3 噂(脚本)
〇英国風の部屋
数日後。ダリルのアパルトマン。
ダリル「さあ、2人とも!準備はできてるかい!いいシャンパン買ってきたぞ」
エミリ「ああ、ダリルさん、おかえりなさい。準備はできてますよ」
ダリル「すごい。どれも美味しそう。全部エミリが作ったの?」
トート「ああ。すごいだろ?」
ダリル「お前には聞いてないぞ?」
エミリ「ふふ。でも、トートさんも手伝ってくれたんですよ?」
トート「手伝ったって・・・・・・たいしたことはしてないよ」
ダリル「お前、迷惑かけなかったか?」
エミリ「迷惑なんてそんな。とても助かりましたよ」
トート「そ、そんなことより、早く食べようよ。せっかくのお料理が冷めちゃう」
ダリル「それもそうだ」
ダリル「それに、今日はトートの個展が無事成功したことを目一杯お祝いしなきゃいけないからな」
トート「兄さんもエミリもありがとう。とても嬉しいよ」
ダリル「当たり前だろう。世間が弟の才能にやっと気がつき始めたんだ。こんなに嬉しくて、祝うべきことがほかにあるか?」
エミリ「私も嬉しいです。トートさんの絵、とても好きだから」
トート「兄さん、エミリ・・・・・・」
ダリル「さあさあグラスにシャンパン注いで。乾杯しようじゃないか」
〇英国風の部屋
ダリル「あの時が私たち兄弟にとって、人生の頂点だったんだろうな、きっと」
ダリル「とても幸せだった・・・・・・」
ダリル「だけど」
ダリル「・・・・・・幸せっていうのはどうしてそう長く続かないんだろうな」
ダリル「弟の絵が売れ出したかと思った矢先、どこからともなく噂が立ったんだ」
ダリル「「トートの描く絵は呪いの絵だ」って」
ダリル「それまでなんでもなかったのに、絵の所有者たちが口々に言うようになった」
ダリル「「絵画の中の子供と目が合うような気がする」「夜な夜な、絵を飾っている広間から物音がする」・・・・・・って」
ダリル「そんな変な噂が立ってからは、絵は売れないし、個展を開いても客が誰1人として来ない」
ダリル「おまけに絵の購入者から作品を返される始末。弟は絵が売れなかった頃に逆戻り」
ダリル「いや、それよりも酷い日々だったな、あれは」
〇地下室
ダリルのアパルトマン。トートのアトリエ。トートが1人、キャンバスに向かってる
トート「・・・・・・」
ダリル「トート、入るぞ」
トート「・・・・・・」
ダリル「ちゃんと飯食ったか?」
トート「・・・・・・」
ダリル「パスタ作ったんだ・・・・・・エミリほどではないけどまあまあ上手くできたはずだ」
ダリル「ここに置いておくから、食べれる時に食べろよ」
トート「・・・・・・」
ダリル「・・・・・・」
トート「どうして・・・・・・」
ダリル「トート?」
トート「どうして、僕の絵が、呪いの絵だなんて・・・・・・」
ダリル「・・・・・・」
トート「穏やかな公園の絵じゃないか!どこをどう見たら、この絵を呪いだなんて受けとるんだよ!」
ダリル「トート、少し落ち着け」
トート「落ち着いてなんていられるか!どうして・・・・・・」
トート「悩みながら、もがきながら作り出した作品だぞ?そんな言われよう・・・・・・散々じゃないか・・・・・・」
トート「どうして・・・・・・どうして・・・・・・」
ダリル「なあ?少し休もう。呪いだなんて所詮噂に過ぎない。少しすれば落ち着くはずさ」
ダリル「だからさ。少し落ち着くまで絵から離れよう。母さんたちの待つ家に戻ったっていい」
トート「兄さん・・・・・・僕にそんなことができると思う?」
ダリル「トート・・・・・・」
トート「僕には・・・・・・絵しかないんだよ。他になにもないんだ」
ダリル「そんなことは・・・・・・」
トート「僕から絵を取り上げたら、一体なにが残るっていうんだ!」
ダリル「・・・・・・」
トート「・・・・・・ごめん、兄さん。今は・・・・・・まともに話ができる状態じゃないんだ」
トート「しばらく・・・・・・1人にしてほしい」
ダリル「・・・・・・わかった」
トート「・・・・・・パスタありがとう。後で食べておく」
ダリル「ああ」
〇英国風の部屋
アパルトマンのリビング
ダリル「ああ、エミリ。きてたんだね」
エミリ「すみません。鍵がかかってなかったので、勝手にお邪魔してしまって」
ダリル「謝らなくていいよ。君はもう、俺らの家族みたいなものでしょ?」
エミリ「ありがとうございます」
エミリ「あの・・・・・・トートさんは?」
ダリル「今追い出されてしまったところ。今は・・・・・・まともに話ができる状態じゃない」
エミリ「・・・・・・それでも、私も少し、トートさんとお話がしたいのですが・・・・・・」
ダリル「・・・・・・俺は止めたりはしないよ。ただ・・・・・・追い出される可能性のほうが高い」
エミリ「それでも構いません」
ダリル「・・・・・・弟を見捨てずにいてくださり、ありがとうございます」
エミリ「お礼を言われるほどのことではありません。私がしたいからしているだけなので」
ダリル「・・・・・・トートはいい人を見つけたね」
〇英国風の部屋
ダリル「私の記憶が正しければ、ちょうどあの日を境にしたんだと思う」
ダリル「トートは再び筆を取るようになった」
ダリル「だけどその絵には・・・・・・今まで一切なかった闇・・・・・・とでもいうのかな」
ダリル「そういうものが見え隠れするようになった」
〇地下室
ダリル「トート・・・・・・」
トート「なに、兄さん。急ぎの用?」
ダリル「いや・・・・・・なんでもない」
トート「じゃあ後にして。今集中したいから」
〇地下室
ダリル「トートは以前よりも一層描くことにのめり込んだ」
ダリル「のめり込めばのめり込むほど、彼の絵はだんだん暗くなっていった・・・・・・」
ダリル「呪いの噂はますます広がり、誰も弟の絵に近づこうとさえしなかった」
ダリル「そして・・・・・・それは突然のことだった」
ダリル「彼は一枚の絵を描き上げた後、自身のアトリエで首を吊った」
ダリル「彼の遺作・・・・・・キャンパスの端には「タイトル:地獄」と書かれていた」
トートの苦しみが伝わってきて、最後死んでしまって声が出ました!とてもお話に引き込まれます。
画家にしか分からない苦しみというのがあるのかもしれませんね
想いを込めて描きあげた作品に覚えのない噂がついてまわり正当な評価がもらえない…恐ろしいです
私は絵描きの端くれではありますが彼の気持ちが痛いほど伝わってきました 彼を支える人たちにとってはトートさえ生きていてくれればいいのだけれど、彼自身はそうもいきませんよね
悲壮な話ですが、とても惹き込まれました