『オフィスラブ』で食い違うふたり(脚本)
〇シックなバー
桃子「はぁ~! 今日も激務だったね」
蘭子「ほんっとう。月末のこの仕事量、何とかして欲しいよ」
桃子「こんなに頑張ってるのに、何のご褒美もないなんて」
蘭子「このバーで二人で飲むのは、ご褒美にならない?」
桃子「蘭子と飲むのは楽しいよ。でもそういうのじゃなくて・・・」
桃子「あ、あれだ、潤いが足りないんだよ! うちの職場」
蘭子「潤い?」
桃子「イケメンとか、目の保養とか、恋愛とか、恋人とか・・・」
蘭子「ああ、そういうやつね」
蘭子「でも恋人が社内にいるっていうのも、困りものじゃない?」
桃子「あー、あの二人のことでしょ? 星田(ホシダ)と柳葉(ヤナギバ)先輩カップル!」
桃子「きゃぴきゃぴ女子の星田に、背が高くて塩顔イケメンの柳葉先輩──」
桃子「見た目は超お似合いじゃない?」
蘭子「でもさ、付き合い始めてからのあの二人、目に余るよ」
桃子「『オフィスラブしてます』って感じはする。けど、そんなにひどいかなあ?」
蘭子「迷惑してない? 例えば──」
蘭子「星田、何でも柳葉先輩に報告しに行くようになったじゃん?」
蘭子「あれ、時間の無駄だと思わない?」
桃子「まあまあ。まだ付き合い立てだからさあ、そのくらい大目に見てあげようよ」
蘭子「あとさ、業務中に二人で目くばせするのやめて欲しい!」
桃子「蘭子のデスク、あの二人の間だもんね。熱々な視線にはさまれてるんだ?」
蘭子「そ。ホットサンドの気分だよ」
桃子「まあ、あの二人には蘭子なんか見えてなさそうだけどね~」
蘭子「あ、あとあれも!」
蘭子「星田に頼み事するとき、柳葉先輩を通さないといけない感じになったよね」
桃子「あー、それね!」
桃子「今日さぁ、星田にお使い頼んだんだけど、柳葉先輩の許可取るの、すっかり忘れちゃって──」
蘭子「アレ、桃子が原因だったの!?」
蘭子「柳葉先輩、『あいつどこ行った~!?』って大騒ぎして大変だったんだから」
桃子「あはは、ごめんごめん」
蘭子「・・・でも、桃子が悪いわけじゃないもんね」
蘭子「はぁ・・・。本当、あの二人にはうんざり」
桃子「まあ、騒がれるとつい見ちゃうもんね。イライラするの、分かる」
蘭子「でしょ? オフィスラブなんてさぁ、──」
桃子「──ズルいよね」
蘭子「『ズルい』?」
桃子「オフィスでも一緒にいられるってことは、仕事中もそばにいられるってことだよ?」
桃子「恋人の全部が見られるし、いつでも愛されてるって感じられる──」
桃子「そういうの、すごく良くない!?」
蘭子「まあ、少しならね。けど、ずっとそればっかりってのは違くない?」
蘭子「今日だってさ、あの二人、心の声ずーっとダダ漏れだったんだよ!」
蘭子「「頑張れ」とか「真剣な横顔も好き」とか、ぶつぶつぶつぶつ・・・」
桃子「いいなぁ〜、私もそういうの呟きたい! 呟かれたい!」
蘭子「もう、他人事だと思って」
桃子「だってそれってさ、それだけお互いのこと想ってるってことじゃん?」
桃子「社内に恋人がいるってだけで、絶対仕事楽しくなるよ! はぁ、ロマンだぁ・・・」
蘭子「ロマン? 何それ」
桃子「ロマンチックな恋愛のことだよ!」
蘭子「別に意味を訊きたかったわけじゃないんだけど」
蘭子「っていうか桃子さ、あの二人迷惑だって思わないの?」
桃子「全っ然思わない。だって──」
桃子「オフィスラブこそロマンじゃない!」
桃子「確かに、あの二人には困ることも多い。でも、蘭子はちょっと気にしすぎだよ」
蘭子「気にしすぎ!? 私が!?」
桃子「そうだよ! そもそも、恋って落ちちゃうものでしょ!」
桃子「『好き』になったら『好き』だし、それはオフィスだろうがどこだろうが関係ないじゃん!」
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オフィスラブというひとつのテーマをめぐって、お互いの色々な気持ちが錯綜する様子、すごく読み応えがありました。
結末を知ってから読むとふたりの意見の裏側にある気持ちがさらに色々と想像できて、何度も楽しめます!
価値観の異なる同士の面白い会話劇だと思っていたら、ちょっとずつ違和感が大きくなって、残り数Tapでのまさかの事実! オチも楽しませてもらいました^^
タイトルからのオチに、気持ちよいほどまんまとひっかかりました!