丸いサイコロ

たくひあい

prologue(脚本)

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〇黒背景
  布団をかぶってずいぶん経ち、闇が光にぼやけて、形を作り出したとき
  ああこれは夢なのだ、と、ぼくはなんとなく、そう思ったのだけど、
  今度は『夢』の意味が思い出せなかった。

〇綺麗な会議室
ヨウコ先生「――いらっしゃい。あなたが、最初の面談ね」
ヨウコ先生「じゃあ・・・・・・座って」
「はい」
ヨウコ先生「ここではあなたのこと、先生に、素直に教えてくれればいいのよ?」
「・・・・・・」
ヨウコ先生「じゃあ、好きなもの。自己紹介に書いてたよね。あれはどういう意味?」
「――はい。 好きなものは、しおと、さとうで、きらいなものは、かさとか、くるまとか・・・・・・わごむ、かなあ」
ヨウコ先生「――どうしてそう思うの?」
「――だって、まるいのに、いたいですもん。かたちがかわるし、とんでくる」
ヨウコ先生「――丸くて痛い? まあいいわ」
ヨウコ先生「じゃあ、次、将来の夢。 ななとくんは、なりたいもの、ない?」
「――ああ、おにいちゃん。ぼくはおにいちゃんになりたい」
ヨウコ先生「え?」
「おとーとはいらない。 ・・・・・・おにいちゃんになりたい」
「だって、そうしたら、おにいちゃんと、『おんなじ』になるでしょ? としした、は『りゆう』になるから、いやなんだ」
ヨウコ先生「あ・・・の・・・」
「――とししただと、えらくないから、しっぱいしなきゃいけない」
「べんきょうも、あそぶのも、ぼくはいつもおにいちゃんより、へたでいないといけない」
「ほんとは、もっと、うまくできるんだよ。なんでも、できるんだ」
「おにいちゃんは、あとをつがないといけないけど、 ぼくは・・・・・・いなくてもいいから、だから――――」
ヨウコ先生「――もう、わかった!」
ヨウコ先生「わかった、だから、 訳のわからないことを言って、先生を困らせないで」

〇綺麗な会議室
ヨウコ先生「えーっと、これなんですが。 ご家庭で、なにかもんだいがありませんか」
ヨウコ先生「朝の健康観察表も、ちょっと、不思議な怪我が目立つといいますか・・・・・・」
母「――はあ、もんだい、ですか、とくには。うちの子は、すこし、かわってるので」
母「もんだい、ありませんよ。ねぇ? なぁちゃん」
「――なにもない」
ヨウコ先生「――本当に?」
「――ないったら。ぼくは、かえる。 かえるから」

〇一階の廊下
  景色が歪む。見慣れた、家の風景。二階の窓。天井。
「――健康観察のこと、先生に言ってたんだって? 誰にも言うなって言ってるのに。 なぁ、そんなに、俺をバカにしたいか?」
「――けがをきかれただけ」
「――ふざけんなよ、嘘だって、言え! 嘘だって言えよ!」
「許さんからな!!  お前、そうやって、俺をバカにしてるんだろ! なぁ!」
「――おにいちゃんがやってることは、いじめっこと、おなじだ」
「おなじやりかたで、ぼくをバカにしているだけ」
「――うるさい!!!! うるさい!!!! 死んでしまえ! 死ね! さっさと、」

次のエピソード:1.二度夢の午後

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