九つの鍵 Version2.0

Chirclatia

第4回『思し召しの瞳』(脚本)

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〇水族館・トンネル型水槽(魚なし)
フリートウェイ「・・・・・・・・・」
フリートウェイ(水族館・・・?)
  目を開いてすぐ、フリートウェイは自分が何処にいるか確かめる。
  ──だが、これは『夢』である。
  あまりにもリアル過ぎて、現実の本人が目を覚ますまでは、夢だと分からないのだ。
  照明が落とされて、暗くなった水族館を歩くフリートウェイ。
  普段は赤い瞳は、どこか黒く濁っていた。
  第4回『思し召しの瞳』
フリートウェイ「誰もいなさそうだな・・・・・・」
  フリートウェイは、辺りを見渡しながら、歩を進めていた。
  水族館に限りなく似た空間だが、水槽には魚が一匹もいない。
フリートウェイ(魚が一匹もいないのは何故だろう? 見れるものが無いじゃないか)
  フリートウェイは不思議に思いながらも、先へ進んでいく。
フリートウェイ「──あれは・・・・・・」

〇大水槽の前
  トンネル形の水槽を抜けると、大水槽がフリートウェイの目を引いた。
  『大水槽なら魚はいるかもしれない』と思ったフリートウェイは、大水槽を注意深く見るが、小魚すら一匹もいなかった。
フリートウェイ「・・・・・・いねぇのかよ」
フリートウェイ「ここって、本当に水族館か?」
  水族館であることを疑い始めたフリートウェイだが、大水槽をじっと見つめている。
フリートウェイ「・・・・・・・・・」
フリートウェイ「魚はいないけど・・・何かやけに落ち着くんだよなぁ・・・・・・」
  大水槽と廊下の境目のガラスの前に、両手を優しく置いた。
フリートウェイ「・・・・・・・・・」
フリートウェイ(居心地、いいな)
  目を閉じたフリートウェイは、数分間このままだった。
  故に、気づくことは出来なかった。
  ──大水槽に、自分の目の前に、一匹の巨大な黒い人魚がいたことを。
フリートウェイ「──・・・・・・・・・」
フリートウェイ「ここに居続けたいけど・・・帰らなきゃ」
フリートウェイ「チルクラシアが心配する」
  立ち上がったフリートウェイは、大水槽に背を向けて歩き出す。
  彼が歩く度に、地面に黒色の引っ掻いたような跡が残っている。
  それは、大水槽の中の人魚の尾ひれと繋がっていた。
  フリートウェイは、最後まで振り返ることは無く、光が見える方向へ歩いて行った。

〇簡素な一人部屋
フリートウェイ「・・・・・・・・・」
  いつもより寝起きが悪かったフリートウェイは、機嫌悪そうに起き上がった。
フリートウェイ(水・・・水が欲しいな、やけに喉が乾いた)
  ベッドから出て、近くにある小さな冷蔵庫の蓋を開ける。
  ペットボトルを開け、コップに水を注ぐと、それを一気に飲んだ。
  ペットボトルと、水で濡れたグラスを置くが、まだ少し眠たい。
  目を覚ますために、カーテンも開ける。
  部屋に入ってくる太陽光が、ものすごく眩しく見えた。
フリートウェイ「眩しっ・・・!」
  すぐにカーテンを閉めたい気分だったが、二度寝を防ぐためにぐっと堪えた。
フリートウェイ「ま、まぁ・・・これくらいやれば、流石に起きるよな・・・・・・ あー、眩しっ・・・・・・」
  窓から背を向け、身体を伸ばすと眠気が飛んだような気がする。
フリートウェイ「・・・・・・まだ、少しだけ眠いが・・・」
フリートウェイ「そろそろ、チルクラシアに会いに行くかな・・・」
  フリートウェイの一日の始まりは、コップ一杯の水を飲むことだ。
  太陽光を見たり身体を伸ばしたりして
  目を覚ましたことを確認したら、すぐにチルクラシアの元へ行く。
  チルクラシアにしか向かない笑みを浮かべて、機嫌良さそうに自室から出ていった。

〇可愛い部屋
チルクラシアドール「キュー!(『見て見て~!』)」
  ベッドの上にいるチルクラシアが隣に座るフリートウェイに見せたのは、一冊の絵本だ。
  その題名は『人魚姫』。
フリートウェイ「一番好きな絵本はこれか?」
チルクラシアドール「キュルッ!(『うん!』)」
フリートウェイ「そうか・・・・・・」
  フリートウェイは昨晩寝る前に見た、『鏡の中の人魚』のことを忘れられないでいた。
フリートウェイ(『人魚姫』・・・か。 オレもいつか、そうなっちまうんだろうか)
  少し複雑に思いながらも、フリートウェイはチルクラシアの反応を確認する。
フリートウェイ(また黒いモノが溜まっている・・・・・・ 昨日、消したはずだよな?)
  チルクラシアの胸元の宝石が、また黒ずんで濁っていることに気づく。
  今のところ、彼女の体調に影響は無さそうだが。
フリートウェイ「・・・チルクラシア」
チルクラシアドール「?」
フリートウェイ「また、宝石が黒に濁っている。 濁りを消すから、こっちに来てくれないか」
チルクラシアドール「キュ?(『急にどうしたの?』)」
フリートウェイ「不調の原因は、その黒い霧だろう?」
フリートウェイ「また腹痛で寝込むぞ・・・」
チルクラシアドール「キュウゥゥ・・・・・・(『それは嫌だなぁ・・・・・・』)」
  フリートウェイは、チルクラシアの不調の原因を、何となく把握していた。
  『ブロット』という名称があることや、内臓や血管、神経に多大な影響を与える危険なものであることまでは知らなかったが。
チルクラシアドール「キュルル!(『私が寝ている時にやってよ』)」
フリートウェイ「分かった。だが、起きている時にはやりたくないのか?」
チルクラシアドール「うにゃぁ・・・(『眠くなっちゃうからね・・・』)」
チルクラシアドール(まぁ、いつもいつも眠いけど)
  チルクラシアは欠伸を噛み殺して、フリートウェイとお話ししていた。
  眠そうに目を擦りながら、時折うとうとしながら。
チルクラシアドール「にゃあぁ・・・・・・(『眠い・・・・・・』)」
フリートウェイ「眠いようだな」
フリートウェイ「こういうときは寝るに限る。 だが、3時間以上寝ていたら、起こすからな」
チルクラシアドール「にゃ・・・(『うん・・・』)」
  ふかふかのベッドに横になってすぐに、寝るチルクラシアだが、首や腰が右に曲がっていた。
フリートウェイ(寝相悪すぎだろ・・・・・・ こりゃ、定期的に寝違えそうだな)
フリートウェイ(寝ながら死ぬとか、冗談じゃないぞ! 寝相を直してから出てくか・・・)
  縁起でもないことを考え始めたフリートウェイは、チルクラシアの寝相をまっすぐに直してから、部屋を出た。

〇諜報機関
  フリートウェイは、レクトロの部屋の真下に存在している研究室にいた。
  机には、分厚いファイルとカルテのようなものが大量に置かれている。
  今の彼が知りたいことは、1つだけ。
  『異形』についてだ。
フリートウェイ「・・・・・・・・・」
  フリートウェイは、シリンから研究室の鍵を入手していたため、資料の解析が出来たが、言語の翻訳は出来なかった。
  そのため、研究室にある機械を使って、言語の翻訳を試みているのだ。
フリートウェイ「・・・・・・これか。 見つけたぞ」
フリートウェイ「折角だ、オレにも共有させてもらおうか。 オレもこれは知りたかったし」
  パソコンの画面を見つめたフリートウェイは、一瞬笑みを浮かべると、パソコンの中の一部のファイルを一纏めにした。
  パソコンから抜き取って、自分の能力で一纏めにしたファイルを、鍵付きのフォルダーに入れてしまった。
フリートウェイ「次・・・・・・」
フリートウェイ「・・・ん?」
  パソコンの画面を、じっと見つめる。
  それには、翻訳された文書が映っていた。
  文書には、『前の世界』とかかれている。
フリートウェイ「『前の世界』・・・?」
  違和感は感じたものの、本当にそれだけだったため、この件のこれ以上は深く調べないことにした。
  その後も、幾つかの文書やファイルを、自らの能力で実体化したり、パソコンやその他機材から、抜き取ったりした。
フリートウェイ「チルクラシアの胸元の宝石の『黒』は『ブロット』という名称か。 予想通り、危険なものか・・・・・・」
フリートウェイ「溜まりすぎると『痛み』として出てくるらしい。つまり、あの時の腹痛は、『ブロット』のせいだということだ」
  抜き取ったファイルから、情報を読み取ったフリートウェイは、自分が知ったことを忘れないように紙に書き記していた。
フリートウェイ「・・・で、『ブロットは異形を引き寄せる』と」
フリートウェイ「・・・・・・チルクラシアが危ないな」
フリートウェイ「奪われるくらいなら、オレが一番最初に奪っちまえばいいんだ」
  チルクラシアが、異形に喰われる可能性が出てきたことで、フリートウェイは決心する。
フリートウェイ(レクトロの言う通り、化け物共を倒しに行くかな・・・・・・)
フリートウェイ(世話はシリン・スィがやってくれるだろうし、オレも少しは外に出たいし・・・・・・)
  フリートウェイは、少しだけだが、家の外のことも気になっていた。
  『チルクラシアを異形から守るために戦いに行く』。
  腹が決まったフリートウェイは、レクトロにそれを伝えようと考える。
フリートウェイ(あいつ、何処にいるか分からないからな・・・ 忙しいんだろう)
  レクトロは早朝に起きることと自室に籠っていることくらいしか、フリートウェイは分からなかった。
  仕事に水を差すようなことはしたくないフリートウェイは、レクトロに手紙を書くことにした。

〇屋敷の書斎
  深夜──
  フリートウェイと鉢合わせしたレクトロは、一枚の手紙を受け取った。
レクトロ「フリートウェイからだけど、何だろ・・・」
  フリートウェイの字はとても丁寧だったため、読むことは容易かった。
  だが──
レクトロ(え”え”えぇ・・・!)
  手紙には『チルクラシアを守るためだけに戦いに行く』と書かれていたのだ。
レクトロ(君は本当にブレ無いね!! これは、本人に真意を直接聞くしかないよ!)
  フリートウェイを探すレクトロ。
  だが、居場所は察していた。
レクトロ「チルクラシアの部屋かなぁ!?」
  テレパシーで居場所を探ってみるが、チルクラシアの部屋にフリートウェイはいなかった。
レクトロ(何してんの!? あの人、屋根の上にいるんだけど! 風なら玄関でも当たれるって!)
  フリートウェイは、なぜか屋根の上にいたことが判明した。
レクトロ「まぁ、居場所が分かっているなら、まだマシか・・・!」
  レクトロは、フリートウェイに会って話を聞き、真意を聞くために、足場の不安定な屋根の上に行くことになった。

〇屋根の上
  レクトロから、異形を倒すことを進められたフリートウェイは、屋根の上で一人考え込んでいた。
  『異形による世界侵略』よりも、『チルクラシアといれる時間が短くなること』の方が、彼にとっては大きな苦痛だった。
  だが、異形がチルクラシアを狙っていることを知ったためか、フリートウェイは、『異形を片っ端から倒す』ことにした。
  ──今は、レクトロが来るのを待っている状況である。
レクトロ「やぁ、フリートウェイ」
レクトロ「腹が決まったようだね。 君はどんな選択をするのかな?」
  レクトロは、『フリートウェイがどんな決断をするか』分かっていたが、敢えて本人に聞いてみることにした。
フリートウェイ「・・・・・・オレは、『異形』を倒すことにした」
フリートウェイ「勘違いすんなよ? オレはチルクラシアのために倒しに行くに過ぎねぇんだよ」
レクトロ「だろうね!!! それだけは、分かっていたよ!」
  自分の予想通りの答えが返ってきたレクトロだが、目の前で言われると困惑してしまうのだった。
レクトロ「うん、そうしなよ! それが一番だよ!」
  フリートウェイが異形を倒しに行く理由は『チルクラシアを守るため』なのは、決まっていた。
  世界、という膨大で不明瞭なものよりも、『チルクラシア』という一人のためだけに自分の力を振るいたいようにも見えた。
レクトロ「理由は何であれ、君は戦うことを決心してくれた。 ありがとう」
フリートウェイ「お礼を言われる筋合いはない。 オレは世界を守るために行動するんじゃないんだからな」
レクトロ「わっ、分かっているって!」
  フリートウェイのチルクラシアに対する『執着じみた愛情』と『拘り』。
  レクトロどころか誰もが本気で困惑するだろうが、これは矯正が不可能なほど、フリートウェイの中に染み込んでいた。
レクトロ(うーん・・・ やっぱりおかしいかも)
  レクトロは、仕方なく、フリートウェイにあるものをあげることにした。
  レクトロは、フリートウェイの前に一本の刀を見せ、鞘から出す。
  だが、それは刀身だけ無い奇っ怪なモノだった。
フリートウェイ「何で刀身だけ無ぇんだよ?」
  フリートウェイの問いに、レクトロは驚くべき答えを出した。
レクトロ「刀身は、君の『感情』そのものだよ。 普段は出ないようにしているの」
フリートウェイ「・・・やけに器用だな」
レクトロ「器用もなにも、君の『実体化』の能力を使うだけの代物なんだけどねぇ・・・・・・」
フリートウェイ「後は、オレ次第か・・・ なかなか面白そうじゃねぇか」
  フリートウェイは、レクトロが出した奇っ怪な刀を持つ。
  すると、鞭のように長い刃が出てきた。
  刀身を得たそれは、純粋な刀というよりは柄や鍔、鞘を得たリボンのようだった。
レクトロ(危険型だぁ・・・!)
  チルクラシアのためでしか動かないつもりでいるフリートウェイは、他人に何をするか分からない。
  武器を持ってしまえば、尚更だ。
  ──レクトロは、もう1つ頼み事をした。
レクトロ「ね、ねぇ・・・フリートウェイ」
フリートウェイ「何だ?」
レクトロ「異形を倒しに行くついでに、『宝探し』してきてくれないかなぁ・・・?」
フリートウェイ「子供じゃねぇんだけど?」
レクトロ「君には別の目的も必要だな、と思って! 頼むよ」
フリートウェイ「・・・しょうがねぇな」
  レクトロの言う『宝探し』は、レクトロが所属している『崙崋(ロンカ)』が作り出したものだ。
  人間が取り扱うには危険すぎるため、全部回収してほしいということだ。
フリートウェイ「・・・・・・まぁ、いい」
フリートウェイ「『異形から、チルクラシアを守る』。 新たな目標が出来たんだ、早速行ってくる」
レクトロ「うん、行ってらっしゃい! ヤバそうだったら、大人しく撤退するんだよ!」
フリートウェイ「ん、分かった」
  レクトロから、特殊で奇っ怪なモノを与えられたフリートウェイは、屋根から飛び降りると、地面に足を着けてどこかへ行った。
  レクトロはそれを見下ろし、無言で家に戻っていった。
  ──まだ、彼に教えなくてもいいかも。
  知らなくても良いことだって、あるよね?

次のエピソード:第5回『救難の意趣』

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