鷹と孔雀、或いは犬と豚のはなし。

山本律磨

義経伝説(脚本)

鷹と孔雀、或いは犬と豚のはなし。

山本律磨

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〇謁見の間
  治天ノ君 後白河法皇
ホウオウ「義経。ようやった」
ホウオウ「ようあの忌々しい平家を滅ぼしてくれた。帝に変わりて、この法皇より礼を申そう」
クロウ「恐悦至極にございます」
クロウ「されど海に沈んだ三種の神器のうち、草薙御剣だけは今だ発見が遅れております」
クロウ「申し開きもございませぬ」
ホウオウ「よい」
ホウオウ「右兵衛佐は大層立腹のようじゃが。なに、帝も朝廷も責めはせぬぞ」
クロウ「しかれども」
ホウオウ「よいと言うておる」
ホウオウ「予の言葉は帝の言葉。予の許しは帝の許しじゃ。そなたは堂々と胸を張っておれ」
クロウ「は、ははーっ!」
ホウオウ「そなたは源氏の武将である以上に京の都の英雄。いや日ノ本の英雄」
ホウオウ「木曾義仲、そして平家、都の災いを次々と滅ぼした英雄なのだ」

〇けもの道
  『平家に父を殺されたそなたは遮那王と名乗り、鞍馬山で烏天狗を相手に修行し常人ならざる剣技を身につけた』
天狗「おみごとー!」

〇後宮の庭
  『成長したそなたは、平家をも恐れさせた怪僧武蔵坊を五条の大橋で打ち破り、見事家来とした』
ベンケイ「まいりましたー!」

〇岩山の崖
  『やがて、生き別れの兄頼朝と涙の再会を果たしたそなたは平家追討軍大将となり』
  『鵯越の合戦において、崖の上から馬ごと駆け下りる奇襲『逆落し』で見事勝利』
クロウ「すすめすすめー!」

〇海
  『遂に西の果て壇の浦に平家を追い詰めたそなたは、梟雄能登守教経の攻撃を易々と交わしひらりひらりと宙を舞う』
クロウ「ひらひら~」
クロウ「ひらひら~」
ノリツネ「おのれーちょこまかとー」

〇謁見の間
ホウオウ「源義経は、もはや生ける伝説なのじゃ」
クロウ「勿体のうござります。法皇様のお言葉だけで身共は胸張って鎌倉へ戻れまする」
ホウオウ「その事じゃがの、クロウ」
ホウオウ「そなたは京を守りし検非違使判官」
ホウオウ「鎌倉なぞ戻らず、ここに留まらぬか?」
クロウ「・・・え?」
ホウオウ「頼朝にはこの法皇から申し伝えよう」
クロウ「・・・」
クロウ「身共は源氏の武者」
クロウ「そして、どこまでも兄頼朝に従う弟にございます」
ホウオウ「そちを判官に任じたのは頼朝ではない」
ホウオウ「予じゃ。その予が都に留まれと願っておる」
クロウ「法皇様の御恩には生涯かけて報いまする!」
クロウ「しかれども我が身と心は常に兄と共にありまする!どうかお許し下され!」
クロウ「どうか!」
ホウオウ「・・・」
ホウオウ「分かった」
ホウオウ「戦の疲れを癒して帰るがよい」
クロウ「都への御恩と忠誠、決して忘れませぬ」
クロウ「失礼仕ります」
ホウオウ「・・・愚かなり、義経」
ホウオウ「そなたは鎌倉の、いや源頼朝の恐ろしさを分っておらぬ」
ホウオウ「源平の戦など魁にすぎぬ。あやつは源氏の世の為なら邪魔な者は全て根絶やしにする男じゃ」
ホウオウ「たとえそれが、血を分けた弟でも」
ホウオウ「恐ろしや頼朝・・・」
ホウオウ「おぞましや東夷・・・」

〇屋敷の牢屋
スエクニ「・・・よう参られました」
スエクニ「武蔵坊殿」
ベンケイ「何用だ。囚われの分際でわざわざ呼びつけおって」
スエクニ「判官殿は戻られましたか?」
ベンケイ「うぬの知った事ではない」
スエクニ「今日はお一人で昇殿されたと伺いまして」
ベンケイ「俺は殿中は苦手なのだ。門前にすら近寄りたくない」
スエクニ「ですが、せめてお迎えには」
スエクニ「都の夜は百鬼夜行。いつ判官殿がモノノケに狙われぬとも限りません」
ベンケイ「左様なもの、御曹司にとっては恐れるに足らん」
ベンケイ「妙な伝説など作らずとも十分強いお方ぞ」
スエクニ「されど多勢に無勢と言う事もありまする」
スエクニ「それに今判官殿を襲うのは、なにも平家の落武者だけとは限りませぬ」
ベンケイ「どういう意味か?」
スエクニ「英雄には妬みがつきもの」
スエクニ「平家の総帥たるこの私が弟を妬んでいたのだとすれば、源氏もまたしかりかと・・・」
ベンケイ「・・・」
ベンケイ「・・・まさか」
ベンケイ「ええい、俺としたことが!」
スエクニ「故に鎌倉へ・・・」
スエクニ「この私を頼朝のもとへ・・・」

〇中華風の城下町
クロウ「このクロウ判官を前に一対一とは、刺客にしては見上げた心意気だ」
クロウ「ついでに名も名乗れ。立派な墓を立ててやろうぞ」
刺客「名?」
刺客「そうだな・・・タミ」
クロウ「タミ?」
刺客「民だ。民百姓の民」
クロウ「ははは。俺が民を討つか?悪趣味な奴め」
刺客「逆よ」
刺客「民がお前を討つ」
クロウ「チッ。いちいち勘に触る物言いだ」
クロウ「俺は朝廷も認めし英雄。都の検非違使判官」
クロウ「民に敬われこそすれ、恨まれる事などない」
刺客「恨みではない」
刺客「望みだ!」
クロウ「望みだと?」
刺客「昇りつめた英雄に人は何を望むか」
刺客「物語は悲劇である程美しく、音曲はもの悲しい程心に響くものだ」
クロウ「お前ただの刺客ではないな。平家の落武者と思っていたが・・・」
刺客「言っただろう。俺は民」
刺客「英雄義経の美しき死を望む、民だ!」
クロウ「クッ・・・」
刺客「まだだ。まだかすり傷だ」
刺客「お前は都で血に染まり非業の死を遂げる」
刺客「源義経は死して美しき伝説になるのだ!」
  『御曹司!』
刺客「おのれ、手間取りすぎたか・・・」
ベンケイ「御曹司!お怪我は!?」
クロウ「大事ない」
刺客「フン・・・」
刺客「成程、源義経にはもっと派手な最後がふさわしいという天の采配か」
クロウ「もの狂いめが」
ベンケイ「そして、このもの狂いを雇った男・・・」
ベンケイ「貴様の主はカゲトキであろう!」
刺客「・・・」
クロウ「そうか。だとしたらつくづく嫉妬深い男だ」
ベンケイ「御曹司・・・」
ベンケイ「その嫉妬、別の者が抱いてるやも知れませんぞ」
クロウ「何が言いたい?ベンケイ」
刺客「その嫉妬も含めて民が望む物語」
刺客「タミはお前の滅びの姿を望んでいる。平家の様な、いや壇の浦を越える美しい滅びを見たがっている」
刺客「盛者は必衰し諸行は無情。それこそが民が望む物語・・・」
刺客「義経伝説だ!」
ベンケイ「おのれ。モノノケめが・・・」
クロウ「民が望む、俺の伝説だと?」
  続く

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