エピソード9(脚本)
〇ファストフード店の席
平川 盗愛「馬っ鹿じゃないの!」
平川 盗愛「じゃあ何? あんた優希の言う真に受けて、みすみす身柄を渡したって言うの?」
平川 盗愛「いくら何でも楽観的過ぎるでしょ!」
高木 誘作「わかってるよ」
高木 誘作「わかってるからこそ、多少手の込んだ形で誘拐させたんだ」
高木 誘作「まずは父親の和住を誘拐させる傍らで、相手の弱みを握る」
高木 誘作「そのカウンターとして、相手に誘拐させることでパワーバランスが拮抗するようにした」
高木 誘作「和住本人を狙う彼らに、優希を狙う価値を見出させると同時に、睨み合いの状況を作り出さなきゃならないんだから」
高木 誘作「相当骨が折れたよ」
高木 誘作「だけど、後はもう選挙が終わるまでお互いにじっとしているだけでいい」
高木 誘作「相手もこれ以上、手は尽くさないでしょ。ただでさえ選挙活動は大変らしいし」
平川 盗愛「ご高説どうも」
平川 盗愛「で、一仕事終えたあなたは、あの子が今まさに危ない目に合ってるって言うのにも拘わらず知らん顔してるってわけね」
平川 盗愛「自分でしでかしたことの責任すら感じずに」
高木 誘作「これは優希本人が望んだ状況だよ」
平川 盗愛「だからと言って、あんな素直でいい子を巻き込むべきじゃないわよ」
平川 盗愛「他にいくらでもやりようはあった。違う?」
高木 誘作「そりゃあっただろうね」
平川 盗愛「なら」
高木 誘作「大丈夫だよ。少なくとも、片桐さんが預かっている間は」
平川 盗愛「信頼してるのね」
平川 盗愛「でも、本当の危険因子は別にいる」
高木 誘作「それも承知しているよ」
平川 盗愛「何か手を打ってるのね?」
高木 誘作「それはこれからだ」
高木 誘作「ついてくる?」
平川 盗愛「何処によ」
高木 誘作「決まってる」
高木 誘作「我らが愛すべき友人のもとさ」
〇古いアパートの居間
榊 権藤「今更、何の御用ですか?」
榊 権藤「高木さん」
高木 誘作「あれ? おかしいな」
高木 誘作「いつでも歓迎してくれるって聞いたのに」
榊 権藤「ふっ、そうでしたね」
榊 権藤「生憎、今は忙しいのでおもてなしは期待しないでください」
高木 誘作「それには及ばないよ」
高木 誘作「少し話をしたら帰るから」
榊 権藤「助かります」
榊 権藤「して、どういったご用件で?」
高木 誘作「俺の用はただ一つだよ」
高木 誘作「優希には手を出さない。これを確約してほしい」
榊 権藤「もちろんです。大事な人質ですからね」
榊 権藤「丁重に扱っておりますよ」
高木 誘作「扱う、ね」
高木 誘作「ねぇ、榊さん」
高木 誘作「実際のところ、桐生和住を攫った時どうするつもりだったの?」
榊 権藤「どう、とは?」
高木 誘作「選挙が終わったら、どうするつもりだったのかなって」
高木 誘作「まさか、何もせずに帰すわけないよね?」
榊 権藤「なぜ、そう思われるのです?」
高木 誘作「もし仮に市長の座を降ろされても、まだ人脈は残るはずだ」
高木 誘作「桐生和住は今や、兵藤の裏の顔を噂程度じゃなく実感を伴って知っている」
高木 誘作「切った張ったの政治の世界で、それをそのまま放っておくとはとてもじゃあないが思えなくてね」
高木 誘作「告発される危険性を常に孕んでいるわけだし」
高木 誘作「それとも、弱みを握られっぱなしになるつもりだったの?」
榊 権藤「ははは」
榊 権藤「随分と私のことを高く買ってくださっているようですね」
高木 誘作「全く、想像に及ばなかったと?」
榊 権藤「ええ、全く」
高木 誘作「そう」
高木 誘作「それを聞いて安心した」
榊 権藤「え?」
高木 誘作「実は本題はここからでさ」
高木 誘作「君ら半グレと、兵藤とがつるんでいる証拠を掴んでいることはもう承知だと思う」
榊 権藤「ですが、それはもう破棄されたのでしょう?」
榊 権藤「それが桐生和住を返す条件だった」
榊 権藤「それとも反故にしたと?」
高木 誘作「まさか、手元のデータは削除したよ」
榊 権藤「手元の?」
高木 誘作「そう」
高木 誘作「兵藤の選挙演説の場に映り込む、怖い顔したお兄さんの写真」
高木 誘作「そういうのは全部消したよ」
高木 誘作「ただね、もう少し弁えるべきだったね」
榊 権藤「と、言いますと?」
高木 誘作「いざという時、すぐに駆け付けられるようになんだろうけど」
高木 誘作「さすがに兵藤との距離が近すぎたな、物理的なね」
高木 誘作「今はSNS時代だ、選挙活動も動画になって拡散される」
高木 誘作「何も知らない広報はもちろん、」
高木 誘作「無数の市民たちの手によって撮られた、兵藤の公開演説の場に映り込む君ら半グレの動画が、」
高木 誘作「今や世界中で見られるようになっている」
高木 誘作「これはさすがの俺でも、消しようがなかったんだ」
高木 誘作「だから、弱み握られても気にしないっての助かったよ」
榊 権藤「はは、何を言うかと思ったら」
榊 権藤「そんなものは証拠でも何でもない」
高木 誘作「そう、今はね」
榊 権藤「・・・何?」
高木 誘作「火種──僅かにでも疑念が投げかけられればそれらはたちまち証拠に早変わりだ」
高木 誘作「さしずめ、電子の海を彷徨う機雷ってところかな」
高木 誘作「うっかり起爆させないよう気を付けた方がいい」
榊 権藤「まだ、何かを隠し持っているな?」
高木 誘作「まさか」
高木 誘作「今の俺は本当に持っちゃいないよ、信じちゃくれないだろうけどね」
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N党の人なら
公職選挙法に規定がないということで
本当に誘拐も辞さないかもしれませんね!!
何でもありの選挙も見てみたいですww