第29章 仲直りの空(脚本)
〇綺麗なコンサートホール
──数時間後、大会が終了した
結果はもちろん惨敗だった
講評用紙にはこう書かれている
〇大劇場の舞台
「このステージで何を伝えたいのか、わかりませんでした。」
「自分たちが伝えたいものは何なのか、もう一度考えてみてください。」と・・・
〇綺麗なコンサートホール
ゆき「ミスは少なかったと思うんだけど・・・ 何がいけなかったのかな・・・」
ゆづき「こんな抽象的なことを書かれても・・・」
ゆづきは講評用紙を見つめながら、悔しそうに歯を食いしばった
はるか「大丈夫、MoonlightCupに出られなくたって、私たちの活動が終わるわけじゃないんだし・・・」
さくら「そうだよ、”あっち”のチームよりはマシなんじゃない?」
さくらが指で刺した先に目をやると、
しょぼくれて縮こまるgladiolusの3人が見えた
〇大劇場の舞台
gladiolusの成績は2位
惜しくも優勝には届かず、MoonlightCupへの出場権を再び得ることはできなかった
──gladiolus史上、初めての敗北だった
〇綺麗なコンサートホール
あやかはすっかり魂が抜けたようで、猫背になってうずくまっている
あやか「CRESCENTに勝とうだなんて、バカげた夢だったのかしら・・・」
???「バカげた夢かもね」
突然声がした
ハナ「・・・今のあやなら、の話だけど」
あやか「ハナ・・・」
gladiolusの前に立っていたのは、CRESCENTのハナだった
ゆづき「く、CRESCENT・・・」
ゆき「観にきてたのね・・・」
ハナ「練習生のとき、私はずっとあやに一目置いていたんだよ」
〇殺風景な部屋
ハナ「オーディション中、どれだけ辛くても前を向いていたから」
〇コンサート会場
ハナ「どんな状況でも、心の揺らぎを制して前を向いていたから」
〇綺麗なコンサートホール
ハナ「でも今日のあなたは、ずっと”後ろ”を向いていた・・・」
あやか「・・・」
あやかは目を伏せて黙りこくった
おそらく、本人にも自覚があるのだろう
ハナ「・・・もう時間だから行くけれど、 ”後ろ”にあるものを気に掛けたまま進んでいけるほど甘い世界じゃないって──」
ハナ「──あやが一番わかっているはずよ」
ハナは優しくあやかに語り掛けたが、あやかはピクリとも動かない
ハナ「──それに、時には”勝利”より追うべき”大切なもの”があるはずだわ」
ハナはヒラリと翻り、その場から離れて行ってしまった
かの「大丈夫? あやちゃん・・・」
かのがあやかの肩に手を置くと、あやかは少しずつ話し始めた
あやか「わたし・・・誓ったの・・・」
〇中庭のステージ
あやか「Happy♡Paradeのステージを見た日、顔をぐしゃぐしゃにして笑っているあなたたちを見て」
あやか「私の身勝手なわがままで、この笑顔を潰してはいけない、って・・・」
あやか「私の独断でgladiolusに縛り付けて、つらい思いをさせないようにしなきゃ、って・・・」
〇稽古場
あやか「だからあの日、私はりょうちゃんを引き留められなかった」
〇綺麗なコンサートホール
あやか「りょうちゃんにこれ以上、つらい思いをさせたくなかったから・・・」
あやかはこぶしをさらに強く握りしめた
あやか「なのに、今でもりょうちゃんのことを毎日考えてしまうの」
あやか「勝つために、迷いは捨てないといけないのに・・・」
あやかは激しくすすり上げた
あやか「私はわがままよ、縛り付けてはいけないと誓ったのに、やっぱり戻ってきてほしいって思ってる・・・」
あやか「「CRESCENTに勝つため」という名目で立ち上げたチームだから、 どんな状況でも怯まず勝たなくてはいけないのに、」
あやか「本当は、4人でずっと一緒に進んでいきたかったって、そう思ってしまう・・・」
懺悔するようにそう言うと、あやかは再びうなだれてしまった
ハピパレの4人もなんとなくその場から離れられず、雨の中gladiolusを見つめて立ち尽くしていた
はるか「このままじゃ、だめだよね・・・」
はるかがぽつりと呟くと、さくらが突然明後日の方向に歩き始めた
ゆづき「あっ、さくら・・・!」
さくらは建物の影になっているところまで進み、足を止めた
さくら「ねえ、このままでいいの?」
さくら「──りょうちゃん」
そこには傘もささず、ずぶぬれになったりょうが立っていた
「・・・ッ!」
まみこ「りょうちゃん・・・」
あやかはりょうの顔を見て、それからまたうつむいた
あやか「・・・格好悪いところ、見せたわね」
あやか「今日は初めて負けたわ・・・ CRESCENTに慰められちゃったりもして・・・」
あやか「こんなカッコ悪いチーム、別に戻りたくも何ともないでしょう・・・?」
りょう「カッコ悪くない!!!」
りょうが叫んだ
りょう「ごめん、本当にごめんなさい・・・ ずっとあやまらなきゃいけなかった・・・」
あやか「いや、謝るのは私の方よ・・・」
りょう「ちがう、ちがうの・・・」
りょう「私、本当に最低なの・・・」
〇大劇場の舞台
りょう「私はgladiolusが大好きだった どんなときでも絶対に勝利する、そんな姿が好きだった」
りょう「でもその一方、高い実力を持つ皆を見て、ずっと思ってた・・・」
りょう「私が足を引っ張っているんじゃないかって・・・」
〇謁見の間
りょう「頂点を目指して突き進むgladiolusに──」
〇謁見の間
りょう「私は必要ないんじゃないかって・・・」
〇コンサート会場
りょう「そう思ってた時、 あの記念ライブがあって・・・」
りょう(ああ、私がここにいたら、みんながダメになる・・・)
りょう「──私、そう思った みんなに迷惑をかけたことが許せなかった」
〇謁見の間
りょう「私がいることで、頂点への道が閉ざされてしまうんだって── そう思ってしまった」
〇土手
りょう「みんなのためを思って、自分から離れた」
りょう「頂点で輝き続けるあやかが、gladiolusが好きだったから」
りょう「絶対に邪魔しちゃいけないって・・・」
〇大劇場の舞台
司会者「第一位は、「SAI-SAI Girls」です!!」
りょう「・・・負けちゃったか」
りょう「・・・でも、」
りょう「かっこよかったなぁ・・・」
りょう「でも、今日改めて気が付いた・・・ 私は"勝ち続けるgladiolus"が好きなんじゃない──」
〇炎
りょう「”gladiolus”が、みんなのことが好きだったんだなあって──」
りょう「そんな大好きなみんなと、もう一度ステージに立てたらな、って──」
〇綺麗なコンサートホール
りょう「私の方こそわがままなの 自分から離れておいて、本当は戻りたいって思ってる」
りょう「最初は”勝つため”だったけど、でも今は違う」
りょう「gladiolusが大切な居場所だったって、今更気が付いたの・・・」
りょうの瞳に徐々に涙が溜まり、ぽろりと一粒こぼれる
りょう「今更チームに戻してほしいなんて思ってない、許されないことをしたって思ってる──」
りょうの涙はぽろぽろと溢れたが、雨に紛れてわからなくなった
りょう「だけど、これだけは伝えたいの・・・」
りょう「負けてもいい、カッコ悪くたっていい──」
りょう「──それでもみんなのことが大好きだって」
あやかはりょうを抱きしめた
あやか「私も、同じこと・・・思ってる・・・」
あやか「負けたとしても、失敗しても、ずっと一緒に歩いて行きたい・・・」
あやか「”勝つため”だけがgladiolusじゃない・・・」
あやか「”4人でいるから”gladiolusなの・・・」
あやかの目からも大粒の涙が溢れる
あやか「いなくならないでよ・・・ りょうちゃん・・・!」
りょう「う、うぅ〜〜・・・!」
りょう「ごめん、本当に、ごめん・・・!」
〇空
2人の泣き声が夜空に響く
雨はいつのまにか止んでいたようだった──