双つの顔のお狐様

北條桜子

第13話 『好きだから信じたい』(脚本)

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〇学校の廊下
遠山陽奈子「月ノ森神社が偽物って、それ・・・どういうこと?」
烏丸陸人「郷土資料にも全国の神社名鑑にも、月ノ森神社なんて名前はどこにもなかったんだよね」
烏丸陸人「けど、意外なところに手がかりを見つけた」
  胸の奥に、ジワリと不安が広がる。
  けれど、聞かずにはいられなかった。
遠山陽奈子「どこで、何を見つけたの?」
烏丸陸人「この辺りの地方に存在する、古い伝承をまとめた記録の中に、月ノ森神社と思われる記述を見つけたんだ」
烏丸陸人「怒れる妖狐を鎮座。 ここを狐神の社とする・・・ってね」
遠山陽奈子(怒れる妖狐を鎮座って・・・まさか、それが満弦!?)
烏丸陸人「これは僕の予測なんだけど、暴れる妖狐に困った人々が、彼を祀ることで被害を食い止めようと考えたんじゃないかな」
烏丸陸人「神と同じように扱うことで、妖狐の機嫌を取ることにしたんだよ。 なかなか面白い仮説だと思わない?」
大石梨花「ね~、さっきからそれなんの話?」
烏丸陸人「史学科のフィールドワークの一環みたいなものでさ、この辺りの神社のことを色々調べてたんだ。ね、遠山さん?」
遠山陽奈子「・・・・・・」
烏丸陸人「遠山さん? どうかした?」
遠山陽奈子「え・・・?」
大石梨花「って、ちょっと陽奈子・・・あんた、顔が真っ青だよ? どうしたの?」
遠山陽奈子「何でもない」
大石梨花「何でもなくないって。急にどうしたわけ?」
遠山陽奈子「はは・・・ちょっと、頭痛くなってきたのかも」
大石梨花「だったら、すぐ帰んな。 1日くらい講義すっぽかしたって大丈夫なんだろ?」
烏丸陸人「あ、あのっ、なんだったら僕が家まで送るけど」
遠山陽奈子「ううん、1人で大丈夫。 心配かけて、ごめんね」
遠山陽奈子「私、帰るね」
  私は、水の中を歩くような足取りで2人の元を離れ、満弦が待つ家に帰ることにした。

〇名門の学校
遠山陽奈子(烏丸くんが調べた話が本当だったとしたら、満弦はやっぱり神様じゃなくて妖狐だってことになる)
遠山陽奈子(水虎が言ってた「半端者」って、そういう意味・・・?)
遠山陽奈子(でも、まだそうと決まったわけじゃない。 伝承なんて、本当のことが書かれてるとは限らないもん)
遠山陽奈子(満弦に聞く・・・? そうすれば真実がわかるかもしれない)
遠山陽奈子(けど、満弦は隠すかもしれない。 それに、もし本当だったら・・・!)

〇綺麗なリビング
満弦「帰ったか、陽奈子。 今日はずいぶんと早かったな」
遠山陽奈子「た、ただいま」
  家に着くと、私が扉を開けるまでもなく、満弦が尻尾をパタパタと振りながら出迎えてくれた。
  ご主人様を待ちわびていた子犬のような満弦の様子が可愛くて、思わず顔が緩んでしまう。
  けれど。
満弦「ん? どうした陽奈子、おかしな顔をしておるぞ?」
遠山陽奈子(うっ・・・今の今まで烏丸くんから聞いたこと考えてたから・・・。でも、とてもそんなこと言えない)
  結局、神社の真実について満弦に問いただす勇気などなく、私は誤魔化すしかなくて。
遠山陽奈子「そ、そうかな? 満弦がいきなり飛び出してきたから驚いちゃって。あはは」
満弦「ふふん。わしくらいになれば、陽奈子の気配をたどることなど造作もないからの」
満弦「それより・・・出先で何かあったのではないのか?」
遠山陽奈子「えっ!? な、何かって!?」
満弦「もしやとは思うが・・・」
遠山陽奈子(まさか烏丸くんから月ノ森神社の伝承を聞いたことに、気づいている・・・?)
満弦「若様なぞと呼ばれていたあやかしが、接触してきたのではあるまいな?」
遠山陽奈子(ち、違った。そりゃそうだよね。 いくらなんでも全部お見通しってわけじゃないか。それより)
遠山陽奈子「若様って、こないだの水虎が言ってたあやかしのこと?」
満弦「さよう。いつの間にやら此の地に住みつき、水神を亡き者にしたあやかしのことじゃ」
遠山陽奈子(そ、そうだった・・・。 これも大問題なんだった)
  あれ以来、あやかしに襲われるような事態には陥っていないものの、放っておくわけにはいかない問題である。
  それに、「若様」については私も気になることがあった。
遠山陽奈子「もしかして、大学周辺で起きてた妙な事件も、そいつの仕業だったりするのかな」
満弦「あり得ぬ話ではない。というより」
満弦「お主を狙って現れたこれまでのあやかし共もみな、恐らくは「若様」と呼ばれた者の仕業であろうの」
遠山陽奈子「そうなの!?」
満弦「何しろ水神にとって代わるほどの力の持ち主であるからの。腹立たしいことにな」
遠山陽奈子(それってつまり、大学で起きてた変な事件も全部私のせいってこと・・・?)
  薄っすら考えていたことだったけど、いざつきつけられるとショックが大きい。
  私は思わずうつむいてしまった。
  すると満弦はフワリと宙に浮きあがり、その小さな手で私の頬に優しく触れると、ふにゃりと笑った。
満弦「安心いたせ。何があろうと、わしが守ってやる。そのためには毎日お主について行きたいところじゃが」
遠山陽奈子「そ、それはダメだよ!」
満弦「むぅ。すぐそれじゃ。 まったく、本当に頑固な娘じゃ」
満弦「だが、そんなところも、わしは・・・」
遠山陽奈子「わしは、何・・・?」
満弦「・・・・・・」
遠山陽奈子(その言葉の続きは、言ってくれないの?)
  金色に輝く大きな瞳に、吸い込まれそうになる。ただ見つめ合ってるだけなのに、心臓がうるさく鳴っていた。
  やがて、満弦の顔が近づいてきて・・・
遠山陽奈子「って、キスしないからね!」
満弦「むぎゅっ!?」
  うっかりドキドキしてしまった私は、間一髪、幼い満弦の唇を両手で覆ってキスを回避した。
  当然その手を、すぐに払いのける満弦。
  それから彼は、ほっぺを盛大に膨らませて文句を言い始めた。
満弦「ひ~な~こ~! この期に及んで、またも拒絶するとはどういうつもりじゃ!」
遠山陽奈子「ち、小さいほうの満弦とはそういうことはしないって決めてるの!」
満弦「ふん。水虎との戦いの最中には、陽奈子のほうからしたくせに」
遠山陽奈子「あれは、緊急事態だったから! 人工呼吸みたいなもんです!」
満弦「今さら減るものでもあるまいに」
遠山陽奈子「とにかくしないから!」

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