誘拐プランナー Kidnap Syndrome

吉永久

エピソード1(脚本)

誘拐プランナー Kidnap Syndrome

吉永久

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〇地下室
片桐 拐斗「・・・・・・」
藤城 優作「・・・・・・」
片桐 拐斗「・・・時間だな」
片桐 拐斗「どうやらお前の父さんは、身代金を払わないつもりらしい」
藤城 優作「そうですか」
片桐 拐斗「・・・それだけか?」
藤城 優作「何がです?」
片桐 拐斗「いや、もっと他に言うことないのかって思って」
藤城 優作「まぁ、わかり切っていたので」
藤城 優作「父は僕に興味ないみたいですし」
藤城 優作「兄と違って不出来なので」
片桐 拐斗「・・・そうか」
藤城 優作「あ、それとも遺言の話ですか?」
片桐 拐斗「遺言ってなんだ?」
藤城 優作「言っていたじゃないですか、時間までに身代金を払わなければ僕を殺す」
藤城 優作「そういう約束でしたよね?」
片桐 拐斗「ああいう一方的なのは約束って言わねぇんだよ」
藤城 優作「そうなんですか」
藤城 優作「じゃあ、果たす義務もないんですね」
片桐 拐斗「・・・死にたかったのか」
藤城 優作「・・・・・・」
藤城 優作「いえ。ただ、生きていようが死んでいようが変わりないので」
片桐 拐斗「・・・そうか」
藤城 優作「そうです」
片桐 拐斗「・・・・・・」
藤城 優作「・・・・・・」
片桐 拐斗「はぁ、どうすっかなぁ」
片桐 拐斗「とりあえずお前はもう帰っていいぞ」
藤城 優作「おじさんはどうするんです?」
片桐 拐斗「あー・・・」
片桐 拐斗「おじさんはどうしようかなぁ」
藤城 優作「帰らないんですか?」
片桐 拐斗「どこにだよ」
片桐 拐斗「第一、俺は仕事を失敗してるんだ」
片桐 拐斗「このままなんの責任も取らずに帰れるかよ」
藤城 優作「お兄ちゃんよく言ってます」
藤城 優作「責任を取ろうとする人は、いい人だって」
片桐 拐斗「いい人なもんかよ」
片桐 拐斗「俺はお前を誘拐したんだぞ」
藤城 優作「でも、解放してくれたじゃないですか」
片桐 拐斗「お前じゃ金にならないってわかったからだよ」
片桐 拐斗「こんなことなら、初めからお前の兄貴を誘拐するべきだった」
藤城 優作「なら、僕が手伝いましょうか?」
片桐 拐斗「はぁ?」
片桐 拐斗「お前いったい何を言って──」
藤城 優作「僕を雇ってください」
藤城 優作「誘拐犯の助手として」

〇ファストフード店の席
高木 誘作「・・・・・・」
桐生 優希「お久しぶりです、誘作さん」
桐生 優希「最近、調子はどうですか?」
桐生 優希「体調は崩されていません?」
桐生 優希「仕事もいいですけど、たまには息抜きもしなきゃ駄目ですよ?」
桐生 優希「もしお相手がいないんでしたら」
桐生 優希「僕と──」
高木 誘作「あのさ、優希」
桐生 優希「はい、何でしょう!」
高木 誘作「一応、仕事の依頼っていうからきてるのであってさ」
高木 誘作「世間話で呼び出さないで欲しいんだけど」
桐生 優希「誘作さんはご存知ですか?」
桐生 優希「最近、ママ活なる仕事が流行ってるらしいですよ」
桐生 優希「何でも、男性が相手をすることでお金をもらうのだとか」
桐生 優希「もしよければ、僕とも──」
高木 誘作「いくつか勘違いしているみたいだけど」
高木 誘作「とりあえず、ママ活は仕事ではないよ」
桐生 優希「なんと!」
高木 誘作「後、誰が聞いてるかもわからない場所で、軽々しくそういうこと言わない方がいいよ」
高木 誘作「ただでさえ優希は勘違いされそうな見た目してるんだから」
桐生 優希「僕の誘作さんに対する気持ちは、勘違いじゃないですよ?」
高木 誘作「はぁ・・・」
高木 誘作「帰る」
桐生 優希「ちょ、ちょっと待ってください!」
高木 誘作「何さ」
桐生 優希「あります、仕事の依頼、して欲しいこと」
高木 誘作「ちゃんと俺向きの?」
桐生 優希「はい。もう誘作さんにしかできません」
高木 誘作「・・・わかった。話を聞こう」
桐生 優希「ありがとうございます!」
桐生 優希「父を誘拐してほしいんです」
高木 誘作「反抗期にしては、随分と過激だ」
桐生 優希「違うんです」
桐生 優希「そうではなくて、むしろその逆と言いますか」
高木 誘作「逆?」
桐生 優希「はい。誘拐して、父を守ってほしいんです」
高木 誘作「いまいち意味が分からないな」
高木 誘作「匿って欲しいとか、そういうこと?」
桐生 優希「半分当たりです」
桐生 優希「順を追って説明します」
高木 誘作「頼むよ」
桐生 優希「誘作さんは、近々市議会選があるのをご存知ですか?」
高木 誘作「ああ、なんかやってるみたいだね」
高木 誘作「ポスターとかよく見かけるよ」
桐生 優希「では、父のも見ましたか?」
高木 誘作「さぁ? そんなにまじまじとは見てないよ」
高木 誘作「出るの?」
桐生 優希「はい」
高木 誘作「でも、今の市長も君のお父さんでしょ?」
桐生 優希「その通りです」
桐生 優希「ただ任期を満了したので、間もなくそうじゃなくなります」
高木 誘作「ふーん」
高木 誘作「だけどまだ続けたいと」
高木 誘作「仕事熱心だね」
桐生 優希「ですが今回は、対抗馬が現れまして」
桐生 優希「人気を二分しそうだと」
高木 誘作「へぇ、そりゃあ気が気じゃないね」
桐生 優希「ええ。ですからこの頃、父は忙しそうにしていて・・・」
高木 誘作「そうでなくとも忙しいんじゃない? 君のお父さんは」
桐生 優希「そりゃまぁ、そうなんですが」
桐生 優希「輪をかけて」
高木 誘作「そう」
高木 誘作「で、それが誘拐とどう繋がるわけ?」
桐生 優希「ああ! ごめんなさい!」
桐生 優希「少し脱線してしまいました」
高木 誘作「ああ、そうなの」
高木 誘作「まぁいいや、続けて」
桐生 優希「はい」
桐生 優希「その対抗馬の方、名前は兵藤 高藁(ひょうどう たかわら)と言うんですが」
桐生 優希「どうも、悪い噂があるみたいでして」
高木 誘作「それほど意外な話じゃないな」
高木 誘作「政治に汚職はつきものだ」
桐生 優希「それが、かなり強引な手段も辞さない方みたいです」
桐生 優希「政界に入り込む時にも、妻子への誘拐や暴行などで脅迫して席を手に入れたとか」
高木 誘作「へぇ、そりゃ怖い」
高木 誘作「それで、君はお父さんに危害が及ぶんじゃないかと思ったんだ」
桐生 優希「はい。実は聞いてしまったんです」
高木 誘作「何を」
桐生 優希「父が携帯で誰かと話しているところを」
桐生 優希「脅しには屈しないとか、物騒なことを言ってました」

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