双つの顔のお狐様

北條桜子

第15話 『不思議な夢』(脚本)

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北條桜子

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〇原っぱ
陽奈子「ここ、どこだろう ・・・?」
  見渡す限りの原っぱの中、私は1人で立っていた。
???「おまえ、大丈夫か!?」
  ふと、懐かしい声が聞こえた気がして振り返る。
  するとそこには、真っ白な狐のような耳と尻尾を持つ、まだ幼い顔の男の子がいた。
???「ケガ、してねえか?」
???「暴れイノシシはおいらがやっつけてやったから、もう心配いらねえぞ」
  男の子が手を差し出す。
  その手を、やはり幼い女の子が取るのが見えた。女の子 は、古ぼけた着物を着ていた。
満弦「おいらの名前か? みつるだ 満月の満に、弓に張る弦って書いて、満弦っていうんだ!」
満弦「ほら、おいらが村まで送ってやるからな!」
陽奈子(み、つ、る ・・・? どこかで聞いたことある名前 ・・・どこで聞いたんだっけ)
  手を取り合って遠ざかる2人の後ろ姿が、なんだか羨ましかった。

〇森の中
陽奈子(あれ ・・・? 私いつのまに、こんな所に来たんだろ)
陽奈子(ここはなんだか知ってる気がするけど ・・・)
満弦「本当か!? 村のみんなで、おいらの社(やしろ)を立ててくれんのか!?」
  また、声がした。振り返ると、さっき遠ざかっていったはずの男の子と女の子が、手を取り合って喜んでいるのが見えた。
満弦「ああっ、もちろんだ! おいらはおまえたちの味方だからな」
満弦「村をおそう悪い獣も、あやかしも全部やっつけてやるぞ!」
満弦「だから、おまえもおいらのそばにいてくれな。ずーっと、ずーっといてくれな。 やくそくだ!」
陽奈子(ずっとそばに ・・・? そんなの無理なのに ・・・ね)
陽奈子(・・・あれ? 私、なんで泣いてるんだろ ・・・)
  不思議に思いながら涙をぬぐうと、目の前にまた、違う景色が広がっていた。

〇神社の本殿
満弦「どうしてじゃ!?」
陽奈子(え ・・・? 今の、あの子の声?)
  声のする方を向くと、美しい金の瞳をした男性が立っていた。それがあの男の子の成長した姿であることはすぐにわかった。
陽奈子(耳と尻尾がそのまんま。 でも ・・・すごく、怒ってる ・・・?)
満弦「お主は、わしのそばにいると ・・・ずっといると誓ったはずではなかったのか!」
  フーフーと荒い息を吐き出し、鋭い爪を真っ赤に染める彼の前に、震える女性がいる。
  あの幼い女の子の成長した姿だろうか。
  2人の背後には、妖怪たちの屍が山のように積まれていた。彼らはみな、大きく引き裂かれた傷口から血を流していた。
陽奈子(あの子、泣いてる ・・・怖がって、る ・・・?)
  彼女の口が何度も呟く。
  恐ろしい。恐ろしい。
  やっぱり妖狐なんぞとは一緒にいられない、と。
満弦「わしを裏切るのか!?」
  彼女は、泣きながら逃げていった。
満弦「わしは ・・・また独りになるのか。 ならば ・・・」
満弦「わしは ・・・もう、人間を好きになったりなどせん。二度と、心は通わせぬ」
陽奈子(泣かないで ・・・あなたの涙は、とても悲しい、から)
  金色の瞳から流れる涙が、胸に痛くて。
  私は、彼の大きな体を抱きしめたくなった。

〇ファンシーな部屋
遠山陽奈子「・・・朝?」
遠山陽奈子(なんか、すごく悲しい夢を見てた気がするけど ・・・覚えてないや)
  カーテンの隙間から差し込む強い光で目覚めた私は、強い倦怠感と虚脱感に襲われてベッドの上にうずくまっていた。
  満弦がこの家を出て行ってから、数日 ・・・何をするでもなく横になってばかりいたせいか、頭が痛い。
遠山陽奈子(起きなきゃ。 でも、起きてどうすればいいんだろう。 私、何したらいいんだろう)
  1人きりの部屋の中は、びっくりするくらいに静まり返っていて、どこか寒々しい。
  満弦が戻ってきた気配はどこにもない。それが悲しくて、また、涙が出そうになる。
遠山陽奈子(本当に出て行っちゃったんだなぁ)
遠山陽奈子(勝手だよなぁ。家に押しかけて求婚してきたと思ったらそのまま居座って、気に入らないとわかった途端出ていくなんてさ)
遠山陽奈子(やっぱり、人間じゃないやつと一緒にいるとロクなことないや。そんなの昔からいやってほど知ってたのになぁ)
遠山陽奈子(なのに ・・・まだ、会いたい ・・・)
  満弦の顔を思い浮かべただけで、涙が溢れてきてしまう。
  その時だった。
  ピンポーン――!
遠山陽奈子「え ・・・ま、まさか、満弦!?」
遠山陽奈子(帰って来てくれたの!?)
  弾かれたように飛び起きて、玄関へと向かう。
  その扉の向こうにいたのは ・・・。

〇綺麗なリビング
大石梨花「よっ! 元気してる?」
遠山陽奈子「り ・・・か ・・・」
遠山陽奈子(なんだ ・・・満弦じゃないんだ。そっか。 そりゃそうだよね)
大石梨花「ちょっとちょっと。せっかく心配して様子見にきたのに、ガッカリしすぎじゃない?」
遠山陽奈子「ご、ごめん、私 ・・・」
大石梨花「ま、いいけどね」
大石梨花「とりあえず、出かけるぞ」
遠山陽奈子「ごめん梨花。今、そんな気分じゃなくて」
大石梨花「だからこそ出かけんだよ。カーテン締め切った部屋にこもってても、悩みが解決するわけじゃないでしょ」
遠山陽奈子「でも」
大石梨花「いいから行くよ!」

〇桜並木
大石梨花「ほらよ、ミネラルウオーター」
遠山陽奈子「あ、ありがと」
  強引な梨花に連れられてやって来たのは、いつか満弦と訪れたことのある公園だった。
  梨花が私をここに連れてきたのはただ、連絡もせずに大学を休んでいた私を心配してのことだとわかってる。けれど ・・・。
遠山陽奈子(あの時は、満弦がソフトクリームに大興奮してたっけ)
  ついそんなことを思い出して、胸が痛くなってしまう。
大石梨花「例の男?」
遠山陽奈子「・・・え?」
大石梨花「なんかあったんでしょ。 陽奈子がこんなんなるなんてさ」
大石梨花「あんたさ、どんだけ悪い男にひっかかったのよ?」
遠山陽奈子「・・・・・・」
大石梨花「あたしにも相談できないような男だった?」
遠山陽奈子「・・・ごめん」
遠山陽奈子(相談 ・・・できるわけないもんね。 神様を名乗る妖怪だったかもしれない人を好きになったあげく、捨てられたなんて)
大石梨花「ま、言いたくないならしょうがない。 どっちにしても、あたしは反対だからね。 あんたにそんな顔させる男なんてさ」
遠山陽奈子「そう、だよね」
大石梨花「ってわけで、あたしが勧めたいやつ、連れてきたから」
遠山陽奈子「え?」
大石梨花「失恋の傷を癒すには次の恋が必要って言うしね。って、まだ気が早いか。 でもあいつも心配してるからさ」
大石梨花「とりあえず友達として、会ってやんなよ」
遠山陽奈子「あ、あいつって? あ、あの梨花 ・・・!?」
  言うだけ言うと、利かはベンチに座る私を置いてさっさと立ち去ってしまった。
遠山陽奈子「あいつって誰⁇」

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