最高で最悪なふたり(脚本)
〇シックなバー
樹里(じゅり)「モスコミュール! 来た来たー! ゴクっ。うふふっ♪」
樹里(じゅり)「なーに、マスター。ジロジロ見て」
樹里(じゅり)「いい事あったのって? わかるー?」
樹里(じゅり)「実は今日、最っ高な出来事があったの」
史帆(しほ)「こんばんは。伺ってもいいかしら」
史帆(しほ)「このお店に『虹色のカクテル』あります?」
樹里(じゅり)「虹色・・・」
史帆(しほ)「あります? じゃあ、お邪魔します」
史帆(しほ)「お隣、失礼するわね」
史帆(しほ)「飲み物は・・・そうね、ダイキリを」
史帆(しほ)「嫌なことを忘れられるくらい濃い目でお願い」
樹里(じゅり)「・・・」
史帆(しほ)「えっと、何かしら」
樹里(じゅり)「あ、すみません。気になっちゃって」
史帆(しほ)「?」
樹里(じゅり)「虹色のカクテルのことを聞かれてたのに 頼まないんだなーって」
史帆(しほ)「ああ、あれね。あなたは飲んだことあるの?」
樹里(じゅり)「いえ。一度、出してもらったことがあるのですが──」
樹里(じゅり)「綺麗なカクテルを崩すのが勿体なくて。 飲めなかったんです」
史帆(しほ)「正解ね。実際、飲んで美味しいものじゃないのよ。あれは」
史帆(しほ)「甘ったるい割に、度数も強くて。損した気分になるのよね」
樹里(じゅり)「ひょっとして、そのカクテルに恨みでもあります?」
史帆(しほ)「どうかしらね。あなたは?」
樹里(じゅり)「私は──いい思い出しかない、かな」
史帆(しほ)「羨ましいわ・・・ そうだ、私は史帆。あなたお名前は?」
樹里(じゅり)「樹里です」
史帆(しほ)「ねぇ、樹里ちゃん。笑わないで聞いてくれる?」
樹里(じゅり)「?」
史帆(しほ)「私ね、いつもは友達と飲んでて、独りで飲むのって慣れてないの」
史帆(しほ)「もし良ければ少し付き合ってくれない?」
樹里(じゅり)「わあ、喜んで!」
樹里(じゅり)「ちょうど私も、誰かに話したいことがあって」
史帆(しほ)「私で良ければ聞かせて?」
樹里(じゅり)「実は今日。3ヶ月付き合った彼から、プロポーズされたんですっ!」
史帆(しほ)「あら! いいじゃない! 相手はどんな人?」
樹里(じゅり)「背が高くて。笑顔がとっても可愛い人なんです」
史帆(しほ)「いいわねぇ。お仕事は何をされてるの?」
樹里(じゅり)「IT関係なんですけど、ここだけの話、もうすぐ独立するんです!」
史帆(しほ)「社長さんになるってことかしら?」
樹里(じゅり)「そうなんです! だから私はもうすぐ社長夫人になるのかなぁって」
樹里(じゅり)「もう想像するだけで倒れちゃいそう!」
史帆(しほ)「・・・社長夫人、か」
樹里(じゅり)「どうかしました?」
史帆(しほ)「ううん。私もね、そんな風に夢見た時期もあったなぁって」
樹里(じゅり)「えー、聞きたいです!」
史帆(しほ)「あんまり楽しい話じゃないわよ」
樹里(じゅり)「構いません。だって辛い話って──」
樹里(じゅり)「話さない方が辛くなるような気がしません?」
史帆(しほ)「優しいのね、樹里ちゃんは」
史帆(しほ)「じゃあ、お言葉に甘えて話しちゃおうかしら」
樹里(じゅり)「ええ、是非!」
史帆(しほ)「これはそうね、半年くらい前のことよ」
史帆(しほ)「だから私もまだ完全には吹っ切れてないの」
樹里(じゅり)「それはお辛いですね」
史帆(しほ)「辛いというよりも憎い、かしらね」
樹里(じゅり)「憎い?」
史帆(しほ)「元彼ね。結婚詐欺だったの」
樹里(じゅり)「ええっ!?」
史帆(しほ)「気づいた時には彼も、口座のお金も。 綺麗さっぱり消えていたわ」
樹里(じゅり)「酷い! 警察には?」
史帆(しほ)「もちろん届けた。でも手元に残っている情報が少なくて」
史帆(しほ)「見つかる見込みは薄いそうよ」
樹里(じゅり)「そんな・・・」
史帆(しほ)「唯一の手がかりが虹色のカクテルなの」
樹里(じゅり)「それで・・・」
樹里(じゅり)「でも、カクテルが手がかりって、一体どういうことなんですか?」
史帆(しほ)「彼・・・いや、奴はね。女性を口説くとき、必ずこのカクテルを使うの」
史帆(しほ)「『この七層に輝くカクテルみたいに、君と時間を重ねて行きたい』って言葉を添えて」
樹里(じゅり)「ちょ、ちょっと待ってください」
史帆(しほ)「虹色のカクテルを作れるバーは限られているわ」
史帆(しほ)「だからしらみつぶしに回っていればいつか奴に会えるかもって」
樹里(じゅり)「史帆さん、待って。待ってください!」
史帆(しほ)「どうしたの?」
樹里(じゅり)「さっきの口説き文句・・・」
史帆(しほ)「『この七層に輝くカクテルみたいに』?」
樹里(じゅり)「その台詞、有名なんですか?」
史帆(しほ)「いえ。私の知る限り、奴のオリジナルだと思うけど」
樹里(じゅり)「嘘でしょ・・・そんなことって」
史帆(しほ)「樹里ちゃん?」
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ひとつのカクテルをきっかけに2人の女性が出会うスムーズな流れ、段々とと2人の事情が明らかになっていく展開、オチの美しい落とし方…!台詞にもぐいぐい引き込まれました。素晴らしすぎます…!
ちょっとずつ伏線が回収されていく構成、さすがです! この先、くだんの男に虹色のカクテルと反対の苦い思いをさせられると思うとスカッとしますね。笑
虹色カクテル同盟✨
絶対に奴を捕まえて~😭
真相に近づいていくふたりのテンポの良い会話が痛快でした😍