第1回『最初の』(脚本)
〇地球
『今』を幾多の生命と生きている地球。
その中に刻まれているのは、ある一つを除いて、変わらない世界だ。
この世界は、何よりも『感情』の力が大きく働いている。
『感情』を力に変えて、生命は存続していた。
元々はそんな仕組みにはなっていないはずだった。
こんな恐ろしい事には、ならないはずだった
だが──
そんな危険極まりなく、救いようの無いことを、成し遂げてしまった者がいる。
その者のおかげで世界は歪み、作り直されたが、生命は『今』を平和に生きれている。
『伝える者』「・・・おや、貴方は──」
『伝える者』「私の話を、聞きに来たのですか?」
『伝える者』「対した存在でない私の話を、聞いてくれるとは光栄でございます」
『伝える者』「星の数ほどある生命の、一欠片である私を見つけてくれることに驚きました。 ・・・本心、ですよ」
『伝える者』「・・・よろしければ、最後までお付き合いしてくれませんか?」
『伝える者』「私は、一人ぼっちでございます。 故に、寂しさを感じているのでしょうか・・・・・・」
『伝える者』「長い間を生きると、感動も感覚も消え失せてしまうのですよ」
『伝える者』「私は、それが嫌だった。 だから、世界の行く末を、忘れぬように伝えるのです」
『伝える者』「・・・蛇足でしたね。 失礼しました」
『伝える者』「さぁ、行ってらっしゃいませ。 私が伝えるべきお話が貴方を待ってますよ──」
〇古びた神社
夜風が酷く冷たい。
妖怪が出てきそうなほど荒廃してしまった神社の本殿近くに、一人の男が倒れていた。
金色で艶のある長い髪が目を引く彼は、400年前の未曾有で大規模な異形化事件を生き残った、数少ない人物だった。
その名は
フリートウェイ・“ネイ”・ロクゼ。
第1回『最初の』
フリートウェイ「・・・・・・・・・」
フリートウェイ(何故、オレは此処にいる? 此処はどこだ?)
重たい目を開け上体を起こして、辺りを見渡してみるが、自分がどうして此処にいるのかは分からなかった。
今の彼が明確に分かっているのは『自分が生きている』ことだけである。
フリートウェイ「・・・確かに生きている・・・・・・だが、何かが足りないような・・・」
『足りない』。
フリートウェイは自分に無いものを探そうと模索しようと試みる。
だが、あまりにも長い睡眠から目を覚ましたせいか、頭痛が彼を襲ったので諦めることにした。
フリートウェイ(・・・時間が解決してくれるだろ)
フリートウェイ(さて、何をしようか? 何か、出来ることはあるのだろうか?)
何かが決定的に足りない自分でも、出来ることは無いかと思い、取り敢えず此処から出ようとしたその時―
「あ、起きたみたいだ! 会いに行くね!」
〇古びた神社
駆け足で姿を表した声の主はどこか人間とは離れた姿をしており、フリートウェイのことを知っていた。
レクトロ「お久しぶりだね ・・・・・・と言っても、覚えてはいないか」
レクトロ「君のことはどう呼ぶべきかな? 僕に教えて欲しいんだよ」
レクトロ「真の名である『ネイ・ログゼ』か・・・ かつての名前『フリートウェイ』・・・・・・ どっちが良い?」
レクトロ「『身体が憶えている方』でいいよ。 僕はどっちの名前でも素敵だと思うし、 君のことは君にしか分からないんだから」
フリートウェイは考え込むように眉間にシワを寄せたが、すぐに答えを出す。
フリートウェイ「・・・『フリートウェイ』」
レクトロ「あぁ、そっちの記憶が残ったか・・・」
少し意外そうに話すレクトロだが、その声はフリートウェイには届かない。
レクトロ「分かった。 それじゃ、これから君のことは 『フリートウェイ』って呼ばせてもらうね」
フリートウェイ「・・・・・・???」
フリートウェイ(何の話をしているんだろうか・・・・・・ ほとんど分からないけど、取り敢えず聞くしかねぇか・・・)
レクトロの発言の意味が分からず、困惑するフリートウェイ。
だが、レクトロは気にせずに自己紹介を始めた。
レクトロ「僕はレクトロ。 この世界の秘密を知っている者、『崙崋』(ロンカ)の1人であり、君を見てきた存在さ」
レクトロ「君は記憶のほとんどを失ったけど、 ちゃんと生きている。 それって、スゴいことなんだよ」
レクトロ「・・・ま、それはさておき・・・」
表情には出ていないが困惑しているフリートウェイだが、とりあえず話を聞くことにしていた。
レクトロ「・・・君は『君自身や他人の感情を実体化』する特殊な能力を持っているの」
フリートウェイ「・・・感情の実体化?」
レクトロ「そうだね。 『形の無いものを実際に目に見える形にする』っていう意味だよ」
レクトロ「後、『思考のうちにあるものを客観的な実体のあるものにすること』という意味もあるね」
レクトロ「君の場合は後者に近いかもね・・・」
レクトロは笑みを浮かべながら、フリートウェイに話し続ける。
レクトロ「君の能力はかなり特殊で便利で面白いものだよ。 僕も、こういう能力が欲しいもん」
ニコニコと笑みを浮かべていたレクトロだが、急に無表情に近い顔になる。
表情の切り替えがあまりにも早いレクトロに、フリートウェイは、少しだけ引いてしまった。
フリートウェイ「・・・・・・・・・」
フリートウェイ「表情の切り替えがやけに早すぎないか?」
フリートウェイ「・・・ちょっと怖い」
思ったことをほぼ躊躇いなく口に出したフリートウェイは、レクトロから距離を取ろうと一歩下がる。
そんな反応を見たレクトロは、フリートウェイとの距離を詰めずに話を続けるようだ。
が、『少し怖い』という言葉に、どういう表情で、どういう声色で、反応すればいいか分からず、このまま続けた。
レクトロ「・・・怖い、か」
レクトロ「うん、そうかも。 ちょっとだけ、怖いかもしれないね その自覚は一応、あるつもりだよ」
レクトロ「でも、いつか真実を受け入れなければならない時が来る。 それだけは忘れないで」
フリートウェイ「・・・真実?」
レクトロ「感情を実体化することはかなり危険なんだよ。 他人を癒すことも傷付けることも容易ということ」
レクトロ「暴走させるかも、って考えると恐ろしいよ」
レクトロ「だから、どうか気をつけて。 悪意をもって、その力を振るわないで欲しいんだ」
レクトロの話を黙って聞いていたフリートウェイだが、何とも言えない笑みを浮かべる。
フリートウェイ「・・・悪意、ねぇ・・・・・・」
フリートウェイ「今のオレに、そこまで頭に入るとは思えねぇな・・・・・・」
フリートウェイ「早く、無くしてしまったものを思い出さねぇと。 やることはいっぱいあるはずなんだ」
フリートウェイ「・・・また寝ているうちに身体を弄られたら、堪ったもんじゃないからな」
レクトロ「ええぇ・・・」
レクトロ(記憶を奪われても、対して変わってないじゃん・・・・・・)
レクトロは、珍しく困惑と驚愕に近い表情をした。
『この男は何をされても、言動の根底にあるものは変わらない』ことを察したレクトロは、それを利用しようと考えた。
レクトロ「何をそんなに焦っているんだい? 記憶って、すぐに取り戻せるものじゃないよ」
フリートウェイ「まぁ、それでもオレは・・・・・・」
レクトロ「忘れた方が良いことだってあるよ? 時間をかけて、ゆっくり取り戻せばいいんだ」
レクトロ「記憶を取り戻す過程で、君にしか出来ないことをしようよ。 世のため、ヒトのためになるよ」
フリートウェイ「『オレにしか出来ないこと』? 何だそれは?」
レクトロは、自分の友人に頼まれていることが1つある。
それを、フリートウェイにやらせようと考えた。
レクトロ「心根は優しい君にしか出来ないことだよ 君になら頼めそうなの」
レクトロ「本当なら、僕がその役目を担うんだけど・・・ 残念ながら、懐いてくれなかったんだよ・・・」
レクトロ「だから、僕の代わりに頼むよ!」
音を立てて両手を合わせたレクトロは、フリートウェイに頼み込む。
だが、フリートウェイの1つの発言に驚愕することになる。
フリートウェイ「・・・懐く? ペットでも飼っているのか?」
レクトロ「ペット!!!?」
レクトロの驚愕と困惑と衝撃が混ざった大きな声が本殿に響く。
レクトロ「そんなわけないよ! ペット呼ばわりなんて、殿に聞かれたら、確実にぶん殴られるからやめて!!!」
レクトロ「ペットじゃないから!!! とっても大事な人だから!!!」
フリートウェイ「な・・・何か悪かったな・・・・・・・ そんな必死になるとは思わなかった。 す、すまん」
レクトロがあまりにもうるさいせいで、
フリートウェイは勢いに負けるような形で発言を撤回した。
フリートウェイが発言を撤回したおかげで、レクトロはすぐに落ち着きを取り戻す。
レクトロ「・・・とにかく」
レクトロ「君にも、会ってもらおうかな・・・ よし、今から会いに行こう!!!」
レクトロ「あの子もきっと、喜ぶよ! だから、さっさと支度してね」
フリートウェイ「はぁ!!? 今すぐか!?」
展開についていけないフリートウェイは驚く。
先程レクトロに言われたことも、すぐに頭の中で処理できないほどの情報過多だったのに、今度は『誰か』に会いに行くようだ。
レクトロの勢いに完全に持っていかれたフリートウェイは、考えることを放棄して、とりあえずレクトロについていくことにした。
レクトロ「今は何も考えなくていいから! さぁ、行くよ!」
レクトロは笑顔でフリートウェイの右手首を掴む。
一瞬、骨が軋むような不吉な音がしたが、レクトロは全く気にしていないようだ。
フリートウェイ「おい・・・!」
フリートウェイ「いきなり強く引っ張るなよ! 痛いじゃねぇか!」
レクトロ「まぁまぁ、目的地に着いたら治してあげるから、落ち着いてよ」
フリートウェイ「落ち着いていられるか!!! さっさとその手を離せ!!!」
少々強引に事を進めるレクトロは、
右手首の痛みで攻撃的になっているフリートウェイを連れて、神社を離れた。