トート美術館

あさけの

4 真実(脚本)

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〇美術館
  現在。トート美術館。
ダリル「私は弟がだんだんおかしくなっていくところを見届けた・・・・・・見届けることしかできなかった」
あなた「・・・・・・」
ダリル「たかが噂だと思うだろう?だけどそんな噂が、人1人の人生を狂わせてしまうんだ。私は目の当たりにしたよ」
ダリル「・・・・・・あんな噂がなければ、世の中の人間たちが、もう少しみる目があれば、弟は死なずに済んだ」
ダリル「悪いのは全部、この世の中だ。だからさ」
  ダリルの取り出した拳銃があなたの頭に向けられる
あなた「!?」
ダリル「私は復讐を果たす。弟を嘲笑い、弟を見捨てた世間というものに」
ダリル「芸術のセンスのかけらもない、なにも考えずにのうのうと暮らしているお前らのような人間どもに」
あなた「あ・・・・・・あ・・・・・・」
ダリル「・・・・・・恨むなら、なにも考えずにこの美術館に踏み込むことを決めた、お前自身の判断を恨むんだな」
アンナ「やめてください!館長!」
ダリル「・・・・・・おや、アンナ。これはこれは、随分と物騒なものを持ってるじゃないか」
アンナ「館長こそ、人のこと言えないじゃないんですか」
ダリル「はは。それもそうだな」
アンナ「今すぐそのお客様を解放してください」
ダリル「・・・・・・邪魔をするんじゃないよ。だいたい、お前には関係のないことだろう?それともなんだ?この客人に惚れでもしたか?」
アンナ「そういうわけでは・・・・・・」
ダリル「じゃあそこで大人しく見ていろ」
アンナ「そいうわけにはいきません」
ダリル「どうして?」
アンナ「確かに、そこのお客様とは今日初めて会いました」
アンナ「冷たい言い方になりますが、正直その方がどうなろうと私の知ったことではありません」
ダリル「じゃあなぜ・・・・・・」
アンナ「私は・・・・・・館長のことを放っておくことができないから」
ダリル「ふん。ただ雇われているだけのお前が、私を放っておけないだと?笑わせるな」
アンナ「私はただ雇われてるだけの受付なんかじゃありません」
ダリル「なにを言って・・・・・・」
アンナ「・・・・・・私は、エミリの娘です」
ダリル「・・・・・・は?」
アンナ「そしておそらく・・・・・・トートは私の父親です」
ダリル「なんだと?」
アンナ「正直、父親に関しては確証がありません」
アンナ「母は・・・・・・何人かの男性と関係を持ってましたから・・・・・・」
ダリル「ふっ。そうか。しかし、だからなんだというのだ。弟の死と共に消えた女の娘が、今更なにをしようと・・・・・・」
アンナ「・・・・・・こんな状況になってしまったので、真実を伝えようと」
アンナ「本当だったら、私はただ、この美術館を、そして叔父かもしれないあなたのことを見守るだけのつもりだった」
ダリル「真実もなにもないだろう!弟は世間の変な噂に狂わされ、そして死んだ」
ダリル「それ以上でもそれ以下でもない!」
アンナ「あの噂を流したのは・・・・・・母なんです」
ダリル「・・・・・・は?」
アンナ「日記に記してありました。トートの絵には呪いがついている。そう言い出したのは母なんです」
ダリル「出鱈目を言うな!第一、エミリがそんなことをするわけ・・・・・・」
アンナ「あの人、いい人を演じるのは得意だったみたいです」
アンナ「でも実際は、とんでもないクズですよ。少なくとも、生まれたばかりの私を躊躇なく孤児院に入れるくらいには」
ダリル「・・・・・・」
アンナ「彼女、元々は芸術家志望だったそうです」
アンナ「芸術に対する情熱は有り余るほどでしたが・・・・・・才能が追いつかなかった」
アンナ「でも彼女は諦めきれなかった・・・・・・だから芸術家たちの近くをふらふらしていた・・・・・・」
アンナ「あるときふと思いついてしまったらしいんです。「穏やかな作風の画家に、絶望を与えたら、どんな作品を書き上げるのか」って」
ダリル「なっ」
アンナ「母はトートのこと、作品かなんかだと思っていたんでしょうね・・・・・・人の気持ちなんて一切考えない」
アンナ「結果的に、1人の芸術家の作風を変えることに成功しましたけどね」
ダリル「・・・・・・なんてことを」
アンナ「・・・・・・私がここに来たのは、最初は興味本意でした。だけどあなたは世の中に対して相当な恨みを持っていた」
アンナ「その姿を見て、誤解を解こうと試みたこともありました。でも真実を伝えたところで、本当に憎むべき相手に復讐すら果たせない」
アンナ「だって復讐相手はもう死んでるから」
ダリル「そう・・・・・・なのか?」
アンナ「ええ。10年ほど前に・・・・・・」
アンナ「あなたの恨みが、私に向かうのも怖くて、言い出すことができなかった」
アンナ「じゃあせめて、あなたのことを見張ってようと。せめて、余計な罪を犯さないようにと」
ダリル「・・・・・・」
アンナ「でも私は止めることができなかった。私がいない間に、あなたは罪のない人を1人殺してしまった」
ダリル「・・・・・・」
アンナ「・・・・・・もうこれ以上、なんの関係もない人を、巻き込むわけにはいかないんです」
ダリル「・・・・・・」
アンナ「・・・・・・覚悟はできています」
ダリル「は?」
アンナ「もうやってしまったことはどうしようもできません。もう1人、人を殺したいところで、別に変わりはないでしょう?」
ダリル「なにを言って・・・・・・」
  アンナが持っていた拳銃を落とす
アンナ「先ほども言いましたが、もう覚悟はできてます。あなたの気が済むのであれば、母の代わりに、どうぞ私を撃ってください」
ダリル「・・・・・・」
アンナ「さあ、早く!」
ダリル「ふふ」
ダリル「はははははは」
アンナ「な、なにがおかしいんです?」
ダリル「いや、その度胸、一体誰に似たんだと思ってね。君、本当にエミリの娘かい?」
アンナ「・・・・・・それは間違いなく」
ダリル「・・・・・・トート同様、私も彼女のお遊びに振り回されてしまったようだね」
  ダリルが拳銃を自身の顎へと向ける
アンナ「ちょっ。なにを!拳銃を下ろして!」
ダリル「私は・・・・・・罪のない人をすでに1人殺してしまっているのだよ。もう・・・・・・生きてても仕方がない」
アンナ「ちゃんと罪を償ってください。あなたの手にかけられてしまった人のためにも」
ダリル「なかなか手厳しいことを言うんだね。君のお母さんは、罪も償わずに死んでいったというのに」
アンナ「それは・・・・・・」
ダリル「君」
あなた「は、はい」
ダリル「すまなかったね。怖い思いをさせてしまって。申し訳ないが、後で警察にでも通報しておいてくれ」
アンナ「やめてください、ダリルさん!」
ダリル「どんな形でも、姪に会えたのは嬉しかったよ・・・・・・言われてみれば、目元が弟に似ている気がする」
アンナ「ダリルさん・・・・・・」
ダリル「じゃあね」
アンナ「・・・・・・」
あなた「・・・・・・」
アンナ「・・・・・・警察を・・・・・・呼んできます。巻き込まれたとはいえ、あなたも関係者です」
アンナ「事情聴取とかあると思いますので、もう少しだけ・・・・・・付き合ってください」

〇森の中
  事情聴取後、美術館の入り口
アンナ「お疲れ様でした。すみません、巻き込んでしまって」
あなた「いいえ。あなたの忠告を無視して美術館に入ったのは私ですから」
あなた「あの・・・・・・」
アンナ「はい?」
あなた 「これからどうなるんですか?この美術館は」
アンナ「閉鎖されることになりました。トートの・・・・・・父の作品はもう人目に触れることはなくなると思います」
あなた「そう・・・・・・なんですね」
アンナ「・・・・・・」
あなた「・・・・・・」
アンナ「不思議なものですね」
あなた「え?」
アンナ「1人の女性が言い出したただのハッタリが、本当に呪いになってしまうなんて」
あなた「・・・・・・」
アンナ「・・・・・・」
あなた「あの」
アンナ「はい」
あなた「あなたはこれからどうするんですか?」
アンナ「まだわかりません」
アンナ「お優しいのですね、こんな時でも人のことを心配してくださって」
アンナ「でも私は大丈夫です。優しい父と、性悪な母の血を受け継いでますから」
アンナ「どちらも顔もろくに知りませんけどね。父なんかは私が生まれる前に亡くなっているんですから」
あなた「トートさんがお父さんだって、信じてるんですね」
アンナ「ええ。先ほど言った通り、確証はないですけど」
アンナ「ダリルさんも、目元が似てるって、最期に言ってくれましたしね」
あなた「そうですね。ダリルさんが言うんですからそうなんだと思います」
アンナ「はい」
アンナ「・・・・・・」
アンナ「・・・・・・少しおしゃべりが過ぎましたね。それではこれで失礼します」
アンナ「お客様。本日はお越しくださり、ありがとうございました」

コメント

  • 完結お疲れ様でした!
    読みやすくて面白くて一気読みしました!
    海外ドラマを見ているような気持になりました☺️
    トートがもし父親なら娘さんはトートが闇の中から生みだした光ということなのかな〜とか色々考察していました!

    魅力的な作品でした!

  • 芸術の凄さと恐ろしさ、人間の悲しさと素晴らしさを描いてる作品ですね!!
    「画家の破滅」が母親の最高傑作というのが面白いなと思います😃
    母をモデルにした絵が残っていて、美しいのに見る人に邪悪を感じさせる絵なら、
    愛していながらも、無意識に彼女の邪悪を描きだした画家の凄さも伝わるな~と
    色々妄想が刺激される名作でした!!
    タップノベル盛り上げましょう、私のも覗きに来てくださいね(*゚▽゚)ノ

  • タイトルの美術館という点に興味を惹かれて読み進めてみましたが、キャラクターたちのそれぞれの人生を想像させられ、よく考えさせられる話でした
    登場人物たち全員が芸術そのものに人生を狂わされたのだなと…
    人の狂気と悲しみ、そして愛に溢れた作品だったと思いました

    面白くて一気に読ませていただきました
    次はどんな作品を執筆なさるのだろうと、今から楽しみな自分がいます😌

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