エピソード3(脚本)
〇レストランの個室
四年前・・・
ウェイトレス「お連れ様がお見えです」
桐生 和佳「通せ」
高木 誘作「お初にお目にかかります」
高木 誘作「皆様に快適な誘拐ライフを送ってもらうため、様々な誘拐を企画・立案し、遂行まで行わさせていただきます」
高木 誘作「誘拐プランナー、高木誘作です」
桐生 和佳「つまらん挨拶は抜きにしよう」
高木 誘作「・・・かしこまりました」
高木 誘作「それにしても随分と高そうなお店ですね」
桐生 和佳「そう、ではなく、実際高いのだよ」
桐生 和佳「でなくちゃ私の口には合わん」
高木 誘作「それは結構なことで」
桐生 和佳「それに、密談するのだからこれくらいは当然だよ」
桐生 和佳「ファーストフードなど論外だ」
高木 誘作「こう見えても庶民派でしてね」
高木 誘作「それにあそこはあそこで、密談には向いてるんですよ」
高木 誘作「所詮、何を聞かれても与太話にしか思われません」
桐生 和佳「私はそんじょそこらの人間と同格に扱ってもらいたくはないな」
高木 誘作「それはとんだご無礼を」
高木 誘作「して、本日のご依頼は?」
桐生 和佳「息子を誘拐してほしい」
高木 誘作「お言葉を返すようですが、躾にしては些かやり過ぎかと」
桐生 和佳「そんなんではないよ」
高木 誘作「では、なぜ?」
桐生 和佳「近く、市議会選がある」
桐生 和佳「私はそこで必ず勝たなくてはならないんだ」
高木 誘作「随分と切羽詰まったご様子ですが」
桐生 和佳「無論だ。これ以上、黒星を重ねるわけにはいかないからな」
高木 誘作「これまでも何度か出馬されたんですか?」
桐生 和佳「その通りだ」
高木 誘作「で、一度も当選したことはないと」
桐生 和佳「そんなこと詳らかにして、何がしたのかね?」
高木 誘作「失礼。単なる状況整理です」
高木 誘作「気を悪くなさらずに」
桐生 和佳「ふん」
高木 誘作「要するに、選挙活動の一環として卑劣な誘拐犯に立ち向かう姿を市民に見せつける」
高木 誘作「そうやって、支持を獲得しようってことですね」
桐生 和佳「話が早いな」
高木 誘作「よくあるご依頼なので」
桐生 和佳「ふん、なら問題ないわけだな」
高木 誘作「はい、滞りなく遂行できるかと」
高木 誘作「ただ」
桐生 和佳「ただ、なんだね?」
高木 誘作「個人的には感心しません」
桐生 和佳「貴様の関心など、興味ないな」
高木 誘作「ありゃりゃ」
高木 誘作「一応これでも、選挙権のある立派な一市民なんですが」
桐生 和佳「何が立派なものか、犯罪者風情が」
高木 誘作「かくいうあなたも、今まさに片足突っ込みかけてますけどね」
〇インターネットカフェ
高木 誘作「で、俺はその依頼を完遂したわけ」
平川 盗愛「なるほどね」
平川 盗愛「ところで、それってどう決着つけたの?」
平川 盗愛「犯人捕まらないと収集つかないんじゃない?」
高木 誘作「身代わりたてたよ。ホームレスに金を握らせてね」
高木 誘作「どうしてそんなことを?」
平川 盗愛「単なる興味本位よ」
平川 盗愛「それで、どうしてあの子は女装するに至るわけ?」
高木 誘作「盗愛はストックホルム症候群って知ってる?」
平川 盗愛「ええ。確か誘拐の被害者が、長い時間と場所とを共有することで、加害者に対して好意を抱くようになるってやつでしょ?」
平川 盗愛「って、まさか!」
高木 誘作「そう、そのまさかだよ」
高木 誘作「優希にも同じことが起こったわけだ」
高木 誘作「以来、優希はあの姿で度々俺に会いに来てるってわけだ」
平川 盗愛「そ、そう」
平川 盗愛「あんたも苦労してるのね」
高木 誘作「まぁ、責任を感じてないわけではないから気にしてはないけど」
平川 盗愛「責任?」
桐生 優希「ただいまですー」
桐生 優希「何のお話しされていたんですか?」
平川 盗愛「ああ、あなたの──」
高木 誘作「大したことじゃないよ」
高木 誘作「優希は四年前の裏の事情を知らない」
高木 誘作「くれぐれも内密に」
平川 盗愛「わかったわ」
桐生 優希「どうされたんです?」
平川 盗愛「いえ、ただあなたがどっちのトイレ使ったのかなって思って」
桐生 優希「乙女の秘密です」
〇駅前広場
高木 誘作「まだ来てないみたいだね」
平川 盗愛「よかったの? あの子置いてきて」
高木 誘作「ああ、優希はなるべくなら巻き込みたくないから」
平川 盗愛「なら、なんで私の時には連れてきたのよ」
高木 誘作「これから女に会うってのに、女連れの方が挑発できるでしょ?」
高木 誘作「上の人間呼び出させるのには、揉め事が一番だからね」
平川 盗愛「で、今回は私が連れてこられたわけね」
高木 誘作「盗愛の方がいいからね」
平川 盗愛「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」
平川 盗愛「そんなに信頼してくれてたのね」
高木 誘作「もちろんだ」
高木 誘作「いざという時、見捨てても心が痛まなくて済む」
平川 盗愛「今のその発言で、あんたの信用を無くしたわ」
高木 誘作「と、来たみたいだね」
援デリ嬢「あなたが、ユウさん?」
高木 誘作「初めまして」
平川 盗愛(やつれた顔に、落ちくぼんだ眼窩。典型的な中毒者ね)
援デリ嬢「あの、後ろの人は?」
高木 誘作「ああ、三人で楽しもうかと」
高木 誘作「いいでしょ?」
平川 盗愛(傍から見てたら最低なこと言ってるわね・・・)
援デリ嬢「・・・聞いてない」
高木 誘作「駄目だった?」
援デリ嬢「当たり前でしょ。どういう神経してるの?」
高木 誘作「そうだったの。でも俺も聞いてないな」
援デリ嬢「はぁ?」
高木 誘作「まさか駄目だったなんて」
援デリ嬢「言わなくてもわかるでしょ」
高木 誘作「そうなの。じゃあ、今度からは気を付ける」
援デリ嬢「じゃあ・・・」
高木 誘作「でも今回はいいでしょ? こっちはすっかりその気だし」
援デリ嬢「・・・はぁ、話になんないんだけど」
援デリ嬢「こっちも人呼んでいい?」
高木 誘作「さらに追加? 俺は大歓迎だよ」
援デリ嬢「ちっ、どうなっても知らねぇからな」
高木 誘作「楽しみだ」
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