エピソード(脚本)
〇学生の一人部屋
時計の針は深夜1時を過ぎた。
俺「さて、そろそろ寝るかな」
テュルルルル。テュルルルル。
こんな時間に電話を掛けてくる奴は
一人しか思い浮かばない。
「もしもし、ワタシ・・・」
俺「ワタシさん、なんて知り合い居ませんけど」
「あれ?・・ご機嫌斜めですね・・・ もう寝てた?」
俺「まだだけど・・今寝ようと思ったところ」
「あっよかった。 いつもの所で飲んでんだけど出てこない?」
俺「おまえ・・・俺 明日仕事だよ」
「大丈夫!大丈夫! あたしは休みだから・・・」
俺「あのなぁ・・・」
「じゃぁ 待ってるから!!」
そう言ってユウ子は勝手に電話を
切ってしまった。
俺(あのやろう・・・)
結局いつもユウ子のペースに
乗せられてしまう。
ユウ子とはもう5年以上の付き合いだ。
恋人って言う関係じゃない、
かといって単なる友達でもない。
少なくても俺はユウ子の事は大好きだ。
〇レストランの個室
5年前・・・・
俺は清水の舞台を飛び降りる覚悟で
ユウ子に告白した。
俺「ユウ子・・俺・・おまえの事大好きだよ!」
ユウ子「ハハハハハ 何その冗談・・・ 最高なんだけど」
俺「俺・・・マジなんだけど」
ユウ子「ハハハハハハ ゴメン・・・笑いが・・止まらない・・」
なんか、茶化された気がして
頭に来た。
もう二度とユウ子に会うもんかと思うと
やたらとまとわりついてきた。
脈があるのかと思い攻めれば、
適当に茶化される。
追えば逃げるし、逃げれば追ってくる...
そんな関係をずるずると5年も続けてきた。
〇タクシーの後部座席
俺はユウ子がいつも飲んでる店に向かった。
あの電話の感じだと今日はご機嫌だな。
ユウ子が俺を呼び出す時は
最高に機嫌が良い時か、
めちゃめちゃ荒れてる時だ。
機嫌の良い時はいいのだが、
荒れてる時は最悪だ。
とにかく泣くわ怒るわ暴れるわで、
これ以上酒癖の悪い奴はいない状態になる。
かならず周りにいる人に迷惑をかける。
そんな時は俺がしり拭いをする羽目になる。
もっと悪い事にユウ子はそういう時の
記憶はまったく無いのだ。
次の日に俺が注意しても
ユウ子「そんなことしないわよ」
と全然反省しない
まぁ今日はそんな心配はなさそうだな。
適当に付き合って 早めに切り上げよう。
〇シックなバー
店に入るとユウ子はカウンターで
マスターと楽しそうに話してた。
俺「いい加減にしろよな!」
そう言って俺はユウ子の隣の席に腰掛けた。
ユウ子「ゴメン!ゴメン!」
そう言ってペロっと舌を出した。
俺「で、何だよ?」
ユウ子「何が?」
俺「こんな時間に俺を呼び出したんだから 何かあるんだろ?」
ユウ子「別に用なんかないわよ。ただ一緒に飲みたかっただけ」
それからユウ子は取り留めの無い話しを
ぺらぺらと話し始めた。
俺(何か変だな・・・)
どこがどうと言えないけど、
いつものユウ子らしくない。
それに酒の飲むペースもやたら早い。
明るく振る舞っているが、
いつもとどっか違う感じがする。
グラスを空にして、またつごうとしてた。
俺「おい!いい加減にしろよ。飲み過ぎだぞ!!」
俺はユウ子からボトルをひったくった。
ユウ子「いいじゃないの。もうちょっと飲ませてよ」
そう言ってユウ子は手を伸ばして
俺からボトルを取り戻そうとした。
バランスを崩して椅子から
転げ落ちてしまった。
俺「しょうがねぇなぁ 大丈夫か?」
しかしユウ子は完全に出来上がっていて
一人じゃ立ち上がれない状態になってた。
俺「だから言ったじゃねぇか・・」
俺はユウ子をおぶって店を出た。
〇道玄坂
大通りに出たがタクシーが捕まらず
しかたなく家の方向に歩き始めた。
俺(少しはダイエットしろよな!)
ユウ子は結構重かった。
ユウ子「うっ!気持ち悪い・・・・」
俺「ちょっと待てぇ!!」
背中に吐かれては大変と近くの児童公園のトイレにかけ込んだ。
〇公衆トイレ
ユウ子を一人で真夜中の公衆トイレに
行かせる訳にもいかず
俺は女子トイレの中に入り個室の前で
待った。
これじゃ 俺が痴漢と間違えられるよ・・・
俺「おい!まだか?」
中からユウ子のこの世のモノとは
思えない声が聞こえた。
これじゃ100年の恋も冷めちゃうよ
しばらくして個室の戸が開いて、
中からユウ子がふらふらと出てきた。
俺「大丈夫か?」
ユウ子「だいぶ楽になったわ」
〇公園のベンチ
俺達はベンチに腰をおろした。
俺「いったい 何があったんだ?」
ユウ子「・・・・・・」
俺「まぁいいや・・・ 言いたくなければ言わなくてもいいよ・・・」
ユウ子「あたしね・・・ 大きな仕事を任されるはずだったの・・・」
ユウ子はゆっくりと喋りはじめた。
ユウ子「それでね... ここ何ヵ月は寝る間を惜しんで がんばってたの・・・」
ユウ子「それなのに・・・ 後輩の男の子がやる事になったの・・・」
ユウ子「ワタシより経験不足だと思うのに・・・」
俺「何でだよ!?」
ユウ子「部長が 「女になんか仕事を任せられるか」 って・・・」
俺「なんだそれ?! だってユウ子の方が仕事が出来るんだろ? そんな時代錯誤もいいとこだよ!」
ユウ子「もう・・いいの・・・」
俺「もういいって?」
ユウ子「なんか・・・ どうでもよくなっちゃって・・・」
俺「それで、明日はサボりか?」
ユウ子「そう・・・ もう仕事も辞めようかと思って・・・」
俺「辞めてどうするんだ?」
ユウ子「そうね・・・」
ユウ子「あなたのお嫁さんになろうかしら...」
ユウ子「いや?」
俺「嫌だね!」
ユウ子「え?!」
俺「仕方無いから結婚しようなんて こっちからお断りだよ!」
ユウ子「ワタシの事、嫌いなの?」
俺「大好きだよ! 大好きだからこそおまえに負け犬に なって欲しくないんだよ!!」
俺「一度くらいダメになったくらいで 結婚に逃げたりするから部長に 「女なんかに仕事が任せられるか」 って言われるんだよ」
俺「負けるなよ! もっとがんばって部長を見返してやれよ!」
俺「意地っ張りで小生意気なユウ子が 俺は大好きだよ」
ユウ子はうつむいていたが、
フッと息を漏らして
ユウ子「それで慰めてるつもりなの?」
俺「俺ってとってもいい奴だろ?惚れるなよ!」
ユウ子「ったく・・折角私がお嫁さんになってあげるって言ったのにそれを断るなんて・・・」
ユウ子「そんな事だから、いつまでたっても 彼女が出来ないのよ!」
俺「うるせぇなぁ! おめぇなんかを嫁さんにしたら大変だよ! あぁよかった断って」
ユウ子「その言葉忘れないでよ! 絶対後悔させてやるんだから」
これだけ憎まれ口をたたければ
もう大丈夫だろう
〇道玄坂
相変わらずタクシーは捕まらなかった。
深夜の街をユウ子と二人で歩いていた。
いつまで、ユウ子とこんなふうに
ジャレあっていられるのだろうか?
さっきは、言葉のあやだろうが
結婚っていう言葉がユウ子の口から
出るとは思わなかった。
ユウ子「何 さっきから黙り込んでいるの?」
俺「いつ お前を襲おうか考えてた」
ユウ子「いいわよ。 そのかわり慰謝料をいっぱい請求するから」
俺「どのくらい?」
ユウ子「そうねぇ・・・ 100億円くらいかなぁ・・・」
俺「冗談じゃねぇよ・・・ そんだけ出すんならもっといい女を襲うよ」
ユウ子「ひっどい!」
俺「俺だってボランティアで 襲ってあげるんだから、 襲われて感謝しなさい」
ユウ子「何言ってんのよ・・・ 本当は私の魅力にメロメロの癖して・・・」
俺「げっ!よく言うわ。 おめぇになんか間違っても 欲情したりしないよ!」
ユウ子「そこまで言う?!」
俺「言うよ!」
二人でケラケラ笑った。
〇川に架かる橋
相変わらずタクシーは捕まらなかった。
ユウ子「ねえ・・・」
俺「ん?」
ユウ子「キスして・・・」
俺「え!?」
ユウ子「早く・・・ 女に恥かかす気?」
据膳食わぬは何とやら・・
ここはいっちょ行くしかないな!
俺はユウ子に近づき、肩に手を回した。
そして ゆっくりと顔を近づけた。
ユウ子「その気になってやんの」
やられた・・・
ユウ子「間違っても欲情しないと言ったのは 何処の誰でしょうか?」
俺「いや・・・これは・・・」
ユウ子「言い訳しないの! 私の魅力にまいったと素直に言いなさい」
しまった・・・
これで当分ユウ子にからかわれる。
俺「おまえ・・・ もし俺がキスするのやめなかったら どうする気だったの?」
ユウ子「やめたわよ。 あなたにそんな事出来ないでしょ? 信用してるもの」
俺「わかんないぞ・・・ 俺だって男だ! 続きをしようか?」
俺は、またユウ子の肩に手を回し
抱き寄せた。
ユウ子「え?! 冗談でしょ?」
俺は構わず続けた。
ユウ子は少し暴れたが、
すぐに抵抗をやめた。
俺が顔を近づけるとユウ子は
始めは目を開けていたが、
ゆっくりと目を閉じた。
あともう少しで唇が触れるところで
顔を止めユウ子の鼻をつまんだ。
俺「おめぇこそ、その気になってやんの」
俺はちょっと後悔した。
あのままいっても、よかったかな・・・
ユウ子「そんな事で喜ぶなんて、子供ね・・・ ちょっと引っかかったふりをしてあげたのよ」
俺「何とでも言いなさい。 あのうっとりした顔はマジだったね! ユウ子はキスする時あんな顔するんだ・・・」
ユウ子「あぁ、悔しい!!」
俺「勝ち!!!」
〇タクシーの後部座席
やっとタクシーを捕まえた。
さすがに車の中ではバカは出来ないので、
大人しく乗っていた。
先にユウ子の家に着いた。
ユウ子「今日はありがとう」
俺「何だよ・・急に・・・」
ユウ子「本当に感謝してるのよ。今日はマジで落ち込んでたんだから・・・」
ユウ子「おかげで明日からまた頑張れるわ!」
俺「そっか・・ それじゃ、部長に負けずに頑張れよ!!」
ユウ子「うん」
俺「あら? そんなかわいい返事ができるんだ」
ユウ子「何よ!!」
俺「それじゃな! おやすみ!」
ユウ子「おやすみ!」
ユウ子「今日の御礼っていう訳じゃないけど・・・」
そう言ってユウ子は俺のほっぺに
キスして車を降りた。
俺は一瞬の事で、頭の中が
真っ白になってしまった。
そんな自分に苦笑した。
俺「バカだな・・・」
〇学生の一人部屋
しばらくはユウ子から連絡はなかった。
たぶん仕事に燃えてんだろう。
俺も相変わらず仕事に追われる毎日を
送っていた。
あれからユウ子との事を考えていた。
そろそろ何らかの答を出すべきかどうか・・
その日はめずらしく早く家に帰れた。
たまには早く寝ようと思い寝る準備を
していた。
テュルルルル。テュルルルル。
ユウ子だな・・・
なんとなくそんな気がした。
俺「もしもし」
ユウ子「あたし! すぐ来て!!」
それだけ言って、ユウ子のバカ
電話を切った。
あの感じだと 荒れてるな・・・
たぶん例の部長とトラブったんだろう・・・
頑張れって言った責任上
行かない訳にはいかないか・・・
俺は急いで着替えて部屋を飛び出た。
〇シックなバー
店に行くとユウ子は回りの客に
からんでいた。
俺はユウ子が迷惑を掛けた人たちに
謝りまわりユウ子を連れて店を出た。
〇道玄坂
ユウ子はすっかりつぶれて、
俺の背中で寝息をたてていた。
寝息を聞きながら俺は考えていた。
俺はこいつが大好きなんだろう。
だからと言って
今すぐどうこうする気はない。
もう5年以上もずるずるやってきたんだ。
今更焦ってどうする。
先はどうなるか判らないけど
今はユウ子との、この関係は
結構気に入っている。
続けられるまで続けてみよう・・・
お互いに爺さん婆さんになるまで
ジャレあっていられるかな?
おわり
悪酔いしていても、連絡や呼び出しは相手を選びますよね。ちゃんと頼り甘えられる相手を。強い愛情というより、程よい結びつきですね、長年続くというのも。
女の子の発言や言動がなんとも可愛らしいですね。二人の距離感を感じながら、心ほっこりしながら読み進めさせて頂きました。
2人の会話のテンポもよかったです。
距離が縮まっているようで、離れてる。
そんな関係もいいんじゃないかと思わせられるお話でした。
悲しい時も、嬉しい時も、呼び出す人が決まってるなら、もうそれは好意以上のような気もしました。