16-1_デンジャラス・ミッション(脚本)
〇街中の道路
ある日の放課後、沙織に勧められやってきたのは東京内に存在する麻布十番という土地。
この春東京に来てからというものの、時を見計らっては東京内の街を見て回るのが休日や放課後の過ごし方の一つとなりつつある。
神月彩音「・・・・・・」
車の走行音や雑踏に紛れる中、歩きながらため息を吐くと視線を横にずらし、その先には隣を歩くように制服姿の啓の姿がある。
「学校に魔物が現れたり新宿駅での件もありましたし、異能者もこの東京には多く紛れている事でしょう」
北条啓「全員が善人とは限らない以上、しっかり役目は果たさねばなりません」
神月彩音「・・・・・・」
彩音は隣をついて回るこの存在に何度もため息をついていた。
そんな二人とは違う場にて一人の少女が息を切らせながら人混みをかき分けるように走り抜けていた。
神月彩音「あーあ流石は東京。 ケーキ屋さんも雑貨屋さんも沢山ある」
神月彩音「テレビで見るような店も沢山あるだろうし羨ましい」
北条啓「今その東京におられるのですから、今は手が届かない訳でもないでしょう。ご所望とあらばお供致しますが?」
神月彩音「なんであんたと行かなきゃいけないのさ。 デートじゃあるまいし」
と歩き続け間もなく、問題は発生した。
ふと会話のない事に違和感を感じ振り向くと、近くにいたはずの啓の姿が何処にもなく彩音は唖然と足を止める。
同じく彩音の姿が無くなっている事に気づいた啓も唖然とし、焦りを覚えつつ周りを見渡すが彩音の姿はどこにも見当たらなかった。
人混みも相まって、小柄な彩音を見つけるのは容易ではなく電話をかけるが数コール鳴っても繋がる様子がない。
北条啓「(気づいておられない・・・?)」
焦りは次第に募り、表情に余裕が無くなっていた。
そんな彼の心情も知らず、彩音ははぐれた事に関してこれといった焦りの様子も見せず呆れた様子でいた。
神月彩音「最悪フローラの力で帰ればいいけど、とりあえずどこにいるか聞いて・・・」
と携帯を取り出そうと鞄に手を入れて間もない時、人混みと雑踏に紛れてどこからか妙な声が聞こえた気がした。
それは通行していく人の話し声でもなく、違和感を感じ携帯を探していた手が止まる。
鞄から手を出し、視線を向けると人通りの多い大通りから外れ人通りのまるで無い路地が続いている。
しかし人の姿はなく、気のせいかと彩音はその場から離れた。
金髪の少女は息を切らせながら後方を警戒するように何度も振り返りながら走り続ける。
額に汗を浮かばせ、何度も道を曲がりながら細い道を走っていくと僅かに広い道に出た。
その瞬間、すぐ近くにいた人にぶつかりそうになり彼女は足を止めた。
納言麗奈「っ!」
驚いた様子で立ち止まると、近くにいた人は同じ学校の制服を身につけており
納言麗奈「あ、貴方は・・・」
神月彩音「こんな所で一人なんて、お嬢様は街をぶらついたりはしないと思って・・・」
彩音が意外そうに声をかけている途中で彼女は表情を変え、彩音の背後に黒スーツの男達が現れた事に気づくと彩音の手を引いた。
神月彩音「えっ、ちょ・・・」
彩音が唖然と声を上げる中、彼女は何も言わず手を引くと駆け出した。
スーツの男「いたぞ! こっちだ!」
神月彩音「えっ何なに」
〇街中の道路
背後から男性の叫び声が聞こえ迫る中、彩音は金髪の少女納言麗奈に手を引かれるまま走っていた。
それはまるであの黒スーツの男達から逃げ回っているようだが
神月彩音「ちょっと・・・もう走れないんだけど・・・」
納言麗奈「そ、そんなこと言ってる場合じゃないですわよ!」
神月彩音「あの人たちは何? 何で逃げてるの?」
掠れながら問いかけると彼女はいい淀み、互いの体力の消耗に引き換え黒スーツの人間達は今も追いかけ続けている。
追いつかれるのが時間の問題だと言うことは彩音も分かりきっていた。
ただ一つ言えるのは、彼女は追いかけられていてあの人間達から逃げている。そう察した彩音は小声で「ミラージュ」と呟き
神月彩音「こっち!」
ミラージュ────
それは彩音の使える魔法の一つで、
相手に幻覚を見せたり時にはかけた相手の
姿を眩ませることが出来る魔法。
今、彩音は自身と金髪の少女に魔法をかけ
二人の姿はスーツ姿の人間には見えていない。
体力の限界を感じながら走り続けていた二人は駅の構内に駆け込み、人混みに紛れるように姿を眩ませた。
〇改札口前
肩で息をし整えながら彼女らは一息つく。
神月彩音「ぜえ、ぜえ・・・」
同じく息を切らせていた納言麗奈は今にも倒れそうに息を切らせている彩音へ視線を向けると
納言麗奈「・・・最悪なタイミングで遭遇してしまいましたわね」
以前の一件からは意外にも取れる、申し訳なさそうな表情と声色に彩音は息が整い始めると
神月彩音「・・・まあ、何となく変な感じがするとは思ってたけど。あそこで会う前にも納言さんの姿は見たし」
納言麗奈「なんですって・・・?」
神月彩音「狭い路地に入っていって、その後に追いかけるようにあのスーツ姿の人達が・・・」
神月彩音「だから気になって追いかけた」
彩音の言葉に彼女は唖然としながら
神月彩音「状況もよく分かんなかったし、何だかロクな予感はしなかったけど」
納言麗奈「・・・それを知って追いかけたんですの?」
会話が途切れ、沈黙が流れると納言麗奈は小さく息を吐き
納言麗奈「とにかく、一般人たる貴方を巻き込む訳にはいきませんわ。こうして何とか巻けましたし、今のうちに由良と連絡を・・・」
と彼女が鞄に手を入れ携帯を取り出そうとした時鞄のポケットから何かが落ちた。
納言麗奈「あら、何かが落ちて・・・」
と彼女がしゃがみ込み落ちたものを拾うと、彩音はその落ちたものを見て目を丸くした。
その瞬間彩音は考え込むと彼女に投げかけ
神月彩音「その手紙・・・開けて!」
納言麗奈「え?」
突然かけられた言葉に納言麗奈は彩音の方を向くと
神月彩音「ここは人通りも多いけど、見つからないとも限らない。合流する為にも安全な場所に移動する必要があって・・・」
神月彩音「とにかく、その手紙を開けて中身を見て!」
納言麗奈「・・・・・・」
理由も意味も分からず疑問符を浮かべていた納言麗奈だが、やがて手紙を見つめると封を切り折りたたまれた紙を取り出し開いた。
その瞬間、手紙が白い輝きを放ち麗奈は思わず目を閉じた。