしているね、寝ていていいよ」
レクトロ「僕は朝ご飯を買いに行くつもりさ。 シリンとフリートウェイも連れていこうと思うの」
レクトロ「動けそうなら、散歩のつもりでどうかなって思ったんだけど・・・」
チルクラシアドール「んーにゃにゃな・・・・・・(『・・・外出るよりも、クッキーが食べたいんだけど・・・・・・』)」
レクトロ「・・・・・・クッキー?」
レクトロは困惑の表情を浮かべる。
クッキーをチルクラシアに渡した記憶も、最近作ったことも無いのだ。
レクトロ「・・・誰から渡されたの?」
チルクラシアドール「フリートウェイ!」
──チルクラシアに、嘘をつくことと誤魔化す必要はなかった。
レクトロ「・・・フリートウェイが渡してきたの? もしかして、手作り・・・?」
レクトロが、チルクラシアが求め、フリートウェイが(多分)作ったクッキーについて考え込もうとしたその時──
『レクトロ?何してるんだ?支度は出来ているぞ』
一階からフリートウェイの声が聞こえてきた。
レクトロ「あ、後で現物を見せてくれないかな?」
チルクラシアドール「うん、分かった」
レクトロ「ご飯は・・・うん、好きそうなのを買ってくるね!」
レクトロ「行ってきます!」
チルクラシアはまだ眠たげにしているが、フリートウェイから渡されたクッキーを口に入れる。
チルクラシアドール「・・・・・・・・・」
ハートの形のアイシングクッキーだが、
使われているアイシングの色が、やけに鮮やかだ。
渡されて数時間経っているはずなのに、色やクッキーの味の変化は何も変わっていない。
・・・クッキーの中には、ジャムのような、赤色のドロッとした何かが入っている。
だが、チルクラシアはフルーツは滅多に食べない。
レクトロはそのことを把握していた。
チルクラシアドール「・・・・・・・・・・・・」
──食べ物とは言えないかもしれないクッキーを、チルクラシアは一人で淡々と食べていた。
〇カフェのレジ
朝御飯を買いに行くレクトロとシリン・スィ、フリートウェイ。
だが、フリートウェイは、レクトロがレジの前で言った一言のせいで呆然のあまり、棒立ちになってしまっていた。
フリートウェイ「・・・・・・・・・」
フリートウェイ「・・・今、何て言った」
レクトロ「何って・・・ 『店の端から端まで、全てのパンを下さい』って言ったの」
フリートウェイ「・・・店の・・・端から端まで・・・?」
フリートウェイ(何言ってるんだ、こいつ)
フリートウェイは、特に見たいものも欲しいものも無く、レクトロとシリンにとりあえず着いてきただけだ。
フリートウェイ(どう考えても、スケールが大きすぎるんだよな)
チルクラシアがいないと一応まともになれるフリートウェイだが、レクトロのぶっ飛び具合に呆れていた。
フリートウェイ「・・・シリンに聞く。 レクトロは通常運転か?」
シリン・スィ「そうね。 残念だけど通常運転よ」
フリートウェイ「・・・・・・そうか・・・」
まさかの通常運転である。
フリートウェイは、レクトロが『いつも通り』であることを知り、心のなかでため息をついた。
フリートウェイ「なぁ、レクトロ」
フリートウェイ「先に、家に帰りたいんだが・・・ダメか?」
フリートウェイ「考えるのに疲れた・・・・・・」
レクトロ「何をそんなに思い詰めてるの!? 僕、何もしていないよ!!?」
レクトロは、考えすぎで疲労しているフリートウェイを見て驚いていた。
レクトロ「帰るのはいいけどさ・・・・・・ え、何で疲れてるの!?」
フリートウェイ(お前のせいだよ、お前の!)
・・・そんなことが言えたら、苦労などしないのである。
フリートウェイ「とにかく帰るから・・・・・・ ほら、買ったパンを寄越せ」
取り繕うことすら疲れたフリートウェイはレクトロの手から、大量にパンが入った袋を奪う。
レクトロ「あっ!」
フリートウェイ「またな!」
レクトロ「帰るつもりかい・・・・・・」
レクトロ「何を考えていたんだろう・・・・・・?」
シリン・スィ「彼は、『貴方の行動のスケールが大きすぎる』と思っていましたよ」
レクトロ「そ、そんなこと言われても・・・!」
レクトロ「どうしろと!」
フリートウェイに心の中で突っ込まれていたことを、レクトロは初めて知った。
レクトロ「悪気があるわけじゃないから! ただ燃費が悪いだけって伝えておいて!」
シリン・スィ「了解!」
シリン・スィ(まぁ、信用はされないでしょうけど)
──フリートウェイが帰ったからか、シリンはレクトロに聞きたいことを思い出す。
シリン・スィは、レクトロが急に世界の端の国『ロア』に来た理由を知らなかった。
シリン・スィ「・・・で、レクトロ様は用件があって、ロアに来たんでしたっけ」
レクトロ「うん。そうだよ」
レクトロ「・・・その詳細は、人がいる所では話せないなぁ」
レクトロ「場所を変えようか!」
〇廃ビルのフロア
レクトロは、彼が思う『誰もいない場所』へ自らとシリン・スィを転送した。
転送先は、廃ビルの中だ。
空気はひんやりしていると同時に、びりびりしている。
レクトロ「・・・シリン・スィ」
シリン・スィ「ここに」
主君のレクトロに呼ばれたシリン・スィは、その場に跪く。
レクトロ「悪いけど、先に帰ってくれない?」
レクトロ「僕は用事があるんだ。 王と二人きりで話したい」
いつもの穏やかな雰囲気でないレクトロが何をするのかを察したシリンは特に何も言わない。
シリン・スィ「御意」
シリン・スィ「『話』は1つの間違いなく、全て記していくつもりです」
従者に背を向けながらも、レクトロは話を続ける。
レクトロ「そう。でもね、僕は気になっていることがあるんだ」
レクトロ「その箇所だけ、『書き換えて』くれない?」
レクトロは、1ヶ所だけ『書き換えるように』従者に頼む。
その箇所は、レクトロにとって『不都合』だからだ。
レクトロ「『ロアの王は幸福の中で何も知らずに命を落とした』──」
レクトロ「──そう記してくれないか? 君の能力ならば、可能でしょ?」
シリン・スィ「はい、お任せを」
シリン・スィの返答を聞いたレクトロは、元の穏やかな雰囲気に急に戻る。
レクトロ「僕はもう少しロアにいるよ! 君はチルクラシアのお世話とフリートウェイの話し相手になってあげて」
レクトロ「頼んだよ!」
シリン・スィに二人を頼んだレクトロは、王宮の方向へ歩いて向かっていった。
〇貴族の応接間
ラダ・ローア「!!!」
仕事の合間に応接間を覗いたロアの『王』は驚愕する。
レクトロ「初めまして、『朱玉ノ王』」
『王』の許可なしでは誰も入れない応接間に──
ロアの全てが『后神』として恐れている存在である『レクトロ』が応接間で優雅に紅茶を飲んでいたのだ。
ラダ・ローア「何者だ・・・ もしや、『后神』か!?」
レクトロ「・・・・・・」
『后神』と王から言われたレクトロは、ティーカップを置く。
レクトロ(『后神』・・・)
自分の1つの『面』を見破られたからか、無表情になってしまった。
が、すぐにいつも通りの笑みを浮かべる。
レクトロ「いかにも。 僕は『后神』こと、レクトロだよ」
レクトロ「よろしく・・・と言っても、今日は対したことはしないし、君からも求めないよ」
ラダ・ローア「本当にそうか?」
ラダ・ローア「『后神』の姿を見ると凶兆の予感だと言われているが」
──この王の発言は、レクトロを驚かせることになる。
レクトロ「何言ってるのさ!」
レクトロ「凶兆って・・・! そんなのは『人間が勝手に言っていること』でしょ!?」
ラダ・ローア「これは建国の時から『ロア神話の逸話』として語り継がれているぞ」
レクトロの驚きの表情を見た王は『あくまでも逸話』であると伝える。
が、レクトロは真に受けていた。
レクトロ(勝手にこんなこと言いふらして・・・!)
レクトロ(もう、本当に無礼!!)
機嫌を損ねたレクトロだが、王の前なので
イライラを抑えて、いつも通りの笑みを浮かべる。
レクトロ「そういえばさー、『朱玉ノ王』は何か欲しいものはあるの?」
ラダ・ローア「欲しいもの、か? 急だな」
レクトロ「君は、『ロア』を少しでも良くするためにずっと努力し続けている。 だから、僕は君を労ろうと思ったの」
レクトロ「何か出来ることがあったらなぁ・・・って!」
レクトロの発言は『本心』から来ているものだ。
レクトロは政治のことに興味が全く無いため、国の統治は各地の『王』に任せきりだ。
レクトロ「法律を独断で変えることや、隣国の王を抹殺することも、自分の寿命を伸ばすことだって出来るよ!」
物騒なことしか言わないレクトロ。
『王』はとりあえず、話を聞いていた。
──『王』は、レクトロには決して逆らえないからだ。
レクトロ「君が望むことを僕は実現したいんだよ。 だから、本心を言って欲しいなぁ」
ラダ・ローア「・・・・・・・・・」
ラダ・ローア「私は、そんなに物騒なことしかやらないと思っているのか・・・?」
レクトロ「いいや。ただ言ってみただけだよ」
レクトロは、即座に否定する。
レクトロ「人間は『死を怖がる』と言うからさー、 寿命を伸ばすことに関しては異様な関心を示すんだよ」
レクトロ「僕ね、『恐怖は情報が足りないから生まれる』んだと思うの」
レクトロ「『終わりが無かったら、面白くない』んだよ、何事もね」
ラダ・ローア(・・・・・・・・・)
レクトロは、自らが考えていることを『王』に伝える。
『寿命』という言葉は、レクトロにとって何やら嫌な重みがある言葉なのだ。
レクトロ「君は優しいから、きっと『他人のため』に最期まで尽くしちゃうよね」
レクトロ「たまには、ゆっくりしたらどうかな? 君は働きすぎだよ」
ラダ・ローア「働きすぎ・・・か」
ラダ・ローア「分かった、『私の睡眠時間を、少しだけ伸ばすこと』を頼もうか」
レクトロ「・・・そう」
『王』の『睡眠時間を少しだけ伸ばしたい』というささやかすぎる『願い』は、レクトロにとって望まぬ一言だった。
レクトロ「──別に、『ずっと寝ていていい』んだよ?」
ラダ・ローア「は? それはどういう──」
〇黒
──『・・・嫌になっちゃうよ』
『これが僕の『仕事』さ・・・』
『『仕事』に情はいらないからね。
少々、事態を重たくさせていただくよ』
──感情を喰らう者が暗躍する、
『ロア編』開始。
遂にフルボイスですね。お疲れ様です。
王が不在となってしまったロアがどうなるのかハラハラドキドキです。
『感情を喰らうもの』とは一体…?